閑話その2 一方その頃~寺島さん
光がDANCEへ戻り、あれこれと大変な目に遭っているその頃。
◆◇◆
「はー、やれやれ。やっと東京に戻れる。」
車を運転して、中央道で東京に戻る。
今日は朝から八千代を乗せて東京から山梨まで。朝イチの講義に間に合うように送り届けるため、今日は朝五時出勤だった。東京に着く頃には午後になっている。
「このまま、車だけ置いたら退庁しようかな。安田さん、昼飯、一緒にどうですか?」
「そうですね。俺も今日はこの後、非番ですから。」
助手席に乗る公安の安田さんも朝から付き合わされて可哀想に。八千代がしばらくDANCEにいるので、その間は護衛をしなくて良い。
「そういや、昨日のデート、かわいかったですよ。コウ君とサヤちゃん。」
「そうか、そりゃ良かった。まだ中学生ですもんね。」
「ずっと二人で手を繋いでて、かき氷とか食べて、河川敷で二人くっついて座って花火見て。」
「へぇ。初々しいねぇ。」
「それに引き換え俺は。一人で花火……。『リア充爆発しろ』と思いました。」
「ははは……。安田さんの仕事だとなかなかプライベートも制約がありそうですしね。」
「そうなんですよね。憧れて入った職業とはいえ、秘密が多すぎて。」
◆◇◆
安田さんと虎ノ門駅近くの洋食屋に入った。時折、吉田部長や尾崎と食べに来るが、安田さんは初めてだと思う。
「いただきまーす!」
俺は煮込みハンバーグ、安田さんはサービスランチとナポリタンを頼んだ。安田さんの物凄い食べっぷりに驚いた。かつては自分も水泳部だったし、毎日信じられない量を掃除機のように平らげていたけれども。
「良い食べっぷりですね。」
「ふぉーでふか?」
安田さんは口の中いっぱいに頬張ったまま返事をした。
「いいですよ、口の中に入ってるときに返事しなくても。ゆっくり食べて。」
いい歳の大人に失礼だが、少年のようで可愛らしく、思わず笑ってしまった。安田さんはそれに気付かず食べ続けている。八千代も今、DANCEでトレーニングをしているから、そのうちこれくらい食べるようになるかもしれない。自分の息子もまだ二歳だが、十数年経ってティーンエイジャーになったら、これくらい食べるようになるかもしれない。娘は四歳だか、大きくなってもここまでは食べてほしくはないなぁ……。
「ごちそうさまでした!」
「早っ!?安田さん、二人分、もう平らげちゃったの?」
「いやー、ここのメシ、うまいですね。ナポリタンもケチャップが甘めで美味しいし、エビフライとクリームコロッケと唐揚げっていう欲張りメニュー!最高でした!」
「急いで食べるからちょっと待って。」
「いいですよ。自分のペースで食べてください。待ってる間に上へメールで報告入れるんで。」
◆◇◆
ランチの後、店の前で安田さんと別れた。
妻にカエルのスタンプのメッセージをする。
家に着く頃には娘も幼稚園から帰ってきているかな?何か新しい絵本でもお土産にしようか?
最寄り駅の駅前にある本屋に立ち寄り、絵本を二冊買った。
「ただいまー。」
「おかえりー。」
玄関ドアを開けて家に入ると、リビングから妻の那奈が出てきた。それに続いて子供達も俺に向かって駆けてくる。
「パパ、おかえりー!」
「ぱぱ!」
「ただいま、陽奈、成!」
だっこだっこと足元にまとわりつく子供達を那奈が引き剥がす。
「パパは今、外から帰ってきてバイ菌だらけでーす!キレイキレイしてから遊ぼうね!」
「良い子だなー。すぐキレイキレイするからリビングで待っててね。」
鞄を置き、背広を玄関のハンガーに掛けると洗面所でうがい手洗いをする。鞄を書斎に、背広は寝室のハンガーに掛け直し、部屋着のTシャツとチノパンに着替えた。
「おまたせー。ほら、お土産だよ。」
「わーい!あ、お姫様だ!読んで!!」
「これ、ぶっぶー。」
「じゃあ、順番。どっちからにしようかなー?」
子供達は我先にと俺の胡座の膝の上に座ろうとする。
「ひなが先!」
「なるもー!」
「あれ?どっちがおりこうさんかな??」
陽奈が先に膝から降りて、ちょんと正座した。続いて成も陽奈の真似をしてちょんと正座する。
「うわぁ、今日はどっちもおりこうさんだな!この前は成からだったから、今日は陽奈からにしようかな?いつもお姉ちゃんを頑張ってるもんね。」
「うん!」
「なるもー!!」
「うーん、いっぺんにできないから、じゅんばんこね。成のは後で、二回読んであげるから。お返事は?」
「はーい!」
「陽奈も成もかわいいなー。ほら、最初は陽奈だよ。」
「うん!」
陽奈が膝の上に乗ると、絵本を開く。『親指姫』だ。
「むかーしむかし、あるところに……」
前半は健啖家安田さん(公彦君)、後半は子煩悩寺島さんの回でした。
寺島さんイチオシです。
眼鏡の尾崎さんももっと出番があると良いのになー。




