マナちゃんの過去
「そっちが、その気ならやってやろうじゃねーか」
俺は、一月程の特訓の成果を、今こそ試すときが来たと思った。何よりもこの領主がうざい。
「だ、駄目だよ!領主様の加護がないと、この村の農作物が育たなくなっちゃうの」
「そ、そうなのか?」
「うん」
マナちゃんは困った表情で言う。
「懸命だぞ、マナとやら。もっとも信仰心に愛され、魔法の勉学に励んできた我を倒すことなど、不可能だと思うがな。」
「私が領主様と話をつけるから、ワッセちゃんは下がってて」
「……分かった。」
俺はそう言いながら後ろに下がる。
「さてマナとやらどうする?悪魔を召喚し、村人達を堕落させた罪を。」
「で、ですからワッセちゃんは悪魔ではなく……」
「ええい、黙れ黙れ!悪魔でないはずかないのだ!我を騙そうとしようとも、そうはいかんぞ!」
「……そうだ、マナとやら。そなたは美しい。我のペットになるのなら、今回の悪事もろとも許して、チャラにしてくれる」
領主が、いやらしい表情を少し浮かべながら、そう言う。
「ふざけるな!マナちゃんは…」
俺が叫ぼうとすると、
「分かりました。私があなたのペットになれば、この村には手を出さないでくださるのですね?」
マナちゃんは、諦めたような表情で言う。
「な!?マナちゃん、そんなこと駄目だ!」
「でも、これしかないよ。この村を守るためにはさ……」
「ほぉ!マナとやらが賢い子で我は助かるぞ。うむ、そうだ首輪を付けて、毎日毎日可愛がってやろう。」
領主のいやらしい顔が、先程よりも増している。
「いくら村のためとは言え、マナちゃんが犠牲になることはない!」
「ううん、この村はね、私のお父さんとお母さんが、命懸けで守ってくれたものなの。だから、今度は私がこの村を守る。」
マナちゃんは、決意を決めたような顔になっていた。
村長が俺の横にやってきて、マナちゃんの過去を語り始めた。
「マナは父と母が大好きな子でしたのお……。小さい頃はそれはそれは甘えっ子でしてのお…」
「冒険者をやって、悪い魔物を懲らしめたり仲間にしたりしている、二人の事を尊敬し、周囲の子に自慢したりしてましたのじゃ」
「マナにとって父と母は最高の存在でしたのじゃ……。あの日までは」
「……あの日?」
俺は不安そう問いかける。
「ある時、この村を強い魔物が襲ったのですじゃ。その強さは測り知れず、村人達も何人かやられておりましてのぉ…。そこでマナの父と母が、この魔物を倒すために向かったのですじゃ」
「結果は相打ちでしてのお……。マナが駆けつけた頃には、父は死に、母は辛うじて息が残っているかどうかと言ったところでしてのお……」
「母は『ママもう駄目だけど、どうかマナ、強く生きてね。』と言ったのを最後に……。マナは激しく泣きじゃくりましたのぉ」
「あの日以来、マナは父や母のような、立派で強い人間になるために、毎日毎日、特訓や勉強をかかさなくなりましたのじゃ」
「マナちゃん……。そんな過去が」
「ですから、あの子は村を守るためならなんだってするのじゃろぉ」
「でも、だからって、あんな奴のペットにマナちゃんがなることは!」
俺はそう怒る。
「しかし、領主様が信魔法を使って下さらねば、この村の天候は安定せず、農作物も育たなくなってしまいますからのぉ……。この雷雲も領主様の信魔法でしょうしのぉ……」
村長は困窮した表情を浮かべる。
「信魔法……!?そうか!それなら」
俺は、手を上にかざした。
すると、雷雲が消え去り、辺り一面が晴れ晴れとし始めたのだ。
「なっ!?馬鹿な!?」
領主が驚愕する。
「お前の天候操作の信魔法を、俺の信魔法で上書きしてやったぜ。人型の時の俺は、信魔法マスターだからな」
俺は得意げに言い放った。
「馬鹿な!?ええいこれも幻よ!」
領主は、混乱している様子である。
「なら、これはどうだ?」
俺はそう言うと、猫の姿に戻った。そして農作物を次々と創造してみせた。
「これならお前が居ても居なくても平気だよなあ?」
俺はドヤ顔で断言してやった。
「馬鹿な!こんなことが!いや、これも幻……現実であるはすが…」
領主は相変わらず、狼狽えているようだ。
「ワッセちゃん!あなた!凄い」
マナちゃんが駆け寄って抱きついてきてくれた。いつもの甘い香り、柔らかい胸の感触、暖かさ。それらが俺をホッとさせてくれる。
「さあ?どうする領主ゴスペル?」
俺は領主に突きつけるように、言い切った。
「おのれ、悪魔め!ならば実力排除あるのみ!領主ゴスペルの我が力を、思い知るが良い!」