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異世界レンタル放浪記  作者: 黒野犬千代
第五章 それぞれの仇討
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第64話 誘い込み

 作戦を練るアサブル、ジョニード、ムイザたち3人のすぐ横の壁面がわずかに歪み、その歪みは部屋の外へと移動していったがもちろんそれに気付く者は誰もいなかった。迷彩魔法コート、迷彩魔法マスク、迷彩魔法ブーツで完全に背景に溶け込み、しかもブーツの効果で足音さえ立てずに走ったファンミンはすぐにケイコたちに追いついた。


 姿を消したままケイコの横に並んだファンミンが小声で囁いた。


 「ねえ、3人組の冒険者に尾行されてるよ。さっきの小部屋で話してるのを聞いた」


 「ファンったら、静かだと思ったら一人で休んでいたのね」


 後ろからザキトワが小声で言った。


 「だって私だけ着込んでるから熱いのよ。それでね、あいつら私たちを何処かへ誘い込もうとしてる。魔物と戦っている所を助けて安心させるって」


 ケイコは少し考えてから言った。


 「ファンミンさん、その人たちは緑色の物を身に着けていたかしら」


 「えーっとね、若いのが剣の鍔に緑のリボンを結んでたし、色黒のノッポは緑色のヘルムを被ってたし、もう一人は矢入れが緑だった」


 「緑縁隊、やはり今回の件に係わっているわね」


 「そうそう、他にも何か言ってたな。たしか、5人も捕まえたんだからカトリーヌに気に入られるぜ、って」


 「ファンミンさん、それは聞き違いじゃないかしら。カトリーヌさんは被害者と一緒に行方不明になっているはずよ」


 「今さっき聞いたばかりだよ、ファンちゃんの記憶にも耳にも間違いはないのだ」


 ファンミンが胸を張って言ったようだがもちろん見えない。


 「ケイコちゃん、カトリーヌっていう人も敵の仲間だと思って行動した方がいいわ」


 カトリーヌは俺がドーミーに殴られて気を失った時に親切に介抱してくれたのだ。女性冒険者を捕まえて奴隷として売る一味だとは思えない。だが、カレンさんの時も第一印象では冷酷で残忍な人に思えたが実際は違っていた。俺に人を見る目は無いのかもしれない。


 「ケイコさん、どうしますか」


 考えあぐねる俺をミーナが心配した。


 「そいつらの誘いに乗ってアジトまで案内させるのが早いけど、後ろの敵が3人、マードと護衛で3人、アジトにも何人いるか分からないわ。危険すぎる」


 ここにきて躊躇う俺にザキトワが冷静に言った。


 「ケイコちゃん、戦うのなら確かに危険だけど、敵は女を捕まえて売りたいのだから、私たちは商品ってことよ。商品を傷つけたら意味が無いでしょ。それにこのチャンスを逃したら捕まっている女性たちは助けられないかもしれない」


 「そうだよ、ケイコさん。アタシみたいな思いはもう誰にもさせたくない」


 ミーナが真剣な眼差しで言い、ファンミンは本気とも冗談とも分からない口調で言った。


 「そうだそうだ、ケイコ。私は捕まって乱暴されても問題ない。念願の拘束プレイを楽しむだけだ」


 「わかりました。皆は私が必ず守ります。ザキトワさん、気配感知で魔物がいる場所へ案内してください。やつらに助けさせるシチュエーションを作りますから苦戦しているように見せかけてくださいね。ファンミンさんはそのまま姿を消していて、イザという時は助けを呼びにいってください。憲兵隊がこの5層に向かっているはずです」



 数分後、ゴブリンソルジャー4匹を相手に戦いあぐねる俺たちは袋小路に追い詰められていた。赤い目を凶暴に光らせ涎を垂らしながら打ち付けてくる鋼の剣をなんとか受け流して反撃するがこちらの剣は革鎧に阻まれて敵を傷つけられない。

 ゴブリンハンターの称号を持つミーナとレベル3の剣術スキルを持つザキトワは2人で3匹の相手と対峙しながら見事に苦戦を演じている。おそらく本気を出せばすぐにでも倒せてしまうのだろう。ミーナの強さは知っていたがザキトワがこれほど強いとは思わなかった。冒険者になるために市内の道場で剣術の修練をしたと言っていたがたいしたものだ。一方、接近戦のスキルを持たない俺にとって、わずか1匹でもゴブリンソルジャーは強敵であり、演技するどころか実際に殺されそうで必死に戦っている。 


 いよいよ抑えるのが難しくなりゴブリンソルジャーの臭い吐息と涎が顔にかかるほどに押し込まれた時、魔物の後方に3人の冒険者が現れゴブリンソルジャーの無防備な背中に剣を突き込んだ。一気に3匹が倒され、最後の1匹も一番若い冒険者の剣を受けて怯んだ所をザキトワのレイピアが止めを刺した。


 俺たち3人はその場に座り込み肩で息をしながら現れた冒険者たちを仰ぎ見た。もちろん俺以外の二人は演技だ。この程度ではウオーミングアップにもならないだろう。


 「た、助かりました。危ないところでした」


 俺は本気でハァハァ言いながら男たちに感謝すると、一番若い冒険者が手を振りながら言った。


 「いえいえ、こういう時は手を出さないのがダンジョンのマナーだけど放っておけなくて。余計なお世話だったかな」


 「ハァハァ、とんでもない、あのままだったら殺されていました。貴方たちは命の恩人です」


 俺がそう言うとその冒険者はニコリと笑って言った。


 「女性ばかり3人なんて珍しいパーティーだね」

 

 レンタルしているスキル【容姿操作 レベルMAX】により今の俺はどこから見ても女だし、【触覚操作 レベルMAX】によって身体に触れられたとしても女そのものなのだ。俺は【演技 レベルMAX】のスキルを使い悲しそうな、今にも泣きだしそうな表情を浮かべて言った。


 「もう一人、リーダーの男性がいるんです。でもゴブリンソルジャーと戦っている時にはぐれてしまって。ずっと探しているのですが、見つけられなくて」


 「ん、それってどんな感じの人かな。うちのグループでケガをした男性を一人保護しているよ」


 「本当ですか。名前はサツキで年齢は16歳。背は170cmくらいで髪はライトブラウンの短髪で毛先が立っています。服装は裏皮のベスト、黒革のビキニパンツに毛皮の腰巻をして肘と膝にパッドをして、剣はカットラスを持っています」


 新しいキャラを作るのは面倒なので普段の俺をそのまま説明した。


 「その人だよ。怪我をしていたから僕たちの安全地帯で手当てをしているよ」


 俺はその冒険者の手を取りタンクトップビキニの胸の谷間で挟み潤んだ瞳で見上げて言った。


 「ありがとうございます。私たちばかりかサツキさんの事まで救っていただき感謝の言葉もありません。怪我の状態はどうなのでしょう。お願いします、そこに連れて行ってください」


  男に手を握られ、男の胸に挟まれて頬を赤く染めたムイザが言った。


 「もちろんだよ、すぐに連れて行ってあげる。もう心配いらないよ。僕はムイザ、こっちがジョニードで、後ろにいるのがアサブルだよ」


 「よろしくお願いします。私はケイコ、そしてミーナとザキトワです」




 ちょうどその頃、アジトの出入口を塞ぐ壁に合図の音が響いた。


 ガン、ガンガンガン


 ボルーは覗き穴を穿って外を確かめ、カトリーヌの指示を待たずに壁を崩して出入口を開いた。カトリーヌ、タガートス、カバストフはそれを予期していたようで、立ち上がると姿勢を正して出迎えた。


 槍使いの二人の護衛冒険者を従え、出迎える者どもを見下ろすような表情で入って来た男は純白の祭服に宝石をちりばめた司祭帽を被り手には金色の杖を持っている。入るやいなや部屋の中央へと進み木箱に腰掛けると生活魔法のクリーンで自らを清めた。純白の祭服が更に白くなり埃ひとつなくなった。


 カトリーヌが男の前に跪いて言った。


 「マード様、ようこそお越しくださいました」


 「おお、カトリーヌか、久々に来たがやはりここは遠いな。疲れたぞ。それが捕らえた女どもか」


 マードが言うとカトリーヌは縛られ下着姿で地面に転がされていたミラーミとシティカの髪を掴んで顔を見せた。


 「今から縄を解いてあげます。お疲れのマード様を癒してあげるのですよ。処分するかしないかはマード様がお決めになります。くれぐれも粗相のないようにね」


 カトリーヌはそう言い、続けてボルーに命じた。


 「ボルーさん、お二人の縄を解いてクリーンで綺麗にしてあげてください。汚れたままではマード様に失礼ですからね」


 ボルーは二人の縄を解き、クリーンをかけると汚れも匂いもすっかり無くなり綺麗になった。


 ミラーミとシティカはマードに膝行し恭しく畏まり、か細い声で言った。


 「司祭様、長旅でお疲れの事でしょう。お御足をお揉みさせてください」


 マードが頷くと靴を脱がせてミラーミは右足を、シティカは左足を丁寧に摩り揉んだ。


 「カトリーヌ、すでに奴隷のようではないか」


 「はい、マード様。この女どもは奴隷になりたくて仕方が無いようですよ」


 「お前たち、それは本当か」


 ミラーミもシティカもマードの目をまっすぐに見て頷いた。


 「はい、司祭様。なにとぞ私を奴隷にしてください。どのようなご奉仕でも謹んでさせていただきます」


 「お願いです、司祭様。私は奴隷になりたいです。一生懸命に働きます」


 二人が必死で乞う様をうっとりと眺めていたカトリーヌが言った。


 「どうなさいますか、マード様。このように申しておりますが女の言葉など信用なりません。この女どもが生きたままゴブリンに食べられるのを見物なさいますか。酒の用意もありますし、余興にはちょうどよろしいかと」


 それを聞いた女性冒険者二人はプルプルと震えだし、マードの足にしがみついて願った。


 「嘘ではありません。お願いします、どうか信じてください」


 「私も本気です。本当に奴隷にしていただきたいです」


 マードは蔑むように見下すが満更でもないようで目尻を下げながら言った。


 「よし、本気かどうか試してやろう。これが何かわかるか」


 護衛冒険者に鞄を持ってこさせたマードは、鞄の中で何か操作すると大事そうに器具を取り出した。汚れひとつない純白の輪が開いている。


 それを見たそばかす顔のミラーミが頷いて言った。


 「見たことがあります、神殿が異端危険分子に嵌めるという審判の首輪です」


 「そうだ。お前が罪人である事を自白すればこれを嵌めてやろう。そうすれば念願の奴隷になれるぞ。ただしこれは死ぬまで外すことはできない。一生奴隷として働く覚悟はあるのか」


 マードが尊大に言うと下着姿の二人は一瞬考えるそぶりを見せた。


 「あら、奴隷になってもいつか逃げられると思っていたのですか。嘘つきは死刑ですよ」


 カトリーヌはそう言って何か呟くとミラーミが立ち上がりゴブリンソルジャーのいる部屋へ通じる壁に向かって歩き始めた。自らの意思とは違う体の動きに事態を悟ったミラーミが泣き喚いて言った。


 「嫌、エサにしないで。私は悪い女です。罰として首輪を嵌めてください。奴隷にしてください」


 それを見ていたシティカも観念して言うしかなかった。


 「私にも首輪を嵌めてください。私も罪人です。どうか奴隷に落としてください」


 マードは満足そうに笑みを浮かべ、


 「この首輪をお前にやろう」


 と言ってミラーミの首に当てて閉じるとカチッと音がして首輪が嵌まった。シティカの首にも同じようにして首輪が嵌められるとカトリーヌが言った。


 「二人とも動けるようにしましたが、これからはマード様の命令は絶対です。拒否する事は死ぬことを意味します。もちろん首輪を嵌めたままでも私のスキルでゴブリン部屋に歩かせることはできますから楽に死ねるなんて思ってはダメですよ」


 それを聞いた二人は神妙に頷くとマードの足元に跪いて言った。


 「マード様、なんなりとお申し付けください。生涯従順な奴隷としてご奉仕いたします」


 マードが頷くとボルーがロックウォール魔法でマードたち3人のために岩の小部屋をつくった。しばらくすると中から女たちの嬌声が漏れ聞こえ、更にしばらくすると静かになった。


 槍使いの冒険者がカトリーヌに言った。


 「そういや潜入した女二人はどうしたんだ。マード様はその二人の味見をすると言っていんだぜ」 


 「あら、そうでしたの。知りませんでした。軍人の女二人なら荷造りして長木箱の中ですよ」


 カトリーヌが答えた時に小部屋の岩壁からガシガシと音がして中から金の杖が突き抜け、やがて壁が壊された。下着姿のシティカがマードの杖を借りて壁を壊すよう命じられていたのだ。欲望のままを果たしたマードは既に純白の祭服に身を包みシティカが壁を壊すさまを悠然と見ていた。その足元では汗だくで横になっていたミラーミが身を起こしてパンツとブラを着ているところだった。


 マードはシティカから金の杖を受け取るとその先端でシティカの股間をなぞって言った。


 「二人とも中々に良かったぞ。見目は普通だがこれなら性奴隷として売れるであろう。もっとも売るためには男の客たちに具合を試させてやらねばならんがな。頑張ればそれだけ早く買われるというものだ。せいぜい励むがよい」


 そんなマードにカトリーヌが言った。


 「マード様、他にも軍人の女二人を捕らえてありますがご覧になりますか」


 「ん、この女どもではないのか」


 「はい、既に荷造りして長木箱に入れてあります」


 「そうか、もうよい。長旅で疲れておるのだ。そんなに何人も相手できぬわ。ガハハハ」


 マードはそう言って木箱に腰かけると二人の奴隷に手足を揉ませながら満足そうに眼を閉じた。

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