村長と戦うことに
「冗談だろ?」
「いえいえ、これも神獣様のためですじゃ」
村長はやる気満々のようだ
「手加減はできないかもしれないよ?」
「えぇ、こちらも望むところですのぉ」
俺は、半径20m程のリングを、村の外れに創造した。
「このリングから出るか、負けを認めた方の負けで良いか?」
「わかりましたのぉ。しかし、それでは、こちらに有利かもしれませんぞ?」
「???」
村長はボケてしまってるんじゃないのかな?と内心で俺は思った。
村長と俺が、リング中央で向き合う。戦いの噂を聞きつけたのかマナちゃんや、コズモやシエロといった子供達や、他の村人達まで集まっている。
「お爺ちゃん、これは何?」
マナちゃんが心配そうに問いかける。
「なあに、老いぼれから、旅に出る者にアドバイスと言ったところじゃ。心配はいらんのお」
村長は自信ありげにそう言う。
「大丈夫だよ、マナちゃん!俺も手加減するから」
俺は、マナちゃんを心配させまいと、そう言った。
「その油断、何時までもちますかのお?ホッホッホッ」
村長が不気味に微笑む。
「三数えたらスタートで良いか?」
「ええですのぉ」
「じゃあいくぜ!三、二、一。Go!」
俺は領主戦で使った、炎を呼び起こした。俺の周囲に炎がまとわりつき、次第に矢の形となって、村長を襲う。
「ほっほっほっ…いきなり、それですかのお」
村長は不敵に笑うと、両手を素早く動かし、火の大群を華麗に弾き始めた。
「吹き飛ばし特化の魔法ですじゃ。威力は低いのじゃが、攻撃の無力化には強いのですのぉ」
そのまま、俺に近づき、手を押し当ててくる。
「はっ!相手を飛ばすのにも有効ですのお」
村長の手から魔力の塊が放出される。
「ぐっ!」
俺は勢いよく吹き飛ばされた。危うく場外になりかけるが、なんとか堪えた。
「やるね、村長……正直舐めてたよ。」
「ありがとうございますのぉ。しかし如何なる時も油断大敵ですのぉ」
「これなら、どうだ!」
俺は人型になり、空に手をかざした。雷鳴が轟き、辺りが薄暗くなる。
「これから、領主がやったように、雷を落とす。降参するなら今のうちだよ」
俺は強気に言い放った。
「時間は稼げましたので、一発位なら耐えられますのじゃ。気にせず打ってくだされのお」
村長も強気にそう言う。
俺は放つかどうか一瞬迷ったが、村長の言葉を信じることにした。
一線の閃光が、爆音と共に降り注ぐ。辺りは煙に包まれ、リングの一部が欠けて飛散した。
村長は大丈夫か……?俺は心配そうに煙を見つめる。次第に煙は晴れていき、人影らしき姿を映し出す。
「ほっ、ほっほっ。素晴らしい威力でしたのぉ。しかし魔法を戦闘前や戦闘中に蓄えておくことで、自分の実力以上の能力を発揮できたりしますのじゃ」
なんと村長は無傷であった……。自分でも食らえば、タダではすまないだろうにも関わらずだ。
魔力を蓄えそれを防御に回したのであろう。
いったいどうすれば、この村長を倒せるのだろうか、いや無理かもしれない…そう思いかけた時、村長が口を開く。
「今ので魔力の大半を使い果たしましたのぉ。わしの負けですのお」
村長はあっさり負けを認める。俺は呆気に取られた。
「俺の勝ちでいいのか?」
「えぇ、ですが忘れないで欲しいのでずじゃ。格下相手でも工夫されれば負けもあり得ると言うことをですのぉ。」
「ああ、肝に銘じておくよ。」
吹き飛ばし特化の魔法に、魔力を貯めることもできるのか…。勉強になったなあ。
「すごい戦いだったよ。ワッセちゃんも、お爺ちゃんも凄い凄い!」
マナちゃんが駆け寄ってきた。
「ほっほっほっ…これで安心して旅だてるじゃろ?村のことはわしに任せなさいのお。」
翌日、俺やマナちゃんは、アルムと縛られた領主と共に、神聖ミヤオオ帝国へと向かう事にした。
「シエロ・ネーバ」
アルムがそう唱えると、俺達の体がフワフワと浮かび始める。どんどん上昇し、村が点のように小さく見えた。アルムが腕を突き出すと、俺達は勢いよく前進し、飛行し始める。