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オーサの家は大通りから少し離れた整った区画整理がされた道の一角にあった。その平屋自体はそれほど大きいものではないが、シックな色をした木目調の壁の家だ。
近づけば家の前に植えられている現実には彼女が見たことのない花が小さな庭に生えていた。
出迎えたオーサはとても楽しそうな笑顔で彼女を出迎えた。そして、昼食に招かれば、スノーはありがたく食事をもらう。
しかし、いうべきことは言わねばならんと彼女は奮起した。
「オーサさんの紹介だから、という文句で恐ろしい体験が出来ました」
「槍術は覚えられたかの」
「いろいろと文句を言いたいです! 覚えました!」
「結構結構。楽しんでもらえたようじゃ」
「楽しんでないです!」
スノーの態度に対して、オーサは子供の反抗期を見るような顔をしている。そんなオーサの態度が腹出しいが、がつがつと食事を食べることで解消する。現実とは違い、古い食事を再現しているのか味はほぼしないが食べるのが大変な手間だった。現実の食事なら用意されたパッケージを開いて、それを頬張るのと液体を飲めば終わりだ。
「取るつもりはなかったんですけど、槍スキルもすごいんですね。あれは覚えられるんでしょうか」
「武器スキルの訓練所の教官はどこもさりげなく強者じゃからの。槍は飛ぶ抜けておる。技については、アイルリューネの祝福のかかった槍が手に入れば使えるかもしれんの。それ以外は見よう見まねで技にもならんわい」
「それはちょっと残念です」
「鍛錬せい。さて、昼食が終わったらどうするつもりじゃったんじゃ?」
「初心者の槍を卒業したいのでお金が乏しいのと、モンスターと戦ってみたいから外出てみようかなって思ってました」
「ふーむ、まだスキルを一つ覚えたばかりじゃろ? 早くないかの」
「そうですか? でも、槍スキルを覚える過程で体を動かしてたら、醍醐味な戦闘もやってみたいかなって」
「戦闘がしたい?」
「いえ、違います。オーサさんが思うような意味じゃないと思います」
「ふん、賢いの。こちらの希望を優先してくれるならば、おすすめのスキル取ってから、レベル上げと一緒にスキルの熟練度を上げてほしいの」
「うっ」
チラチラっとオーサが寂しそうな顔を作りながら視線を何度もスノーへ投げかける。
「オーサさんは私を何にするつもりなんですか」
「……そうだな。覚えてほしいスキルを覚えて来たら教えたいとは思っている。所詮気まぐれじゃからの、嫌ならやめても良いぞ」
【クエスト老人の気まぐれを破棄しますか?】
【はい/いいえ】
スノーの目の前にクエストの破棄を尋ねる画面が出現する。クリティカルにこの老人が嫌な流れの質問をしてしまったのだと理解した。
彼女は即座に「いいえ」を選択する。
「すみません」
「気まぐれじゃからな。本当に強制するつもりはない。だが、目的がなくなっているなら少々付き合ってほしいとは思って声をかけたんじゃよ」
「オーサさんのことをギルドでも話題になりました。なので気になってしまって」
「お前さんがわしのお願いをしばらく付き合ってくれるなら、いつか話す時も来るであろう」
気まずい雰囲気になってお互いが沈黙する。それまでの穏やかな気まぐれな老人と言った雰囲気だったオーサは、スノーから見て歴戦の戦士のような鋭い目つきをしていた。
そんな雰囲気を破ったのは、レアンとティグリーだった。それぞれスノーとオーサに対してもっと餌をよこせと言うようにベシベシと強めの前足パンチをやってくる。
特にオーサは椅子に座りながらはじき出されそうなほど強い威力だ。
「えぇ、ティグリーちゃん強すぎ」
「ぶへっ。久々にこんな強くペチペチされたわい」
「ペチペチとかいう可愛い擬音の威力じゃなかったですよ」
「軽いじゃれあいじゃよ。話を戻そう。外への狩りはもう少しスキルを覚えてからにほしいかの」
「……わかりました! それじゃあ、次はなんのスキル行きましょう?」
「一つ一つ言ってはお前さんも困ってしまうようじゃな。あと、取ってもらいたいのは、盾術、風魔法、舞踊、そして、騎乗スキルじゃ」
「舞踊と騎乗スキル? ちょっと地図確認させてください」
意図が見えなかったが、騎乗スキルはあっただろうか。スノーはスキル取得マップを起動して確認しようと思ったが、検索機能がなかったことを思い出して閉じる。あとでリアル側で保存した情報で検索しようと脳内にメモしておく。
「舞踊は場所を教えるし、騎乗スキルは最後にわしが案内するから気にせんで良いぞ」
「そうなんですね。わかりました! 挑戦してみます」
「ふむ、槍術だけでこんなに遅くなったんじゃ、他の旅人たちと差が出来てしまうかもしれん。それでも良いか?」
「お金が、ちょっと心もとないかも」
スノーがチラリと、
ドン! と大きな音を立てて大きな袋をテーブルの上に乗せる。レアンとティグリーが飛び上がりテーブルの上からそのまま跳ねて降りる。
「ふん、そんなことならすぐに言わんか。食事代ぐらい出してやるわい。装備はスキルを覚えて、外に出るときに一緒に探してもやる」
「あ、ありがとうございます」
オーサさんのプライドというか矜持の強い場所が難しく、スノーは苦笑いを浮かべる。NPCからお金を無償でもらう旅人ってちょっとどうなんだろうと内心で思ったが、口に出さないように気をつけていた。
スノーは申し訳無さそうに袋に触れれば自動でメニューの通貨欄にお金が増える。桁がスノーの想像よりも2つほど多い。持ちすぎで冷や汗が背中を伝う。
「ちょ、多すぎませんか!? 年金生活の」
「年金生活とはなんじゃ! 昔ためた金の一部にもならんはした金じゃわい。レアンとティグリーに高いものを買っておけい!」
「はいぃー」
オーサの発言に二匹が同意するように声を上げた。そして、金を受け取ってしまったゆえの上下関係のため、彼女は大急ぎで盾術を覚えるためにオーサの家を飛び出した。
「ぶべっ!」
スノーが飛び出すのがいきなり過ぎたのか、おいていくなというばかりに背中に二匹のタックルをくらい、道端に押し倒されたスノーの姿が衆人の目にさらされて笑われたのだった。
次話は明日19時更新です。
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