08話 修行
「修行内容を伝えるわ」
おばあさんがそう言って家に入り、また出てきた時には、大きな黒々とした金棒を持っていました。長さは1メートルくらいで、太さは一番太いところで私の太腿くらいあります。
「この金棒を振り回せるようになること」
そう言っておばあさんは私に金棒を持たせようとしました。
ずっしりとした手ごたえ。受け取ろうとした瞬間、ズドンと地面に吸い込まれていきました。
「え?」
私の手に留まることなく地面に突き刺さった金棒を見て、私は呆然とします。
「……これ重さどれくらいあるんですか?」
「うーん、あなた10人分くらいの重さはあるんじゃないかな?」
にこっとしながらおばあさんは言いました。
「いや、普通に無理ですよ。筋力で言ったらどれくらい必要なんです?」
「筋力ステータスで言うと、500……。だいたい、一般的な勇者が生まれた直後くらいの筋力があれば持ち上げられるわね! まずは、あなたは貧弱すぎるから筋力を鍛えて、村娘の平均的な筋力100くらいを目指すこと。で、気力を鬼の平均である5くらいまで伸ばすことができれば金棒を振り回すことができるようになるわ」
おばあさんは、地面に突き刺さった金棒をずぼっと引き抜き、今度は地面にそっと立たせます。
そして、私に金棒が倒れないようにを支えさせます。意外とほぼ自力で立っているようなので、私でもなんとか支えられます。私にとっては限界ギリギリの力と集中力が必要ですけど。
「筋力と気力を同時に鍛える方法。第一段階、まずはこの金棒を倒れないように支え続けること。自力で立っているように見えるけど、わずかな風が吹いただけでも簡単に倒れるわ。まあ、そうならないように支え続けるだけならそこまでの力はいらないわ。ただそれがずっと続くわけだから集中力は必要ね」
「えっと、どのくらい続けるんですか?」
「そうね……。今から夕食くらいまでかな?」
おばあさんはにっこりと笑いました。
……えー! 無理無理無理です!
「がんばるのよ。気力をまずは感じることができるようにならなきゃね! この金棒は触れているだけで気力を高めてくれる効果もあるからきっと大丈夫よ。あ、あなたの耐久力で今この金棒の下敷きになったら多分ぺしゃんこになるからどうしてもだめってなったらちゃんとよけるのよ。じゃあがんばってね」
おばあさんは家の中に入ってしまいました。
それから私は来る日も来る日も朝から晩まで棒を支え続けました。
朝ご飯を食べて金棒を支え、昼ご飯を食べて金棒を支え、三時のおやつを食べて金棒を支え、お風呂に入ってご飯を食べるっていう生活を一カ月続けました。
え? 修行にしては生ぬるいですか? とんでもない! 限界まで力を使うし、気を抜けば金棒が倒れて下敷きになってしまうので、ずっと集中していなければいけないんですよ!
初めの頃は何度も棒を倒してしまい、危うく死にかけました。そのたびにすぐおばあさんを呼んで金棒を立て直してもらいました。いえ、一度金棒が倒れた後は支えなくていいから楽できると思って、お昼寝していたらおばあさんに呆れられましたからね!
でも、ずっとそれが続けばそれも慣れてきます。そんなに力を入れなくても支え続けることができるようになってきて、考え事とかもできるようになりました。力も結構ついてきたんですかね?
気力もちょっと分かってきましたよ。なにしろ、やってることは金棒支え続けてるだけですからね。思考と自分の体の中の試行錯誤くらいしかやることがありません。
お腹の中に何か熱いものを感じてからは、徐々にそれを体の中に循環させることができるようになってきました。体の中に循環が起こると、金棒が軽く感じられるようになりました。これが気力を上げるってことかと分かってからは楽しくて、どんどん試しました。
そんなこんなである日、片手で金棒を支えられるようになっていた私は、
「モモコー。昼ご飯できたよー。休憩にするよー」
おばあさんに遠くから声を掛けられ、
「はーい!」
手を振りました。おばあさんはびっくりしていました。
どうしたのかなと思って、考えると答えは簡単でした。
私は金棒を持ったまま無意識に手を振っていたのでした。