第1023話 奈落の谷の入口探し
ラグナ神殿での有意義なひと時を終えたライト達。
ひとまずラグナロッツァの屋敷に戻り、カタポレンの家に移動した。
何故カタポレンの家に移動したかと言うと、シュマルリ山脈中央部の転移門に移動するためである。
この転移門は、竜騎士達がシュマルリ山脈研修にて使用していたものだ。
当初は研修の行き来のみに使うために設置されたものなので、研修終了後には撤去する予定だった。
しかし、研修終了後の話し合いで『本番である邪竜の島討滅戦を完遂するまでは、ひとまず残しておこう』ということになったのだ。
その理由はいくつかあり、以下の通りである。
『シュマルリ山脈の往復用転移門なので、部外者に悪用される心配が殆どない』
『万が一悪用されたところで、行き先がシュマルリ山脈のど真ん中では常人では生きて帰れない』
『そして、できれば研修後も時折竜族達や竜王樹と交流し、竜騎士としての研鑽を積み重ねていきたい』
これら上記の理由は全て竜騎士団側が出した主張で、どれもが納得できるものばかりだったから、レオニスも冒険者ギルドもシュマルリ山脈中央部の転移門の使用継続を承諾した。
とはいえ、最後の言い分は多分に竜騎士達の個人的嗜好及び願望が強く滲み出ているような気がするが。多分気のせいだろう。キニシナイ!
このシュマルリ山脈中央部に設置した転移門は、その入口を『飛竜専用飼育場』と『レオニスが住むカタポレンの家の転移門』の二ヶ所に限定してある。
これは、万が一にも事故的な転移を起こさせないための措置である。
もし他の転移門のように、全ての転移門と対応してたらいつかは絶対に想定外の事故が起こるだろう。そうさせないための、入口制限なのである。
そしてシュマルリ山脈中央部の転移門は、今回ライト達が向かう奈落の谷に一番近い。故に、今回の奈落の谷行きにも使おう!という訳である。
本来の目的とは違う用途での使用ではあるが、使うのは他ならぬレオニス。そして【晶瑩玲瓏】の復元のための大事な下準備の一環なので、別用途での使用も已む無しである。
こうしてカタポレンの家からシュマルリ山脈中央部の転移門に移動したライト達。
そこから東に向かって飛んでいった。
この三人の中で唯一飛べないライトは、レオニスとラウルが交代で背負いながら飛んでいく。
二十分飛んで十分休憩、これを繰り返して奈落の谷まで行く予定である。
ちなみにこの界隈には、翼竜や飛竜が普通にあちこち飛んでいるが、レオニス達は堂々と空を飛んでいく。
そんなことができるのは、ひとえに竜王樹ユグドラグスと白銀の君の加護のおかげである。
この二つを持つライトとレオニスに、翼竜はもちろん飛竜すら近づくどころか恐れをなして回避する有り様だった。
そして十分の休憩の間に、エクスポーションやアークエーテルなどを飲んで体力と魔力を回復するレオニスとラウル。
二人の様子を見ながら、ライトが零す。
「ぼくもレオ兄ちゃんやラウルのように、一人で飛べたらいいのに……そしたら、皆の足を引っ張らずに済むのに……」
しょんもりとしながら、紫のぬるぬるドリンクをちびちびと飲むライト。レオニスやラウルに背負われながら移動しなければならないことに、己の無力さを感じているようだ。
そんなライトに、レオニスもラウルも小さく笑いながら答える。
「ライト、お前はまだ子供なんだから、足を引っ張るとかそんなこと考えなくていい」
「そうだぞ。周りの大人の協力を得ることは当然だし、少しも恥じることなんかない」
「でも……」
レオニスやラウルが、ライトの頭をワシャワシャと撫でくり回しながらフォローする。
しかし、それだけではライトは納得できていないようだ。
なので、レオニス達は宥める方向を変えることにした。
「だいたいだな。そもそもお前はまだ冒険者登録すらしてないっつーか、冒険者登録もできない子供だぞ? 冒険者になる前からヒョイヒョイ空を飛べる方がおかしいってもんだ」
「ぐぬぬ」
「そうだな。特にこの小さなご主人様の場合、今すぐにでも自由自在に飛べるようになったら、それこそどこに飛んでいくか分かったもんじゃないしな」
「ぐぬぬぬ」
「ハハハハッ!ラウルも言うじゃねぇか!全く以ってラウルの言う通りだ!」
「ぐぬぬぬぬ……二人ともしどい!」
したり顔でライトの危険性を説くラウルに、ラウルの説を大笑いしながら全面支持するレオニス。
実際ライトはまだ九歳、冒険者登録できる年齢ではないのでぐうの音も出ない。
しかもラウルの言うように、もしライトが飛行魔法なり何なりで空を飛べるようになったら―――大喜びしてあちこち飛び回るであろうことは、ライト自身自覚している。
なのでライトはふくれっ面をしながらも、レオニス達の言い分に全く反論できずにいた。
そして次の休憩時には、自然と今向かっている奈落の谷の話になった。
「ご主人様よ、俺はその奈落の谷?というところを全く知らんのだが。一体どんなところなんだ?」
「シュマルリ山脈の中央部東側に、高峰に囲まれた深い峡谷がある。その峡谷の中央は特に深く、まるで井戸のように底が見えないという。そこが『奈落の谷』と言われている」
「その谷底に行けば、冥界樹や地底神殿があるのか?」
「いや、奈落の谷の谷底からさらに地下に行く道があって、そこをひたすら下りていくと何かがあるって話だ」
今回ラウルがライト達に同行したのは、最後の神樹ユグドライアに会いに行くと聞いたためだ。
ライト達同様に、全ての神樹と懇意にしているラウル。特に大親友のユグドラツィの兄ともなれば、絶対に会って直接話をしなければ!となるのも当然である。
「ふーん……行くのに結構時間がかかりそうだな」
「つーか、人族でそこまで辿り着けた例が殆どねぇんだよな。そもそもシュマルリ山脈自体、人族にとっては足を踏み入れるのも厳しい地だし。……ただ、それでもマスターパレンは何度か奈落の谷に入ったことがあるらしいが」
「そうなのか? そりゃすげーな!もしかして、マスターパレンは冥界樹や地底神殿にも行ったことがあるのか?」
「いや、地底でもスキンヘッドが煌々と光り輝いていたせいで、魔物の波が押し寄せてしまって早々に撤退せざるを得なかったらしい」
「………………」
レオニスの話を聞き、ラウルがすーん……とした顔になっている。
ラウルの頭の中では、谷底の暗闇で発光するパレンを想像してしまっているらしい。
地底という暗闇で明るい光を使うのはご法度だ。光を厭う魔物が闇を取り戻すために、総力を挙げて灯りの根源を潰しにかかるためである。
パレンもそれは重々承知しているのだが、如何せん彼の輝きは彼自身ですら止めることなどできない。
ならばフードを被るなりほっかむりをするなり、光漏れ対策をすればいいのに……と思うなかれ。多少被り物を身に着けた程度では、パレンから溢れ出る輝きを完全に隠すことなどできないのだから。
それは、先日の赤ずきんコスプレでも証明済みである。
「じゃあ、谷底の奥のどこら辺に冥界樹や地底神殿があるのか、誰にも分からないのか?」
「そういうこった。ただし、地底世界と言ってもそこまで広大なもんじゃないらしいし、魔物除けの呪符も使うから探すのはそう難しくないと思うがな」
「だといいがな。……さ、そろそろ行くか」
「おう、とりあえず明るいうちに奈落の谷の入口を見つけんとな」
腰掛けていた岩から立ち上がるライト達。
ちなみに一回目の休憩時からは、魔物達に邪魔されずにゆっくりと休むために魔物除けの呪符を使用している。
こうしておけば、この先レオニス達が空を飛んでいる間も呪符が効いているので、より安心して飛べるというものである。
そうして四回目の休憩の後、五回目の飛行中にライト達はレオニスが言っていた『深い渓谷』に辿り着いた。
上空から渓谷を見下ろすライト達。その深さは想像以上で、まるで山の峰の間を鑿か何かで抉り出したかのようだ。
その名の通り奈落の底の入口を思わせる異様な空気に、ライトはレオニスの背中で思わずゴクリ……と唾を飲み込む。
「よし、ここからゆっくり下りていくぞ。二人とも、ハイパーゴーグルの用意をしとけよ」
「うん!」「おう」
暗闇の中でも視界を保てるよう、三人はハイパーゴーグルを頭の上にセットしていつでも装着できるようにしておく。
そうしてレオニスを先頭に、三人はゆっくりと奈落の谷に下りていった。
いよいよ奈落の谷の探検開始です。
この手の大事業?は、いつもなら長期休暇中に行くところなのですが。今回は復元魔法実行前に行かねばならないので、土日休みの間の強行軍です。
全員で空を飛んで行くのも、土日のうちに事を済まさねばならないため。
これが長期休暇中の冒険ならば、エリトナ山の時と同じように山中を登り降りするんですが。険しい峰々を相手にそんな悠長なことをしていたら、三日とか五日とかかかっちゃう!>< ……てな訳で、障害物のない上空から一直線の最短距離での移動を図ったのです(・∀・)
そして初めて行く場所、特に人里以外の大自然広がる場所は毎回それなりに手間取ったり時間を食ったりするもので、今回もレオニス達は地道ーに空を飛んで目的地を目指す旅をしています。
とはいえ、それでも竜騎士団研修時に臨時設置した転移門を利用する等、既出のものを活用することでショートカットする努力とかね? 作者も一応あれこれ思案してたりしてるんでございますですのよ?(´^ω^`)




