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夢見るアイツと踊るオレ  作者: 小塚彩霧
夢見るアイツ
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第3話 疑惑(後編)

 テストの日は席が出席番号順。サヤは前の方で、俺は後ろの方だ。期末テストだというのに、サヤは教室に来なかった。もしかしたら保健室の方にいたのかもと思い、覗いてみたけど来ていなさそうだった。

 結局、三日とも欠席し、テスト明けもまだ学校を休んでいる。先生に聞いてみると、どうやら入院しているとのことなので、お見舞いに行くことにした。

 サヤの家も入院先も知らないが、この辺りで入院できる病院といえば、山手病院くらいしかない。

 小っ恥ずかしいが手ぶらで行くのもおかしいので、小さなブーケを買っていく。どの病棟にいるのか知らないけど、多分、小児科じゃないかとアタリをつけて片っ端から病室のネームプレートをチェックする。すると、一番奥の個室らしき病室にサヤの名前があった。

 コンコンとドアをノックしたが返事がない。そっとドアを開けて中を覗く。昼間だというのに電気が点いていない部屋は薄暗い。ベッドの手前に衝立があってサヤの姿は見えない。


「こんにちは。」


 声をかけたが反応はない。ちょっといけないことをしている気分だが、そのまま部屋の中に入り、ベッドに近寄る。


「サヤ。」


 もう一度声をかけた。サヤはベッドの上でピクリともせず、ぐっすり眠っているようだ。

 ベッドサイドの机に持ってきたブーケを置き、傍にあった椅子に腰掛けた。眠った顔は血の気がなく、寝息の音もほとんど聞こえない。頭やら体やら手やらに何かの機械のコードが付けられていて、数字や波形が画面に写し出されている。個室の病室は只事ではない雰囲気を漂わせていた。

 もしかして、重病なのか?命に関わる病気だったのか?学校にいるときはそんなこと、一言も言わなかったくせに!

 不意に涙が溢れた。零れた涙がサヤの手の甲に落ちた。


(しまった。)


 急いで自分の目を拭い、サヤの手の甲の涙も拭おうとした。パチッと小さな音を立て、自分の指先に電撃が走る。


(え?)


 薄暗かったはずの部屋で、目の前が急に明るくなって真っ白になった。

 だんだん目が馴れてくる。病室ではないどこかにいる。


「あれ?コウじゃない?こっちに来ちゃったの?」

「サヤ?」


 いつもと同じ制服姿のサヤが俺の前に立っていて、いつもと同じ涼しい顔で俺に声を掛けてきた。


「え?なんで?病院で寝てたんじゃ?」


 サヤは無言で唇の前に人差し指を立て、俺が喋るのを制止した。


「私、あの人を助けたいの。でも、助けられない。何度やっても失敗してしまう。」


 サヤが俺に背を向けて、送った目線の先には若い女の人と浴衣を着た小さな女の子が歩いていた。さっきまで明るいと思っていた周囲には、夜の帳が下りてきていて、遠くの方でお祭りなのか何かの喧騒が聞こえる。

 なんだか懐かしいな。俺も小さい頃は母さんに連れられて夏祭りに出掛けたな。

 あれ?母さん?(いもうと)は?父さんと行ったんだったっけ?小さい頃、夏祭りに出掛けた?うちの近くでは夏祭りは小学二年生くらいまでなかった。いつ、どこの夏祭りに行ったんだろう?

 記憶が混乱したところで、サヤが俺の身体をトンと押した。


「まだこっちに来るのは早かったみたい。帰った方がいいわ。」


 訳がわからないまま、また真っ白な空間に放り出された。


◆◇◆


 トントンと誰かが俺の肩を叩く。


「う、うん…?」

「おい、お前誰だ?ここで何してる?」


 はっ!と気が付いて飛び起きる。え?何?俺何してた?アワアワと軽いパニックになる。


「サヤと夏祭りに行ってて、親子連れを助けるんだって…」


 夢か現か、さっきまで見ていた光景を口にしながら、声の方向を向くと、さほど自分と歳の変わらない男子が立っていた。

 俺はサヤのベッドの横にある椅子に腰掛けたまま、サヤの手の上に突っ伏して眠っていたようだ。

 困惑する俺の顔を見て、男子があっと目を見開いて言う。


「お前、八千代コウか?沙夜と同じクラスの?」

「え、あ、はい。正しくは(ひかる)ですけど。もしかして、お兄さん?」

登也(とうや)だ。ったく、勝手に病室に入ってくんなよ。」

「すみません。期末テストからずっと学校に来てないからお見舞いに来ただけなんですが。」

「何もしてねぇだろうな?」

「なななななにも!」

「沙夜は眠り姫なんだよ。時々こうやって昏睡しちまう。今回のはちょっと長引いてるんで入院させたんだ。そのうち起きると思うから、また学校に行ったら仲良くしてやってくれよな。家でお前のこと、楽しそうに喋ってたからさ。」

「あ、はい。」


 じゃあ、と立ち上がったところで、サヤの兄貴がボソッと訊ねる。


「八千代、お前、ドリーマーか?」

「は?」

「さっき、夏祭りがどうとかって言ってただろ?」

「なんか変にリアルな夢だと思ったけど、まさか!」

「そうだよな、悪りぃ。忘れてくれ。」

「もしかして、サヤは…。」

「いや、何でもないんだ。また学校でな!」


 そのままサヤの兄貴に背中を押され、病室の外まで送り出された。

 病院を出て、夕暮れ時の川縁を歩く。うちの家からはちょっと遠いので滅多に歩かない道だ。

 やっぱり、サヤはドリーマーなんだろうか。

 もしかしたら、俺もドリーマーなんだろうか。

 でも、今まで予知夢なんか見たこともない。

 ドリーマーかどうか、他人に知られず調べる方法はないものか。


他人の夢に呼ばれる光。

呼ぶ方も呼ぶ方だが、呼ばれてホイホイついていく方も大概だと思います。

同じ夢の中に入れるというのがどういう原理なのか、今のところ不明。

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