7盾スキルを覚える
盾術のギルドはオーサの家から比較的近くに存在した。周りには屈強なキャラクターたちが大きな盾を持っている姿を多く見かけた。
「ほえー、やっぱりタンク職だからたくましそうな人が多い」
「そうでもないよー」
「ひょえ!」
「びっくりさせてごめんよー」
いきなり声をかけられて飛び上がったスノーが振り向けば、平均的な身長のスノーとほぼ同じぐらいの身長をした女の子がいた。
大盾と少々ミスマッチな見た目だったが、がっしりとした体を守るプレートの鎧を着込んでおりナイトらしさがあった。
「おー、ナイトっぽい。カッコイイですね!」
「ありがとー。これはcβからの特典の見た目だけなんだよー。ゆくゆくは自分専用のデザインしてもらった鎧にするつもりなんだー。
あと盾術にねーパリィスキルがあるから、私みたいなガチタンク! って人以外も結構いますよー。まあ、パリィスキル上げるためにちょっと盾スキルの熟練度上げないといけないんで、大変みたいですけどー」
「パリィスキル、なるほど」
オーサの意図が分かった気がしてスノーは頷いた。そんなスノーを楽しそうに少女は見つめていた。
「私はミーランだよ」
「あ! 私はスノーです。よろしく」
「スノーよろしくー。うーん、軽装なのでタンクじゃないタイプですかー?」
「えーっと、ちょっと上手く説明しにくいんだけど、まだどういう戦いするのかはわからないの。槍を使うのは決まってるよ」
「よーくわからないですー?」
首をかしげるブリジットにスノーは困った表情を浮かべて頬を掻く。その通り過ぎてスノー自身もなんと言えば本当にわからないのだ。
しかし、スノーの答えに
「ですよね。クエストに従ってスキル取っていってます」
「えぇー、面白そうですね? でも、それなら自分のやりたいことじゃない可能性もー、あるんじゃないですかー?」
「そうかもしれないけど最初の目的の召喚士は見つからなかったから良いかなって」
「召喚士ー。cβでも一定数はいましたけどー、パーティを組むときに難しかったみたいですねー」
「そうなんですね! cβは抽選漏れちゃって正式稼働でゲーム挑戦! だったんだけど、召喚魔法がなかったから、選べなさそうなんだ」
「それは残念ねー。ふふ、ごめんなさいー。私がスキル取ったら合流しようって約束してたフレが待ってるみたい。フレンド登録しませんかー? スキル取ってプレイイング固まったらー、一緒に遊びに行きましょー?」
「こ、こちらこそ。ありがとう、ミーラン!」
フレンド交換をし、またねーとミーランとスノーは手を振りあって別れる。
初めてのフレンド交換が出来たことに感動して彼女はメニュー画面を何度も見直して、嬉しさを噛み締めるのに満足してから盾術を覚えるためにギルドの扉を開けた。
盾術を覚えられるギルドは槍術とほぼ変わらなかった。並んでる人はいないため、窓口のおじさんに近づきスノーは声をかけた。
「オーサさんから紹介を受けて来ました。この二匹も一緒に連れていきたいです」
「ほーん。オーサさんからの紹介か。……よし、分かった。そっちの扉から訓練場へ行ってくれ」
オーサの名前を出すかどうか迷ったが結局彼女は出すことにした。そうすると窓口のおじさんはしばらく悩んで頷いて、槍スキルを覚えるの同じ流れで促される。
【スキル習得クエストを開始します】
【はい/いいえ】
はいを選べば、視界が真っ白に染まり景色がすくに変わる。
槍スキルの訓練場と同じ乾いた土と壁に仕切られた空間が広がっており、そこにすでに一人の青年が立って爽やかな笑みを浮かべていた。
「よ! オーサさんからの紹介だって? 珍しいこともあるもんだって思って受け持たせてもらったぜ」
「あの、お手柔らかによろしくおねがいします」
「はは、ジョークが得意そうだな」
「ジョークじゃないんです」
「ははは」
真面目に受け取ってくれなかったことにスノーは諦めの境地に至る。
「盾術を覚えるのは何をすればいいんでしょ?」
「ほれ、これを装備してひたすら俺の攻撃を防御する、単純だろ?」
「えぇぇ」
革で覆われた小型の盾を慌てて受け取る。土台は木のようで、そこまで重いものではない。使いやすそうな重さだった。
「利き手と逆に装備しな。そして、攻撃に使う武器を装備しろ。盾だけで戦うわけじゃないだろ?」
「はい! あのー、槍が両手持ちなんですけど」
「特定の小型装備時の設定で腕につけるオプションがあるからそれを選びな」
やっぱりゲームだなーと思いつつ、青年の教官の言う通り装備の選択肢で左の腕に持つのではなく左手の手首近くの前腕に装着する形で小型の盾が装備される。
青年は木剣を手に持っていた。
「おっと、注意事項だ。槍で反撃はしてくれるなよ。こっちは木剣なのに一応そっちは金属製の穂先だからな」
「は、はい。気をつけます」
「それじゃあ、パリィ覚えるまで全力で頑張れ!」
直後スノーのそばにいた二匹が素早く距離を取る。その意味の理解を出来なかったスノーは真正面から木剣の殴りを受けて吹き飛ばされた。
「かはっ」
「女の子を殴るのは心が痛むな」
「て、てか……」
「早く立て、構えろ」
手加減ゼロだと思えるほどの威力だった。痛みは無いはずだが、感覚が鈍くシステム的な判定でスノーの行動が阻害される。
手加減なしでそんなこと言うなと文句を言いたかったが、目の前の青年は先程までの爽やかな笑みを残したまま容赦なく彼女の髪を掴んで立ち上がらせる。
無理やり体を持ち上げられた彼女は、痛みがないおかげで動かす体の感覚が鈍いままでも地面に足をつけて前を向く。
青年は距離を取って、また一気にスノーへ向かって踏み込む。
「うあっ!」
「見えないのか? もっと集中しろ。お前の目は怯えで閉じてなんかないぞ。だったら、見えるはずだ。見えたら盾を向けろ。俺の剣を体で受けるな!!」
何度も髪を捕まれ立たされ、また吹っ飛ばされるという手順を繰り返す。
痛み設定が無くて良かったとスノーは吹き飛ばされながら思っていた。感覚が鈍くなるだけならば、吹き飛ばされたのがわかればすぐに何度でも立ち上がれる。
何度も青年からスノーへ叱責が飛ぶ。その声に怒りは無いが強い。
「遅い!」
「っ」
そしてアンバランスに表情は最初から変わらぬ笑顔のままだ。吹き飛ばされる瞬間にみえるそれを、スノーは怖いと思った。
だから、立ち上がってまた盾を構える。集中が高まる。
風が肌を撫でる速度が遅く感じた。とてつもなくゆっくりと人の手で頭が撫でられるように感じていた。
だからか、彼女の目はようやく踏み込む教官の姿を正確に捉えた。
そして視界の中に色が走る。下から上へ伸びる線だ。
ここだ!
スノーは直感的に理解した。
これが盾スキルなのだと。
盾を構えたときに、相手の攻撃動作がアシストで表示される。それは本来で認識速度であればあれほどの速さの振りなのだ、一瞬の邂逅のはずだった。
今、高まった集中でしっかりと教官の攻撃をスノーは見て取れる。
スノーは本来であれば通常通り覚えられる初期の盾スキルのガード1を使用すればよいだけだ。
しかし、彼女は左手を攻撃線にまっすぐぶつけず、相手の力を大きく別方向へ弾くように動かす。
攻撃線の通りに来た木剣の剣筋へスノーの動かした盾が衝突する。
木剣は、全く木剣らしからぬ音を立てて盾によって側面から弾かれた。
「ここっだぁ!」
盾スキルのガードであれば、相手の攻撃を受けてダメージをカットしかつ踏ん張るはずだった。しかし、パリィ1スキルであればその効果は違う。
【パリィ判定時にSTを20消費し、ダメージをカットして“自身の動きを止めず”に相手の攻撃を弾いて中断させる。】
だから、彼女は相手の攻撃を弾いてすぐに右手だけで持っていた槍を動かす。
パリィが成功したことにより、青年の重心は崩れすぐには動かせないとスノーは判断した。
槍スキルを覚えるために繰り返した動作を発動する。武器を弾くために動かしていた左手は槍を構える速度に間に合う。
槍スキルのスラスト1だ。スキルは単純であり、【その場で1回突きをする】だけ。
だが、それで十分だった。
青年の胴体を狙った突きが、放たれた。
次話は明日19時更新です。
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