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異世界レンタル放浪記  作者: 黒野犬千代
第五章 それぞれの仇討
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第72話 解放

 ファンミンは口が動かせることを確かめると深く息を吸って、そして大きな声で叫んだ。


 「マリオネット」


 ありがとう、ファンミン、感情がこみあげて来るのをぐっと我慢して【マリオネット】をイメージすると脳内ランプが点灯した。正解だ。そのまま実行してカトリーヌのスキル【マリオネット】を【レンタル】した。


 その瞬間に俺の首輪が締まり始めた。スキルを使うなという命令を破ったからだ。徐々に息が苦しくなった。咄嗟に剣を捨て、首輪を握って力任せに開こうとするがビクともしない。いや違う、こうじゃない、俺は急いで首輪を収納に入れた。思っていたより苦しくてパニックになってしまった。危ない所だった。


 「ゴホゴホ」


 (むせ)て倒れ込みそうになった俺にファンミンが駆け寄って支えてくれた。


 「大丈夫か、ケイコ」


 そんな俺とファンミンを見たカトリーヌが愕然として何かを呟いている。スキルを再発動させようとしているのだ。当然スキルは発動できず、それどころかスキル自体が無くなっている事に気付いたカトリーヌが絶叫した。


 「私のスキル、私のスキルを奪ったのね。そいつを殺して」


 カトリーヌの命令に反応したムイザが腰のナイフを抜いて後ろから襲おうとした時、ザキトワが猛ダッシュで突っ込みムイザの腹を蹴った。蹴られたムイザは壁まで飛ばされ、頭を打って意識を失った。


 一味の冒険者たちも事態に気付いた。


 「首輪が消えたぞ」


 「おい、どうしてあの女たちは動けるんだ」


 「カトリーヌのスキルが効かない」


 騒然とする中、ジョニードとカバストフに挟まれていたミーナがカットラスを抜きざまにカバストフの首に叩き込んだ。カバストフは首に食い込んだ剣を両手で掴んだが切断された動脈から血が噴出して力尽きた。突然の惨劇に恐怖して逃げ出そうとしたジョニードは頭部にミーナの上段蹴りを受けてその場に突っ伏した。


 カトリーヌのスキルを過信して武装解除していなかったのが裏目に出たな。ミーナはジョニードの剣を奪うと俺たちの所へ駆け寄ってファンミンにその剣を手渡した。ミーナ、ファンミン、ザキトワは俺の前へ出て剣を構えて敵を牽制している。うーん、なんだか俺が守られているようだな。まぁ実際に一番弱いのは俺なわけだが。仲間三人に守られ漸く息を整えた俺は狼狽する敵に向けて【マリオネット】を発動させた。


 ……


 が、何も起こらなかった。


 「マリオネット」


 言葉にしてみたがダメだ。


 これはひょっとしてファンミンの魔法アイテムと同じで、本人にしか使えないんじゃないのか。スキルさえ奪えば一気に制圧できると思って油断していた。こんな事なら敵の持つスキルを探っておくべきだった。


 俺が動揺している間にカトリーヌはタガートスとアサブルのいる場所へ移動した。岩に潰されるのを恐れたのだ。その場所はカレンさんたちが閉じ込められた長木箱があって岩を出せない。またしても失敗してしまったが、それでも構わない。敵はスキルを奪った俺を狙ってくると思われるからだ。女神の加護の称号を持つ俺は一撃で死ぬことは無い。仲間の誰かよりも俺が狙われた方がいいに決まっている。


 スキル名を呟いた俺を見てカトリーヌが言った。


 「マリオネットは私の固有スキルよ。お前になんか使えるものか。何度も何度も男に騙され裏切られ、全てを奪われながら育てて来た私だけのスキル。女を食い物にする男どもから私を守ってくれる大切なスキルなのよ。私を馬鹿にして弄んで踏みにじり、ボロ雑巾のように捨てた男たちは全員この能力で自殺させてやったわ。この能力があれば男は私だけの男になるの。なんて素敵なんでしょう。貴女も女性なら分かるでしょ」


 こいつはどうかしている。 


 「分かるものか。振ったり振られたりは当たり前の事だろ。何度も何度も騙されるのはそこから学ばなかったお前がアホなだけだ。人間を操り人形にして何が素敵なんだよ。お前に従うのはスキルが怖いだけで、お前を好きなわけじゃない。運命の出会いがあったとしても、その男はお前を好きになる前に操り人形にされてしまうんだ。そんな事も分からずに喜んでいるお前は薄気味悪い憐れな女だ」


 女性口調にするのを忘れて怒鳴った俺の声に被せるように壁を打つ音と振動が響いた。


 ドン、ドン、ドン……


 ダンジョンへの出入口を塞いでいる壁だ。


 ドン、ドン、ドン、ドン、ドン、ガン……


 探るように何か所かで響いていた音は、ついにその場所を突き止めたかのように一か所に集中し始めた。俺が置いた服と矢を見て憲兵隊が場所を突き止めたのだ。


 ガン、ガン、ガン……


 ボルーのロックウォール魔法で造られた壁が揺れ砂埃と共に小石が落ち始めた。


 音を聞いたアサブルが不安げな声で言った。


 「おい、あれは合図の音じゃないぜ。誰だよ」


 俺は、ハハハと笑って、


 「あれは憲兵隊よ。すぐになだれ込んでくるわよ」


 と女性口調に戻して自信満々に告げ、一度言ってみたかったセリフを言った。


 「キミたちは完全に包囲された。無駄な抵抗は止め、武器を捨てて今すぐ投降しなさい」


 「……」


 アジト内が寒くなった気がするが気のせいだろう。


 「何を言ってやがる。憲兵隊がこの場所を知ってるはずがねえだろ」


 そう否定するタガートスを、俺は【演技 レベルMAX】と【話術】を使い鼻で笑って言った。


 「サツキさんが呼んできたのよ。ここに私たちが連れてこられるのを尾けていたの。彼の速さと強さはそこのカトリーヌとかいう女がよく知っているでしょ。彼は憲兵隊の潜入捜査官よ。あんなに強いFランク冒険者なんているわけないでしょ」


 それを聞いたマードが馬鹿にしたように言った。


 「ワシは司祭だぞ。憲兵隊ごときに手出しができるものか」


 俺は余裕の笑みを浮かべてマードに言った。


 「普通ならそうでしょうね。でもその長木箱に入れられているのは憲兵隊グラリガ支部の副司令で伯爵令嬢のカレン少佐よ。そんな人を誘拐して奴隷として売ろうなんて王も軍も黙っているわけがないでしょ。神殿だって末端の一司祭ごときを庇ってくれるのかしらね」


 俺の言葉を聞いたマードは信じられないという顔をして叫んだ。


 「なんだと、あのカレン少佐なのか。クソッ、お前たち、なぜそれを早く言わんのだ。わかっておればこんな薄汚い奴隷女よりカレンを嬲ってやったものを」


 そっちかよ。

 呆れかえって言葉が出ない一同にカトリーヌが言った。


 「憲兵隊が来ても私のスキルが戻れば全員を支配できるわ。早くその女を、ケイコを殺して」


 そうなのだろうか。俺は【マリオネット】のステータス画面を脳内に表示してみた。


  

  【マリオネット レベルMAX】

    1 支配中:

    2 支配中:

    3 支配中:

    4 支配中:

    5 支配中:

    6 支配中:

    7 支配中:

    8 支配中:

    9 支配中:

   10 支配中:

   11 支配中:

   12 支配中:

   13 支配中:

   14 支配中:

   15 支配中:

   16 支配中:

   17 支配中:

   18 支配中:

   19 支配中:

   20 支配中:

   21 支配中:

   22 支配中:

   23 支配中:

   24 支配中:

 


 なるほど、発動するとその相手の名前が支配中のところに表示されるという事か。だとすると支配できるのは24人までだ。


 「カトリーヌ、嘘が下手ね。貴女のスキルで支配できるのは24人まで。憲兵隊は通常任務中の30名を除く46名全員が動員されているのよ。あなたたちに勝ち目は1ミリも無い」


 もちろん何人動員されているかなんて知らないが、こんなのは自信を持って言った方の勝ちだ。


 「どうしてそれを……」


 悔しそうに言うカトリーヌに追い打ちをかけて言ってやった。


 「それに私が死んでも奪った能力は戻らないのよ。スキルの無いお前はただの憐れな女。かわいそうに」

 

 そう言う俺を目を吊り上げて睨んだカトリーヌはタガートスとアサブルに命令した。


 「そんなの嘘よ。あいつを殺して、そうすれば私のスキルが戻るわ。あいつさえ死ねばすぐに全員を支配できるわ」


 「カトリーヌ、スキルを奪うスキルなんて聞いたことが無いぜ。本当にお前のスキルが無くなったのか」


 タガートスが剣を抜きながら確かめた。


 「何度も言わせないで。本当よ、タガートス、早くあの女を始末しなさい」


 それを聞いたタガートスはアサブルに言った。


 「だってよ、アサブル」


 アサブルも剣を抜きながら頷いて答えた。


 「ああ、タガートス」


 そう言うと二人は剣を握る手に力を込めて、それぞれの剣を振るった。


 バサ、バスッ


 カトリーヌの背中と肩が斬られて血が噴き出した。

 防御力が付加されているビキニアーマーは切れなかったが露わな肌は傷口がパックリと開きドクドクと血が流れている。緑色の上下のビキニは、あっという間に血で深紅に染まった。

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