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◇
自由だ。
まだワイバーンが現れる前。
スノーは手綱から手を離して、翼をはためかせて進む天馬の上に座りながらそう思った。
飛空艇にいるプレイヤーたちの視界に入らない位置で穏やかな速度で進む三人の中でスノーが一番はしゃいでいた。
思いっきり急上昇して、急降下したりと。
少し前の街を駆ける感覚は無いが、馬の背に乗って前に進むという行動自体が彼女を楽しませた。優しくその首を撫でる。
「ザンドーラは優しいね」
スノーの自身のただのわがままで気ままにお願いしても、電子データで構成された天馬は嫌とも見せることなく彼女の願いを叶える。
そんな彼女の考えを止めたのがワイバーンの咆哮だった。
◇
大量のワイバーンがさらに地上から出現して空を、飛空艇を目指して上昇してくる。その姿を見てオーサは豪快に笑い、スノーはもう少し気楽に馬に乗っていたいと思っていた。
スノーが空を見上げれば、ホノカは何を思っているかわからないが、穏やかにグリフォンの背に乗って浮かんでいる。
声ではなくPTチャットを使って、ホノカへ言葉をかける。
「大量大量~」
「こんな遠くても迫力すごくてすごい怖いから!」
「オーサさんが乗ってるドラゴンの方が目つきの方が怖いから大丈夫だって」
「スノー大丈夫だった? 私巻き込んじゃわなかった?」
「あはは、馬鹿だなぁ。私はゲーム上手いよ。ホノカのへっぽこ魔法なんて当たらないから」
「うぅぅ、頑張ってるのにひどいよー」
「ホノカが変な心配するからだよー。気にしなくて良いんだよ、なんにも。気にしなくて」
入力中の文字が出ては消えて、止まる。
「オーサさんに怒られたから、ワイバーンに行くね! ホノカもまた魔法よろしく。良かったよ」
「うん」
スノーは手綱を操ってホノカへ向けていたザンドーラの鼻先をホノカから空の下方に展開しているワイバーンに向ける。
優しくザンダーラに触れた。
「さあ、行こう。またよろしくね」
手綱を握って、スノーはゆっくりと息を吸う。擬似的とはいえ、肺に爽やかな空気が取り込まれることが心地いい。
そうして、また一気にスノーは馬を操り空を進む。槍を構え直して、オーサが暴れる方向とは違うワイバーンの群れへ進む。
夜の花火のようにうtくしい赤の軌跡が伸びて鮮やかな半円振るわれるごとに、ワイバーンは
「チャージ」
槍から緑の粒子が溢れて、スノーは少しでも加速させていくためにまっすぐワイバーンが多く貫ける方向を狙う。
どんどんと加速していけば風を切る音が騒がしく彼女の鼓膜を震わせ、風によって全身が振動していた。
溢れ出る粒子が歓喜する彼女の心の大きさのように膨れ上がっていく。
空に翠の彗星が走っていく。
「スラスト!」
オーサとは違い、一撃でワイバーンが大ダメージを受けるということはない。しかし、確実にダメージを与えれば、ワイバーンの群れを突き抜けた彼女にワイバーンの体から砕けたダメージエフェクトが追いすがっていた。
「チャージ。ザンドーラ! 走ろう。もっと速くもっと長く」
無事だったワイバーンが通り過ぎたスノーへ向けて炎のブレスを放つ。背後から来る炎の進む速度よりも速くザンドーラは飛んだ。
彼女の背中に熱を感じる。ぶつかればレベルの低いスノーのHPを大量に削りそうな威力だった。
しかし、その熱は彼女に追いつき触れること無くブレスの発生時間を終えてかき消えた。
青い空に長い長い翠の彗星がカーブを描いていく。加速し続ける翠緑の彗星がワイバーンの群れを捉える。
遠くから見れば緑水の槍と見紛う粒子がワイバーンを貫いて粒子を花火のように咲かせ、体勢崩してまた空に新たな彗星が伸びて生まれる。
そうして、スノーがヘイトを稼いでダメージを与えていたワイバーンたちに上空に広がっていた黒い月が炎と水に色を変えて降り注ぐ。
川の水とその川の上を埋め尽くすように流れるあまたの桜の花びらがスノーごとワイバーンを巻き込んでいく。
飲み込まれていくワイバーンとは違い、スノーはその花筏に逆らうように空へ上がった。
彼女の眼下を炎が炸裂して空を震わせた。
大量のワイバーンがエフェクトとなり砕けて散っていく。
スノーがホノカへ大きく手を振る。
遠くてもホノカがスノーへ手を振っているのが彼女には見えた。
オーサの方も片付いたのか、赤いドラゴンが悠々と飛空艇と並走する高さへ上昇していく。
飛空艇の甲板からドラゴンが見える位置で並走することで、プレイヤー達の騒がしい声が一層高まったことをオーサは満足したようにドラゴンの翼をはためかせ加速していく。
飛空艇をあっさりと置き去りにするドラゴンにプレイヤーが驚いているその横を、スノーとホノカが乗った天馬とグリフォンもドラゴン
そうして、先頭で王都が見えるのを監視していた飛空艇の船員NPCの大きな声が響く。
飛空艇は王都の姿を捉えた。
巨大な城壁が西洋風の街をまるごと囲み、はるかな山々から広がる草原の中に鎮座している。
石で作られた城を中心として、四方へ十字の大きな通りが作られており、石の城壁の中は桜色の花を咲かせた木々が大通りに面した道に植えられて城まで伸びていた。
城壁近くにある風を受けた数機の風車が山から下りて草原を駆けた風にくるくると回っていた。
空から見れば北西地区に巨大な三つの塔からなる神殿が見られ、逆に南東には他の建築と異なる木製で出来た和風の大きな建物を中心に複数存在する地区が存在していることが見てとれた。
スノーを含めたプレイヤーたちの目の前にコンソールが立ち上がり、文字が表示される。
【王都ラーリアフリュー】
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