03話 勇者村
「モモコや、それでいつから修業を開始するんじゃ?」
夕食の席で、おじいさんが突然そんなことを言い出しました。
「……え?」
修行って何でしょう? 思わずおじいさんの方をまじまじと見てしまいます。
「……」
「……」
「……」
おじいさんもおばあさんも、びっくりと言った顔で沈黙してしまいます。
埒があかないので、恐る恐る思い当たることを聞いてみます。
「……あのーもしかして、鬼退治とかしなきゃいけないんですか?」
……気まずい沈黙が続きます。
「鬼退治? あなた、神様には何もきいてないの?」
おばあさんが不思議そうに問いかけてきました。
「えっとはい。神様ってあったことないんですけど……」
「うーん、そんなこともあるんじゃね……。しかし、モモコや。おそらくお前さんはなんらかの物語に選ばれた勇者で間違いないと思うぞ……。この勇者村で生まれたからにはの」
おじいさんが突然びっくり発言をしてきました。
それから聞いた話によると、この村は世界にいくつもある勇者村の一つだということです。
この世界の神様は、この世界以外の異世界から、異世界独自の物語の適性を持つ人間を転生させてくるそうです。もちろん、面会して合意の上で。
……私は合意してないけど……。
定期的に召喚された勇者は、生まれた時には特殊な能力があるわけではないそうですが、それぞれ選ばれた物語にふさわしい才能があるはずなので、それをこの勇者村で育てるそうです。
で、なんのために勇者をそんなに育てているかと言えば、魔王の勢力と戦うためということです。
今まで、何千人、何万人もの勇者を召喚し、この世界の人々や街を魔物や魔獣等から守ることで、なんとか人類は滅亡を免れているのだとか。
おじいさんとおばあさんは、その勇者を育てるための管理人みたいな役割を担っており、過去には五人の勇者を輩出したとか。
そんな話を二人はしてくれました。
「それでの、モモコや。お前さん、ここで生まれたからには召喚された勇者ということじゃ。これからどうしていくつもりじゃ?」
おじいさんに聞かれ、私は即答します。
「うーん、できればゴロゴロして美味しいものを食べてゴロゴロして、可愛い女の子と友達になって遊んでゴロゴロして、たまに自分磨きしてゴロゴロして暮らしたいんですけど」
「あなたが正直でいい子なのは一週間一緒に過ごして分かったけどね。基本怠け者よね」
私の返答を聞き、おばあさんは吹き出して笑っていました。