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マイナーゲーム世界で人生を切り拓く〜気がつけばそこは、誰も知らないドマイナーソシャゲの世界でした〜  作者: 潟湖
最後の聖遺物

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第1025話 冥界樹ユグドランガ

 奈落の谷のさらに奥にある亀裂の底に向かうべく、ゆっくりと下に下りていくレオニスとラウル。

 ますます闇は深まっていったが、今度は一分程度で地面に到着した。

 すると不思議なことに、亀裂の底にレオニス達が足を着けた途端に、数多の淡い光が灯ったではないか。

 その淡い光は、壁の至るところから発せられている。豆電球よりもうっすらとした微弱なものだが、それでもこの地底を照らすには十分な明るさだった。


「おおお……何か明るくなったね!」

「これは……光苔みたいなもんか?」

「何にせよ、明るくなったのはいいことだ」


 辺り一面に灯った不思議か光に、周囲をキョロキョロと見回すライト、壁に近寄りマジマジと光源を観察するレオニス、明かりを得たことで安堵するラウル。三者三様の反応である。

 するとその時、キョロキョロと辺りを見回していたライトが、とある方向に目を留めた。


「あ、ねぇねぇ、あっちの方がさらに明るく光ってるよ?」

「お、ホントだ。行ってみるか」

「うん!」


 明るい方向に導かれるようにして、先に進むライト達。

 その光の先をしばらく歩いていくと、そこには広大な空間が広がっていた。


「うわぁ……」

「何だ、ここは……」

「すげーな……」


 ライト達が真上を見上げながら、思わず息を呑む。

 天井がどれくらいの高さがあるかも分からない中、先程見た光よりも強い明かりが無数に輝いている。

 それはまるでプラネタリウムのような、満天の星空の如き光景だった。


 ライト達は、その光景を見て目に装着していたハイパーゴーグルを外してみた。

 すると、ハイパーゴーグル装着時に比べたら薄暗くは感じるものの、満月近い月夜くらいの明るさはある。

 この明るさならば、そのまま肉眼で探索することもできそうだ。


 地底の星空を一頻り眺めた後、ライト達はこの空間に何かあるかを探し始める。

 ぱっと見た感じでは、向こう側の壁が見えないくらいに広い空間のようだ。

 この薄暗い中で、全く見知らぬ場所を無闇に動き回るのは得策ではない。レオニスは一旦その場で足を止めて、ラウルに向かって声をかけた。


「ラウル、この空間に強大な魔力を感じる方向はあるか?」


 レオニスの問いかけに、ラウルはしばし無言で周囲を見回す。

 今回ラウル達が目指すは、冥界樹ユグドランガと地底神殿にいる地の女王。

 どちらも高位の存在であり、高魔力を持っているはずだ。

 それをラウルの魔力探知能力で方角だけでも探そう、という訳である。

 ラウルはその場でゆっくりと回転し、360度見渡したところで徐に答えを口にした。


「あっちに二つあるな」

「ここからだと、どっちの方が近い?」

「…………多分殆ど同じくらいの位置にあると思う」

「よし、じゃあひとまずその方向に行くか」


 ラウルが指し示した方向に向かっていくことにしたレオニス。

 三人揃って地底の平原を歩いていく。

 地面は剥き出しのところは少なく雑草のような草が生えていて、ところどころに木が生えているのも見える。

 そしてこの草むらの中には、大蛇や狼、イモムシ型の魔物が潜んでいた。


 しかし、それらの魔物のほとんどが微動だにしない。

 それは、レオニスが魔物除けの呪符を使っているせいもあるだろうが、中には熟睡しているものやライト達を一瞥しただけでプイッ!とそっぽを向いてしまうものもいた。

 そんな魔物達を見て、ライトは内心で歓喜していた。



『おおお……あれはアビスワーム!? あっちには闇葬狼がいる!……あ、ガーディアンゴーレムまで!!』

『え、ちょ、待、アレ、奈落龍!!デッちゃんの色違いコピペのレアモンスターまでいるぅぅぅぅ!』



 口にこそ出せないが、心の中では懐かしい魔物達の数々を目の当たりにして感動に打ち震えているライト。

 どれも前世のBCOで散々狩り回した、見覚えのある魔物達。あまりにも懐かし過ぎて、涙がちょちょ切れそうになる。

 幸い辺り一面薄暗いので、ライトの百面相や感激の涙がレオニス達に見られないことだけは幸いか。


 そうして魔物達に襲われることなく、静々と高魔力のある方向に慎重に歩いていくライト達。

 二十分程歩いた頃、行く先に何かあるのが見えた。


 この奈落の谷の底の底に辿り着いてから、ライト達は高さ3メートル弱の低い木しか見ていない。

 視界を遮るものが殆どないこの空間で、遠目からでもよく見える巨大な樹。大きく聳え立つそれこそが冥界樹であった。



 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆



「レオ兄ちゃん……あれが、冥界樹……かな?」

「多分な」


 ライト達が近づいていくにつれ、雄大な樹木の姿が露わになっていく。

 その大きさはユグドラシアやユグドラエルにも劣らず、むしろ六本の神樹の中で間違いなく最大の高さであろうことをライト達は確信する。

 枝葉の勢いもすごくて、高さに負けず劣らず全方向に大きく広がっている。


 その枝葉が広がる領域に入った瞬間。

 ライト達の身体の中に、突如大きな力が湧いてきた。

 それはかつて、他の神樹達が加護や祝福を与えてくれた時と同じ感覚。

 身体の中に渦巻く力の奔流が収まった頃に、どこかから声が聞こえてきた。


『ようこそ、我が神樹族の友よ』


 低くて渋いダンディなその声は、冥界樹ユグドランガのものだった。



 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 ユグドランガの方から先に声をかけられたライト達。

 先程与えられた加護により、ユグドランガの声がちゃんと聞こえるようになっていた。

 三人ともその場に止まり、まずは一行の代表者たるレオニスから声をかける。


「冥界樹ユグドランガとお見受けするが。それに相違ないか?」

『如何にも。我は二番目の神樹にして、天空樹と対となる冥界樹。ユグドランガである』

「冥界樹に目通りが叶って光栄だ。俺の名はレオニス、地上で暮らす人族だ。……さ、ライト達も冥界樹にご挨拶しな」

「うん!」


 ひとまずレオニスがユグドランガに挨拶と自己紹介を済ませた後、ライト達にも自己紹介を兼ねた挨拶をするように促す。

 レオニスからパスを受けた二人、まずはライトから元気よく挨拶をする。


「ユグドランガさん、初めまして!ぼくはライト、レオ兄ちゃんと同じ人族です!ユグドランガさんにお会いできて、本当に嬉しいです!」

「俺はラウル、プーリア族という妖精だ。ツィちゃんやシアちゃんの兄ちゃんに会えて、これ程嬉しいことはない」


 三人の挨拶に、ユグドランガは驚いたような声音で問いかける。


『人族二人に妖精族とは、何とも面白き組み合わせよの。特にそこな妖精は、我が妹達とも懇意のようだが……』

「俺だけじゃなく、このご主人様達もツィちゃんやシアちゃん達と仲良しだ」

『そうなのか。もしかして、我が弟達とも知己なのか?』

「ああ。海樹のイアや竜王樹のラグスともそれなりに交流があるし、天空樹のエルちゃんともちょくちょく会う仲だ」

『何と……この地底に来られるだけのことはある、ということだな』


 ユグドランガの問いに、ラウルもレオニスも事も無げに答える。

 突如現れた三人の訪問者に、特に警戒もせずにユグドランガの方から先に声をかけたのは、レオニス達から他の神樹の気配を強く感じ取ったからだ。

 他の神樹の加護があるならば、自分にとっても敵ではないだろう、という判断。ユグドランガの方からライト達に先に加護を与えたのも、そうした判断を踏まえた上で、レオニス達と会話をするためであった。

 だが、それがよもや自分以外の五本の神樹全てと知己を得ているとは、さすがのユグドランガも想像していなかったようだ。


『それでは、我が一番最後のどん尻という訳か?』

「すまんが、そういうことになる。つーか、俺達人族にとってはこの地底世界が最も遠くて、難易度も高いんでな……」

『それもそうか……そもそもこの地底世界を訪れる人族など、まず滅多に現れないしな』


 自分が一番最後に回されたことに、若干ご不満な様子のユグドランガ。

 だがしかし、レオニスの言い分も尤もなものだ。

 地下何メートルあるかも分からないくらい、深いところにあるこの地底世界。ここまで無事辿り着ける者が、果たしてこの世にどれだけいるか。

 地上とは完全に隔絶された世界であることは、ユグドランガも十分理解していた。


 そしてユグドランガは、レオニスに向かって別の質問をした。


『しかし……其の方達は、この地底世界が怖くはないのか? 我が名の通り、ここは冥界にも等しい場所ぞ?』

「いや、冥界って言っても本当に死後の世界って訳じゃないんだろ? もしここが死後の世界だったら、死んだ人間や魔物がうようよいるだろうしな」

『それはそうだが……何とも肝の座った人族よの』


 レオニスの答えに、半ば呆れたような声になるユグドランガ。

 確かにここは冥界を思わせる世界ではあるが、本当の冥界ではないことは明らかだ。

 地獄の主と呼ばれる閻魔様やオシリス、ハデスなどもいないし、いるのは実体を伴った通常魔物ばかり。

 ここはあくまでも地底世界であり、決して死後の世界と同一ではないのである。


「それはそうと、今日はユグドランガに会いに行くにあたって、土産を持ってきたんだ」

『土産、とな?』

「ああ。他の神樹達の枝で作った置物だ。これにはそれぞれの神樹達の分体が入っていてな。これさえあれば、ツィちゃんやシアちゃん、エルちゃん、イアにラグスの声が聞けて、皆が住むそれぞれの場所の景色も見れるようになる」

『…………!!』


 レオニスの土産という言葉とその内容に、ユグドランガは思わず息を呑む。

 ユグドランガは今まで他の神樹と直接交信したことがない。そのため、ライトやレオニスが徐々に広げてきた神樹族のネットワークのことも知らずにきた。

 だが、地底の奥深くに住むユグドランガでも、他の神樹との会話ができるようになる―――これ程魅力的な提案を受けたのは、ユグドランガが過ごしてきた長い歴史の中でも初めてのことだった。


『我が……ユグドラエル姉様や弟妹達と……話ができる、というのか?』

「ああ。試しに先に皆の声を聞いてみるか?」

『あ、ああ……是非とも聞いてみたい』

「分かった。そしたら今からこの五つの置物を、あんたの幹のどこかに置くから少し待っててくれ」


 俄にはレオニスの話を信じ難い様子のユグドランガに、レオニスが気を利かせて先に置物を進呈することにした。

 レオニスは空間魔法陣から分体入りの木彫りの花を取り出し、そのうちの二つをラウルに渡した。

 二人で手分けして分体を置くぞ、というレオニスからの暗黙の指令に、ラウルも無言で頷きながら二人で宙を飛び始める。


 今回は全て花をモチーフにした置物で、ユグドラエルは薔薇、ユグドラシアは百合、ユグドライアは蘭、ユグドラツィは菫、ユグドラグスは竜胆。

 レオニスとラウルがユグドランガの幹の周りを飛び、設置場所を探している。そして洞や窪みなど、適切と思われる場所に一つづつ入れていった。

 置物同士を近くに置くと混線?しそうなので、なるべく距離を離すようにして置いていくのがポイントだ。


 五つの置物全てをユグドランガの幹のどこかに置き終えたレオニスとラウル。

 ライトの横に戻り、しばし無言のユグドランガに今の状況を問うた。


「どうだ? ツィちゃんやシアちゃん達の声が聞こえるか?」

『…………ああ。姉様や弟、妹達の嬉しそうな声が聞こえる…………』

「そっか、そりゃ良かった!」


 無事ユグドラツィ達の声が届いたことに、レオニスがニカッ!と爽やかな笑顔を浮かべながら喜ぶ。

 もちろんレオニスだけでなく、ライトもラウルも大喜びだ。

 ライトは「ツィちゃん達も、きっとすごく喜んでるだろうね!」と言い、ラウルも「ああ、間違いなく大喜びしてるだろうな」とライトの言葉に賛同している。


 しかし、これだけではまだ完全ではない。

 ユグドランガの声が他の神樹達のもとに届いてこそ、神樹族ネットワークは完成を迎えるのだ。

 その完成を目指すためにも、レオニスがユグドランガに話しかける。


「これまで他の神樹達にも、そうやって通信手段をそれぞれに渡してきた。あとはユグドランガ、あんたの枝をもらって置物を作って分体を入れてもらえば、世界中に散らばる六本の神樹全てが繋がれるようになる」

『そのためには、我の枝が必要なのだな?』

「ああ。小さめのものでいいから、枝を一本切り取らせてもらっていいか?」


 レオニスの提案を早々に理解したユグドランガ。一も二もなく快諾した。


『もちろんだ。こんな素晴らしい未来を得られるのに、我が否やを唱えるはずもない』

「ありがとう!そしたら早速一本切り取らせてもらうな!」

『一本と言わず二本でも三本でも、好きなだけ持っていくが良い』

「よし、そしたらラウルも手伝ってくれ」

「了解」


 枝を切り取る承諾を得たレオニス、早速ラウルを助手に指名して二人して再び宙を飛んでいく。

 最大級の神樹だけあって、枝も太くて立派なものが多い。

 幹の下から生えている、いわゆる古い方の枝を選び、その先端の方にある枝を三本切り取った。

 先端と言っても、一本一本がレオニスやラウルの身体よりも太くて長く、そこら辺に生えている木よりもはるかに大きなものなのだが。


 レオニスが切り取る枝と切る箇所を選び、ラウルがそれに従いオリハルコン包丁で一気にスパッ!と切っていく。

 このラウルのオリハルコン包丁、最近はもっぱら神樹の枝打ち用具になっている気がしないでもないが。多分気のせいだろう。キニシナイ!


 切り取った枝は、すぐにレオニスが己の空間魔法陣に仕舞い込む。

 そうして枝打ち作業を終えたレオニスとラウルは、再びライトのもとに戻り改めてユグドランガに礼を言った。


「ありがとうな!これでまた置物を作って、ユグドランガの分体を入れてもらったら皆に届けるわ!」

『いや、それよりも今の枝を小さく切り取って、それに我の分体を入れるのではダメか?』

「ン? そりゃまぁ、それでも構わんが……」

『ならばそうしてくれ。その方が、其の方達も再びここに来る手間が省けるだろう?』

「確かにな……」


 ユグドランガの分体を入れるための置物を届けに再訪する、というレオニスに、ユグドランガは枝のままでの分体注入を提案してきた。

 確かにユグドランガの言う通りで、今切り取った大きな枝からさらに小さな枝葉を切り取って、そこにユグドランガの分体を入れればライト達の再訪の手間は省ける。

 それはレオニスにとってもかなり魅力的な提案であり、これを拒否する理由などなかった。


「よし、じゃあユグドランガの言う通り、ここで小さな枝を五つに分けて分体を入れてもらうとするか」

『そうしてくれれば、我もありがたい。さすれば我の声をいち早く皆のもとに届けられるしな』

「そうだな!…………って、ユグドランガ、もしかしてあんた、結構せっかちな性格なのか?」

『そうかもしれんな』


 ユグドランガの提案に乗っかったレオニス。

 その後にユグドランガから出てきた言葉に、レオニスは彼の真意を悟った。

 ユグドランガがライト達の利便性を図ったのも事実だが、それ以上にユグドランガ自身の『自分の声も、一日も早く皆のもとに届けたい!』という願いがあったのだ。

 それは一見利己的な願望のように見えるが、ライト達にも地底再訪の手間を省けるという大きな利点があるのだから、両者Win-Winで問題なしである。


 己の欲望を見透かしたレオニスの問いかけに、ユグドランガは事も無げにシレッと肯定する。

 その堂々たる振る舞いに、レオニスはくつくつと笑う。

 高位の存在である冥界樹の、欲望を隠そうともしないその姿勢は逆に好感が持てるというものだ。


 レオニスの笑いはいつしかライトやラウルにも伝染し、最後にはユグドランガまで笑い出した。

 多数の笑い声が響き渡るという、地底世界において類を見ない非常に珍しい光景が冥界樹のもとで広がっていた。

 六本目の神樹、冥界樹ユグドランガのお目見えです。

 拙作の中で初めて神樹が出てきたのは、第169話のこと。それから856話を経て、ようやく主人公達に全ての神樹と会わせることができました(;ω;) ←感涙

 つーか、第169話っていつよ?と見返したところ。2021年6月23日のことでした。

 うひー、それから丸二年とジャスト五ヶ月が経過してるぅー><

 まぁね、冥界樹という名に相応しい地底世界にいるのでね、最も遠くて最も難易度が高いってことで一番後回しになっちゃったのもしょうがないんですけど。


 というか、二年半前の作者って、拙作を書く以外に何してたかしら?……と考えても、思い出せるはずもなく( ̄ω ̄)

 しかし今日ここで神樹族のコンプリートが達成できたので。次は属性の女王のコンプリートも目指さねばね!(・∀・)

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