失恋のショックで……。
俺の名前は、早稲我 将也。21歳の大学生で、自称イケメン寄りのフツメンである。
最近は平凡な毎日であったが、今日事件は起きた。
俺の好きだった子が、男に告白したのを目撃してしまったのだ。
俺はあまりのショックに、何が起きているのか分からなくなった……
講義はまだ少し残っていたが、家に帰ることにした。
家に帰るとすぐに布団に駆け込んだ。……そして泣いた。
「ちくしょお!なんでサヤちゃんが!」
いつか俺に告白してくるんじゃないか?そんな期待を胸にしまって、学生生活を送っていたのだ……
「くっそぉ!今頃、あのクソ男とあんなことや、こんなことをしてるのか!うわあああん」
考えるだけで辛くなる……。
「俺も可愛い女の子に抱かれたり、イチャイチャしたりしたいよ!ちくしょぉお!」
少し大声で叫んだ。周りには誰も居ないので無反応であったが……。
しかし、布団とは良いものだな。どんなに泣き喚いても、どんなに叫んでも、俺のことをしっかり包んでいてくれる。とても暖かい。まるで女の子のように……。
「はぁ、布団が可愛い女の子だったら良いのになぁ。そしたら好きなだけ甘えて、好きなだけ抱きしめて貰えるのに……」
そう言って布団をギュッと握り締めた。その時だ。俺の体は突然熱くなり、光に包まれた。
「なんだ、これ?」
グルグルと目が回る。体があちこちから引っ張られる。全身がとろけそうになる。
風邪の時の悪寒を、何倍にも何倍にもしたような感覚だった。今までにない体感に次々と襲われ驚愕する。
そんな感覚に数分間だろうか、もしかしたら数時間かもしれない……。
長かったのか短かったのか、はっきりとはしないが、やっといつも通りに戻った。そう思っていたが……。
しかし、よく見ると、周りの風景が違うのだ。そして、柔らかい何かが頭を包み、暖かい何かに背中を抱かれている。果物のような甘い香りが鼻をつつく。
ここは、どこだ?
「お、召喚できたようじゃな、マナ」
「うん、そうみたい」
おかしいぞ、周りには誰も居なかったはずなのに声がする。
「幻聴か?」
俺はそう呟き振り向く。俺はピンク髪の女の子に抱かれていて、後ろには人だかりができているのだった。
どうやら、頭の柔らかい感触は、その女の子の胸だったらしい。
「しゃ、喋った?生まれたてで!まさか神獣様か!マナようやった」
「う、嘘信じられない……。わ、私が神獣様を?」
先程の話をしていたであろう二人が、また喋っている。その内の一人の女の子は、マナと言うらしい。とても俺好みの可愛い女の子である。
マナちゃんとやらは、とても喜んでいる様子だ。
「あんな可愛い猫のような子が、神獣様とは信じられませんな」
「いやでも、生後間もなく人の言葉を喋れる獣なんて、神獣くらいだって…」
「遂にこの村から神獣様が出るのか」
他の人々の声も、次々と聞こえてきた。
「猫?獣?神獣?可愛い?なにそれ、俺のこと?」
俺は、そこに居る人達に問いかけてみた。
「やっぱり喋ってるよね、うんあなたのことだよ。」
マナちゃんが言う。
「え、俺が猫?そんなバカな」
でも視線はいつもより低く感じるし、人々が大きく感じる。まさか……。
「鏡でも欲しいな。」
そう言うと大きい鏡が目の前に現れた。
鏡に映るのは可愛らしい黒猫であった。
「うわ、なにこれ!俺?すっげー可愛いじゃん」
俺は自分の可愛さに見とれてしまった。
「おお、すごい。高級品の鏡を、創造なされたぞ!これが神獣様のスキルか?」
「流石、神獣様ね」
人々が、また盛り上がっている。どうやら鏡が出てきたのは、俺の能力であるらしい。流石に鏡が自然と出てくる訳ではないのだろう。
「私マナ、あなたは?」
マナちゃんが撫でながら俺の名前を尋ねてきた。
「俺は、早稲我将也。皆からはワッセと呼ばれていたよ」
「じゃあワッセちゃんだね。よろしく」
「よろしくマナちゃん」
こんなに可愛い子に抱かれて、撫でられるなんて幸せだ。このまま時が止まってしまえば良いのに。
「私はこの村で村長をしております、ビブロスと申します。マナの祖父になりますのお。」
「ビブロスさんもよろしく」
「早速だけど、ワッセちゃんのスキル見せて貰っても良い?私スキル見られるから」
マナちゃんは期待を目に宿してそう言う。
「良いよ。お願いするね」
スキルやら鏡やらがでてきたりと、どうもこの世界は異世界らしいなあ。
転移なのか召喚なのかよく分からないけれど、失恋やら就職やある現世よりはよっぽど良いのかな?
俺はそう思い、自分のスキルと新しい世界に、期待を胸をいっぱいにするのだった。