秋葉原ヲタク白書32 僕の2.5次元デビュー
主人公はSF作家を夢見るサラリーマン。
相棒はメイドカフェの美しきメイド長。
この2人が秋葉原で起こる事件を次々と解決するオトナの、オトナによる、オトナの為のラノベ第32話です。
今回は、元AKB148をプリンシパルに迎えた地下ミュージカルの演出家が、初演前日に奈落に落ち降板となります。
アンダースタディは何と風営法推進NGOの回し者でミュージカルの乗っ取りを図りますが、キャストは逆に…
お楽しみいただければ幸いです。
第1章 地下ミュージカルの世界
ミュージカルを揶揄する者はよく逝う。
「なんでセリフの途中で突然、歌い出すの?見てる方が恥ずかしくなるわ。勘弁して」
そんな人は、今の僕を見て何と逝うだろう?
歌うどころかトロンボーンを吹き出すのだw
あ、ピンスポットが近づく!
僕はトロンボーンを構える←
コレが僕のミュージカルデビューの瞬間だw
うーん確かに見るよりやる方が恥ずかしい←
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
"サンクチュアリ"と呼ばれる凄腕ハッカー集団と"物々交換"を始めて半年が経つ。
例えば、何かのパスワードが必要になった時とか彼等は忽ち"正解"を見つけて来る。
で、その瞬間から"正解"と"恥ずかしい行為"の"物々交換"が始まる。
サイバー屋のスピアは、よく人前でスク水にされたりしてたがヨモヤ僕が…
と思ってたら、届いた"請求書"には"ミュージカルに出演しろ"とある。
金よりも恥に執着がある彼等にとりミュージカルは"高額紙幣"のようだ。
コレは明らかにミュージカルへの偏見だw
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
ミュージカル"千年紀のメイド達"は、2000年頃の秋葉原を舞台にしている。
パソコンだらけの街が、ようやく萌え始めた3千年紀に開店した御屋敷の物語。
プリンシパルは、元AKB148のユメモ。
日米ハーフだが目が醒めるような金髪。
あ、48じゃナイょ。148だ。赤穂浪士じゃナイからね。地下アイドル148人のユニット。
まぁ148人もいるんで、常に誰かが出たり入ったり妊娠したりwしてるがソコの御卒業だ。
因みに"AKBワン・フォーティエイト"だからw
ユメモ率いるカンパニー"ドリーモー"はマイナー小劇団が母体だが、見事に今回のミュージカルに再起を賭ける野心家の巣窟と化す。
先ずユメモと彼女のマネージャー、プロデューサー、ディレクター、プレス、アンサンブルの名もないキャストからスタッフ、そして…
あ、僕は違うょ再起は全く関係ない。
単なる債務の履行でお邪魔してますw
ところで"千年紀のメイド達"はプロの公演なので全てに先立ち先ず資金集めが重要だ。
で、今宵は、大口から小口まで出資者を集めての実験公演、つまり"プレビュー"だが…
しかし!
楽器を吹きながら舞台に上がるオープニングのこの演出、何とかならナイものかw
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
いよいよクライマックス!
ユメモがソロ曲"one maid"を歌い切ると拍手が沸いて…おぉ止まない!
次はキャスト総出(僕もw)のフィナーレだが舞台監督が進行を一時中断w
すげぇ!コレがショーストップって奴?
袖幕の陰で僕は公演の成功を確信する!
そして、大盛り上がりで迎えたフィナーレの最後に、居並ぶキャストの前にトロンボーンを構えたまま滑り込む演出がアルんだけど…
何とか、コレも成功!
総立ちの拍手、歓声!
客席の上手最前列にミユリさんとつぼみんがいて、思い切り拍手をしてくれてる。
"アキバPP"は、僅か100名ちょっちの小劇場だが割れんばかりの大拍手!
さらに客席を見ると…
センターゼロゼロ(客席最前列の中央)にラムロをはじめ界隈にユメモ推しの面々。
何れもユメモを地下アイドル時代から推してたアイドルヲタクで久々の現場復帰。
と逝うのも、AKB148に限らずメジャーデビューする際は、常にアキバの地下的要素は排するコトが条件となる。
苦楽を共にしてきた地下アイドルのメジャーデビューは何よりウレシイが、ヲタクはソコで身を引くのがお約束。
しかし、AKB148のデビュー後、ユメモはストレスからか声を失い、やがて引きこもりとなって卒業扱いとなる。
今はヲタクで引きこもりでイジメに遭うのはアイドルの必須条件だが、ユメモは全条件を満たした上で蒸発するw
そのユメモが"足長おばさん"と逝う謎の富豪にテコ入れされ奇跡のカムバック。
"足長おばさん"の正体は不明だが為替トレードで大儲けした芸術愛好家らしい。
大口出資者なので、多分このプレビュー会場にも来ているに違いない。
まさか僕をココへ派遣した"サンクチュアリ"と隣同士だったりしてw
しかし、謎だな。
ユメモは舞台経験もないのに、何で地下ミュージカルとか始めたのだろう?
第2章 ディレクター降板!
「あ!」
次の瞬間、僕の足元に演出家が出現するw
テレポート?いや舞台から転落したのだ!
"アキバPP"は"千代田区立秋葉原舞台芸術センター"の愛称で舞台は奈落付きだ。
奈落とは舞台下の地下空間で"セリ"などの舞台機構があり大体稽古場も兼ねている。
今"セリ"は降りていたのだが、ソコへ舞台から演出家が落ちて来る!
ビルの2Fから飛び降りたようなもので、骨盤骨折した彼女は動けない。
ん?苦悶する瞳の色が亜麻色w
直ちに救急車が呼ばれ、病院搬送となるが、本公演を来週に控え演出家が不在になる?
ミュージカルの演出は全て彼女の感性に依存していたのでカンパニーには衝撃が走る。
「とにかく、キャストとスタッフを落ち着かせろ。しっかり立て直して逝くんだ。君がやれ!出来るな?」
「は、ハイ」
「アンダースタディ(代役)を立てる。カンパニー(劇団)の動揺を抑えろ。公演は延期しない。Show must go on!」
プロデューサーが、聞こえよがしに演出助手に指示を飛ばして舞台を横切る。
え?演出家の代役?アンダースタディとは予めスタンバイさせてる代役だが…
普通は役者の降板への備えで、演出家のアンダースタディなんて聞いたコトないw
ソコへ、舞台の上から奈落に向かって見下ろすようにミユリさんが手招きをする。
あ、彼女はメイドの演技指導wで劇場入りしているのだ。
ミレニアムのアキバを知ってるメイドは余りいないから←
「テリィ様、コレ」
ミユリさんは、袖幕に隠れた奈落の操作盤の前にいて、床に落ちたメモを指差してる。
そのメモには、縦にミュージカルナンバーが列挙されて、それぞれコメント?がつく。
ある曲には「ベースの音量を上げる」。
別の曲には「ドラムの音量を下げる」。
コレは、サウンドボードのボリュームレベルについてのメモだ。
音響エンジニアが奈落の操作とかしながら落としたのだろうか?
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「あぁw ソイツはレータですね。そうか、プレビューに来てたのか?!」
「え?誰ですか?そのレータって」
「ユメモの元カレです。自分の会社を潰して借金つくって姿をくらましてましたが…そうか。元カノの再デビューでアキバに舞い戻ってきたか!」
"アキバPP"のピロティで僕とミユリさんは、ユメモTOのラムロさんの話を聞く。
レータには暴行歴がありアイドル時代のユメモは痣のまま歌ったコトもあるらしいw
「元はライブハウスの音響エンジニア、とは逝ってもアイドルのカラオケCDを歌う順にかけるだけの係でしたが、タイミングよくかけてもらうために営業するアイドルとかもいて、美味しい思いもしてたみたいです」
「あちゃー。地下アイドルも色々気を遣って大変だなぁ。アレ?まさか…」
「ユメモンはそんなコトはしません…ってかレータとはとっくに同棲してたしwま、とにかく気が大きくなったか、レータは借金して音響システムを揃え、会社を興したけど上手く回らず夜逃げした、と聞いてます。テリィさん、ユメモはあんな男にひっかかって終わる女じゃない。どうぞ、彼女の再デビューを成功させてください!」
そんなコト急に逝われてもなw
でも、レセプションで確認するとレータは小口出資者(¥1000w)で連絡先とかも判明。
ミユリさんと顔を見合わせてみたけど…まぁとりあえずレータには会ってみようか。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「あぁ!そんなメモ、よく見つけたな。確かに俺のメモだ。何処で落としたんだろ?プレビュー見てたら音響面で色々と注文つけたくなってな。ホラ、俺は根っからの音響屋だから」
翌日はプレビュー後の手直しでカンパニーはテンヤワンヤだが、タダ酒飲めるょとレータを御屋敷に誘ってみる。
「おぉ!じゃ奈落を下げたのは貴方ですね?元カノの再デビューを妬んで奈落の底へ落とすつもりが隣にいた演出家が落っこちた、ナゼだろう?って感じ?お察しします」
「何だソレ?奈落なんか触っちゃいねぇよ。元カノの晴れ姿を近くで見たかっただけだ」
「えっと直ぐゲネプロ(通しリハ)が始まるんで単刀直入にもう1回!貴方は元カノの再デビューを妬んで奈落の底に落とそうとしたってコトでOK?危ない男の香りプンプン」
全く話は噛み合わない。
ところが思わぬ展開が…
「俺は、奈落には触ってナイ。指紋でも何でも取ってくれ。ってかソモソモお前ら万世橋(警察)か?しかし、ユメモも不憫だょな。ミュージカルで有名になれば親父に会えるって張り切ってたのに」
「パパさんに会える?」
「いや。パパさんはママだ。ママがパパさんで、パパさんのパパは第7艦隊の脱走兵って噂だぞ。だからユメモは金髪なんだ…ってか、アンタ、何も知らないのか?」
僕も思わず混乱してしまったが、どうやら彼の逝うパパさんは地下クラブオーナーで通称"パパ"と呼ばれる中年女性のコトらしい。
"パパ"はいわゆる"痛おばさん"。ロリータが好きで巷ではちょっとしたカリスマだ。
廃駅となった万世橋駅(地下)にある秘密クラブのオーナーで僕も何回か会った経験アリ。
こりゃパパさんに会わなきゃと思う矢先にカンパニー(劇団)スタッフが駆け込んで来る。
「テリィさん、大変!新しい演出家が来て、直ぐゲネ(プロ)始めるって!演出も全部変えるって息巻いてる!とにかく早く来て!」
第3章 "風営法の翼"
「あぁダメダメ!まるでダメだわっ!今時、オタクのロマンスになんて誰も興味ないわ!根元から作り替えましょ!メッセージを出すの!政治的なメッセージ!今夜から"千年紀のメイド達"はロック・ミュージカルにするわっ!みんなで風営法への応援歌を歌い上げるのよっ!」
この女は、馬鹿だな。
心の底からそう思う。
萌えを「遊興」として認知させ、風営法を改正へと導いたメイドの物語だと?
ドコを叩けばソーユー発想になるの?単に風営法の網を被せられただけだろ?
しかも、演出手法は"生演奏で大音量"という昭和なロック路線と来たモンだw
この手の劇団って、令和どころか平成前で淘汰されちゃってるから、逆に新鮮←
平成前で淘汰と逝えば、彼女は全身フラワープリントにトンボ眼鏡で…完全にラブ&ピースだけど未だアラサーだろう?老成し過ぎw
因みに、オケはオープニングのアドリブ入場は、ロック・ミュージカル化に伴いマーチに合わせての分列行進入場に変更←
さらに、全編前ノリ音楽となったので、僕はHBBとして、カラダに洗濯板やらモンキーシンバルやらホイッスルやらを取付けるw
「ヤメヤメ!何を考えてるの?そのウルサいジャズハンドは何?田舎のキャバレーじゃないのよ。大嫌いなの、ジャズハンド。絶対にヤメて!」
ジャズハンドは、手のひらを大きく使いヒラヒラさせる基本動作の1つだ。
基本動作だから好きも嫌いもナイだろう。何で怒鳴り散らすのか意味不明w
極めつけは、プレビューでショーストップの"one maid"大幅カットで"遊興の勝利"を歌い上がる"フィナーレ"の前座に格下げw
コレは、もう全く違うミュージカルだ。
御屋敷が流行り始めた頃のメイドには、キャバから流れて来た子が意外に多い。
本人は、バイト感覚のメイドだったがキャバにしてみれば立派な引き抜き行為。
当時流行ってたブログに心ないコメントをつけられ過去バレした子は大勢いる。
中にはクビ同然に"卒業"すら、させてもらえずに消えて逝ったメイドも多い。
"one maid"は、そんな彼女達の歌だ。
過去バレして消えて逝くメイド達の歌。
だから、続いて全員で歌い上げる"フィナーレ"には"夢オチ"の要素がある。
決して、現実の勝利(風営法の改正?)を高らかに歌い合うシーンではないのだ。
え?文句のあるキャストは降板させ、新たにオーディションするから申し出ろ?
おいおい。昭和なタタズマイのクセしてやるコトは少しエゲツなさ過ぎでしょ!
あの、せめて、ジャズ・ミュージカルのママで逝こうょ?ソコで手を打つからw
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
新しいディレクターは本気w
"one maid"が1コーラス残り辛うじて踏み止まったユメモ以外のキャストは総入替だw
日付を超えて始まったオーデ(ィション)に数時間、そのまま新キャストでテクリハ突入←
明け方の休憩タイムにミユリさんが差入れを持ってやって来る。
あ、ミユリさんとは関係ナイが、この日の夕方が初演なんデスw
「テリィ様、小屋(劇場)の外も激動ですょ」
「ええっ?"サンクチュアリ"がもうココまでで許してやるって言い出したとか?」
「仮にそうでも、今更どうせ後には引かないんでしょ」
僕の好きな冷えた薄いアイスコーヒーを飲みながら、ミユリさんが教えてくれる。
先ず、新しいディレクターは風紀推進NGO"風営法の翼"のメンバーとのコトだ。
"風営法の翼"は、よく逝えば保守的なNGOだけどソモソモNGOって胡散臭いょね?
アカデミックを装って既得権益を守るために事実を都合よく捻じ曲げる連中って感じ。
僕は基本的に嫌いだw
多分スピアが調べてくれたんだろうけど"風営法の翼"に流れる資金の出所も判明する。
出所は"新エネメジャー"で多分政権に擦り寄るロビー活動の一環だったのではないか。
"新エネメジャー"は、いくつかのダミーを通じ"風営法の翼"に金を集めている。
この豊富な資金をバックに"風営法推進作品上演事業"が推し進められているのだ。
つまり今回の"千年紀"みたいにねw
さらに"翼"は出資事業も行っており"千年紀"にも資金が注入された形跡がある。
"足長おばさん"だけで埋め切れなかった未達の資金が、先週急に充当されたのだ。
かくして、ミュージカルは乗っ取られるw
この"風営法の翼"を何とかしなくちゃ!
今度サンクチュアリに頼んで極秘の献金者リストでもバラ撒いてもらうつもりだ。
えっ?パソコンマニアのチンピラどもなんか怖くない?そりゃまた失礼しましたw
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「あ、それからテリィ様」
「まだあるの?」
「"足長おばさん"が誰かわかりました」
ええっ?!"足長おばさん"は…
第4章 誓いの幕を開けろ
まさか"パパ"だったとは!しかし…
夜明けからランスルーで1回通してから即ゲネプロと逝う強行軍で誰も一睡もしてない。
何はともあれココまでコトを押し進めた演出家の力量は評価に値する。敵ながら天晴れ。
敵?
そう。彼女は敵なのだ。"千年紀のメイド達"を乗っ取った憎むべき敵。
実は、夜半より誰が書いたのか"血判状"がスタッフとキャストに回る。
"血判状"には"ミュージカルを取り返せ"とあり昼までに2人を除く全員が署名する。
その2人とは、新しい演出家と恐らく"翼"に芝居を売ったと思われるプロデューサーだ。
後年、アキバを日本のブロードウェイにした立役者として紹介された彼は、この夜のコトを、こう語っている。
「"血判状"のコトは全く知らなかった。私は、ただ何としても"千年紀のメイド達"を成功させたかった。どんなことをしてでも。当時の私は、あの作品に全財産をつぎ込んでいた。そして、私自身の再起も賭けていた。ソレはカンパニー(劇団)のみんなのためになる、そしてアキバを日本のブロードウェイにする貴重なステップになると固く信じていたんだ」
僕は、カンパニーのみんなには黙って"血判状"を行列をつくってるラムロに見せる。
開場を待つ行列の中で、彼は読み終えると黙って仲間のヲタクを集め打合せを始める。
彼の後日の言い草はこんな感じ。
「署名させてくれなかったんですょ、テリィさんは。カンパニーのみなさんが考えているコトはわかった。自分達は確かにタダの(アイ)ドルヲタ(ク)だけど、現場で出来るコトは何でもやります!あぁ署名したかったな。あの時、あの現場で署名したって他のヲタ(ク)に一生自慢出来たのに!」
初演は、開場即満席となる。アイドルライブ的に行列してくれたラムロ達もさるコトながら、風営法関係者?もチラホラと見え隠れ。
開演時刻が近づき、前説が終わり、演出家が挨拶に立つ。
「御存知の通り、この作品は数日前に演出家降板という悲劇に見舞われました。しかし、我々はそれをバネに一層強くなった。そしてソレは、私達がこのミュージカルに託したメッセージをより力強いモノへと変えて行ったのです…」
既に客席でスタンバイしてる僕を含めオケの全員は、彼女の長い挨拶を聞いている。
「イントロは3小節待ってから出てくれ。忘れるなょ」
「私は、テリィたんが地下のジャズ喫茶でタバコ吸ってる時からミュージカルやってるのよ。自分の心配したら?」
「君のカラー、ヲレの方で決めさせてもらったから。何色か聞きたい?」
車椅子の彼女は、暗闇でクスリと笑う。
「うまくいくかしら」
「大丈夫。ヲレ達の舞台だ。楽しもう」
「貴方の言葉ほど信用できないものはないわ」
おお!まるでミュージカルのタイトルになりそうなセリフだね。
僕は、ナゼかとてもウレしくなってしまい柄にもなくサムUP。
さぁ。誓いの幕を開けろ。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
演出家は多分途中から気づいていただろう。
少なくとも、空気は感じていたに違いない。
風営法が絡むシーンになると、キャストが突然セリフを噛み出す←
さらに、誰かが風営法と逝う度に心なしかオケの音が大きく被る笑。
そして、運命の"one maid"が始まる。
舞台暗転。僕のバストランペットのソロ3小節。
そして、聞こえて来る"one maid"の歌声は…
二重唱だ。
ソレは、美しい女声の二重唱。
舞台が照明に浮かび上がると…
メイドが2人いて、1人はユメモ。
もう1人は車椅子の…演出家だw
若くして演出を志した彼女は、根っからのミュージカル好き。
もともとキャスト志望だったコトもあり歌い方にソツがない。
ユメモの3度下を綺麗にハモっている。
そんな車椅子に寄り添い歌うユメモ。
オフステージは大変!舞台袖のプロデューサーをスタッフが4人がかりで抑えつけてる。
新しい方の演出家は客席の調整卓だが、既に泡を噴き、失神してて手間がかからないw
そしてフルコーラスバージョンの"one maid"は落ちサビに入る。
ラムロの号令で、客席の上手側半分が瞬時に赤一色に染まる。赤はユメモのカラーだ。
そして、下手半分は青一色。事前にラムロ達が配ったサイリウムが一斉に点灯される。
赤と青。綺麗に2色に分けた会場の向こうで2人のメイドが歌う悲しみの"one maid"。
僕は、僕達は、この景色を一生、忘れない。
この日、この現場にいたコトを誇りに思う。
その時、事件は起きる!
"one maid"をフルコーラスで歌い切る直前に1人の外国人がステージに上がる。
僕を含めスタッフは、俄かに何が起きたか把握出来ず対応がワンテンポ遅れる。
鮮やかな金髪に長身の外国人は、車椅子の演出家に歩み寄り、驚いて歌うのをやめた彼女の前に跪き如何にも愛おしげに抱き締める。
その瞬間、軍用ホイッスルが鳴り響き、客席から数名の男達が立ち上がる。
やや?コッチも全員外国人?毎日ステーキ食べてるのか健康優良児ばかりw
彼等は、客席通路をステージへ突進する。
舞台の金髪男に何か用か?ん?手錠だと?
ところがステージに近づくにつれ、ユメモ推しの連中が次々通路に飛び出し邪魔をする。
さすがアメラグの本場の国?らしくヲタクを突き飛ばすがヲタクはヲタクでキリがないw
大混乱の客席、熱い抱擁のステージ、フルコーラスの演奏をやめないオケ、誰も相手が何者で、この先がどうなるのかわかってないw
いや。こんな時、最後までやるコトがわかってるのがカンパニー(劇団)の連中。
キャストも、スタッフも、各自が各自の役割を果たす。Show must go on!
ユメモが"one maid"を見事に歌い切る。
カチューシャをとりテーブルの上に置く。
そして照明がフェイドアウトし暗転。
前回は、ココでショーストップだが…
今回は、ゲストもカンパニーも全員が呆気にとられ、拍手が湧かない。
でも、構わず少し長めのインターミッションをとってフィナーレ突入。
再び照明の入った舞台に金髪男の姿はない。キャスト総出+オケも舞台へ!
客席では、高まるテーマに合わせラムロ達が鮮やかにヲタ芸を打ち始める。
金髪男を捕らえよう?と立ち上がった男達は肝心の金髪男の姿が消え呆然とする。
ソレを横目にラムロ達が打つヲタ芸は一段と冴え渡り華やかにフィナーレへ進む。
センターゼロゼロ(舞台中央と客席最前列の中央)でユメモとラムロが向き合う。
ユメモの隣には車椅子の演出家がいて、フィナーレはクライマックスを迎える。
あぁ、僕の出番だw
意を決して、僕はキャストのフロントラインの前へ上手側から滑り込む。
(壊れてもいい方の)トロンボーンを高々と掲げて僕は僕のセリフを逝う。
「IT'S SHOWTIME, FOLKS」
ソレを合図にフロントライン全員が唱和。
「SHOW MUST GO ON!」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
さて、何から話そうか。
先ず、車椅子の演出家に駆け寄った金髪男は彼女の父親で、パパの旦那さんだ。
パパと米軍脱走兵との間に出来たハーフの娘はユメモではなくて演出家なのだ。
だから、彼女の瞳が亜麻色だったんだね。
そのコトをパパさんから聞いたミユリさんは夜中だったけど横須賀の姐様メイドに相談。
姐様メイドは横須賀の主みたいな人だから、米軍脱走兵の消息などに独自の嗅覚がある。
アンタの娘さん、秋葉原にいるょ。
姐様メイドに告げられ意を決しアキバに向かう彼だが、先回りして網を張る者がいる。
タレコミを受けた第7艦隊憲兵本部は、直ちに脱走兵狩りにMPを派遣し待ち構える。
もちろんタレ込んだのはレータだw
ユメモと演出家を取り違えてたが←
もちろん、結果は大失敗でワケわかんないアキバのヲタクに囲まれ、眼前で取り逃がす。
瞬時に事態を悟ったスタッフが僅かな暗転の合間に楽屋口から彼を逃したらしいのだが…
外では"デーハーな痛おばさん"が待ち構えてたそうで2人はアキバの夜の帳に消える。
「誰?」スタッフは今も大騒ぎw異次元からの使者にさらわれた!と信じる者もいる←
もちろん、その後2人を見た者はいない。
"千年紀のメイド達"が大ヒットとなり、ロングランを続けてるコトは御案内の通りだ。
車椅子のキャストと逝うのは、まだまだ珍しいので取材が殺到しグッズ?の販売も好調。
もちろん、演出は全てオリジナルに戻る。
コチラも僕には縁があるが、当地では"仏壇キング"もスマッシュヒット中なのでアキバのブロードウェイ化は一挙に進みつつある。
勝てば官軍とはよく逝ったモノで、件のプロデューサーや"風営法の翼"までも"千年紀"人気に便乗しアレは私の作品と語り出す。
まぁ東京は人の手柄を横取りしてナンボの街だから構わないがアキバではヤメてくれょ。
あの"新しい"演出家も、その後サッパリ見ないが、何処かで偉そうに語ってるのかなw
因みに、失神した彼女は、ラストシーンで瞬間、息を吹き返したのだが、キャスト全員のジャズハンドを見て再び失神したとのコト笑
そして、プロデューサーの方には、奈落を落とし演出家(ホンモノの方w)をケガさせた疑いが残る。まぁ真相は結局闇の中だけどね。
いい話もある。
この前、ヤメ検弁護士のタチマンに会ったら"萌え産業"の競争力強化と逝うのは、国家的な急務らしい。
難しい手続きを取れば、風営法に縛られない世界で"萌え産業"が自由に発展する可能性もあるとのコト。
今や、2.5次元ミュージカルなどの"萌え産業"は国のバックボーンを支える重要な産業となったからね。
"風営法の翼"には、こうした新産業の芽を安易に摘んで欲しくないな、全く。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
色んなコトが終わった残暑厳しい夜。
御屋敷に"千年紀"の面々が集まる。
僕が口火を切る。
「ずっと考えてたんだ。なぜユメモは地下ミュージカルを始めたのかなって。喝采を浴びたいのなら既にAKB148で浴びていたのに。でも、ユメモの"one maid"を聞いて気づいた。君もまた、パパを探していたんだね」
ユメモの番だ。
「私のママは、若い頃に私を身ごもった。父親は演出家で…しかも結婚してたんだって。だから、私は里子に出された。今もママとは年に何回か逢うだけ。パパは顔も知らない」
演出家が続く。
「その生い立ちを知ってたから…そして、私と同じハーフだから、是非"one maid"はユメモに歌って欲しかった。だから…ホントに素晴らしかったの。貴女の"one maid"。だのに、私だけパパが見つかるなんて。許してね?ユメモ」
泣き崩れる演出家をユメモが抱き寄せる。
ココはもう1度、僕の出番かもしれない。
「まだ、君の話には続きがあるょね?ねぇ、何を隠してるの?」
「ミユリ姉様!姉様のテリィ御主人様って、万事ノホホンなのに、何で急に鋭くなるの?実は…半年前にわかったコトがある。ママは、みんながパパって呼んでる私のママは…」
そこで彼女は、とても長い病名を口にする。
それは現代医学では治療困難とされる病だ。
「みんなは、ママがアルコール依存症だと勘違いしてるけど、ママは、お酒は14年間飲んでない。ただの1滴も。私、ママの病気を知った時、もう"千年紀"をやめようかと思った。でもママは怒り、私を励ましてくれた。強くならなきゃだめだって。でも、私は…私は強くなれたのかな?」
「"パパ"は…いや、君のママは、ホント、素晴らしい女性だな。だから、君は君自身が強くなるコトをやめるわけにはいかない。ママの思いを無駄にしないためにも」
「コレからも貴女と一緒よ!私は貴女の演出について逝く!ねぇ、私には頼もしいヲタク達がついてるの。何たってアキバのヲタクは第7艦隊のMPを止めたんだから!」
遠巻きにしてたラムロ以下ユメモ推しの面々の顔がパァーッと晴れやかに輝く…
んだが、松葉杖に眼帯、頭を包帯でグルグル巻きに三角巾で腕を吊る者も多数w
とにかく!
もし秋葉原に来るコトがあって、貴方がヲタクなら是非ミユリさんのバーに寄ってくれ。
基本的に陽気なヲタクの溜まり場だが…もし涙を見かけても、ソレはきっと見間違いだ。
何しろ御屋敷の中じゃ時空が歪んでるからなw
巷じゃ重力波バーって呼ばれてルンだぜ。
おしまい
今回は、お馴染みのミュージカルものでハーフの演出家、元AKB148のプリンシパル、変わり身の早いプロデューサー、風営法推進NGOなどを登場させました。
ミュージカル俳優デビューの経験?があり一気に書き上げるコトが出来ました。
秋葉原を訪れる全ての人類が幸せになりますように。