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異世界レンタル放浪記  作者: 黒野犬千代
第6章 密林の村
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第95話 対デガルグ戦

 チャンクス戦を見たシュメルから結果を知らされたデガルグは西側控室の椅子に座り頭を抱えていた。顔面は蒼白で小刻みに震えている。


 「次は俺の番だ。嫌だ死にたくねえ」


 「エドガーたちが見たというファイアーボール3連発も本当だったんだな。あのガキ、ファイアーショットを連射しやがった」


 「やっかいですな。顔を盾で隠している間に連射されたら一発目を防いでも次が来るかもしれないと思えば盾を外せません。攻撃に転じるにしても弓使いのデガルグは弓で狙いを定める余裕など無いでしょう。飛行中のファイアーショットがいつ飛び込んで来るやもしれませんので」


 「飛行中のファイアーショットがあるかどうか分かれば良いのだな。それなら貴賓席の俺を見ろ。俺が手を上げていたらファイアーショットがあるという合図だ。手を下げていたら無いということだ」


 「おお、それなら盾で顔を隠しながらでも確認できますな。弓ならチャンクスのように歩いて近付く必要もありませんし。フルプレートアーマーと盾と弓矢で間違いなく勝てますぞ」


 自信満々に勝ちを予言するアロップ魔法士長にデガルグが言った。先程よりも顔が青ざめている。


 「何を言ってるんです。フルプレートアーマーなんか着込んで矢を射れるもんじゃねえ。俺はもうダメだ。助からねえ」


 一層落ち込むデガルグを見たエドガーが提案した。


 「要はファイアーショットを防げリゃいいんだろ。チェーンメイルがあるじゃねえか」


 それを聞いたデガルグがハッと顔を上げて賛成した。


 「それだ。それなら矢が射れますぜ。さすが隊長いや司令官だ」 


 「よし屋敷からチェーンメイルと予備の矢を山ほど運ばせよう」


 シュメルが出て行った後も作戦を話し合った。


 「アイスマンたち3人の仇は俺が討つぜ」


 「その意気だ。相手はガキでHPだって少ねえはずだ。急所ならもちろんだが急所を外しても何発か当てりゃ死ぬさ」


 そうこうするうちにチェーンメイルと矢が届けられ、デガルグが装着した。


 「4番手、デガルグ。時間だ」


 警護隊士から告げられたデガルグが右の腰にショートソードを提げ左の腰と背中に矢入れを装着し、左手に弓と丸盾を、右手に予備の矢が隙間なく詰め込まれた籐籠を持って西側控室を出た。通路に並ぶ3体の死体を横目で見て嫌な汗を流しながら階段を上がって闘技場に入場した。


 それを待っていたかのように満席の観衆から容赦のない罵声が浴びせられた。


 「お前もさっさと死ねよ、人殺し」


 「なんだその矢の数は。下手な矢も数射りゃ当たるってか」


 「さっきのフルプレートアーマーでもダメだったんだぞ、そんなチェーンメイル意味ないぞ」


 東側の扉を開いてリンスが現れた。前回までは持っていなかった丸盾を持ち、両方のポケットも膨らんでいる。それを見たデガルグが叫んだ。


 「汚ねえぞ、盾なんか持ち込むな」


 それを聞いた観衆は一瞬沈黙した後、全員が一斉に突っ込んだ。


 「お前が言うなバカ」


 「チェーンメイルまで着込んでよく言えたな」


 王国法務長官が立ち上がって決闘の開始を宣言した。


 デガルグは闘技場の端ギリギリまで下がると籐籠を置き矢を一本抜いて番え、素早く引き絞って放った。

 矢が放物線を描き60m先のリンスを目指したが、リンスが数歩横へ歩くと元居た場所に突き立った。

 リンスはそれを見て頷くとヒョコヒョコと前に歩き始めた。


 デガルグは再び籐籠から矢を抜き番えて狙おうとしたがリンスが歩きながら伸ばしたステッキの先端から火が出るのを見ると矢を捨てて弓を背中に隠し右手で丸盾を持ち顔を覆い隠した。

 リンスは歩きながらもう一発ファイアーショットを撃ち、更にファイアーボールを5連続で放った。最初のファイアーショットが闘技場内をぐるっと一周してからデガルグの脇腹に命中した。火の弾丸はチェーンメイルに阻まれて消えた。デガルグは命中の瞬間僅かにビクっとなったが怪我がない事を確認するとニヤリとして丸盾の隙間から貴賓席のシュメルを見た。シュメルは右手を高々と上げていた。

 まだファイアーショットが飛んでいるな、そう思ったデガルグは丸盾で顔を隠したまま動かなかった。2発目のファイアーショットが会場を一周してデガルグの側頭部に命中した。ゴンという衝撃に焦りながらもリンスのファイアーショットがチェーンメイルを貫通できない事を確認して安堵の表情を浮かべながら貴賓席のシュメルを見た。シュメルの手は下がっていたがシュメルの顔は歪んでいた。

 もう飛んでいるファイアーショットは無い。そう思ったデガルグが丸盾を下ろして前方を見ると火の玉が列をなして向かって来ていた。

 

 くそ、もう終わりじゃなかったのかよ。


 そう思ってよく見ればファイアーショットではなくファイアーボールだった。


 そんなの撃ってどうする気だよ。そんな下級火魔法5発喰らってもビクともしねえぞ。


 デガルグは火の玉を無視して矢を番えようと籐籠に手を伸ばした時に気が付いた。


 あのガキ、これを燃やす気だ。


 そう思ったデガルグが火の玉を叩き落そうと丸盾を構えた時、リンスがステッキを上げて、


 「ファイアーショック」


 と大きな声で唱えるのが聞こえた。


 くそ、ヤバいぞ。


 デガルグは丸盾で顔を覆い隠した。

 ファイアーボールがデガルグの前に置かれた籐籠に着弾して燃え出すのが分かったがデガルグはファイアーショットを恐れて何もできなかった。

 そのまましばらく我慢してから丸盾の隙間から貴賓席のシュメルを見ると両手とも下げられていた。


 ファイアーショットはどこへ行った。そう思って丸盾を外して前を見ると籐籠の矢は燃えて使い物にならなくなっていた。


 そういやあのガキが言ったのはファイアーショットじゃなくてファイアーショックだ。クソが、バカにしやがって。


 デガルグは背中の矢入れから矢を抜いて番え素早く放った。

 その瞬間にリンスが前に走り出した。小さな体でスタスタと走る姿に観衆が沸いた。矢はリンスの上を超えてはるか後方の地面に突き立った。

 デガルグは再び矢を番えようとしたがリンスが走りながらステッキを伸ばして、


 「ファイアーショット」


 と唱えるのを聞くと矢を捨てて丸盾で顔を隠した。

 火の弾丸は会場を一周した後、丸盾に当たって消えた。貴賓席のシュメルを見ると手が上げられていた。デガルグが見ていない間にもう一発撃っていたのだ。2発目の火の弾丸も会場を一周してからデガルグの腰に当たり、再びシュメルを見るとまだ手が挙げられている。


 クソが、何発撃つつもりだ。


 デガルグが心の中で舌打ちながら待っていると肩の辺りにファイアーショットが当たって消えた。シュメルを見ると手は下ろされていた。


 よし、素早く射ってぶっ殺す。


 そう思って顔を上げたデガルグの5m先にリンスが立っていた。


 フッ、馬鹿め。俺を弓しか使えないボンクラとでも思ったか。剣だって得意なんだぜ。8歳のガキに負けるかよ。


 弓を置いてショートソードを抜いたデガルグをめがけてリンスは右ポケットから取り出した物を投げつけた。それをデガルグが空中で両断すると中に入っていた液体が顔にかかった。液体を浴びて怯んだデガルグに向けてリンスは左ポケットから瓶を取り出して投げつけた。瓶はチェーンメイルを着たデガルグの腰の辺りに当たって割れて中身をぶち撒けた。


 デガルグは左手に丸盾を持ちファイアーショットを警戒しながら右手でショートソードを構えてリンスに斬りかかるべく数歩進んでその匂いに気付いた。

 

 この匂いは油じゃねえか。まずい。


 デガルグがリンスの意図に気付いた時にはもうリンスはステッキを振っていた。


 「ファイアーボール、ファイアーボール、ファイアーボール、ファイアーボール、ファイアーボール」


 5連続で飛んで来た火の玉のうち2つは剣と丸盾で叩き落としたが残りの3発が体に当たりチェーンメイルの間に染み込んだ油に引火した。デガルグは地面に転がって火を消そうとしたが火はあっという間に全身に回り火達磨になった。

 悲鳴を上げながら転がりまわる火達磨はすぐに動かなくなった。


 リンスは回れ右をするとヒョコヒョコと歩いて東側控室へ戻って行った。


 「勝者リンス。30分後に次の決闘を行う」

お読みいただきましてありがとうございます。

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