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マイナーゲーム世界で人生を切り拓く〜気がつけばそこは、誰も知らないドマイナーソシャゲの世界でした〜  作者: 潟湖
最後の聖遺物

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第1019話 一縷の望み

 ラグナロッツァの屋敷の殻割り部屋から、マッピングスキルで転職神殿に瞬間移動したライト。

 転職神殿の方の空は茜色に宵闇が忍び寄り、もうすぐ日が落ちようとしていた。


『……ライトさん?』

『え? 主様?』

『パパ様!?』


 ライトの訪問にミーアがいち早く気づき、その声でミーナとルディが振り向いてライトを見つけ驚いている。

 ライトが転職神殿を訪れるのは、いつも日が高く明るい昼間の時間帯ばかり。こんな日暮れ直前に来たことなど一度もないので、ライトの訪問に気づいたミーア達が驚くのも無理はない。

 驚くばかりの三人に、ライトはマッピングポイントから離れて歩きながら近寄っていった。


「ミーアさん、ミーナ、ルディ、こんにちは。……って、もうすぐ夜になるけど」

『ようこそいらっしゃいました』

『主様がこんな夕暮れ時にいらっしゃるなんて、珍しいですねぇ!』

『僕もびっくりしたけど、パパ様に会えるなら夕暮れ時でも夜中でも、何でも嬉しいです!』


 申し訳なさそうに挨拶するライトに、気を取り直したミーア達が早速駆け寄り取り囲む。

 ミーナとルディはライトに会えたことに喜んでいるが、ミーアだけは真剣な眼差しでライトを見つめながら問うた。


『こんな時間にいらっしゃったということは、何か急ぎの御用でもできたのですか?』

「アハハハハ……ミーアさんには隠せないというか、お見通しなんですねぇ」

『何でも見通せる訳ではありませんが……お急ぎなら、詳しいお話を伺う前にまず転職の儀をなさいますか?』

「はい、お願いします」


 ミーアの問いかけに、力無く笑うライト。

 察しの良いミーアは、早速ライトとともに祭壇前に移動する。

 ライトの用向きがどのようなものであろうと、ここは転職神殿。この場所に来たからには、まず真っ先に転職しに来たという前提でミーアは動いているのだ。


『転職すると、レベルが1にリセットされます。所持金、装備品、アイテム、スキル、職業習熟度はそのまま持ち越されますので、ご安心ください』


 職業マスターの時だけでなく、レベルリセットのための転職でも毎回聞くこのミーアの台詞。

 いつもならワクワクした気持ちで聞くこの言葉も、今はライトの胸に感動を与えることはできない。


『どの職業に転職なさいますか?』

「……【戦士】でお願いします」


 ライトが五つ目の職業として選んだのは【戦士】だった。

 戦士とは、これまた文字通りの物理攻撃を主としたファイター系職業で、物理攻撃力や体力、物理防御力が高い。

 その反面魔法攻撃には弱く、若干鈍足気味なのが欠点なのだが。


 これまでは、物理系必中スキル【手裏剣】や魔法系必中スキル【氷水槍】、攻撃力アップのバフスキル【エナジー】など、主に戦闘面で使えるスキルが獲得できる職業を優先的に選んできた。

 しかし、前世のライトは物理職をこよなく愛し『攻撃は最大の防御!』を地でいっていた。それはレオニスやラキ達オーガ族にも引けを取らない、筋金入りの脳筋族である。

 そんなライトだからこそ、すぐにでも欲しいスキルは一通り取り終えた今、そろそろ物理系の大本命である戦士職に着手しよう!という訳である。


 大きな力のうねりを伴う職業変更の儀式を無事済ませたライト。

 今回選んだ【戦士】は物理職の王道。身体の奥から、これまでになく強大な力が湧き上がるのが分かる。

 本格的な物理職が持つ力に、己の手のひらをじっと見つめるライト。

 そんなライトを、ミーアは穏やかな笑みとともに優しく語りかける。


『転職の儀は無事完了いたしました』

「ありがとうございます」


 これでライトは晴れて五つ目の職業に就いた。ヴァレリアにご褒美をもらう権利を得る準備が整ったのである。

 ライトは早速顔を真上に上げ、空に向かって大きな声で呼びかけた。


「ヴァレリアさん!四つ目の【魔導大帝】をマスターしました!もし見てたら、すぐに来てください!お願いします!」

『ライトさん……』


 いつもの明るいライトとは全く違う様子に、ミーア達が心配そうな顔でライトを見ている。

 すると、程なくしてヴァレリアがその姿を現した。

 転移門も魔法陣もないところにフッ……と湧いて出てくるその様は、いつ見ても不思議なものだ。


「やぁ、ライト君。ご指名を賜ったので来たよー!……って、こんな日暮れ直前に転職神殿に来るなんて、珍しいこともあるもんだね?」

「こんにちは、ヴァレリアさん。ぼく、四つ目の職業【魔導大帝】をマスターしました。早速ですけど、四つ目のご褒美をいただけますか?」

「う、うん、それはもちろんいいけど……何かいつもと違って、全然余裕ない感じだね? どしたの、何かあったの?」


 挨拶も早々に、四次職職業マスターのご褒美を申し出るライト。

 その切羽詰まった様子に、ヴァレリアは若干引きながら何事か問うてきた。

 ライトの顔を心配そうに覗き込むヴァレリアに、ライトは思い詰めた顔で口を開く。


「…………イグニス君を治す方法を教えてください」



 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 ライトの思いがけない言葉に、ヴァレリアがきょとんとした顔をしている。


「え? イグニス君って、あの【破壊神イグニス】のこと?」

「はい、そのイグニス君です」

「ちょ、待って待って、破壊神に何かあったの?」

「五日前の日曜日に、ラグナ神殿で聖遺物の魔剣の中にいた【武帝】と戦ったようで……今のイグニス君は、意識不明なんです」

「嘘……マジ?」

「マジです」


 ライトの言葉を聞いたヴァレリアが、呆気にとられている。

 やはりヴァレリアも、破壊神イグニスという存在は知っているらしい。

 だが、先日の日曜日にラグナ神殿で起きた爆発騒動、破壊神イグニスと【武帝】の激闘のことは全く知らないようだ。


 それまでのほほんとしていたヴァレリアの顔が一気に強張る。

 そして改めて事件の要点をライトに質問した。


「ライト君、ラグナ神殿ってラグナロッツァにあるやつだよね?」

「はい。アクシーディア公国の首都ラグナロッツァにある、ラグナ教の総本山です」

「で、それが起きたのが、こないだの日曜日?」

「そうです。お昼の少し前に聖堂で爆発騒動が起きたとして、かなり大騒ぎになった事件です」

「えーっとねぇ……ちょっと、ちょーーーっとだけ皆待っててね、今()てみるから」


 顰めっ面のヴァレリアはそう言うと、クルッ!と身体を回転させてライトやミーア達に背を向けた。

 背を向けたヴァレリアが、一体何をしているのかライト達には全く見えなくて分からない。

 だが『視る』というからには、事件のことを知るべく何かしらの行動を取っているのであろう。


 向こう側を向いたヴァレリアから、時折「え? 嘘、マジ?」「こんなことあんの?」「……ぁー……そゆこと……」という小声が漏れ聞こえてくる。

 そうして数分が経過し、ヴァレリアがふぅ……という大きなため息を一つついた後、クルッ!と振り向いて再びライト達の方に身体を向き直した。


「うん、だいたいのところは把握したよ。ライト君、破壊神のことを教えてくれてありがとうね」

「いえ、礼を言われる程のことでは……それで、イグニス君は治せるんですか!?」

「とりあえず、私が今からラグナ神殿に行って破壊神の様子を見てくるよ」

「お願いします……イグニス君を助けてください!」

「了解。皆に朗報を伝えられるように、私も頑張ってくるね」


 ライトの必死な問いかけに、ヴァレリアは『絶対に助ける』や『必ず救う』といった類いの明言はしなかった。

 まずはイグニスの容態をその目で直に見てからでないと、何とも言えないのだろう。下手に安請け合いするよりは、余程誠意ある対応と言えよう。

 そしてヴァレリアは『朗報を伝えるべく頑張る』とも言った。今はその言葉を信じるしかない。


「あ、ライト君は先におうちに帰っててね。もう外もだいぶ暗いし」

「分かりました……」

「そしてまた、明日になったらここにおいで。朝でも昼でも夕方でも、いつでもいいよ。幸いにも明日は土曜日だしね」

「そしたら、朝の早い時間でもいいですか?」

「もちろんいいよ。その時に破壊神の様子をきちんと話すから、お利口さんで待っていられるかい?」

「はい。よろしくお願いします」


 ヴァレリアの帰宅の指示に、ライトも素直に従う。

 この転職神殿は、BCOの重要なコンテンツ『職業システム』を一手に担う最重要施設なので、魔物が入ってくることはまずない。

 しかし、世の中何が起こるか分からない。日が落ちきる前に帰宅した方がいいことは間違いない。


 そして、今日見に行った破壊神の様子を明日伝えるというヴァレリアに、ライトは明日の朝一で話を聞きたいらしい。

 やはりイグニスの容態が気になってしょうがないライト、すぐにでもヴァレリアの話を聞いて真実を知りたいようだ。

 そんなライトの逸る気持ちを、ヴァレリアも十分理解しているからこそ『お利口さんで待っててね』と言っているのである。


「じゃ、いってくるね。皆、また明日ねー!」

『ヴァレリアさん、いってらっしゃい!』

『ヴァレリアさん、お気をつけてお出かけしてくださいねー!』

『また明日お会いしましょうー!』

「……イグニス君をどうか、どうかお願いします!」


 ふわりと宙に浮いたヴァレリアに、ミーア達は顔を上げながら見送りの言葉をかける。

 そして最後のライトの切なる懇願、一縷の望みを託したかのような声に、ヴァレリアはニッコリと微笑みながら右手を上げてフッ……と消えた。


 ヴァレリアが去った後、ミーアがライトに声をかけた。


『ライトさん……ヴァレリアさんの仰る通り、夜の山の中は危険です。瞬間移動の魔法陣で、早くおうちにお帰りください』

「分かりました……皆、今日はこんな遅い時間に押しかけてしまってごめんなさい」

『そんな!主様の訪問ならいつでも大歓迎です!』

『そうですよ!パパ様にも事情があるようですし、また明日ヴァレリアさんのお話をいっしょに聞かせてくださいね!』

「うん……皆、ありがとう」


 心配そうなミーアの勧めに、ライトはおとなしく従う。

 明日またここに来ることを約束し、ライトは瞬間移動の魔法陣でカタポレンの家の自室に戻っていった。

 前話からの続きで、転職神殿にてヴァレリアに相談する回です。

 ヴァレリアはサイサクス世界のいろんなことを知っていますが、さすがに世界中全てを常時監視したり事件事故を完璧に網羅している訳ではありません。なので、日曜日に起きた例の事件のことも、ライトに聞かされるまで知らなかったのですね。


 でもって、転職神殿の仲間達は普段夜に何をしているかというと。基本的に何もしていません。

 例えば某ドラク工とか某FFなんかもそうですが、ゲーム内では時間の概念など一切なく、ユーザーは自分が訪れたい時にいつでも武器屋防具屋薬屋宿屋等々利用できますよね。

 ですが、ここはサイサクス世界。それこそコンビニのように、朝昼晩の区分なく二十四時間営業という訳にはいきません。

 いや、それでももし深夜に転職を求めて転職神殿を訪れるユーザーがいたら、その要望には問答無用で応えなければならないでしょうけど。

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