07話 鬼の力
モモコ♀ レベル1
筋力 10
魔力 15
気力 2
村娘♀14歳 レベル14
筋力 100
魔力 200
気力 1
町人♂20歳 レベル16
筋力 220
魔力 150
気力 1
一般的に男性の方が筋力が強く、女性の方が魔力が強いらしいです。それはともかく、
「私弱すぎじゃないんですか?」
おばあさんは、私の弱すぎるステータスを見て予想どうりと言ってきます。私は勇者じゃなかったんですか? 村娘に小指で薙ぎ払われますよコレ!
「一概に弱いとは言えないけどね。レベルが1だからね。本来のあなたくらいの大きさの子供は14年くらい経験を積み重ねているから。あなたがレベル14くらいに判定される時は多分もっと上のステータスになってるわよ。レベルというのはその人が積み重ねてきたトレーニングや経験を表したものだからね」
詳しくおばあさんに話を聞くと、この世界では魔物を倒して経験値を貰ってレベルアップなんていうシステムはないらしいです。
トレーニングを重ね、ステータスアップをした人が積み重ねた経験を水晶玉が測っているだけなのだとか。
つまり高レベルの人は、他人からあの人すごく努力したんだねと尊敬されるし、低レベルなら努力してないことがばれてしまうようです。
ステータスは下がることがあっても、レベルは下がりません。武術の達人が老衰で亡くなる際には、レベルは90台なのに、ステータスは全部一桁っていうこともあるそうです。まあ、当たり前といえば当たり前ですね。
「だから、まあ逆にステータスが同じなら、レベルが低い方が才能というか、伸びしろがあるってこと。ざっくりどのくらいの強さを測る基準にはなるんだけど、それならまだステータスを見たほうが確実ね」
「じゃあ、私はレベル1でこのステータスにしては強いし伸びしろいっぱいってことですか?」
「いや、一般人ならともかく勇者としては低すぎね。平均的なレベル1の勇者のステータスをみせるわね? だいたいだけど…」
平均的勇者 レベル1
筋力 500
魔力 500
気力 1
「え! 私と全然違うじゃないですか! 私弱すぎ!」
「ふっふっふ、そうでしょう? ついでに私のステータスも見せてあげるわ」
おばあさんは水晶玉に手をかざしました。
おばあさん172歳 レベル91
筋力 200
魔力 240
気力 20
…年齢とレベルがすごい! だけど…
「弱いでしょう? 歳だからね! 筋力とか魔力とか衰えまくってそこらの町人並みよ」
おばあさんは笑いながら言いました。
「鬼って人間より強いんじゃ…。あ、でも気力がすごいですね! 人間はどんな人でも達人でもレベルが高い低いに関わらず大体1なのに」
「良いところに気付いたわね! そう、鬼の特性はそこなの。筋力や魔力は人間と大差ない。でも、この気力が強いと…」
おばあさんは地面に落ちていた人の頭くらいの岩を持ち上げます。
「こういうことも簡単よ!」
そう言いながら、おばあさんはクシャっと岩を握り潰しました。岩を…岩をですよ!
「え!?」
「驚いたでしょう?」
驚きました。え! 気力ってこんなにすごいんですか? 気で岩を粉砕したとか?
「不思議そうな顔ね。特別なことはしてないわ。ただ、岩を握り潰しただけ」
「え、でもおばあさんの筋力は…」
「そう、200そこそこ。こんな真似をするには筋力1000は必要ね。実は私の実質的なステータスは水晶玉に表示されているものとは違うのよ。ちょっと計算して書いてみるわ」
おばあさんは、地面に自分の実質的なというステータスを書いてくれました。
おばあさん172歳 レベル91
筋力 4000
魔力 4800
気力 20
「……っ。気力を掛けたんですか!」
「よくわかったわね! 普通の人間が気力1だらね。筋力や魔力の燃料となる気力が、私は人間の常時20倍の出力ということよ。燃料が20倍なら筋力や魔力の実質的な効果は20倍になるわ」
そんなでたらめな…。
「でも、体が出力に耐えられたかったりしないんですか? 本来60の筋力なんでしょう?」
「詳細なステータスを覚えている? 筋力の詳細の中に耐久力があったでしょう? 耐久力も20倍ということなの」
「そういうことですか…。あ、なるほど私も人間としては気力が2と高いからそういうことだったんですか? 私のステータスも2倍と」
モモコ♀ レベル1
筋力 10(20)
魔力 15(30)
気力 2
……いや、2倍しても弱いですよねコレ?
私ががっかりしていると、ちょうど玄関からおじいさんが出てきて言いました。
「モモコや。おばあさんと比べてがっかりしなくてもいいぞ。うちのおばあさんは異常すぎての。普通の鬼の平均的な気力は5くらいじゃ。おばあさんは化け物過ぎて、かつて戦場でも【鬼婆】って言われてたくらいじゃ」
「おじいさん! 変なこと言わないで! 婆は余計よ! まあモモコ。そういうことね。2倍でもほかの人間からしたら大きなアドバンテージよ。それにね……」
おばあさんはいったん言葉を区切って言いました。
「これからしようと思っている修業は、この気力を伸ばすトレーニング、鬼の秘術【鬼錬功】よ。人間っていうのはステータスや能力的には最も劣った種族だけど、たまにものすごい可能性を持つ者が現れるのよ。まあ、勇者はだいたいそうなんだけどね。私の勘だけど、あなたには普通の人間にはできない、気力を高める才能が私以上にある気がするのよ」