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第五話


 その日、ゆきちゃんのクラスは、学園祭の劇についての話し合いで大さわぎになっていました。

 役割分担をクラスみんなで決めたはずでしたが――

 

「私ばっかりセリフが多すぎじゃない? 覚えられないんだけど!」

「ヒロインだから仕方ないじゃない。やりたいって言ったんだからちゃんとやりなよ!」

「えーと。衣装作りのお金が足らないんですが……」


 ある人は、やりたい! と手を上げた役に不満を言い出しました。

 ある人は、やりたかったことじゃないからとダラケていました。

 またある人は、上手くできないからとやる気をなくしていました。


 クラスの中がバラバラになっていました。このままでは学園祭に間に合いそうにありません。


「ごめんなさい……私、中途半端で……みんなの意見をまとめられなくて……」

 クラス委員長が小さく呟きました。


 みんながてんでに自分の言いたいことを言ったままクラス会は終わりました。

 放課後、まとめ役の委員長が泣きながら教室を出て行く姿を見て、ゆきちゃんも悲しくなりました。





 その日もゆきちゃんは先輩と一緒に屋上で絵を描いていました。


 いつもは先輩の方から話しかけるのですが、その日は勇気を出してゆきちゃんが話しかけました。


「先輩は……えーと……すごい人なので……よかったら、教えて欲しいんですけど……」


 ゆきちゃんはポツポツとクラスの劇の事を先輩にお話しました。

 お話しながら、ゆきちゃんはすっかりうつむいてしまいました。

 いつもは楽しそうなみんながイライラしている姿や、泣きながら出て行ったクラス委員長の背中が目に浮かんできたからです。



「ふむ……ではゆきちゃんは、脚本を書くのって誰なら得意そうだと思うの?」

 ゆきちゃんは首をかしげて悩んでいます。


「それじゃ、映画が好きそうな人は?」

 すこしして、ぽつりと一人のクラスメートの事を話しました。

「じゃあ、本が好きそうな人は?」

 今度は三人のクラスメートの事を話しました。

 

「それはどうしてそう思ったの?」

 先輩がひとつひとつ根気良く尋ねていきます。

「あの……机に置いてあった本が……」

 ゆきちゃんもひとつひとつ答えていきます。


 あの子は目立たないけど――

 あの子は運動部なんだけど――

 あの子は――


 やがて、先輩は予備校に向かうために立ち上がると言いました。

「今の話をみんなに伝えてあげるといいよ」


 そしてズボンについた砂をはらいました。

「大丈夫。うまくいくから」





 次の日のクラス会のことです。

 ゆきちゃんは緊張していました。

 でも先輩が「大丈夫」と言うのです。きっと大丈夫です。

 ゆきちゃんは勇気を出して手をあげました。



 ゆきちゃんは緊張してうまくお話ができませんでしたが、頑張りました。


 ――くんは、手先が器用ですごいんです……。

 ――さんは、声がきれいですごいんです……。

 ――くんは、いろんな本を読んでいてすごいんです――


 だから衣装を作ってみたらいいと思います。

 だからお姫さま姿も素敵だと思います。

 だから――


 先輩の受け売りでしたが、一生懸命伝えました。


 クラスのみんなはびっくりしました。

 普段は目立たない子が急に言い出したのです。みんなザワザワし始めました。


 恥ずかしくなったゆきちゃんは顔が真っ赤になりました。

 すぐに席に座ると、ジッとうつむいてしまいました。




 その時――


「あのさ。ゆきの案、試してみない?」


 ヒロイン役の女子が立ち上がって言いました。


「あんた、絶対ヒロインやるって言ってたじゃない」

 女子の一人が言いました。

「うーん……実は……衣装作るのにちょっと興味あってさ。ガラでもないから言えなかったんだけど」


 別の一人がおずおずと言いました。

「実は俺も――」


 別の一人も照れくさそうに口を開きました。

「私もやったことないけど、なんとなく面白いかもって思いはじめてきた――」


「ひょっとしたら私でもできるかも」

「俺もちょっと試してみたくなってきた」


 一人の声がきっかけでした。

 気にはなっていたけど自分から言い出せなかったこと。

 しりごみして手を上げられなかったこと。

 言われてみればできそうなこと――

 

 ゆきちゃんが見てきたみんなの『すごいこと』がまじりあって、ひとつになりはじめました。

 楽しそうな声が、すこしずつクラスに広がっていきます。



 次の日、ゆきちゃんは夢中になって先輩へその事をお話しました。

 先輩は生真面目な表情で聞いていました。


 聞き終わると……


「ゆきちゃんはやっぱりすごいな」


 そう言って優しい目をしました。



※※


 その後、二人のスケッチブックにはたくさんの風景が描かれていきました。


 紅く染まる山々

 冬枯れの山すそ


 新雪の田んぼ

 足跡をつけようと駆け回る子どもたち


 雪が舞う駅ホーム

 特急電車に乗り込むコート姿




 日々は過ぎ、その雪が解け始めた頃、ゆきちゃんと先輩は二つの約束をしました。


 ゆきちゃんはお気に入りの16本の色鉛筆を、先輩に手渡しました。


 そして、先輩は東京に出ていきました。






全八話のうち本日はここまで公開します。

明日、最終話投稿予定です。


よろしければ読みに来てやってください!

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― 新着の感想 ―
[一言] 他の人とあまり話ができなかったゆきちゃんが、先輩にはちゃんと話せるようになったんだと思うと、ちょっと気持ちが暖かくなりますね。 ゆるゆるとした二人の進み具合が心地よく感じます。 先輩の大学受…
[良い点] 学園祭の劇についての話し合いがまとまらず、 泣きながら教室を出ていく委員長の姿を見て、 ゆきちゃんは悲しくなります。 自分ではなく、 誰かのためになら、ゆきちゃんは ありったけの勇気を出…
[一言] クラスの皆んなの良い所、得意な所、ゆきちゃんは皆んな知っていたのですね。ゆきちゃんは、白い色の色鉛筆の様に皆んなの良いところを繋げる力を持っていたのですね。 さあ、最後が楽しみ〜
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