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第六話


 10年がたちました。


 ゆきちゃんは町の小さな花屋さんでお仕事をしていました。


「ゆきちゃん、はよぅ結婚せんとねー」

「この前、紹介した子はどうね? ゆきちゃんにピッタリのええ子じゃったろ?」


 お店の前で、ゆきちゃんは近所のおばさんたちに話しかけられていました。

 ゆきちゃんはぎこちない笑顔で返します。


「おばちゃんら! ユッキが困っているやないの! あんましつこいと流行(はやり)のハラスメントになんじゃねぇの!?」

 腕まくりをした、威勢のいい女の人がやってきました。

 隣には赤ちゃんをだっこした女の人もいます。

 ゆきちゃんの元同級生たちでした。


「おお、みどりちゃんはこわいねえ。ゆきちゃんを見習ぉて、も少し穏やかぁにならんと」

「余計なお世話! ユッキもこんなハラスメントおばちゃんにかまわんでええからね!」

「みどりちゃんも素直じゃないねえ。ゆきちゃんが言うとるように、口は悪いが優しいんじゃからねぇ」

「は? なに言ってんのさ!!」

「逆にゆきちゃんはおとなしすぎるから心配だよ」

「あーもー! おばちゃんら、店のじゃま! 店長に見つかったらユッキが怒られるんだから! どいたどいた!」



 にぎやかなおばさんたちを追い出したみどりちゃんは、ゆきちゃんに話しかけました。

「そういや、ユッキ。先輩とは連絡がとれたん?」

 お店に遊びに来た二人の元同級生の質問に、ゆきちゃんは困ったような顔で首をふりました。


 赤ちゃんを抱いた女性が続けました。

「アメリカに行くってまでは、ケータイメールがあったんでしょ?」

 ゆきちゃんはうなずきました。



 先輩は美術大学を出た後、アメリカに行ってしまったのです。

 数年前、ネットに公開された先輩の作品を気に入ったというセレブが、自宅のデザインを依頼したのがきっかけでした。

 あっという間に人気が出て、ロサンゼルスに呼ばれたのでした。


 それ以来、ゆきちゃんが送るメールが届かなくなりました。

 そして、そんな先輩を心配しつつも忙しいのだろうと遠慮したゆきちゃんは、メールを送らないようにしていたのです。



「先輩って大人気になっちゃったから、今頃美人のセレブに囲まれて……」

「こら!」

 みどりがゲンコツを落とすフリをします。


「ユッキに謝れ! 先輩にも謝れ!」

「ああ! ゆきちゃん、ごめんなさい! 先輩もゴメンナサイ……」

 赤ちゃんをだっこした女の人は遠い空に向かって頭を下げています。


「先輩はまだ忙しいんだよ。でもきっとユッキのことは忘れていないからさ」

 ゆきちゃんは少しだけ寂しそうな顔をしました。





 ある日、みどりちゃんたち二人が花屋さんにやってきました。


「今度、同窓会しようって海野が言い出してね。ユッキを誘いにきたのだよ」

 ゆきちゃんは困ったような顔をしました。

「大丈夫! アタシらだけだから!」

 ゆきちゃんは少しホッとした表情をしました。


「みんなユッキに会いたいってよ。人気者め」

 ゆきちゃんは恥ずかしそうな顔をします。


「海野は開発したスポーツシューズがオリンピックに採用されたらしくってさ。海外飛び回って忙しいらしいけど、主催するぞってはりきっているよ」

「赤城くんは、なんとかってプロ野球チームの走塁コーチになったけどオフだから大丈夫だって」

「うんうん。みかんは原宿のお店を臨時休業してでも参加するって言ってるし、他のヤツらも集まるってなってるからさ! 来なよ。っつうか、来い!」


「みどりちゃんはいつも強引よね……」

 ゆきちゃんは困ったようなうれしそうな顔をしました。

 

「ゆきちゃんのビックリする姿が見たいからね」

 赤ちゃんをあやす女の人がそう言うと、

「こら! ブッキ!」

と、みどりがゲンコツを落とすフリをしました。

 ゆきちゃんはきょとんとします。

「いいからいいから。予定空けておきな!」



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― 新着の感想 ―
[一言] 大人になったゆきちゃんは相変わらず優しくて人気者なんですね。 大人になるとまたいろんなものが見えてくるから、きっとその都度自分らしく一つ一つ歩いてきたんだろうなと思ったり…… ここまで彼女が…
[良い点] 10年がたつと、ゆきちゃんは 町の小さな花屋さんになったんですね! 素敵なお仕事ですね。 近所のおばさんたちは、 ゆきちゃんがまだ結婚しない事を 心配してくれています。 ・赤ちゃんを…
[一言] クラスの皆んなと色鉛筆さん達がダブって見えますね。
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