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異世界レンタル放浪記  作者: 黒野犬千代
第五章 それぞれの仇討
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第77話 報酬

 門のところまで歩くと下層トリオがいた。どうやら誰かを見送った後だったようで女性の後ろ姿が見えた。下層トリオはケイコの顔もファンミンの顔も知らない。素知らぬ顔で側を通ると話しているのが聞こえた。


 「しっかし驚いたよな。三十面相がいなくなって別の女が牢にいるんだものな」


 「あの詐欺師め、不思議な能力を隠し持っていやがったんだな。誰かと入れ替わる能力なんて聞いたことがねえ。可哀想にあの女性の怯え方は尋常じゃなかったぜ」


 「一応鑑定はしたんだろ」


 「ああ、名前はトレンディー、年齢は22歳、服職人で罪科は無かった。だが【鑑定】スキルがあるようで、俺が【鑑定】したらビクッてなっていたな」


 「しかし三十面相の奴、どこへ逃げたのかな。また商人から被害届と苦情が殺到するだろうな」


 「でもよう、被害者は悪徳商人ばかりなんだろ。そんな奴等まで守る必要ねえだろ」


 「だよな」


 下層トリオは話しながら憲兵隊に戻って行った。



 俺とファンミンのずっと前をその女性がトボトボと歩いている。丸腰で戦場を歩く敗残兵のようだった。


 それを見てファンミンが言った。


 「詐欺師のイメージとは随分違うわね。それに悪い奴しか騙さなかったみたいだし」


 「そうですね。なんだか私、凄く悪い事をしたような気になってきました。そこの建物の陰で着替えるから見張っていてくれるかしら」


 俺は詐欺師のスキルを全て解除し、服も収納を使って着替えてサツキに戻った。裏皮ベストに毛皮の腰巻、黒革のビキニパンツを履き、肘パッドと膝パッドを着けた。髪色も魔法アイテムのカラーリングでライトブラウンになった。


 「待たせたな」


 出て行くとファンミンが俺を見て言った。


 「やっぱり私の男はそうでなくちゃ」


 「だれがお前の男だ。それより借りていたスキルを返すからな。ケイコとはもう会えないぞ」


 「さよなら、ケイコ」


 「ありがとう、ケイコさん」


 俺は元の世界のケイコさんに礼を言いつつ、【レンタル】していた全てのスキルをトレンディーに返した。



 >>>【レンタル レベル4】がレベルアップし【レンタル レベル5】に

     なりました。レンタル期限が12日から24日になりました。

     レンタル可能数が12から24に増加しました。

     レンタルする事が可能になりました。



 なんとスキルがレベルアップした。返却時にも経験値が加算されるようだ。この最後の、レンタルする事が可能になりました、っていうのは何の事だ。当たり前だよな。


 急に無口になった俺を心配してファンミンが話し掛けてきた。


 「どうしたの、急に黙っちゃって。私に愛の告白かな」


 「だから何でそうなるんだ。スキルがレベルアップしたんだ」


 「へぇ、おめでとう」


 「それで不思議なんだが、レンタルする事が可能になったらしいんだ」


 「ん、前から可能でしょ」


 そうなんだよな。歩きながら考る俺の耳に聞き覚えのある男の声が届いた。声のする方を見れば純白の祭服を着た男が四つ這いになって通りすがりの親子に謝っていた。


 「本当に申し訳ありません。私は無実の市民を奴隷にして売り捌き金儲けをしていました」


 親子は気味悪がって足早で去っていった。


 「お許しください」


 別の方でも声がしている。そちらに目を移すと紳士風の男が同じように四つ這いになって道で寝ている酔っ払いに謝罪している。


 「私は金が欲しくて奴隷売買に手を染めました。何人もの女性を奴隷にしてしまいました」


 言い終わるとサレイニー準男爵は人気のない道を選んで這って行った。


 「命令を守っているな」


 「そうね、ああしないと死んじゃうからね」



 拠点の借家に着くとザキトワが椅子に座り手紙を手に真剣な表情をしていた。ミーナはその横の床に体育座りをしている。目が真っ赤だ。


 俺たちが入るなり、ザキトワが言った。


 「ファン、家に帰るわよ」


 「どうしたの、ザキちゃん。何かあったの」


 「お爺様が倒れたわ」


 「ミーナもどうしたんだ。泣いているのか」


 「お父さんが吐血したって、シスター・ファーニスから連絡があったの。療養所に行かなきゃ」


 「そうか、お父さんを保護してくれている人ってファーニスさんだったんだな」


 「うん、明日馬を飛ばして行くことにした」


 「すぐに、戻って来るだろ」


 俺が尋ねるとミーナは悲しそうに首を横に振った。


 「もう人に任せきりにはできないかな、私のお父さんだから。せっかくサツキと親しくなれたのに。せっかく皆と仲良くなれたのに」


 「よし、俺が送っていく。一人だけじゃ心配だ」


 ミーナは嬉しそうに泣きながら笑った。


 「うん、ありがとう」


 「私たちも明日出るわ、ファンもそれでいいわよね」


 「オッケー。憧れの冒険者ももうお終いね」


 もの問いたげな表情の俺にザキトワが説明した。


 「私とファンは従妹同士なの。私たちのお爺様は商会をいくつも持つ商会グループのオーナーで、私たちの父親はそれぞれその商会の長なのよ。だから私たちは自由にさせてもらっていたのだけど、お爺様が倒れたから父親たちはグループ経営のサポートをしなくてはいけないの。つまり商会長のポストが空いてしまうというわけ」


 「という事はザキトワとファンミンが商会長になるっていう事なのか」


 「そゆこと、へへ、ファンちゃん本当は偉いんだぞ」


 「サツキ君が心配するのも分かるわ。ファンで大丈夫なのかって思ったんでしょ。でも大丈夫よ。ファンも私も生まれた時から商会の中で生活してきたんだから。いつかこういう日が来るって覚悟していたわ」


 そういう事だったのか、どうりで鑑定紙を見分けたし憲兵隊でも堂々としていた。


 「少年、それが私とザキが旅に出た理由なのよ。だって商会の中しか知らないなんてつまらないでしょ、別の世界も見てみたいじゃない。でも今回の冒険で現実を思い知ったわ。カトリーヌにしろ少年にしろ、私たちが知らないスキルが沢山あるって知っちゃったら冒険者として身を立てるのは無理って思ったわよ。そうそう、ザキ、少年には名前の話をしたわ」


 「それなら話が早いわ。サツキ君、ミーナちゃん、商都に来たら必ず会いに来るのよ。私たちの名前は本名じゃないけど、分かるようにしておくわ」


 「そうねぇ、どうしようかな。そうだ、美人従妹の商会はどこかって尋ねるといいわ」


 ファンミンがそう言うとザキトワが呆れた。


 「ちょっと、商会員たちに、美人従妹を探す人がいたら私達のことだって言うつもりなの」


 「いいじゃない、本当のことなんだから」


 「それもそうね」


 いいコンビだった。


 「俺も偽名だというのは前に言ったよな。本名は後でファンミンに聞いてくれ」


 「え、どうしてファンは知っているの」


 「さっき憲兵隊で話が出たのよ。少年ってば、少年のくせに大物だったのよ」


 「なに、大物って」


 ザキトワが訊くと何故かファンミンが胸を張って答えた。


 「ついこのあいだ噂になっていたのを覚えているかな。盗賊団を討伐したのが実は一人の男だったっていう話」


 「ひょっとして製材所18人斬りのことかしら」


 「それよ、それ、それがここにいるゴータちゃんなのよ」


 なんだそりゃ。そんな噂があったのかよ。秘密にしてくれるって言っていたのに、やはり憲兵隊はダメダメだな。それにファンミンのやつ、当たり前のように名前を言いやがった。


 「誰にも言わないでくれ。盗賊の身内に狙われたら堪らないから。ミーナにもちゃんと教えるから、聞いたら忘れるんだぞ」


 俺は3人に事件のあらましを語った。もちろんカレン少佐の事情は伏せて話した。俺の能力を知っている3人は話の情景が浮かぶようで俺の話に聞き入った。全てを話し終えると3人は聞き疲れたように息を吐き、ザキトワとミーナが言った。


 「凄まじいわね。よく生きていたわ」


 「ゴータに買われて良かった」


 ファンミンは合点したように頷いて言った。


 「そりゃ、少佐も惚れるわ」


 「おいファンミン、そんな訳があるか」


 苦笑いする俺をファンミンは横目で見ながら言った。


 「本気でそう思っているの」


 「当たり前だ。しっかりフラれているしな」


 「信じられない。この男、何もわかってないわ。あの二人が軍服じゃなくて私服でいたのはどうしてなのよ」


 「クリーニング中か何かだろ」


 「はぁ、ダメだこりゃ。好きな男と会うかもしれないのに堅苦しい軍服は嫌だったのよ」


 「いやいや、それならもっとオシャレしてくるはずだ。二人とも普段着っぽかったから、やはりお前の考えすぎだ」


 「ばっちりオシャレしてたら相手が引くかもしれないでしょ。さりげなさが重要なの」


 「でもどうして俺と会うかもしれないって思ったんだよ」


 「スキルの件とシャツの件があったからゴータが絡んでいるのは気が付いていたんでしょうね。だから、もしかしたらゴータも一緒に訪ねてきてくれるかもって思ったのよ」


 うーん、と唸る俺にファンミンが訊いた。


 「もしかして、少佐がゴータの名前を言ったり18人斬りの事を喋ったりした理由も分からないんでしょ」


 「単なるコンプライアンス違反だろ」


 「何を言っているのか分からないけど、やっぱりまだまだ少年ね。あれは少佐なりのアピールよ」


 「アピール」


 「そう、私はゴータを知っているのよ、ゴータは私にこれ程の事をしてくれたのよ、っていう」


 「なぜアピールする必要があるんだよ」


 「決まっているでしょ。私に少年を奪われたくないからよ」


 「そんなこと考えもしなかった」


 「それに少年は隠そうとしていたけど、サルード中尉にはケイコがゴータだってバレちゃったわよ」


 「嘘だ、完璧に演じたんだぞ」


 「少年、自白しちゃったのに気付いてないの」


 「いや、そんな事はない。最後までしらを切り通した」


 「自分で言ったじゃない。ケイコはカトリーヌのスキルを使う事ができなかった、それと同じでゴータのスキルを使う事もできない、って」


 「そうだぞ、その通りだろ」


 「違うわよ。ケイコは他人のスキルを使えないのにアジトではゴータのスキルが使われた。つまりケイコはゴータでなければならない。証明されちゃったじゃない」


 「……」


 「そしてそのゴータはこのファンちゃんがバカにされたのを許せずにブチ切れた。憲兵隊に俺はファンミンが好きだって宣言したのよ。つまりゴータは私のモノってことね」


 ハッハッハ、とファンミンの高笑いが借家に響き渡った。


 ミーナが慌てて言った。


 「ダメだよ。ゴータはアタシのもの。ゴータとは何日も夜を共にしたんだから」


 なんだそれは、一緒の部屋に泊まっただけだろ。


 それを聞いたファンミンも負けじと言った。


 「私なんてオッパイを鷲掴みにされて抱きしめられたんだから」


 なんだよそれは、迷彩魔法コートで移動する時にたままたそうなっただけだろうが。


 二人の告白に唖然としてからザキトワが、


 「パーティーリーダーは私ですよ。リーダーといえば妻も同然です」


 訳の分からない事を言った。


 冗談とも本気とも分からない、いや冗談だよな、そんな会話が続き、いつのまにか女性たちから暗い気持ちは吹き飛んでいた。  

 


 翌朝、俺たちは冒険者ギルドで落ち合うことにして馬に乗り、別々に借家を出た。ザキトワとファンミンは手紙を出しにハト小屋へ行った。この世界の一般郵便は馬車便とギルド便とハト便があるらしい。馬車便は駅馬車に手紙を乗せて目的地まで経由を繰り返すので安いがやたらと時間がかかる、ギルド便はその名の通りギルドに依頼して冒険者が届けるというもので速さは報酬次第だが遠くだと依頼を引き受ける冒険者が見つからない場合も多い、一方ハト便は伝書鳩を利用するもので一番確実で速いが料金も高く、全国一律で金貨1枚だ。実は金持ちだったザキトワたちは迷わずハト便を選んだ。そういえばアルル村で屋上にハト小屋のある家を見たことがある。あれがハト便の店だったのだろう。一般郵便以外では、神殿や軍が魔法を利用した通信方法を持っているらしいが市民は使えないそうだ。


 俺とマサラは本来の姿に戻って西地区にある白馬寮へ行った。顔見知りになったフロントの男性が笑顔で迎えてくれた。俺はたっぷり湯に浸かりたいからと言って8人分の料金を払って浴場を利用させてもらい、8人分の湯を収納に入れた。その間にマサラには宿屋近くの酒屋で風呂桶替わりのワイン樽を3つ買っておいてもらった。出費は湯とワイン樽で銀貨8枚だった。


 用事も済ませたし待ち合わせ場所の冒険者ギルドへ向かおう。東西の大通りに出てしばらく進むとどこかでサレイニー準男爵が誰かに謝っている声が聞こえた。しっかり謝って自分のした事を反省するといい。マードは近くにいないようで声は聞こえなかった。


 中央交差点に馬を進めているとドンドン・ガンガンと大きな音がしている。音の正体はすぐに分かった。神殿があった場所には数多くの人足(にんそく)がいて大槌を使って白い石を砕き、(もっこ)で運び出していた。中には魔法が使える人足もいるようでタクトを振って大理石を切っている。神殿の建物も石柱も壊し終えたようで石の塊が積んであるだけだ。

 俺とマサラは顔を見合わせた。


 「昨日までは普通に建っていたよな」


 「うん、たった1日で何があったんだろうね」


 俺は人足の中に知った顔を見つけた。たしか、ハナマル解体という解体屋の親方、ハナマールさんだ。馬を降りてそちらへ行くと向こうも俺たちを覚えていたようで、


 「おう、あの時は弟子が助けてもらったな」


 と挨拶してきた。以前、ゴミ屋敷の住人が飼っていたラットナイトを倒して作業員を助けたことがあった。


 「ハナマールさん、昨日ここを通った時は神殿があったのに、どうしたんですか」


 「ああ、昨日の夜、神殿から組合に解体の依頼があったんだ。解体業者も土建屋も工事屋も全員が呼ばれて夜明け前から作業したんだぜ。金はいくらかかっても構わないからさっさと壊せだとよ。真夜中に神殿騎士が馬を飛ばして来たらしいぜ」


 「どうして取り壊すんですか」


 「なんでもよ、この街の司祭がとんでもねえ不祥事を起こしたらしいぜ。その証拠に司祭が通行人に土下座して謝って回ってるだろ。神殿としちゃあそんな不祥事はあっちゃならねえ事なんだ。だから建物ごと壊して、そもそもこの街に神殿は存在しなかったって事にするらしい。書類も全部燃やしてたぜ。徹底してるよな」


 「そんなので無かった事にできるんですか」


 「人の噂も何十日とかって言うだろ。時間が経ちゃあ無かった事になるかもな。それに審判の首輪も廃止するらしいぞ。既に作動しているのはどうにもならないが未使用の首輪は無効にする魔法を全世界に発するそうだ」


 「全世界に……そんな事が可能なんですか」


 「魔法の事はよく分からんが、強力な魔法使いが何人も集められて合同で魔法を流すらしい」


 その時、


 「親方ぁ」


 と言って二人の人足が走って来た。


 「おう、お前ら丁度良い時に来た。命の恩人だぜ」


 二人は俺の顔を見ると頭の手ぬぐいと鼻と口を覆っていたマスク代わりのバンダナを外した。タルタルムとその相棒だった。


 「はい、姿が見えたので飛んできました。あの時はありがとうございました」


 二人は直立不動で俺に礼を言った。


 「あの時の二人か、二人ともすっかり逞しくなったな」


 わずか数日ぶりだが確かに逞しくなっていた。顔にも自信とやる気が(みなぎ)っている。タルタルムは、へへへ、と嬉しそうに笑うと懐からボロ布の包みを取り出した。それを丁寧に広げると中から黒い置物が現れた。大きさは10cmほどで何かの動物が座っているように見える。


 「これ、神殿の基礎を壊した時に見つけたんです。この間のお礼に貰ってください」


 「その気持ちはありがたいが、神殿の物なんじゃないのか」


 「そうじゃないと思います。基礎より下に埋まってたから」


 俺がためらっていると親方が言った。


 「神殿騎士は必要なのは武器と防具だけで全部持ち出したと言ってたし、基礎の下なら見つけた奴の物だぜ。貰ってやんな」


 俺は布ごとその置物を貰った。


 「ありがたく頂戴するよ、タルタルム。部屋に飾らせてもらう」


 礼を言われたタルタルムは嬉しそうに微笑むと相棒を連れて仕事に戻っていったが、途中で首を傾げ、


 「どうして俺の名前を知っているんだろう」


 と呟いた。


 俺とマサラは親方に仕事の邪魔をした事を詫びて冒険者ギルドへ向かった。途中、裏通りの方でサレイニー準男爵が謝罪している声が聞こえたが今回もマードの声は聞こえなかった。あの野郎、人の通らない場所を見つけて休んでいるのか。命令で建物には入れないからどこかの物陰で気配を消しているのだろう。


 俺たちは建物の陰で収納を使った早着換えをしてサツキとミーナになった。冒険者ギルドの前庭で馬を繋いでいるとちょうどザキトワとファンミンがやって来た。


 「お、グッドタイミング」


 ファンミンが相変わらずの明るさで言い、ザキトワは、


 「それじゃ早速行きましょうか。サツキ君が憲兵隊で貰った証明書がどれほどの役に立つか見てみましょう」


 4人揃って奥へと入っていく。手前の棟は受付と事務で、奥の棟が依頼掲示板と報酬カウンターがある冒険者棟だ。普段は仕事探しで混雑している依頼掲示板も昼前のこの時間はガラガラだった。依頼掲示板にはランクごとに仕事内容が貼り出されているがFランクの横には別枠があって、ここには冒険者ランクに関係なく誰でも受けられるオープンランクの依頼が貼り出されている。ランクごとの掲示板には依頼がびっしりと貼り出されていたが、オープンランクの依頼は3枚だけだった。



 『アルガ町 手紙配達 銀貨2枚 7日以内』


 『ノースフォート宿屋 食材配達 銀貨4枚 3日以内』


 『ノースフォートダンジョン 冒険者連続失踪事件 解決寄与度に応じた報酬』



 ザキトワが最後の紙を剥がして言った。


 「これね」


 「それだな」


 俺も頷き報酬カウンターへ行った。

 報酬カウンターにはサリサリーがいた。今日も白シャツにブルージーンズだ。


 「サリーちゃん、どうも」


 「サツキさん、あの騒ぎがあってからお見えにならないから、どうしたのかと思っていたのですよ」


 食堂で緑縁隊と大暴れした件だ。


 「あの時はミーナがやられたと勘違いしちゃって。お恥ずかしい」


 ザキトワが依頼書と一緒に憲兵隊で貰った証明書を渡すと、それに目を通したサリサリーが、


 「これは大変だわ」


 と言って俺たちを別室へ案内してから人を呼びに行った。

 十数分待たされた後、サリサリーと一緒にナルガイロスが入って来た。ナルガイロスには冒険者の新規登録をした時に初心者講習をしてもらった。講師だけでなく報酬業務もやるのか。


 「待たせてすまない。おお、俺が講師をした4人がパーティーを組んだのか。しかも大きな仕事をやってのけたとは、俺も鼻が高いぞ」


 「私たちも良い先生に教えてもらってラッキーでしたよ」


 ファンミンが調子の良いことを言うとナルガイロスの鼻の下が少しだけ伸びたような気がする。

 

 「無記名証明書か。憲兵隊がこんな書類を発行するなんて初めてだぞ。これなら報酬の受領書にサインも必要ない。サリー、報酬を持ってきてくれるか。お前たちはギルドカードを出してくれ。ポイントを付与するからな」 

 

 ナルガイロスはギルドカードを受け取ると、


 「パーティー名は……チームビキニか。そういやお前ら全員ビキニだな」


 と言ってザキトワ、ファンミン、ミーナと順に見て鼻の下を更に伸ばした。


 「よしポイントを付けたぞ。ランク上げに必要なポイントが貯まっているようだがランクは上げておくか。一旦上げると戻せないから注意してくれよ」


 「ファン、私たちはランク上げしておきましょうよ。FよりEの方がカッコいいわ」


 「そうね、ザキ。バストサイズとは逆ね」


 「アタシも上げておく」


 ミーナも同意した。もちろん俺にも異存は無い。


 「俺もそうする」


 するとナルガイロスが尋ねた。


 「どのランクにするんだ」


 「どのってEでしょ。サイズアップブラを着けた私と同じ」


 ファンミンが答えるとナルガイロスは鼻の下を伸ばしまくって答えた。


 「Cランクまで可能だ」


 「そんなに」


 驚く俺たちにナルガイロスが説明した。


 「ダンジョンで冒険者が行方不明になる事はあるが、このところその数が尋常じゃなかった。この支部でも気にしていたんだ。それが見事解決して、しかも憲兵隊の証明書には最大の貢献度だと書いてある。したがって付与ポイントも最大になる」


 俺は気になったことを尋ねてみた。


 「ちなみにギルドカードやギルドに依頼内容は記録されるんですか」


 「記録されるのは引受中の依頼内容だけだ。終了した時点で成功か失敗かの結果だけが記録されて内容は消える」


 トントン、とノックがしてサリサリーが入って来た。


 テーブルに報奨金が置かれ、額を確かめたナルガイロスが言った。


 「さあ、受け取ってくれ。金貨100枚だ」

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