ご主人様と出会った日
僕が誕生して、一年と少し。
僕のご主人様は、部屋の大掃除を始めた。
断捨離。というやつらしい。
僕は四足歩行で「わん」と吠える生き物である。二足歩行のご主人様のパートナーとなる存在である。
ご主人様と出会ったのは僕が生まれて3か月を過ぎたころ、一緒に生まれた兄弟たちと離れ離れになった遠い地でである。
ご主人様のところにはすでに、「にゃー」と鳴く四足歩行がいたが、ご主人様自らが探し歩いて、パートナーを見つけたのは、僕が初めてらしい。
僕に一目ぼれらしく即決したらしいのだが、連れ帰るにあたり、この「にゃー」と相性が合わないといけないということで、いきなり引き合わせれた。しかし、僕は生まれたばかりの赤ちゃんで、相手は成体になってバリバリの活動家だ。相性なんてわかるわけもない。僕は戸惑い、相手は警戒しまくった。笑っちゃうね。
まあ、そのうち慣れるだろうって開き直ったご主人様はその日のうちに、僕を連れ変えることを決めた。
まずは契約。僕のことを責任と愛情をもって育てること。行政手続きや病気の予防。生活する上でのルールや必需品など、多くの説明を受け、文書をもらってた。
すべてに、了承の意を示したご主人様。次に僕のために生活必需品を買いそろえてきた。これも何が必要か説明を受けながら、あるといいものや、すぐにはいらないから後から買いそろえるもの。いろいろ考えてくれたようだ。
気づけばなんと、あまりの荷物の多さに、僕を引き取った後、もう一度引き返して、荷物を受け取るという珍事が起きたらしい。
赤ちゃんな僕も行く末に不安を感じて、ご主人様がいなくなった瞬間に粗相をしちゃったよ。
大きな荷物を、大量に抱えて戻ってきたご主人様。
僕がしちゃったおしっこも、自分が目を離したからだと、怒らずにいてくれた。
まずは一安心。
それから大きな荷物を開けて僕の部屋を作ってくれた。トイレにベッド、水飲み場に銀の皿、僕がご主人様のパートナーだと分かる赤いベルトも着けられた。
お部屋が整うと、僕の行動を観察して動きや身体の特徴をさがし、にこにこしたり奇声を上げながら、小さく四角いものを僕に向けていた。のちに知ったが、大量の写真とやらで記録を取っていたらしい。
新しい環境になって緊張して疲れたのだろうか、瞼が重くなって動くのが億劫になっていた。ご主人様は僕をお部屋のベッドに移動させてくれた。寝心地はいまいちだけど、新しいもので匂いが僕のじゃないから仕方がない。
今日はこのまま寝るとしよう。
一年と少し先の、僕とご主人様の関係を思ったりするなんて、この時はさらさらないけど、明日のご飯が楽しみであったような気がする。