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異世界レンタル放浪記  作者: 黒野犬千代
第6章 密林の村
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第94話 対チャンクス

 シュメルは頭を抱えながら西側控室に入った。


 「シュメル様、今の歓声は何です。まさか」


 「ベリーズが負けた」


 「何ですと。ベリーズは私が言ったようにやったのですか」


 「ああ、ジグザグに走った。速い走りだった」


 「じゃあどうして負けたんです」


 「ファイアーショットが、火の弾丸が追い掛けてきた。外れて違う方角に飛んだ火の弾丸がターンして後ろから追い掛けてきてベリーズの後頭部に命中した」


 「何を言っているのです。ファイアーショットは真っ直ぐにしか飛びません。ターンするなどあり得ないことです」


 「本当なのだ。俺も信じられんのだ」


 「アロップさん、ファイアーショットとは別の魔法なんじゃねえですかい」


 次に戦うチャンクスが顔面を蒼白にして訊いた。


 「そんな魔法は無い。本当だとしたら未知の魔法だよ。いや待てよ、前にソレンタスがファイアーショットの角度を変える研究をしていたことがある。皆そんなのは無理だと笑っていたが、もしかしたら成功しておったのやもしれん」


 それを聞いたエドガーがアロップの胸ぐらを掴んでドンと壁に押し付けた。


 「この野郎、最初からそれを言えよ。それを知っていたらベリーズだって警戒できたんだ。何とかしろ」


 「うう、完成したとは知らなかった。それにソレンタスが研究したのは角度を変えるだけだ。追い掛けてくるなんて分かる筈もない」


 「俺はどうすりゃいいんだよ。追い掛けてくるファイアーショット相手にどう戦うんだ、アロップさん」


 「ファイアーショットの利点は速度だが難点は威力の小ささです。アイスマンは喉に、ベリーズは後頭部に命中したんでしたな。どちらも人の急所です。急所を隠せば良いだけですぞ」


 「だがよう、大盾でガードしても後ろから飛んで来たら防ぎようがないぜ」


 「ですから完全防御です。フルプレートアーマーなら露出部位が無いしファイアーショット程度では貫通できません」


 「目はどうするんです。目と鼻の所だけ隙間がありますぜ」


 「鉄の丸盾で充分です。娘が撃ったら盾で顔を覆うのです」


 「俺は二刀流ですぜ、丸盾を持ったら俺の特技が生かせねえよ」


 「大丈夫だチャンクス、剣1本でも斬り合いに持ち込めばガキを圧倒できる」


 「よし、屋敷からフルプレートアーマーを運ばせる。丸盾はあるな」


 シュメルはそう言いおいて貴賓席に戻って行った。暫くして届けられたフルプレートアーマーを装着したチャンクスに警護隊士が告げた。


 「2番手チャンクス、時間だ」


 チャンクスは剣と丸盾を手に持ち重い足取りで通路を進んだ。そして闘技場へ続く階段の手前にアイスマンとベリーズの死体があるのに気付いた。喉と頭から流れた血が床で乾いて赤黒いシミになっていた。こんな風に死にたくねえ。チャンクスは怒りと恐れと緊張に震えながら階段を上がり平常心を失ったまま扉を開いて闘技場に入った。


 容赦なく浴びせられる罵声と敵意に満ちた視線の中でチャンクスは頭部アーマーの面頬をガチャリと下げた。とたんに視野が狭くなり息もしにくい。

 目の部分に横線のように空いた隙間からしか見ることができない為に足元を見るには顔を下げ、上を見るのは顔を上げなくてはならない。息をするにも小さな孔がいくつかあるだけで籠り湿った空気が不快だった。


 王国法務長官が立ち上がって言った。


 「これよりリンスとチャンクスの決闘を行う。それでは、はじめ」


 数十kgもあるフルプレートアーマーを装着したチャンクスは一歩一歩慎重に進んだ。歩くたびにガチャガチャと音を立てるチャンクスを見た観衆からは失笑が漏れた。


 「なんだよそれは、無様だな」


 「みっともねえぞ、卑怯者」


 「8歳の少女相手にフルプレートアーマーって情けなさすぎだろ」


 チャンクスは狭い視野の中にリンスを見ながら真っ直ぐに歩いた。


 馬鹿にしやがって、俺だってこんな恥ずかしい事はしたくねえ。でもこれしか手はねえんだ。とにかくガキが火を出したら盾で顔を隠すんだ。それさえ気を付ければ大丈夫だ。


 両者の距離が40mほどになった時、まっすぐ前に伸ばしたリンスの指の先から火が発生した。


 来た、ファイアーショットだ。


 チャンクスは急いで丸盾を顔につけて防御した。


 そのままの姿勢でファイアーショットが当たるのをじっと待ったが何も起こらない。それどころか観衆たちから笑いが起きて大爆笑へと変わった。


 「ぎゃははは、なにビビってんだ」


 「アイツ臆病すぎ」


 「生活魔法と火魔法の区別もつかねえのか」


 チャンクスが恐る恐る丸盾をずらして覗くと、リンスが指先の火にフッと息を吹きかけて消すのが見えた。


 クソクソクソ、あれは生活魔法のマッチだ。そういやステッキじゃなくて指の先だった。あのガキ、馬鹿にしやがって。許さねえ。


 怒り狂ったチャンクスはガチャガチャとけたたましい音を立てながらリンスに向かって走った。

 

 その距離が20mほどになった時、リンスがステッキを前に伸ばした。


 来た、今度こそファイアーショットだ。


 チャンクスが丸盾で顔を隠したその瞬間にリンスはファイアーショットを2発連続で撃った。最初の一発は大きく外れてチャンクスの後へ飛んでいき、もう一発は顔を隠す丸盾に当たり、


 ボン


 という音を残して消えた。

 丸盾を持つ手に振動を感じたチャンクスはニヤリと笑って丸盾を外してリンスを見た。

 

 フッ、ガキめファイアーショットが弾かれてショックだったようだな。ステッキを下ろして唖然と見ていやがる。撃ちそうになったらまた隠れればいいんだ。みっともねえがこれを続ければ必ず勝てる。ガキの首を斬り落としてやるぜ。


 斬り落とした首を高々と持ち上げる自分の雄姿を思い描いて自信を取り戻したチャンクスが歩き始めた時、その視界の隅に光を感じた。

 

 ん、何だあれは。


 リンスが撃った一発目がチャンクスの後ろをターンして左前からフルプレートアーマーの目の隙間に飛び込んだ。小さな火の弾丸は目から入り脳を破壊した。ガシャーンと大きな金属音を立ててチャンクスは死んだ。


 「勝者リンス、次の決闘は30分後だ」


 「やったぞー」


 「リンス」


 「勝ったぁ」


 盛大な歓声の中、リンスはヒョコヒョコと歩いて東側控室へ戻って行った。

お読みいただき誠にありがとうございます。

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