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第一話

 ゆきちゃんは、ようちえんでおえかきをはじめました。

 ぷれぜんとでもらった、いろえんぴつがおきにいり。

 しろいがようしにめいっぱい


 あおいそら

 みどりのくさ

 あかいおひさま

 きいろのらいおん


 らいおんのたてがみが、はみだしています。



 ゆきちゃんは、小学生になりました。

 白い画用紙にていねいに


 青い空

 こん色の海

 みどりの丘

 ベージュのおかあさん

 赤いおかあさんのドレス

 グレーのネックレス


 16色の色えんぴつは今もお気にいりです。

 ゆきちゃんは絵をかくことが大好きな女の子でした。



 ある日の夜、ゆきちゃんの色鉛筆たちが、むくりと起き上がりました。


 緑が言いました。

「青はすげぇな。いつも大活躍じゃねえか」


 実は、ゆきちゃんがぐっすり眠った真夜中、色鉛筆たちは動き出すのです。


 青が言いました。

「緑もなかなかだぞ。山に行った時なんて、俺よりたくさん使ってもらっていたじゃないか」


 橙が言いました。

「そうね。二人ともたくさん使ってもらって、いいよね」


 緑が言いました。

「橙は最近、太陽を描く時に使ってもらっているじゃねぇかよ」


「そうなの。黄と赤だけじゃなくって、わたしも出番が増えたのよ!」

 嬉しそうな顔で橙が言いました。

「最近は黄よりも役に立ってるかもしれないよ!」


 そして、みんなで背比べを始めるのです。

 色鉛筆の世界では、背が低い方が偉いのです。それだけ活躍できている証拠なのです。


 背の高い黒が悲しそうな声で言いました。

「私はなかなか使ってもらえない」


 橙が言いました。

「そうね! でも、最近はココって所で使ってもらえるじゃない! 目の色なんて、他の色で代わりは利かないし!!」


「ゆきちゃんも、ゆきちゃんの家族も目が黒いからね。そういえばそうだ」

 黒がポツリと言いました。


 青がクールに言いました。

「黒しか出番がないところがあるからな。だけど、道路を塗る時に黒が出てきたのは驚いたぞ」


 橙が付け足しました。

「でも、グッとカッコいい道路だったよ!」


 黒が照れて言いました。

「そうか、結構役に立ってるんだな、私は」


「それにしても」

 青が一番端を見ながら言いました。

「白って、使ってもらったことがあるのか?」


 緑が言いました。

「一番背が高いしな。それだけ役に立ってねぇってことだな」


 一番端っこで白は黙って静かにしていました。楽しそうなみんなと話が合わないからです。

 目立たないようにしていましたが、背が高い彼女はどうしても目を引いてしまいます。

 何か返事をしないと……と口を開こうとしましたが、遮るように緑が構わず続けました。

「紺とか、濃緑、山吹。お前らも使ってもらえねぇよな」


 橙が明るく言いました。

「山吹は中途半端よね。赤と黄と私でなんとかなるもの。他の色もそうよね。紺も濃緑も中途半端!」


 山吹が泣き出しました。

「私……半端な色なんだ……」


 紺も沈んだ声で言いました。

「こんな暗い色、使ってもらえないのも仕方ないんだろうな」


 赤がハキハキと言いました。

「橙、やめろ。山吹は俺の仲間だ。お前も黄とは仲がいいんだろう?」


「あ! そうね、黄は友達だよ! ということは、山吹も仲間ね! ごめんね、山吹!」


「紺も濃緑も、青や緑の仲間だろうが」

 赤が、青と緑の方に向かって言いました。

「そうだな」

「わりぃな、濃緑! いつか使ってもらえる時がくるって!!」



「そういや、白って誰かの仲間か?」

 誰かが言いました。


「知らんな」

「わたしの仲間じゃないわね」

「黄の仲間か?」

「失礼ね。白いレモンや、太陽があるわけないじゃない」

「あいつ、まだ使ってもらったことがないらしいぜ」

 色鉛筆たちは大笑いしました。


 白は一番端っこで黙っていました。





 ゆきちゃんは、中学生になりました。

 スケッチブックに鮮やかに


 赤と茜の夕暮れ

 黄と橙の峰の稜線(りょうせん)

 青と紺青の山の()

 暮れなずむ緑と濃緑の畑

 山吹と金色(こんじき)に波打つ稲穂


 こげ茶のわんこ

 黒いこねこ

 荷おろすグレーの人影


 みんなが活躍しています。

 それぞれの出番があります。色鉛筆として立派に役に立っていました。



 真夜中、色鉛筆たちが起き上がりました。


「相変わらず大活躍じゃねぇか、青!」

 緑がニヤリとして言いました。

 青がクールに応えます。

「最近、お前も活躍しているじゃないか。濃緑との樹の葉は、奥と手前の奥行き感が素晴らしかったぞ」


 橙が楽しそうに言いました。

「青も群青と一緒のときは凄かったよ! あの空と海のグラデーション! 青緑も最近出番が増えたって嬉しそうよね!」

 緑がニヤリとしました。

「おうよ! 青緑はいいぜ! さすがは俺と青の友達ってとこだな!」



「それにしても」

 一番端っこで静かに黙っている白に向かって誰かが言いました。

「お前は相変わらず、背が高いな」

「そりゃ、白なんてあっても無くてもいいからな。使ってもらう場所なんてないだろ」

「それじゃ色鉛筆の意味がないじゃない!」


 白は一番端っこで黙っていました。





 ゆきちゃんは高校生になりました。


 人とお話をすることに緊張してしまうゆきちゃんは、授業が終わるとすぐに家に帰ります。

 一緒に帰る友達はいません。

 他の子は違います。

 水泳が得意な子は水泳部に、バスケが巧い子はバスケ部に。オシャレが好きな子は友達とショッピングです。


 ゆきちゃんは美術部に入っています。

 でも、部室には行きません。

 みんな、ゆきちゃんの絵を見て笑うからです。

 美術部の子たちは展覧会に出す作品のため、美術大学に行くために一生懸命でした。

 画板には油絵。必死にデッサンを繰り返します。


 ゆきちゃんはクラスでも部室でも、いつも独りでした。




 ゆきちゃんは今日も独り。非常階段の隅っこ。賑やかな校庭を眺めながら、大好きな絵をお気に入りの色鉛筆で描いていきます。


(あの子、凄いなあ。球拾いだけどいつもボールが飛んでくるところに立ってるんよね)

(あの子、凄いなあ。ハードル、綺麗に揃えて片付けてる)

(あの子、凄いなあ。靴下とカバンの小さなアクセ、毎日、合わせで変えてるよ)

(あの子、凄いなあ。しゃべり方はキツいけど、絶対に悪口は言わないんだ)


(みんな、凄い。みんなちゃんと得意な事があるし、上手だし)


 色鉛筆を持った白くて細い指の動きが止まりました。


(私は)


(勉強できんし、運動もできんし。チビだし、美人でもないし、おもしろいこと言えんし、そもそもおしゃべりするんも苦手だし……)


(得意なものなんてないし、絵も好きなだけだし、みんなみたいに上手くないし……)





 ある日、白はゆきちゃんの机の下に転げ落ちました。

 頭から落ちた白は、長くて重いせいもあって芯が折れました。

 芯の折れた白は机の隅に転がっていきました。

 ゆきちゃんはうつむいて、スケッチブックを悲しそうに見つめたままで気がつきません。



 その夜。

 机の上の色たちが見下ろしながら笑いました。


「おーい、白! やっと芯が無くなったなあ!」

「クスクス! 初めて削ってもらえるんじゃない?」

「ダメだよ、そんな言い方したら。削ってもらえなかったらどうするのよ」



 そうだよね。

 今まで使ってもらえなかったんだもんね。

 一度くらい削ってもらいたかったな……。



「そういやお前、なんでここに居るんだ?」

「16色分しか席がないんだから、他の色を入れたほうがいいんじゃない?」


 15本の色鉛筆たちの声を聞きながら、白は思いました。


 そうだよね。

 わたし、色鉛筆の意味がないもんね。

 なんで、ここに居るんだろう。

 意味わかんないよね。


 なんで、ここに居るんだろう。

 なんで、ここに居るのかな。


 恥ずかしい。

 哀しい。


 そして、思いました。


 どうしてなんだろう……必要があるから居るのかな。

 そうだといいな。

 16しかない席に、わたしが居る理由。




 違う。


 考えるんだ、自分が居る理由。


 自分ができること。自分もできること。自分ならできること。


 きっと、あるはず――





(あれ? 端っこの一本がないや。何色だったっけ……)

 その日、机に向かったゆきちゃんは色鉛筆が一本足りないことに気がつきました。

 キョロキョロと部屋を見渡します。


 その時、足に何かがぶつかってきたような気がしました。

 机の下を覗きこんだゆきちゃんの足元には一本の色鉛筆が転がっていました。


(あれ? さっき座るときにはなかったのに)

 暗い机の下で、ひときわ目立つ一本の色鉛筆。


(ああ、白かあ)


 そしてゆきちゃんは、ふと思いました。

(なんで白の色鉛筆ってあるんだろう)


 ――そう。どうしてわたしが居るのか。


(白って使うことあるんかな)


 ――白のわたしができること。わたしもできること。わたしだからできること。


(ちょっと使ってみようかな)


 ――使ってみて。きっと上手くいく。ゆきちゃんならきっと気がついてくれる。


(あの川面が輝いた瞬間)

(あの月が昇る瞬間)

(あのこいぬが飛びついてくる瞬間)

(あの人が見せる笑顔の瞬間)


 ――ゆきちゃんの感じている世界を。

 ――ゆきちゃんが伝えたい気持ちを。


 ――ゆきちゃんの持つ魅力を。


 ――あなたはわたし。

 ――わたしは気が付いたよ。



 ゆきちゃんは、折れていた白の芯を削り始めました。


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― 新着の感想 ―
[一言] 二度目のゆきちゃんへの感想です。 ふでやさんの書く話はとても優しくて、やっぱり心に響きますね。 二度目に読むとまた違うものが見えてくるように思います。 ゆきちゃんと白の色鉛筆。 お互いに…
[一言] ゆきちゃんの視線は、誰も気が付かない部分をちゃんと見ているじゃあありませんか。目立つ(活躍する)子供達とは別の視点で見る事が出来る、素晴らしい観察感は、でも、自分では気が付かないんですかね。…
[良い点] ゆきちゃんと『白』。それぞれの世界が交錯するような後半部分がとても好きです。
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