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マイナーゲーム世界で人生を切り拓く〜気がつけばそこは、誰も知らないドマイナーソシャゲの世界でした〜  作者: 潟湖
最後の聖遺物

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第1001話 現場維持と主教座聖堂封鎖

「そうですか……そんなことが起きていたとは……」


 大教皇執務室で、ホロやシャング達魔の者から話を聞いたエンディがぽつりと呟く。

 突如発生した黒い靄、その前に主教座聖堂で起きた謎の爆音、それらの原因究明はまだなされていない。

 だがホロの冷静かつ筋の通った状況分析は、それらを静かに聞いていたエンディも十分納得させるものであった。


 ホロの話の裏付けを取るためには、今度は主教座聖堂に出向いて何が起きたのかを直接その目で確かめなければならない。

 エンディはホロに向かって声をかけた。


「ホロ総主教、大変お疲れのところを申し訳ないんですが、今から私とともに主教座聖堂に行ってもらえますか?」

「もちろんです。もうすぐ辞する身とはいえ、私もまだ総主教を務める身。この目で見届ける義務がございます」

「ありがとう。では早速行きましょう」


 エンディとホロ、二人がソファから立ち上がった。

 そしてホロがシャング達に向かって話しかける。


「シャングさん、キースさん、ライノさん、貴方方はしばらくここで待機していてください」

「そなの? オイラ達、あっちに戻っちゃダメなのン?」

「ええ。まず、研修所に戻るにしてもここに護衛兵を呼ばなきゃなりませんし、何より救援要請した冒険者ギルドの方々が今こちらに向かっているはずです。その際、もしかしたら貴方方の証言も要るかもしれません」

「あー、そっかー、そう言われりゃそうだなー」

「でもよぅ……俺らが事件の証言とか、していいんか?」


 ホロの話に納得するも、キースが素朴な疑問を呈する。

 彼らは表立って動いてはならぬ身。万が一にもその正体が魔の者であることを知られてはならないのだ。

 そんなキースの不安に対し、ホロは小さく微笑みながら答える。


「大丈夫ですよ。今の貴方方は、傍から見れば本当にただの人間にしか見えませんし。もし貴方方に誰かを立ち会わせるにしても、絶対に信頼の置ける人にしか会わせませんよ」

「ンなら、大丈夫かぁ……」

「なのねン!ホロっちにお任せすればダイジョブなのねン!」


 ホロの丁寧な説明に、キース達魔の者も改めて安心したようだ。


「では、大教皇様、まいりましょう」

「はい。……キースさん、シャングさん、ライノさん、貴方方が無事で、本当に良かった。この騒ぎは、まだしばらく続くかもしれませんが……私達は全力で貴方方をお守りしますからね」

「大教皇ちゃん……」

「ううッ……ありがとう……」

「大教皇ちゃん、大好きィー!」


 退室する前に、エンディがシャング達魔の者に向けて改めて労いの言葉をかける。

 大教皇というラグナ教最高指導者の、優しくも力強い励ましの言葉に、三人は感激で涙を浮かべている。


 そうしてエンディとホロは、大教皇執務室から退室して主教座聖堂に向かっていった。



 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 エンディとホロ、二人がしばらく歩いていくと、先程ホロ達が黒い靄と遭遇した場所に出た。

 そこには真っ黒に黒ずんだクリスマス用オーナメントがあちこちに転がっていて、ここでホロ達が【武帝】の残滓と戦ったのだ、ということが一目見てすぐに分かる。

 二人は一旦その場に立ち止まり、互いの情報共有と状況把握に努めた。


「総主教、ここで謎の黒い靄と戦ったのですか?」

「はい。黒い靄と鉢合ったはもう少し向こうですが、こちらに逃げてくる途中にライノさんがここで転んでしまいまして……已む無くここで応戦した次第です」

「あの丸いのや星型は……クリスマス用のオーナメントですか?」

「はい。私が向こうの渡り廊下にて、ライノさん達三人と会ったのですが。その時のライノさん達は、出来上がったクリスマス用のオーナメントを倉庫に運ぶ途中だったのです」


 そこかしこに何十個と転がるクリスマス用オーナメント。

 渡り廊下の横、草むらにふっ飛んでしまったものを含めれば、優に二百個くらいはあるだろう。

 木彫りが達者な魔の者達が作った各種オーナメントは、エンディも直接手にして実物を見たことがある。それらはラメ入りの金銀赤に彩られていて、とても美しく可愛らしい飾り物だった。


 ちなみにこのオーナメントの材料であるペロサントの枝は、聖なる力が宿る木としてサイサクス世界でも有名だ。もちろんラグナ教でもそれを熟知しており、オーナメント他飾り物や魔除けのアイテムとしても随所で活用している。

 そんな聖なる力が宿る木の枝で作った、色とりどりの品々が今では全て真っ黒に変わり果てている。これは十分に異常事態だった。


 大教皇はその場に屈み、黒ずんだオーナメントを手に取ろうとする。だが、はたとその動きを止めて手を引っ込めた。

 このまま現場を維持するべきだ、と思ったのだろう。

 そして立ち上がったエンディは、ホロに向かって話しかける。


「途中誰かに会ったら、この場所を誰にも荒らされないよう監視要員を立てましょう」

「分かりました。私が探してきますので、大教皇様はここでしばしお待ちください」


 ホロはそう言うと、すぐに人手を探しに小走りに駆けていった。

 そうして待つこと一、二分。ホロが二人の警備兵を連れて戻ってきた。


「大教皇様、お待たせいたしました。警備兵を二名連れてまいりました」

「ご苦労さまです。お二人には、この現場の現状維持をお願いします。部外者はもちろんのこと、信徒や職員、司祭他聖職者であってもここに立ち入らせてはなりません。もし万が一文句を言う者がいたら、その時は『大教皇の命令である』と言って突っ撥ねて構いません。とにかく、私達が再びここに戻ってくるまでは、誰もここを通してはなりませんよ」

「「分かりました!!」」


 ホロが連れてきた警備兵二人に、エンディはこの現場を死守するよう指示を出した。

 大教皇からの直々の指令に、警備兵二名は背筋を伸ばして大きな声で了承の返事をしている。

 エンディは警備兵二人に「頼みましたよ」と一言声をかけ、再びホロとともに主教座聖堂に向かった。



 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 一方の主教座聖堂は、司祭エルメスの命令のもと入口を完全封鎖していた。

 聖堂の中ではエルメス他数名の兵が現場捜索をしており、入口には大きな槍を持った屈強な衛兵が左右に一人づつ立って人の出入りを制限している。


 主教座聖堂は、外から見ると然程変わっていないように見える。

 だが、目を凝らしてよく見ると、ステンドグラス他窓という窓のガラスが罅割れている。

 砕け散って地面にガラスの破片が落ちていないだけまだマシだが、それでもかなり危険な状況といえよう。


 そして窓ガラスだけでなく、外壁にもところどころに細かい亀裂が入っているのが伺える。

 それらの亀裂は、少なくとも昨日まではなかったものだ。もし主教座聖堂の建物に罅が入っているとなれば、必ず誰かしらが気づいて即時報告されるはず。

 そうした報告がこれまで一つも上がっていなかったということは、昨日までは何ともなかったということである。

 つまりそれらの建物の損傷は、今日の騒動により起きたものであることは明白だった。


 主教座聖堂の周囲には、騒ぎを聞きつけた司祭や職員が遠巻きにして心配そうに見守っている。

 そんな物々しい空気の中、エンディとホロは揃って主教座聖堂の入口に近づいていった。


「主教座聖堂の封鎖、お疲れさまです」

「あッ!大教皇様に総主教様!」

「今聖堂の中には誰がいますか?」

「エルメス司祭が陣頭指揮を取っております!」

「分かりました。では、私達も中に入っていいですか?」

「もちろんです!」

「ありがとう。さ、総主教、まいりましょう」

「はい」


 大教皇と総主教の登場に、衛兵二人は主教座聖堂の入口前で交差させていた大槍を垂直に立てて封鎖を解いた。

 そうしてエンディとホロは主教座聖堂の中に入っていく。

 中では椅子に座って一休みしていたエルメスがいた。


 中に人が入ってきた気配を察知し、それが大教皇と総主教であることをすぐに理解したエルメス。

 慌てて座っていた席から立ち上がり、大教皇達のもとに駆け出す。


「大教皇様、総主教様!お待ちしておりました!」

「エルメス司祭、陣頭指揮ご苦労さまです」

「もったいないお言葉です!」

「して、事件の概要が分かるようなものは、何か見つかりましたか?」

「はい。まずは直にその目で確かめていただいた方がよろしいかと」


 エルメスに労いの言葉をかけつつ、エルメスに導かれながら内陣に向かうエンディとホロ。

 エンディもホロも、謎の黒い靄の正体が廃都の魔城の四帝【武帝】であることを察している。

 だが、それを裏付けられるものはまだ得ていない。そしてこれを裏付けるものと言えば、主教座聖堂内陣奥の祭壇上部に祀られていた【深淵の魂喰い】を検める他ない。

 そのため、エンディとホロの足も自然と内陣に向かっていた。


 そうしてエンディとホロが見たものは、真っ二つに割れて床に落ちていた白銀色の剣だった。



 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆



「これは…………」

「我々が長年見守ってきたアレ(・・)ではありませんね……」

「そうですね……」


 見たこともない白銀色の剣を前に、エンディもホロも驚愕しつつしばし見入っている。

 そしてエンディはその場にしゃがみ込み、折れた剣の先端部に手を翳した。

 その白銀色の剣から、エンディは強力とも微弱とも言えない聖なる力を感じ取った。

 聖なる力を宿す武器状の形態を持つ品となると、やはりこれは【深淵の魂喰い】が聖なる状態に転化した聖遺物である、という見方が妥当であろう。


 しかし、そうなるとこの場の情報の扱いはますます慎重を期す必要が出てくる。

 聖遺物とは、廃都の魔城を討滅する重要なアイテムである。このことは、誰にでも広く知られていい情報ではない。むしろなるべく伏せておかねばならない重要機密である。

 エンディとホロは目配せし、エルメスに向かってエンディが話しかけた。


「エルメス司祭、この剣のことは他の者に知られてはなりません。秘密を明かすにしても、私が認めた者でなければなりません」

「やはり、それだけ重要な品なのですね……」

「ええ。これは、正真正銘人類の存亡をかけた……決して失われてはならない品です」

「ッ!!…………それ程のものとは…………」


 エンディの言葉に、エルメスは思わず絶句する。

 エルメス自身も、これまで見てきた状況からそれが【深淵の魂喰い】が変貌したものだという推測はついていた。

 だが、まさかそれが大教皇に『人類存亡の鍵を握る鍵』とまで言わしめる品だとは思ってもいなかった。

 これはエルメスが聖遺物のからくりを知らないが故のことなので、考えが追いつかないのも致し方ないのだが。


 そんなエルメスの驚愕を他所に、エンディは次々と今後の方策を打ち出していく。


「エルメス司祭、ここにもうすぐ冒険者ギルドの救援が到着します。それまでの間、ここは私と総主教が見張りますので、エルメス司祭はここで調査した者達を全て引き連れて、他言無用の誓約魔法を交わしてください。もちろん誓約魔法は貴方も含めてです」

「分かりました」

「それと、この主教座聖堂は当分の間立入禁止とします。外から建物を見ても、窓ガラスや外壁に罅が入っていて危険な状態ですからね」

「そうですね、それがよろしいかと思います」


 エンディの的確な指示に、エルメスも頷きながら同意している。

 そこにホロがさらなる提言をした。


「倒壊の危険もありますし、補修など何らかの措置が施されるまでは無期限の立入禁止にすべきでしょう」

「そうですね、その方が機密保持にも繋がりますね」

「では、その間主教座聖堂の代わりとして礼拝堂を使いましょう」

「ええ、私もそれでいいと思います。聖堂が使えない状況にあろうとも、今後も礼拝やジョブ適性判断の儀が行える場所を確保しなければなりませんからね」


 様々な方策を話し合うエンディとホロ。

 様々な理由により、事件の舞台となった主教座聖堂はしばらくの間封鎖しなければならない。

 だが、主要施設である主教座聖堂が閉鎖されたことで、信者の礼拝やジョブ適性判断などの公的業務まで滞ることは決して許されない。

 事件現場の維持と、ラグナ教が日々担う役割。どちらも大事なものであり、何が何でも両立させなければならないのだ。


 エンディとホロの話し合いを聞いていたエルメスが、二人に向かって声をかけた。


「では私は今から衛兵達を連れて、礼拝堂にて全員の誓約魔法を執行してまいります」

「大変なことですが、よろしくお願いします」

「とんでもございません!あと、入口にて封鎖している衛兵達に何か言伝はございますか?」

「冒険者ギルドの方々が到着したら、その方々の判断に従ってください、と伝えておいてください」

「分かりました。では、これにて失礼いたします」


 エルメスはエンディとホロに向かって恭しく頭を下げた後、すぐに聖堂内で建物の損傷具合を調査していた衛兵達に声をかけにいった。

 そしてエルメスが衛兵全員を連れて、主教座聖堂の外に出ていってから数分後のこと。

 冒険者ギルド総本部からラグナ神殿に、いち早く向かっていたレオニスが主教座聖堂入口に到着した。

 第999話からの続きです。

 ぃゃー、昨日の第1000話はラウルを主役にしたSSということで、張り切って書いたせいか9000字突破という拙作史上最大級のボリュームとなったので。作者的には今日のこの地味ーな後始末風景は、却って気楽に書けました(´^ω^`)


 今最も気になるのは、真っ二つに折れてしまった聖遺物の行く末とイグニスの容態ですかね。

 そこら辺も追々&必ず顛末は出しますので、もうちょいお待ちくださいませ<(_ _)>

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