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異世界レンタル放浪記  作者: 黒野犬千代
第五章 それぞれの仇討
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第67話 神眼

 俺の意思とは関係なく、手が穴から出されて体が後ろを向かされた時、カトリーヌが何か呟いているのが見えたがファンミンからの連絡は無かった。スキル名を言っていたのではないようだ。


 考えに集中していた俺を見たカトリーヌは、俺が呆然としていると思ったようで声を弾ませて言った。


 「うふふ、ケイコさん。食べられていく感触はどうですか。痛いですか、苦しいですか、今謝ればすぐに死なせてあげます。さあ、言ってごらんなさい。『私が間違っていました、お願いですから殺してください』って」


 俺が黙っているとマードがニヤニヤ笑いながら言った。


 「女め、出血が酷くて死にそうではないか、せっかくのショーがこれで終わりでは面白くない。わしがハイヒールを掛けて止血してやろう。高貴なワシの慈悲をありがたく受けるがよい。といっても更に苦しい時間が待っておるがな。ガハハハ」


 そう言うとマードは金の杖を振って何か呟いた。

 回復魔法のハイヒールを掛けると言っていたが、傷ひとつない俺の体に効果などあるはずはない。

 こういう食べられまくった腕にハイヒールが掛けられたらどうなるのだろう。まさか肉や皮膚が元に戻ることは無いだろうからせいぜい出血が止まって傷口が綺麗になるくらいか。俺はゴブリンソルジャーの血を垂らすのを止め、【容姿操作 レベルMAX】で腕の状態はそのままにして傷口を塞いで血の汚れを控えめにした。もちろん俺に見えているのは普段の俺の腕だ。イメージ上で操作するだけなので成功しているかどうかは周囲の反応を伺うしかない。


 「まあ、さすがマード様の回復魔法は効きが良いですわね」


 カトリーヌが褒めた。これで正解だったようだ。

 褒め言葉に気を良くしたマードは胸を揉んだいたそばかす顔の女性奴隷に訊いた。


 「奴隷よ、お前もそう思うか」


 「はい、司祭様の回復魔法はとてもご立派です」


 「そうだろう、そうだろう。お前も掛けて欲しいか」


 胸を揉まれていた女性奴隷は意味が分からずに尋ね返した。


 「え、どういう事でしょうか、司祭様」


 「お前も腕を穴に入れてみよ。喰われたらワシが回復魔法をかけてやる」


 「ひっ、ですが、司祭様。食べられた肉は回復魔法でも元に戻りません」


 「掛けてみなければ分からんではないか。それともワシの回復魔法はその程度だと愚弄する気か」


 「お許しください。司祭様。お許しください」


 「許さん。ついさっきワシに貫かれて悦びに喘いでいたお前が今度はどのように泣き叫ぶのか見たくなった。今回の女どもは大猟だ。お前ごとき性奴隷が一人減っても収入に差異は無い。ボルー、穴を空けよ」


 マードが命じるとボルーは土魔法で直径15cmほどの穴を空けた。


 「さあ、奴隷。その穴に左腕を入れるのだ」


 「嫌、ゆるして」


 そばかす顔の女性奴隷は首を横にブンブン振って嫌がったが純白の首輪が締まり始めると倒れてもがき苦しんだ。


 「うう、苦しい。助けて」


 「許す。バカめ、奴隷が拒否すれば死ぬだけだぞ」 


 マードが許すと首輪が元に戻り、女性奴隷は咳き込んだ。


 これはチャンスかもしれない。変態マードがこのまま首輪で女性奴隷を殺すはずがない。この女性が拒否し続ければカトリーヌに命じてスキルを発動させるはずだ。そうなればファンミンがスキル名を聞き取れる。誰か知らないが頑張れ。


 「マード様、私が命じて腕を入れさせましょうか」


 カトリーヌが進言した。ナイスだ、カトリーヌ。そうしろ。そんな俺の希望を打ち消すようにマードが言った。


 「いや、この奴隷が自分の意思で喰われるのを見たいのだ。さあ奴隷よ、これは命令ではない。自分から腕を入れよ。そうすれば左だけで許してやろう。命までは奪わぬ。従わなければカトリーヌに命じて両腕と両足、最後は顔を入れさせるぞ」


 いや、マード、それは自分の意思とは言わないだろう。もちろんそんな突っ込みを言える訳もなく、見守る俺の前でそばかす顔の女性奴隷は観念したように立ち上がると壁の穴に歩み寄った。 

 ゆっくりとそして恐る恐る左腕を刺し込んだ。


 「さすがはマード様。その尊いお言葉には誰しもが従うのですね」


 カトリーヌにおだてられたマードは足を揉んでいたオレンジ髪の女性奴隷を前に来させて下着に手を入れながら言った。


 「次はお前の番かもしれんぞ。ガハハハ」


 オレンジ髪の女性奴隷は息を呑んで倒れそうになったがマードの冷たい目に射すくめられて踏みとどまった。



 穴に腕を突っ込んだまま小刻みに震える女性奴隷に全員の視線が集まっていた。

 カトリーヌとマードはまだかまだかと期待しながら、ボルーや一味の冒険者たちは食傷気味に、オレンジ髪の女性奴隷は泣きながら、ムイザは感情の無い目で見つめていた。


 もちろん何も起こる訳がない。壁の向こうのゴブリンソルジャーは俺が全て倒したのだから。


 ……下着姿の女性が壁に腕を入れているのを見る人々。そんなシュールなシーンが数分続いたあと、焦れたマードが言った。


 「どうなっている。ゴブリンどもは腹が一杯で寝てしまったのではないか」


 するとカトリーヌがボルーに命じた。


 「ボルーさん、穴から覗いてみてください」


 ボルーは俺が腕を入れていた穴を見たが血だらけなのが嫌だったのか魔法で覗き穴を作って顔を付けた。


 「変です。何もいません」


 ボルーがマードに向き直って言った。


 俺はその瞬間に収納からゴブリンソルジャー6匹の死骸を置き、その上に巨岩を載せた。


 「なんだと、それは本当か。壁を消せ」


 マードが命令するとボルーは女性奴隷の手を引いて退かせると魔法で壁を崩した。


 目の前には巨岩に潰されたゴブリンソルジャーたちの死骸があった。

 なぜそうなっているのか理解できずに全員が唖然としている。俺は逆側を向かされていて見えないので何が起こったのか分からず不思議がっている演技をした。

 

 一味の冒険者たちは武器を手に取って立ち上がり辺りを警戒しはじめた。

 

 静寂の中、考えていたマードがボルーを睨みつけて言った。


 「貴様、ゴブリンどもを殺したな」


 ボルーは怯えながら否定した。


 「俺じゃない。なんで俺がそんな事をするんです」


 「この女奴隷に情が湧いたのであろう。あの大きな岩、お前の魔法は土属性だな」


 更に追及するマードにボルーが言った。


 「そんな女に興味などありません。本当です。それに俺の魔法でこんな事はできません」


 「マード様、ボルーさんにはこんな魔法は使えません。彼が使える攻撃魔法はストーンボールとロックスピアくらいです。ストーンボールにゴブリンソルジャーを殺す威力はありませんし、ロックスピアなら刺し傷になります。これは岩を投げつけたか降らせたかです。怪力の持ち主か空間魔法を使える者が犯人です。そして」


 カトリーヌが冷静に続けた。


 「全員がこちらの部屋にいましたから犯人は空間魔法を使える者です。私の部下にそのような魔法使いはいません」


 「捕らえた女どもの中の誰かが犯人という事か」


 マードがそう言うとタガートスがザキトワとミーナを見て言った。


 「一人ずつぶん殴って吐かせましょう」


 それを制してカトリーヌが命じた。


 「全員すぐに女の側にピタリと付きなさい。早く」


 日頃の威圧が功を奏したのか一味の冒険者たちは素早く女に張り付いた。

 タガートスとアサブルはムイザを連れてカレンさんとリシェルさんの入れられている長木箱の脇に立った。ジョニードとカバストフはミーナの側に、2人の槍使いとカトリーヌはザキトワの側に寄った。魔法使いのボルーはそばかす顔の女性奴隷の横に行き腕を掴んだ。マードはオレンジ髪の女性奴隷の下着に手を入れたままだ。眠っていた男はそのままだった。こんな状況下で熟睡できるとは羨ましい奴だ。


 「カトリーヌ、どういう事だ」


 というタガートスの問いにマードが答えた。


 「頭の上に岩を落とされたらたまらん、という訳か」


 「はい、マード様。仲間を巻き込みたくないでしょうから女の近くにいれば岩を落とせません」


 そうだった。その手があった。早く気付いていれば敵を減らせたのに。いや、ダメだ。その場所に姿を消しているファンミンがいるかもしれない。岩を地面に出すのは良いが人の上に出すのは危険だ。


 「さすがだな、カトリーヌ。では犯人捜しはワシがしてやろう」


 「マード様が直々にですか……神眼をお使いになるのですね。ですが、このような奴隷たちに勿体無いと思いますが」


 「なに、神眼はMPも体力も使わんのだ。どうという事は無い。一回見ればすぐに適性のある魔法属性がわかる」


 この野郎、神殿で質問した時に、神眼には相当な魔力体力気力知力精力が必要で負担が余りにも大きいって言っていただろ。しかも1つの属性を知るためには他も合わせて7回見る必要があると言っていた。1回で全て判るとは、やはりインチキ教団だな。


 マードが得意顔で続けた。


 「それにこの二人の女奴隷は魔法が使えない。審判の首輪には魔法封じの効果があるからな」


 「すると最初に捕まえた軍人の2人か、最後に来た3人の女性冒険者ですわね。タガートスさん、長木箱から軍人の奴隷を出しなさい」


 タガートスが蓋を開けようとするのをマードが手を挙げて制した。


 「それには及ばん。箱の中にいても見ることができるのだ。どれ、その二つの木箱か。見てやろう」

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