表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界レンタル放浪記  作者: 黒野犬千代
第一章 異世界入門
9/99

第9話 モンラット釣り

 宴会が終わって部屋に戻った俺は昼にチコザクラで行った検証の結果を確認する。まずは収納空間ではなく普通にリュックに入れたチコザクラを出して見る。萎れていた。もちろん蕾も開いていない。摘んでから10時間くらい経っているのでこの結果は当然だろう。次に収納空間に入れたチコザクラを取り出す。萎れることも一切なく摘んだ時のままの状態だった。蕾は開かずそのままだ。どうやら収納空間の中に入れたものは劣化も成長もしないようだ。そのチコザクラを机の上に置いて、収納とイメージする。消えた。収納リストにも表示されていた。手で触れなくても収納できた。今度は出してみる。机の上に置くイメージで出す。イメージ通り出現した。そのまま部屋の端に移動して、収納とイメージすると消えた。成功だ。

 ではこれはどうだろう、部屋の外に出てから、収納をイメージする。失敗だ。見えないとダメなのだろうか。それなら、机の引き出しに入れておいて収納をイメージする。引き出しを開けてみると、チコザクラは消えていた。成功だ。


 その後も条件を変えて検証した結果、はっきりしたのは距離だ。距離の限界は約10m。10m以内なら好きな場所に出せるし、10m以内の物を収納することもできる。リュックも対象物も持ったり触れたりする必要はない。

 同じ事を机の上にあるカンテラでも試したが、収納空間には入れられなかった。他人の所有物は入れることができないようだ。それが出来たら盗み放題だから当たり前か。

 最後にリュックの収納空間に入れてある水を直接飲めるかを検証してみた。コップ5分の1ほどの水を口の中に取り出すイメージだ。結果は成功、口内に水が現れた。慣れるまでは感覚が難しいが、これならリュックのポーションも直接飲めるという事になる。多機能すぎるリュックだった。花はそのまま収納空間に戻しておいた。


 翌日、朝食を終えた俺は道具屋にやって来た。子供たちと狩りに行くための準備だ。買いたいものがあるが、お金がないのでリュックから出して換金する。ゴブリンの肉は銅貨10枚、モンラットの毛皮2枚は銀貨1枚で売れた。


 現在の収納リスト


  チコザクラの花1本

  美肌草14株

  カムイ草87株

  ストロー草2本

  ストロー10本

  モンラットの魔石1個

  モンラットの魔石(中古)1個

  ゴブリンの魔石1個

  ポーション5本

  ハイポーション1本

  棍棒1本

  飲料水


 モンラットの魔石が中古になっているのは、カンテラに使ったからだ。


 一番細い50mのロープ3本を銅貨30枚で、ナイフを銀貨1枚で購入し、子供たちの待つ村の入口に向かう。子供たちは既に全員そろっていた。全部で6人だ。ガランジさんの息子ボルタもいる。道具屋の子供は店の手伝いがあって参加できなかった。

 ソラーラさんも顔を出し、バスケットにパンと果物を入れて持たせてくれた。今日も門番をしているガランジさんは、今晩はたらふく食わせろよ、などと調子のよい事を言って笑っていた。


 狩場は道の向いに広がる草原だ。まずは子供たちにペアになってもらい、それぞれ4〜5cmほどの石を拾ってこさせる。石の次は昼草夜虫を見つけて持ってくるように言う。遠くへは行くなよと念を押す。この辺りは平地で草も低いので危険はないが念のためだ。

 全員戻って来たところで仕掛け作りだ。ロープを1mほど切って昼草夜虫を結び、反対側には石をしっかりと結ぶ。更にその石に長いほうのロープを結べば出来上がりだ。結ぶのは大変だが、ロープ先端の撚りを解し、細くしたロープ同士で掴むように結べばしっかりと固定できる。3組の仕掛けが完成した。


 草丈40cmほどのストロー草が茂った場所で草を刈って拠点をつくった。ペアの一人が仕掛けの石をできるだけ遠くへ投げてからゆっくりと引く。投げ釣りの要領だ。獲物が掛かったら引き寄せてペアのもう一人が仕留めるのだ。最初はうまく投げられなかったり、石が外れたりしたが、繰り返すうちにコツを掴んだようで、どの子供も30mくらいは投げられるようになった。


 投げ始めて10分ほどした頃、リリアルという女の子が投げて引いた時、エサの2mほど先の草がガササと揺れて追ってくる気配がした。

 ペアになっている男の子が驚いて言う。


 「あ、モンラットが寄ってきた」


 「しゃべっちゃダメだよ。逃げちゃうから」


 他の子が小声で注意したが、逃げられてしまったようだ。幾度か投げる引くを繰り返した時、リリアルのロープがピンと張って動かなくなる。アタリだ。力を入れて引くと草の揺れが近づいてくる。ロープを引くリリアルの2m先ではペアの男の子がしゃがみながら棒を手に緊張した面持ちで待ち構えている。ロープに結んだ石が草の間から現れる。更に1m引き寄せるとエサに噛り付いたモンラットが出現した。すかさず男の子が棒で叩く。

 棒は見事頭に命中して仕留めた。


 「やった!」


 ペアの二人が大喜びすると、まだ獲っていない残りの4人が


 「しっ」


 と言って口に人差し指を当てて注意した。日本の子供と変わらないんだな。仕留めたモンラットを見ると歯が昼草夜虫を結ぶロープに食い込んでいた。虫だけを噛んでいたら切れて逃げられていただろう。しっかり噛ませるのがコツのようだ。


 次にアタリがあったのは女の子同士のペアだった。手際よく引き寄せた所をタイミング良く棒で殴って斃した。この世界の子供は強い。それからも続けるがモンラットの気配が無くなったので昼食にした。その場で輪になってソラーラさんが詰めてくれたパンと果物を皆で食べた。子供たちは余程楽しいのか、さっさと食事を済ませて続きをやろうと言う。


 50mくらい南に移動し、同じように草を刈り拠点を作って再開した。最初にアタリがあったのはボルタだ。初めてのアタリで焦ったボルタは引くのが強すぎて逃げられてしまった。地団駄を踏んで悔しがるが、声を出すのは我慢していた。この村の子供は良くできた子だ。次のアタリもボルタだった。今度は慎重に引き寄せて斃してみると50cm級のモンラットで皆びっくりしていた。その後も役割を交代しつつ狩りを続け、3時になったところで終了した。


 村へ戻る子供たちはそれぞれが両手にモンラットを提げている。大猟だ。一番の大物を仕留めたボルタは得意顔で先頭を歩く。村の入り口では門番のガランジさんが目を丸くして驚いた後、ガハハと笑って俺に向けて親指を立てた。


 「大猟じゃねーか、ゴータ。こんなのは見たことがねえぞ。どんな魔法を使ったんだ」


 「魔法じゃないですよ。虫でおびき寄せたんです。ボルタも大活躍でしたよ」


 「ああ、デカいな。ありゃ食いでがあるぞ」


 夕食を想像したのか口元がだらしない。


 村の中央に着くと聞きつけた親たちが既に集まっていた。親を見つけた子供たちは走って行って自分の獲った獲物を自慢している。


 「たくさん獲れたね」


 「うん、これで獲ったんだよ。ゴータが教えてくれたんだ」


 あちこちで弾んだ声がしている。親たちは口々に礼を言い、子供たちはまた遊ぼうよと言って家に帰っていった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ