4槍スキル習得
美しい翠を宿した槍が太陽光を受けて輝く。その槍に負けず劣らず目を引くのがその槍を持つ女性自身だった。
日に焼けた肌に力強い眼力をしている赤色のショートヘアの女性がスノーを睥睨する。
「あんたか、オーサに紹介されたっていう、ひよっこでもさえもない素人ってのは。槍スキルを極めたいんだって? いい度胸だね」
「え、いいえ、そのスキルを覚えたいだけで」
「はぁ? オーサからの紹介だろ?」
「そう、ですけど。偶然出会っただけというか。オーサさんが何者か知らないというか」
「ふーんそうかい」
しばらく彼女は空を見上げて考え事をする。その沈黙の時間も二匹は気にせず訓練場内を駆け回っていた。軽やかにしかし大きな音を立てて砂埃が上がり訓練場の土に穴が開く。二匹の目はスノーを観察するように決してちらちらとスノーへ向けられていた。
女性の教官は何度か頷いて自分が納得したように笑った。
「よし。やっぱり考えても何故かはわからないが、とりあえず基礎を教えてやる。その成果で決めよう」
「あ、あの、すみません。ありがとうございます。あと、オーサさんって」
「無駄話はやめな!」
「はいっ!」
オーサについて尋ねたかったが、ピシャリとさえぎられてスノーはビクッと背筋を伸ばす。
そんなスノーへ女性から木の槍が放り投げられ、スノーは慌てて槍を受け取った。木で出来ているが、重さはかなりのものだ。
「槍の長さは実際に戦闘を繰り返しながら試行錯誤して自分で決めな! 今は基礎を教えるから、それを使う。
まず真ん中ほどを持って腰だめに構えて、腕を前に伸ばして突くだ! 敵から少しでも距離を取ろうとか考えって、根本を勝手に持つな! ひよっこは薙ぎ払いなんて考えるな! そんなことよりも前に槍の基本は、突きだ! 相手へ突き刺し殺すことだ! 分かったな! やれ!」
「はいっ!」
女性の教官はかなり厳しい指導だった。
最初の突きの動作は、腰が入ってないや足を動かせ! など、とても大きな声で叱りつけられ、矯正される。最初は何もない空間にただ突きの動作をするだけだった。
いつの間にか、目の前に巻き藁が置かれてひたすらそれに突きを与える。
ゲーム処理のため何度スノーが突きをしてもその巻き藁は傷つくことはない。
ただ無心に彼女の指導に合わせてスノーは自身の動きを改善していった。
どれほど槍を動かし続けただろうか。
行いだした最初は雑念が入っていたスノーだが、気づけば時間も忘れて眼の前の空間に向かって槍を刺し続けていた。
その光景を二匹も見守っていた。しかし、その瞳は優しげではなくどこか値踏みするようなものだった。
「良い動きだ。思ったよりも筋が良い。しかし、3時間も無言で振り続けたのはお前が初めてだぞ」
「ありがとうございます! 本当に動かせて集中出来るのが久々だったせいか、熱中しちゃいまして」
「いや、それで良い。集中力が高いってことは良いことだからな。これでお前にも槍術が取得されたはずだ。ステータスを見てみな」
ふとしたところでゲームだなぁとスノーは思いながら、ステータスオープンと唱えてコンソールを開く。
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スノー レベル1
クラス系統:未決定
HP:200
MP:100
SP:100
STR:20
INT:20
LUK:1
攻撃力:5
防御力:10
スキル:[槍術lv2]
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スキル欄にしっかりと記載されたそれを見てスノーは自然と拳を力強く握る。槍スキルはlv1だと【チャージ】というスキルだけで攻撃スキルを覚えられないためレベルを2にするまで練習を繰り返していたのだ。
「やった、レベル2まで上がって覚えてます!」
「よくやった。これで槍術の習得は終わりだ。良かったぞ。だから、オーサからの頼みを敢行する」
「え?」
彼女の目の前を鋭さを持った風が通る。気づけば顔の横に槍の穂先があった。その槍はこの上なく美しいエメラルドグリーンをしており、長い柄や刃にも複雑な文様を刻まれていた。
「女神アイルリューネはこの大陸の三大神の一神だ。彼女は多くの縁を結ぶ神であり、はるかな昔、この大陸の危機に降臨された際には魔法を主に使われていたが、槍も得意だったそうだ。そして、彼女の祝福がかかった槍武器がこの大陸には数本ある。これがその内の一本だ。アイルリューネの瞳を持つお前ならこの槍に有るものが見えるだろう」
もはやわけが分からなかった。眼の前の女性は嬉しそうに延々と女神と武器の内容について語り、そうして語り終えて満足してから槍をまた振るった。
全身が総毛立つ。それはまさしく恐怖だった。全く槍の筋が見えない。気づけば顔の横に槍があるのだ。
先程から風切り音とともに何度も彼女の槍が、スノーの全身のいたるところへぎりぎり避けて空間を穿くか、紙一枚分手前で止められる。
「この槍の祝福は女神アイルリューネ様の槍技を行使可能な槍だ。通常であれば伝え聞いた動きを真似ても、アイルリューネ様の槍さばきの速度に人間が達するなんてことは出来ない。が、これは祝福のおかげで魔力を注ぎ込んだ分だけその速度を得ることができる。
行くぞ! 一歩も動くなよ、スノー!」
それは先程までのあらっぽい彼女の喋りとはまるで違う神に捧ぐ聖歌のように響きがあった。
「風は流れ広がり御身に捧ぐ。アネモストロヴィロス」
その瞬間スノーを取り巻く世界の音が死に、鮮やかな暴風がスノーの視界を埋め尽くしていた。
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