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マイナーゲーム世界で人生を切り拓く〜気がつけばそこは、誰も知らないドマイナーソシャゲの世界でした〜  作者: 潟湖
最後の聖遺物

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第1018話 決意と覚悟と手応え

 その日ライトは帰宅した後、ラグナロッツァの屋敷の殻割り部屋に直行し篭った。

 部屋の主であるラウルには、もちろん帰宅の道中で許可を取ってある。

 ラウルがいつも使っている殻割り部屋でライトが何をするかと言うと、魔物素材の解体である。


 ライトは一体何故、こんな時にそんなことをし始めたのか。それはひとえに、魔物の解体作業で職業習熟度を上げるため。

 つまりライトは、今の職業【魔術師】光系四次職【魔導大帝】をMAXにして、転職神殿でヴァレリアに会うつもりなのだ。


 いや、ヴァレリアがイグニスの意識不明を治してくれる保証などどこにもない。いくら『鮮緑と紅緋の渾沌魔女』と呼ばれしヴァレリアであろうとも、不可能なことだっていくらでもあるだろう。

 だがしかし、ヴァレリアはBCOのNPCとは思えない程BCOとサイサクス世界を知り尽くしている。そんなヴァレリアならば、もしかしたら何か良い方法を教えてくれるかもしれない―――

 そう、今のライトにはヴァレリアという理外の存在を頼る以外に、イグニスを救う手立てが思い浮かばなかったのだ。


 ラウルには「レオ兄ちゃんが帰ってきたら、すぐに扉をノックして教えてね」と言ってある。間違ってもレオニスに解体作業の現場を見られないためである。

 それまでライトは解体作業に徹し、とにかく職業習熟度を上げていった。


 ディソレトホークやギガントワーム、咆哮樹や暗黒蜂等々、グランドポーションやコズミックエーテルの生成に必要な素材を持つ魔物達を優先的に解体していく。

 時折エネルギードリンクを二口飲み、SP回復しながらライトはひたすら魔物の解体に没頭していた。


 そのうちレオニスが帰宅したことをラウルが扉の向こうで告げ、ライトはレオニスやラウル、マキシとともに四人で晩御飯を食べた。

 晩御飯の時に、ラウルが今日ライトとともにイグニスのお見舞いに行ったことなどをレオニス達にも話して聞かせていた。


「そうか……イグニスって子はまだ目を覚まさないのか……ペレの爺さんもさぞ心配だろうな」

「ああ……いつも威厳に満ちていたペレのおやっさんが、今日はものすごく小さく見えてな……寝ているイグニスの手をずっと握りしめていて……そんな二人を見ているだけでも辛かった……」

「僕達は、ただ回復を祈りながら見守るしかないなんて……すごく歯がゆいですね……ラウルの時のように、エリクシルがあれば何とかなったかもしれないですが……」

「「「…………」」」


 ラウルが語るイグニスとペレの様子に、レオニスもマキシも沈痛な面持ちで呟く。

 ラグナ神殿側でも治せない、原因不明の昏睡状態に陥ったイグニス。まだ九歳の幼い子が、しかもライトの同級生でラウルとも懇意にしていた身近な子がそんなことになれば、レオニスもマキシも心が痛むというものだ。


 ちなみにレオニスの場合、ペレ鍛冶屋とはそこまで懇意ではないが、ペレが腕の良い鍛冶師であることは知っている。

 実はペレ鍛冶屋は、冒険者の間で『ラグナロッツァの冒険者ならば、誰でも必ず一度はペレ鍛冶屋に世話になる』とまで言われる程の凄腕職人なのである。


 そして最後の方でマキシがぽろりと溢した『エリクシルがあれば』というのは、他ならぬライトが一番感じていたことだった。

 もし今ライトの手元にエリクシルがあれば、一も二もなく再びレオニスに託しただろう。

 だが、ライトがこのサイサクス世界で初めて入手したエリクシルは、神樹襲撃事件で瀕死の重体となったユグドラツィの治癒に全部使ってしまった。

 そして未だ二本目のエリクシル入手には至っていない。フォルやウィカ、ミーナやルディにも「もしお使いで拾えたら、すぐに教えてね!」と言ってはあるのだが、まだ入手の報告は来ていない。


 もちろん一本目のエリクシルを全部ユグドラツィに与えたことに悔いはない。

 だが、今この時も心底エリクシルが欲しいというのに、肝心な時に手元にないことがライトには非常に悔しかった。

 マキシ君が言うように、エリクシルさえあれば……すぐにでもイグニス君を救えたかもしれないのに———そんな悔恨ばかりがライトの心を苛む。

 エリクシル一つ入手することのできない己の不甲斐なさを、ライトは悔やむばかりだった。


 そんな重たい空気の中での晩御飯を終え、食堂で解散しそれぞれが部屋に戻っていく。

 しかし、ライトだけは『今日は学園の課題でしなくちゃいけないことがあるから』という体で、再びラウルの殻割り部屋に向かった。

 もちろん寝る前までには、普段通り必ずカタポレンの家に帰るつもりだ。

 それからライトは本当に寝る時間になる直前まで、ひたすら殻割り部屋で魔物の解体作業をし続けていた。



 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 ライトが急遽【魔導大帝】の職業習熟度MAXを目指し始めてから三日目の金曜日の夕方。

 ラグナロッツァの屋敷の殻割り部屋で、ライトはようやく【魔導大帝】の職業習熟度が100%に到達した。

 部屋の中は、今さっきまで解体作業で切り刻んでいた咆哮樹の木片が床一面に散らばっている。


「……やっ、たぁ……」


 ようやく四つ目の職業マスターに至ったライト、疲労と到達感で咆哮樹の木片まみれの床にへたり込んでしまった。

 火曜日の夕方から始めたライトの作業は、実に熾烈を極めた。

 未解体の魔物のストックは水曜日の夜に底を尽きてしまい、木曜日の朝と夕方はマッピング登録しておいた各地で魔物を狩り続けてから、夜は殻割り部屋で解体作業をし続けた。


 そして金曜日の朝にも、寸暇を惜しんで転職神殿横の山で咆哮樹の枝を狩りまくる。

 作業効率を考えると、もう小型中型の咆哮樹を相手にしてはいられない。マッピングの登録ポイントを山頂付近に移し、大型の咆哮樹のみを標的に据えたライト。気合いを入れて柴刈に臨んでいた。



 …………

 ………………

 ……………………



 金曜日の朝、マッピングで移動する直前にライトは自身にバフスキルをかけまくる。

 物理攻撃力をアップする【エナジー】に敏捷アップする【俊足】や回避率アップの【身かわし】を、それぞれ上限の200%に到達するまで引き上げておいた。

 ここまでバフをかけておけば、大型咆哮樹とも対等に渡り合えるであろう。


 満を持してマッピングで山中に移動したライト。

 山の中に移動した直後に、大型咆哮樹と出くわした。たまたまマッピングの登録ポイントのすぐ近くに、大型咆哮樹が彷徨いていたのだ。


「「………………」」


 ばったりと鉢合わせした格好のライトと大型咆哮樹。

 咆哮樹特有の、釣り上がった目のような(うろ)とライトの目が合った瞬間、両者の身体は互いを目がけて動き出した。

 樹高10メートルはありそうな、巨大な咆哮樹にライトが果敢に挑んでいく。


「キエエェェエェエエェッ!」

「はああああぁぁぁぁッ!」


 咆哮樹の枝がライトの身体に伸びるより先に、ライトの物理系必中スキル【手裏剣】が大型咆哮樹の極太の枝に当たり切り刻まれていく。

 瞬時に繰り出されたライトの【手裏剣】は十発を超え、それが全て枝の根元近くに集中していた。

 必中の【手裏剣】が十発、二十発と当たれば、さしもの大型咆哮樹もたまったものではない。


「キエエェェエェエエェッ!?」

「まだまだああああぁぁぁぁッ!!」


 枝を切り落とされて驚愕する咆哮樹に、ライトは容赦なく襲いかかる。

 二本目の極太枝を切り落とされた咆哮樹、慌ててライトに向けて複数の枝を同時に伸ばすも、それらは全てライトに躱されてしまう。

 ヒョイ、ヒョイヒョイ、と身軽に躱す間にも、ライトは【手裏剣】を繰り出し続け、伸ばしてきた枝の中程当たりでバッサバッサと切り刻んでいく。


 なす術もなく、極太の枝が三本も四本も切り落とされていく咆哮樹。

 そこまでされれば、如何に知能が低めの咆哮樹であっても『コイツ、ヤベェ!』ということが分かったようだ。


「キエエェェエェエエェッ!!」


 こりゃ敵わん!とばかりに、すたこらさっさと逃げ出す大型咆哮樹。

 ライトも深追いはせずに、その場に落ちた咆哮樹の枝を回収し始めた。

 大型咆哮樹だけあって、これまでの小型中型とは太さが段違いなのが分かる。この枝一本だけで、小型咆哮樹の一本丸ごと分の木片が取れそうだ。

 自分の背丈よりもはるかに大きな枝を、ライトは軽々と持ち上げてアイテムリュックに収納していく。

 いつものライトなら、鼻歌交じりでご機嫌な様子で作業しているところなのだが。今はとてもそんな気分になれない。


 そうして咆哮樹の枝を一通り回収した後、ライトは早々にマッピングでカタポレンの家に戻った。

 本当はもう少し柴刈をしたかったのだが、朝の魔石回収ルーティンワークを終えてからの移動なので、あまり時間の猶予がないのだ。


 とはいえ、大型咆哮樹の枝は一本だけでも十分な収穫量になる。

 それに、バフをかけまくれば今のライトでも大型咆哮樹と十分に渡り合えることも分かった。これはライトにとって大きな朗報である。

 大きな手応えを得たライトは、その後いつも通りラグーン学園に登校していった。



 ……………………

 ………………

 …………



 そうした様々な努力の甲斐あって、金曜日の夕方に【魔導大帝】の職業習熟度をMAXにしたライト。草臥れて座り込んでいた床からのっそりと立ち上がり、窓のカーテンを捲ると外はもう茜色に染まっていた。

 今から転職神殿に出向いても、三十分もしないうちに完全に日が暮れてしまうだろう。


 だが、ライトの中に『明日になったらヴァレリアに会う』という選択肢はない。あるのは『ヴァレリアに今すぐ会う』だ。

 例え三十分だけでも、いや、ほんの五分十分だけでもいい。

 ライトは今すぐヴァレリアに会って、一分でも一秒でも早くイグニスを救う方法を聞きたかった。


 ライトは部屋の隅に置いてあった箒と塵取りを手に取り、床一面に無数に散らばった咆哮樹の木片を拾い集める。

 木片全てをマイページのアイテム欄に収納した後、ライトは迷うことなくマッピングスキルを使って転職神殿に移動していった。

 前話でのライトの決意が明かされた回です。

 イグニスがBCOにおける破壊神であることは、基本的に誰にも明かせません。ですが、数少ないBCO仲間ならば話は別です。

 もちろんヴァレリアなら治せるなんて保証はどこにもありませんが、それでも解決の糸口を求めて何かしら行動に移すのはとても重要なことです。

 だって、ただ黙って見守るしかないなんて、ねぇ? イグニスの容態を思うと、ライトの気持ち的にはもう居ても立ってもいられませんもの!


 ちなみにサブタイの三つ『決意』はヴァレリアに会うために死に物狂いで四次職【魔導大帝】をマスターすること、『覚悟』は大型咆哮樹に単身で立ち向かうこと、『手応え』は大型咆哮樹との対戦での成果を表しています。

 今回で咆哮樹は大中小全てが出てきたことになりますかね(・∀・)

 毎回毎度柴刈の標的になってますが、これはまぁどうしようもないというか致し方なしですね(´^ω^`)


 でもって、ライトがラグナロッツァの殻割り部屋で解体作業をした理由は主に二つ。

 レオニスもいるカタポレンの家で、夜中に外で解体作業をするのは絶対に無理であるのと、十一月末という時期的にもう冬で外は寒いから室内で作業したかったからです。

 でもって、殻割り部屋に篭もる理由も『ラグーン学園の課題のため』という嘘理由もしっかりつけてたりして。

 今話でも、ラグーン学園はライトの良い隠れ蓑として使われていたのでした(´^ω^`)

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