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異世界レンタル放浪記  作者: 黒野犬千代
第一章 異世界入門
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第8話 女神の美肌草

 モンラットを仕留めた俺は獲物を収納して歩き出す。棍棒は肩に担いでいく。原始人にでもなった気分だ。2時間近く歩くと昨日飲料水を確保した水溜りエリアに出た。あれ以来、モンラットには遭遇しなかった。俺も漸く人間と認められたのだろうか。


 前方に小高い丘が見える。俺がこの世界で復活したあの丘だ。平たい草原がそこだけ盛り上がっている。故郷の古墳を思い出した。


 そろそろ美肌草の群生地があるはずだ。周囲を見渡すと、一か所だけ色彩の異なる場所がある。よく見れば見覚えのある黄色い葉が日の光に映えていた。


 見つけた。美肌草だ。ここまで数キロ歩いて来たが他に美肌草は全くなかった。希少種なのだろう。昨日採り尽くさなくて本当に良かった。俺はステータス画面で女神の加護が設定してあるのを確認し、ロランゾさんが良くなるようにと願いながら丁寧に採取した。


 緊張しながら【鑑定】を行う。


  女神の美肌草: 内臓疾患を治療する薬草


 成功だ。これでロランゾさんの病気が治せる。


 10株以上は生えていたが5株だけ採取してリュックに入れた。


 念のため、収納リストで確認する。


  女神の美肌草5株

  チコザクラの花1本

  美肌草14株

  カムイ草87株

  ストロー草2本

  ストロー10本

  モンラットの死骸1匹

  モンラットの肉1塊

  モンラットの毛皮1枚

  モンラットの魔石(中古)1個

  ゴブリンの肉1塊

  ゴブリンの魔石1個

  ポーション5本

  ハイポーション1本

  飲料水


 俺は来た時と同じルートで村へと戻る。疲れているはずが帰りの方が足取りが軽く感じられた。村へ到着したのは頭の中の時計が4時になった頃だった。ガランジさんに、獲物はあったかと聞かれたので1匹だけだと答えた。1匹じゃ貰うわけにいかねぇなあ、とガランジさんは頭を掻きながら笑った。


 宿屋には誰もいなかった。手を洗いに井戸へ行くと、ソラーラさんは、おかみさん連中と話しながら洗濯をしていた。生活魔法は使わないのだろうか。


 「もどりました」


 「あらおかえり。どこへ行っていたんだい」


 「野草を採りに行っていました。これなんですが、ロランゾさんに飲ませてあげてください」


 女神の美肌草を5本取り出して渡した。ソラーラさんは怪訝な顔をしていたが、俺の真剣な表情を見ると驚きながら言った。


 「女神の美肌草なのかい」


 それを聞いたおかみさん連中の一人が慌てて言った。


 「急いでダンナを呼んでくるよ」


 すぐに男の人を連れて戻ってきた。道具屋の主人だ。


 「おや、あなたは……昨日売っていただいたのは美肌草でしたが。どれどれ」


 道具屋の主人はそう言って薬草を見る。【鑑定】しているのだろう。


 「なんと、これはまさしく女神の美肌草ですぞ。しかも5本もある」


 ソラーラさんは涙を浮かべる。おかみさん連中は俺の背中をバンバン叩いてアンタよくやったよと言っている。すぐに煎じてきましょうと道具屋の主人は店に戻った。


 宿屋の食堂に移り、ソラーラさんがロランゾさんを連れて来て座らせる。道具屋の主人が煎じた薬を大事そうに紙に包んで持ってきた。皆が見守る中、ロランゾさんがゆっくりと薬を飲んだ。ゴクリと水を飲む音が響く。


 「んん、不思議じゃ、胃がどんどん楽になっていく。こんなにスッキリしたのは何年振りじゃろうなあ。何やら腹が減ったぞ。食うもんはないかなあ。もうずっと食っとらん肉が食いたいなあ」


 「干し肉しかないけど、すぐに作るから待っててね」


 この世界の薬は即効性なのだろうか。厨房へ向かおうとするソラーラさんを引き留めて、俺はリュックからモンラットの肉を出して渡した。


 「よかったらこれを使ってください」


 「これはまた美味しそうな肉だね。捌きたてじゃないか」


 喜んでくれたので、今日獲ったのも モンラットの肉 とイメージして取り出す。


 「もう一つあるので、これもどうぞ」


 「すごいじゃないか。なら皆でいただこうよ。今日はお客さんもいないしさ」


 ソラーラさんがそう言うと、おかみさん連中は歓声を上げて、それならうちからも何か持ってくるよ、うちもうちも、という事になり俄かに宴会が始まった。


 テーブルを中央に集めて上に大きな布を被せて即席の宴会場ができあがる。おかみさん連中の持ち寄った食材が手早く調理されて並べられた。メインはモンラットの丸焼き2個だ。本日の主役ロランゾさんがナイフで切り取った肉を美味しそうに食べている。いつの間に来たのかガランジさんと道具屋の主人も肉を肴にビールを飲んでいる。


 「それにしてもゴータが大金持ちだったとは驚いたぜ」


 「え、どういう事ですか」


 「そりゃおめえ、あの薬草を採って来たってことは女神の庇護の称号持ちなんだろ。ハンパな寄附じゃ貰えねえ称号なんだぜ」


 「いえ、俺の称号は女神の加護っていうのです」


 「そんな称号は聞いたことがねえけどなあ」


 道具屋の主人も知らないと首を横に振る。暫く考えていたが、興味が無くなったのか、まあそんなことはどうでもいいかと言って今度は赤ワインを飲み始めた。俺はオレンジに蜂蜜を混ぜたジュースを作ってもらって飲んだ。


 遊びから帰ってきた子供たちが肉に気付いて飛びつくとあっという間に骨だけになってしまった。ガランジさんと道具屋さんの子供もいたようで、すまない、と目で言ってきたがもちろん気になんてしない。子供はそれでいい。子供に聞くとモンラットは自分たちでも普通に狩れる獲物らしい。でも警戒心が強くて人が近付くとすぐに逃げてしまってなかなか獲れないんだ、とガランジさんと同じ事を言っていた。少しショックを受けながらもアイデアを思い付いた俺は、明日子供たちを連れてすぐ側の草原へ狩りに行こうと誘った。親たちも、いいねえ行っておいでと許してくれた。


 久々に沢山食べて腹鼓を打つロランゾさんを見て皆が笑っている。聞けばこの村の最年長で村長だった。皆からは村長ではなくお爺ちゃんと呼ばれて親しまれているそうだ。そんなお爺ちゃんに道具屋の主人が言った。


 「どうですか、【鑑定】で見てみますか」


 「そうだなあ、すまんが見てくれ」


 どうやら【鑑定】でロランゾさんのステータスにある状態を見るようだ。俺の【鑑定】では状態までは分からない。俺が見れるのは名前、年齢、性別、種族、職業、罪科、称号だけだ。つまり道具屋の主人は俺より高レベルの【鑑定】を持っていることになる。


 「おお、状態から内臓病が消えています。おめでとうございます」


 改めてそう宣言されてロランゾさんは幸せそうに頷いた。ソラーラさんが飛んで来て俺を抱きしめた。胸に顔が埋まった俺が「苦しいです。苦しいです」と言ってバタバタもがくのを見て全員が大笑いして宴会は終わった。


 そうそう、初めて食べた魔物の味は、普通に豚肉みたいだった。

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