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さん。千晶さん

千晶さんがんばれ、このお話は君の突っ込みにかかっている(笑)

 笹野(ささの)千晶(ちあき)さんは高山萌さんの親友である。


 彼女は怒っていた。激おこである。ぷんぷんなんてかわいいものじゃない。身体からは炎が吹き上がり、背後には仁王様だか般若様だかを背負(しょ)って、教室の戸を睨み付けている。


 文字通りの仁王立ちに、クラスメイトは遠巻きだ。当たり前だ、誰だって巻き添えはごめんだもの。てか、千晶さんを怒らせるのはひとりしかいないからね。まぁ、ここまで怒らせるのは初めてだから、何やらかしたんだあいつ、と興味津々で野次馬上等なのたけど。


 そんなこと関係ないね! とばかりに能天気な声が響いたのは、戸が開くと同時で。そしてそれは千晶さんと言う名の獣が解き放たれた瞬間でもあった。


「おはよー、萌ー昨日はごめーん。だから英語の和訳見せてーっでぇ!?」

「超絶ミラクル大バカ野郎死にさらせっ!! そしてもげろっ!!」


 ガツッ!! と激しい音で千晶さんの右手が唸った。直後蓮くんの腹に回し蹴りが入る。「満点」と拍手がおきるほど見事なコンボだった。


「ダメだよ千晶、手加減しないと手を痛めるでしょ。あとそんな奴にあんまり触ったらダメ、穢れるからね」


 シップや包帯を取り出しながらのんびり宣う今野陽平くんは、千晶さんの恋人である。全てが想定内なのか、手際よく手当てはちゃちゃっと終わった。


「ったー。陽平、ちょっとひどくね? 俺ら友だ」

「昨日やめたから、友達。もう話しかけないでくれる?」


 瞬殺な絶縁宣言でした。のんびり言われてるはずなのに、芯まで凍りそうな声音でした。寒っ。


「え、陽平?」


 陽平くんはスルースキルの達人だったようだ。てか、存在までスルーですか、見えてないんですねわかりますー。


「離して陽ちゃん! まだ殴り足りない!! 骨くらい折らないとこのバカ理解しない!!」

「あれは底無しのバカだから、骨折ったって死んだって理解なんてしないよ。労力の無駄だから、諦めようね。高山が正しいよ」

「……悔しい」

「うん、サンドバッグ借りに行こうか」


 あるんだ、サンドバッグ。てか、壊すんじゃね? とか聞こえますが、千晶さんの腕力やいかに?


「え、ちょ、陽平。どゆこと? てか、萌は? 来てないの?」

「お前が萌の名を呼ぶな!!」


 確かに理解なんてしてないな。自分がなんで殴られたのかわかってない、言われた意味も考えない。全てを萌さんに依存してきたツケだろうか。依存してたのに(ないがし)ろとか、ほんともう、マジふざけんな?


「千晶ー。萌んとこ行くー?」


 底無しのバカを足蹴にした千晶さんに来たお客さまは、萌さんと千晶さんをかわいがってくれる先輩である。


 彼女も千晶さんの足の下をステキにスルーしてくれた。同類で姉御肌のさばさば系かっけぇーな彼女は、千晶さんの方の下だけを凍りつきそうな、そう、絶対零度の視線で見たあと、心配そうな表情で紙袋を差し出した。


「昨日、萌の誕生日じゃない。でも大勢で押し掛けてもだから、みんなからもプレゼントあずかってきたんだけど」

「わぁ、萌喜びますよ」

「元気になったらパアッとやろうね」

「ハデにやりましょう」

「じゃ、お大事にねー」

「ありがとうございましたー」


 ガツッ、と足がなにかに当たったみたいだが気にしなーい。先輩の退場と共に、千晶さんの周りをクラスの女子が囲んだ。


「あたし達からのも預かって? 萌ちゃん気に入ってもらえるといいんだけど」

「後でメッセージ送ってあげて? 萌も喜ぶよ。まだ熱高いみたいだから、渡しとくね」

「あたしのクッキーなんだけど、また作るから、これはお見舞いに渡して」


 お花やら食べ物やらを預かった千晶さんは、先見性ありすぎじゃね? な陽平くんによって用意されたトートバッグにそっとプレゼントを入れると、手が痛いからと早退した。確信犯だな。


 残されたバカ者に目を向ける生徒は誰もいなかったとさ。


「誕生日?」



気持ちはよくわかるよ、うん。

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