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異世界レンタル放浪記  作者: 黒野犬千代
第五章 それぞれの仇討
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第68話 俺の魔法属性

 「それには及ばん。箱の中にいても見ることができるのだ。どれ、その二つの木箱か。見てやろう」


 そう言ってカレンさんの入れられている木箱を見るマードの目が金色に光った。これが魔法属性の適性を判断するという神眼か。カネ好きの神殿だけあって金色に光りやがった。


 「ふむ、右の木箱は僅かな火属性だけだな。これでは低級の魔法使いにもなれぬ」


 マードは視線を動かせてリシェルさんの木箱を見て言った。


 「この木箱の女は水属性だ。これもたいした能力ではない。残りは3人の女冒険者か」


 あれ、これはもしかしたらタダで魔法属性を見てもらえる大チャンスなのでは。

 そう思った俺を見てマードが言った。


 「この女は見るまでも無いな。空間魔法が使えるなら喰われる前に使っておるわ。お前は犯人共々じっくり苦しませて殺してやる」


 ふざけんな。ぬか喜びさせやがって。俺は演技するまでもなく悔しく恨めしい目でマードをねめつけた。薄ら笑いで俺をスルーしたマードはミーナを見て金色に目を光らせて言った。


 「この女は土と金か、二つ適性があっても能力が低すぎて魔法学院には入れんレベルだ」


 ミーナを見てもマサラだとは気付かなかった。これならわざわざ変装させる必要は無かったかもしれない。


 マードはザキトワの隣に張り付いているカトリーヌに言った。


 「その女が最後か、おそらくはこいつが犯人だろう。カトリーヌ、しっかりと口を閉じさせておくのだ。詠唱させなければ魔法は使えんからな」


 「はい、マード様」


 カトリーヌが何か呟くと少しだけ開いていたザキトワの口がピタリと閉じた。


 「ふむ、それでよい。さあ、女よ、犯人なら地獄を味わうことになるぞ」


 そう言ってマードは目を金色に光らせてザキトワを注視した。


 「おかしい、この女でもない。微かな火属性があるだけだ。誰が犯人なのだ」


 マードが言うと全員の視線が俺に向けられた。


 「まさかとは思うが見てみるか。カトリーヌ、この女の口を閉じよ。叫び声を聞けなくなるのは残念だが致し方あるまい」


 再びカトリーヌの口元が動き、俺の唇はしっかりと閉じられて声を出せなくなった。

 マードの金色の目が俺を見つめる。


 「なんだ、コイツは」


 全員が注目する中でマードが言った。


 「何も無い。微かな適性すらない。これでは生活魔法の可能性すらゼロだ。ただの役立たずだぞ」


 それを聞いた一味の冒険者たちから失笑が漏れた。


 「なんだ、さっきの威勢といい、ただのハッタリ女じゃねえか」


 「本当にムカつく女だな、だがコイツじゃないなら誰なんだ」


 首をひねる一味の冒険者たちにカトリーヌが言った。


 「もしかすると魔法では無いのかも」


 それを聞いた槍使いの冒険者が言った。


 「魔法じゃないなら怪力の持ち主なんだろ。でもそんな奴は何処にもいないぜ」


 「ええ、魔法でも怪力でもない。スキルとしか考えられませんわ」


 カトリーヌの言葉にタガートスが頷いて言った。


 「たしかに、もうそれしか考えられねえ。不思議な能力だが、カトリーヌのだって初めて知ったスキルだからな。空間魔法みてえなスキルが存在していてもおかしくはねえ」


 「そうだとしても誰なんだよ。カトリーヌの鑑定レベルじゃスキルまでは見られねえんだろ」


 アサブルがそう言うとカトリーヌは笑いながら答えた。


 「所有スキルを見るにはレベル7の【鑑定】が必要ですからね。それに、たとえレベルMAXになっても固有スキルまでは分かりません。ですが安心してください。犯人は二人に絞れています。ケイコさんの時は助けないでミラーミさんの時は助けた。つまり犯人はミラーミさんご自身かシティカさんという事になります」


 自信たっぷりに言っているが全部ハズレだ。まあ普通に予想すればそうなるだろうな。だがそもそも俺の腕が喰われたという前提が間違っているのだ。【容姿操作 レベルMAX】を使って喰われたように見せているだけなのだから。

 

 「一理あるな。スキルなら神殿の首輪では封じられねえ」


 タガートスがそう言うとマードは二人の女性奴隷に命じた。


 「スキルの使用を禁ずる。声を出すことも許さん」


 「さすがマード様。そうすれば審判の首輪でもスキルを封じられるのですね」


 カトリーヌが(おだ)てるとマードが気を良くして言った。


 「使い慣れておるからな。卑しい奴隷ごときを操るなど容易いことよ。さて、怪しげなスキル使いはどちらの女か確かめてやろう。まずはお前だ」


 マードが下着に入れていた手に力を込めるとオレンジ髪の女性奴隷シティカは痛さに顔を歪めて前屈みになってしまった。マードはそれを見ながら嬉しそうに、


 「1度だけスキルを使う事を許す。あの岩を消すのだ。声を出してもよいぞ」


 と言ってゴブリンソルジャーを押し潰している巨岩を指さした。


 「無理です。私にそんなスキルはありません。お許しください」


 シティカがそう言った瞬間に首輪がジワジワと締まり始めた。シティカは手で首輪を開こうとするが、首輪はジワリジワリと締まり苦しさに倒れ込んでしまった。


 「許す。お前では無いと言うなら誰が犯人なのだ。次は無いぞ。さあ犯人を指さすのだ」


 マードはシティカとミラーミをちらちらと見比べながら愉快そうに言った。シティカにミラーミを裏切らせたいのだ。シティカは喘ぎながら、申し訳なさそうにミラーミを指さした。ミラーミは目を丸くして首を横に振って否定した。その目は絶望の色と涙で溢れている。


 それを見たムイザが失くしていた表情を取り戻して言った。


 「そうだよ、それが普通なんだ。自分が助かるために友達を切り捨てるのは当たり前の事なんだ。シティカは間違ってないよ」


 「カトリーヌ、この新入りは大丈夫なのか」


 マードが訊くとカトリーヌが微笑みながら答えた。


 「ムイザさんはまだ少し不安定なのです。昨日試練を乗り越えたばかりですので」


 「そうか、いつもの試練で誰かを殺したのか。ムイザよ、それを苦にする事は無い。自分が生き残るためだ」


 「でも司祭様、そこにいるケイコは友達を裏切らずに自分から死ぬ道を選びました」


 ムイザが言うとマードは冷ややかな視線を俺に向けて言った。


 「その結果があのように骨になるまで喰われておるのだ。ゴブリンが死ななければ全身をゆっくりと喰われたであろう。素直に友人のどちらかを選んでおれば自分は生きられたし友人もすぐに死ねたのだ。あの女は偽善者だ。だから今その罰を受けている」


 マードはミラーミに視線を移し、


 「お前が犯人だったか。まずはその能力を披露せよ。あの岩を消すのだ。声を出すことも許す」


 そう言って先程と同じ巨岩を指さした。


 皆が巨岩に視線を移した時、俺はその岩を収納に戻した。


 巨岩が一瞬で消えるのを目の当たりにして一同は言葉も無い。最も驚いたのはミラーミ自身だろう。そんな能力が無いことは自分が一番よく知っているのだから。

 

 漸くマードが口を開き、積まれている木箱を指さした。


 「よし、次はあそこの木箱をそこに移動させてみよ」


 俺は木箱を収納しようとしたが、その木箱は誰かの所有物だったようで収納できなかった。それならと、今度はその木箱を【レンタル】して一旦収納に入れてから指定された場所に出して置いた。【レンタル】した際にステータス画面で確認したらその木箱の所有者はマードだった。俺のスキル【レンタル】の枠は12だ。貴重な枠をこんな木箱に使いたくは無かったが敵を欺くには仕方がない。これで【レンタル】枠の空きはあと1つだけになったので必要なくなった【馬術 レベル3】を神殿衛兵ジミホアンに返却して空きを増やしておいた。


 命令されたとおりに木箱が移動したのを見たミラーミは訳が分からず唖然としているが、マードは満足そうに頷いて言った。   


 「カトリーヌ、これは使えるのではないか」


 「はい、マード様。この能力があれば面倒な荷運びが楽になりますし、禁制品の密輸にも使えるのではないかと思います」


 「決まりだな。女よ、お前はツイているぞ。奴隷として売るのは止めだ。ワシの手下として一味に加わるのだ。嫌だというのなら再びこの部屋にゴブリンを誘い入れてお前をジワジワと食わせる。もちろんスキルの使用を禁じた上でだから、先ほどのようにゴブリンを殺すことなどできぬぞ。さあ、どちらか選ぶのだ」


 ミラーミは頷くしかなかった。


 「名前は……ミラーミか、賢明な選択だ。その能力を生かしてカネを稼ぐのだ。その首輪は取れんがワシが司教に昇格すれば良い生活をさせてやる」


 マードがそう言うとミラーミは項垂れて言った。


 「はい、司祭様。頑張ります」


 「では、お前が決して裏切れぬように試練を与える。お前の友人のこの女奴隷を巨岩で押し潰すのだ」


 それを聞いたシティカは泣き喚いて言った。


 「そんな、犯人を教えれば助けるって……」


 「そのような事は言っておらぬわ。助かるために友を売るとは見下げ果てた奴め。ミラーミよ、この女はお前を裏切ったのだ。殺すのを躊躇う必要などない。無論、罪科は殺人になるがそもそも審判の首輪をしておるのだ、罪科など気にする必要はないのだぞ」


 マードはシティカの下着に入れていた手を出して立ち上がり距離を取ろうとしたが、巨岩を恐れたシティカはマードに付いて行こうとした。


 「付いてくるな、ワシまで潰されてしまうではないか。おい、カトリーヌ。なんとかせよ」


 マードはシティカに命令してもよかったが、それで従わないと首輪の力で殺してしまう事になり、ミラーミへの試練にはならない。 


 「はい、マード様。お任せください」


 カトリーヌが何か呟くとシティカはミラーミの方を向いて両手を広げて立ったままピクリとも動けなくなった。口も閉じられて言葉を発せず、ただその目からは涙が流れるばかりだった。


 今のカトリーヌの呟きはスキルの発動なのではないか。ファンミン頼んだぞ、俺は心の中で声援を送った。

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