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マイナーゲーム世界で人生を切り拓く〜気がつけばそこは、誰も知らないドマイナーソシャゲの世界でした〜  作者: 潟湖
最後の聖遺物

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第1009話 穏やかな週末の終わり

 カタポレンの家の解体所で、無我夢中で火山蜥蜴の解体をしまくったライト。

 最後の一体を解体し終え、背伸びをしながら作業机から離れてふと空を見上げる。

 気がつけば空は赤味を帯びていて、時刻も午後の五時を回っていた。


「あー、ちょうど解体作業も終わったところだし、そろそろラグナロッツァの家に行こうっと」

「…………と、その前にこっちで風呂入ってからにするか」


 肩に手を当てて首を左右に振り、コキコキと凝りを解す。

 ちなみに火山蜥蜴には血液はないので、普通の獣の解体のように血生臭くなることはない。火属性の魔物には、血液ではなく火の魔力が身体中を駆け巡っているからである。

 それでも午後からずっと解体作業をしていたライト、その汗と疲れを流すために風呂に入ってから移動しよう、という訳である。


 ちなみにここ最近のライトとレオニスは、毎日の晩御飯をラグナロッツァの屋敷で摂るようになっていた。

 ライトやレオニス達が自炊しなくて済む!という楽ちんさもさることながら、ラウルやマキシとともに摂る食事は会話も弾んで楽しい!というのが最たる理由だった。

 やはり大人数で食べる食事は、賑やかで楽しいものなのである。


 ただし、晩御飯を食べた後はライトもレオニスもカタポレンの家に戻っていく。

 レオニスには森の警邏、ライトには毎朝の魔石回収ルーティンワークという、カタポレンの森の中で毎日必ずこなさなければならない日課がそれぞれあるからだ。


 今日もラグナロッツァの屋敷で晩御飯を食べるべく、ちゃちゃっと入浴を済ませるライト。普段着に着替えて、髪の毛も風魔法でササッと乾かしていく。

 するとその時、オーガの里に出かけていたラウルが帰ってきた。


「あ、ラウル、おかえりー」

「おう、ただいまー」

「オーガの里はどうだった? 今日もお料理教室してきたんでしょ?」

「ああ。今日は皆に林檎の皮の剥き方を伝授してきた」

「そうなんだ!オーガの人達も、あの大きな林檎を食べたんだね!どう、皆美味しいって言ってくれた?」

「もちろん。それはもう絶賛の嵐だったぞ」

「それは良かったね!」


 今日のラウルの成果を聞いたライトが、手放しで喜んでいる。

 今日ラウルがオーガの里に出かけたのは、カタポレンの畑で採れた林檎をオーガ達に初披露&ご馳走するためであった。

 そしてその結果は、もちろん上々だったようだ。


 基本的にカタポレンの森には、そのまま食せるような果物の類いは自生していない。いや、カタポレンの森は非常に広大なので、探せばどこかに果物に似たものを見つけられるかもしれないが。

 だが、少なくともライトやオーガ達が住むこの近辺には、食べられるような果物は自生していない。なので、今回ラウルが持ち込んだ林檎はオーガ達にとって正真正銘生まれて初めて果物を食べる経験だった。

 ただ、ラウルの話には続きがあった。


「最初は包丁で皮を剥いていたんだがな? 包丁でちまちま剥くより、皮ごと丸かじりした方が早い!ってことで、そのうち皆丸かじりするようになっちまったんだがな」

「え、そうなの?……アハハハ、それは仕方ないかもね……」


 ため息混じりで語るラウルに、ライトは苦笑いするしかない。

 確かにオーガ族というのは、どちらかというと大雑把な性格の者が多い。皮を剥かなくてもそのまま食べられると知れば、そっちでもいいや!となるのは自然な流れである。

 ライトの脳内には、豪快に林檎を丸かじりするラキやニルの姿が容易に思い浮かぶ。


 しかし、オーガの里でも林檎が大好評だったというのは喜ばしいことだ。

 その結果を聞き、ライトも嬉しくなる。


「そしたらオーガの人達も、これからずっと林檎を食べられるようになるんだね!」

「ああ。近いうちにオーガの里の中に林檎の木を植える予定だから、向こうでも栽培できるようになる」

「オーガの里でも林檎の木が大きく育つといいね!ぼくにも手伝えることがあったら、いつでも言ってね!」

「ありがとう、そん時はよろしくな。じゃ、そろそろあっちに戻るか」

「うん!」


 二人とも今日の成果に大満足で、ライトとラウルの顔は笑顔で満ちている。

 そして二人でライトの自室に行き、転移門でラグナロッツァの屋敷に移動していった。



 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 転移門での移動後、ライトは二階の自室で明日のラグーン学園の支度を、ラウルは一階の食堂にそれぞれ移動していった。

 ラウルは晩御飯の支度を始め、ライトが一階の食堂に移動した時にはマキシが帰宅していた。


「あッ、マキシ君!おかえりなさい!」

「あ、ライト君、ただいまです!」

「マキシ君もお仕事お疲れさまー」

「ありがとうございますー。ライト君の方も、有意義なお休みを過ごせましたか?」

「うん!今日はラウルの畑仕事をたくさんお手伝いしたよ!」

「ライト君も働き者ですねぇ。でも、ラウルも手伝ってもらえてよかったね!」

「おかげさまでな、大きなサツマイモがたくさん収穫できたぜ」


 ライトはマキシの横の椅子に座り、三人でその日の出来事を楽しく会話していた。

 すると、マキシがふと思い出したようにとある話題を切り出す。


「……あ、そういえば今日家に帰る途中、ラグナ神殿が何か物々しかったですよー」

「え? ラグナ神殿が? 何かあったのかな?」

「正門にいた人達の話では、何でも爆発騒ぎがあったとか何とか」

「えッ!? 爆発騒ぎ!?」

「ええ。それにしては火も煙も出てませんでしたけどね?」


 マキシの話にライトがびっくりしている。

 あのラグナ神殿で爆発騒ぎとは穏やかではない。しかも『爆発』という割には火も煙も出ていないとは、一体どういうことであろうか。

 いや、そんなことよりもライトはとある重大なことを思い出す。


 今日はハリエット達が、兄ウィルフレッドのジョブ適性判断をしにラグナ神殿に皆で出かけていたはずだ。

 しかもラグナ神殿に向かったのはハリエット達だけではない。ジョブ適性判断に興味があるジョゼやイヴリン、リリィ達も見学と称して同行すると言っていた。

 よりによって皆がラグナ神殿に出かけた今日、爆発騒ぎが起きたなんて―――ライトの胸騒ぎが止まらない。


「……ぼく、今からラグナ神殿に行ってくる」

「え!? もうすぐ夜になりますよ!?」

「……ライト、今からどうしてもラグナ神殿に行かなきゃならない理由があるのか?」

「うん……今日のラグナ神殿には、ハリエットさん達が……お兄さんのジョブ適性判断のために出かけてたはずなんだ」

「何ッ!?」


 思い詰めたような険しい顔で、ラグナ神殿に向かう理由を語るライト。その話に今度はラウルが驚愕する。

 ハリエットといえば、ウォーベック伯爵家のご令嬢。このラグナロッツァの屋敷の三軒隣のご近所さんだ。

 ラウルもここ最近、ウォーベック家とはそこそこ仲良く付き合ってきている。家族ぐるみの付き合いのあるウォーベック家が、もし爆発騒ぎに巻き込まれていたら―――

 ライトやラウルが心配するのも無理はなかった。


 そんな中で、マキシが冷静にライト達に声をかけた。


「それは心配だね……じゃあ、まずはウォーベック家にお話を聞きに行こう?」

「……あ、ああ、そうだな。もしウォーベック家の皆の身に何か起きていたら、それこそ屋敷の方も大騒ぎだろうしな」

「ライト君も、ひとまずそれでいい?」

「う、うん。じゃあ、今すぐハリエットさんちに行こう!」


 マキシの冷静な執り成しにより、少しだけ落ち着きを取り戻したライトとラウル。

 ハリエット達の安否を知るなら、ラグナ神殿に行くよりもまずはウォーベック伯爵家の邸宅に行く方が余程早い。

 早速皆で出かけようとした時に、ラウルがはたと何かに気がついた。


「……ン? ご主人様が帰ってきたぞ」

「ホント!?……レオ兄ちゃんなら、何か知ってるかもしれない!」

「そうですね、白銀級以上の冒険者さん達が何人かラグナ神殿に集められたようなので、もしかしたらレオニスさんも事件現場にかけつけていたかも!」

「じゃあ、まずはご主人様に話を聞いてみるか」


 ライト達があれこれと話している間に、レオニスが食堂に入ってきた。

 レオニスの姿を見たライトは、一目散にレオニスのもとに駆け出していた。



 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 時は少し遡り、夕暮れ時のラグナロッツァ。

 レオニスはラグナ神殿を後にし、冒険者ギルド総本部に戻るパレンとも別れ、ラグナロッツァの屋敷に向かって歩いていた。

 レオニスにしては珍しく、道中の足取りが重く歩幅も歩くスピードもいつもより遅い。

 とぼとぼと歩くその様は、何とも憂鬱な空気に包まれていた。


「はぁ……ライトのやつ、素直に納得してくれるかな……」

「つーか、ラウルやマキシにも言っておかなきゃな……今日の晩飯の時に話すか」

「……あ、その前にウォーベック家の皆に報告をしに行かなきゃならんか」


 ラグナロッツァの屋敷に帰る前に、三軒隣のご近所であるウォーベック家に寄り道していくレオニス。

 ライトやハリエットの同級生であるイヴリン達の安否を、彼らウォーベック家の人々にも必ず伝える、という約束を思い出したからだ。


 執事達にもその話が伝えられていたのか、特に待たされることもなくすぐにウォーベック家当主クラウスのもとに案内されたレオニス。

 そこにはウォーベック夫妻や、ハリエットにウィルフレッド兄妹もいた。

 そこでレオニスは、イヴリン、リリィ、ジョゼの三人は無事目を覚まし、迎えに来た親達とともに帰宅したこと、そして何故かイグニスだけがまだ目を覚まさずに、そのままラグナ神殿で保護されていることなどを伝えた。


 同級生三人が無事帰宅したことに、ハリエット達はひとまず喜ぶも、やはりイグニスだけがまだ意識不明のままであることを非常に憂いていた。

 諸手を挙げて喜べない状況に、ウォーベック家の人々も暗く沈む。

 中でも同級生であるハリエットは、今にも泣きそうな顔をしていた。

 そんなハリエットに、レオニスが静かに優しく語りかける。


「ハリエットちゃん、今回の件は週明けのラグーン学園でもかなり騒がれるだろう。つーか、うちのライトはまだこのことを知らない。あいつもきっとものすごくショックを受けるだろうから、もしハリエットちゃんさえ良ければ……うちのライトのことも、少しだけ気にかけてやってくれないか?」

「!! は、はい、もちろんです!」

「ありがとう。これからも、ライト共々よろしくな」


 涙目になりながらも健気に応えるハリエットに、レオニスは安堵の笑みを浮かべる。

 そしてレオニスはウォーベック家を後にし、自分の屋敷に再び戻っていった。



 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 そうしてレオニスは自分の屋敷に戻り、いつものように食堂に向かう。

 足取りはまだ若干重たいが、それでもウォーベック伯爵家との約束を果たせたことで、レオニスも少しだけ心が軽くなった気がする。

 そんなレオニスを食堂入口で出迎えたのは、必死の形相のライトだった。


「ただいまぁー……」

「レオ兄ちゃん!ラグナ神殿で何か事件があったの!?」

「うおッ!…………って、ライト、何でそれを知ってんだ?」


 おかえりの挨拶も無しに、帰宅したばかりのレオニスに詰め寄るライト。その勢いに、レオニスも思わずたじろぐ。

 そしてライトの後ろにいたラウルが、ライトの行動理由を補足した。


「よう、ご主人様、おかえり」

「おう、ただいま」

「さっきマキシが帰ってきて、今日ラグナ神殿で爆発事故だか何だかが起きたらしいって聞いてな」

「ああ、それでか……」

「しかも今日は、ご近所さんのウォーベック伯爵家のハリエットちゃん達がラグナ神殿に出かけてるはずだ、とライトが言っててな。俺達も今からウォーベック伯爵家に話を聞きに行こうとしてたところだ」

「そうか……」


 ラウルの適切な解説に、レオニスも納得しながら頷いている。

 確かにマキシが勤めているアイギスは、ラグナ神殿から程近いところにある。

 マキシも徒歩通勤の途中でラグナ神殿の正門前を通るし、その途中にあの大騒ぎを見聞きしていても不思議ではない。

 あの事件のことを、どう切り出せばよいか迷っていたレオニスだったが、ライト達ももう知っているとなれば話は早い。

 レオニスは己の前に立っているライトの肩に手を置き、そっと話しかけた。


「俺も、ちょうどその話をしようとしていたところだ。とりあえず皆テーブルに座って話そう」

「…………うん」


 レオニスの提案に、ライトも頷きながらテーブルに戻っていく。

 ラウルもマキシも席に着き、レオニスもまたライトの横の席に座る。

 そうしてレオニスは、今日ラグナ神殿で起こった事件のことを話していった。

 三話に渡って続いたライトの平和な週末話も終わり、例のラグナ神殿で起きた事件のことをライトが知る時がきました。

 身近な人々、しかも普段から仲良くしている友達が事件に巻き込まれたとなると、心中穏やかではいられませんよね。


 そんな厳しい現実に立ち向かう前に、前話にも出てきたラウルの林檎がオーガの里に伝えられたことを捩じ込んだりして。

 ラウルの料理愛&食材に対する情熱は、もはや拙作における大きな癒やし要素の一つとなりつつあります。ありがとう、ラウル!

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