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異世界レンタル放浪記  作者: 黒野犬千代
第五章 それぞれの仇討
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第63話 アジト

 事を終えて緑色をしたビキニアーマーのホックを留めているカトリーヌにムイザが言った。


 「ねえ、カトリーヌ。また外を一回りしてきてもいい」


 ホックを留め終えたカトリーヌが気怠い表情で見事なブロンドの髪をかき上げて答えた。


 「まあ、ムイザさん、あんなに激しかったのにもう大丈夫なのですか。若さっていいですね」


 「何言ってんのさ。カトリーヌだって若いでしょ。18歳くらいかな」


 「まあ嬉しいです。24歳ですよ。でも女性冒険者はいつまでもできる職業じゃないですから」


 「それなら僕たちが稼いでカトリーヌを食べさせるよ」


 「ありがとうございます。ムイザさんは男らしくて素敵ですね。さあ、行ってらっしゃい」


 ムイザが二人を囲っていた壁を蹴ると簡単に崩れた。すぐに壊せるように弱めのロックウオール魔法で作られていたのだ。その向こうでは一味の冒険者タガートス、アサブル、ジョニード、カバストフと魔法使いのボルーが簡単な食事を取っていた。


 ここはダンジョン5層にあるダンジョン石の採掘場跡を利用したアジトで、司祭マードの一味が捕まえた女性冒険者を監禁するのに使っている。ダンジョン内では元ボス部屋以外はどこであろうと魔物が湧いて出るが人が掘削してできたこの場所は、いわば人工的な部屋で魔物は湧かない。ダンジョンに通じる出入口と掘削場の奥への通路はロックウオール魔法で作られた壁で塞がれ安全地帯になっている。


 何も食べていなかった事に気付いたムイザは出掛ける前に食事をしようと一味の輪に加わった。その横では下着姿で後手に縛られ転がされていたミラーミとシティカが地面に置かれた皿に顔を付けて冷めたスープを飲んでいた。


 「ふん、二人とももうすっかり奴隷だね」


 鼻で笑ったムイザがタガートスに訊いた。


 「ねえ、もう一人仲間がいたよね。来た時に寝ていた貧相な男」


 「ああ、あいつなら向こうの筵で眠っている」


 タガートスが顎で示した方を見ると木箱の向こうに足だけが見えた。


 「あいつはボルーと交互に寝ずの番をするのが役目だ。だからボルーが起きている時は奴は眠っているんだ」


 「へえ、あの人も魔法使いなの」


 「いや、あいつは番をするだけだ。ボルーのロックウオールは6時間すると崩れるからな、ボルーは眠る前に出入口と奥の壁を更新して奴と交代する。奴は6時間するとボルーを起こして壁を更新させて今度は自分が眠る。それの繰り返しだ」


 「寝ているのが役目なんてバカみたいな仕事だね」


 「そうでもないぞ。うっかり居眠りでもして壁が消えればダンジョンから他の冒険者や魔物が入って来るし、奥からはゴブリンソルジャーが6匹襲ってくるからな」


 ムイザは友達2人がそのゴブリンソルジャーに喰われたのを思い出して悲しい顔をしたがそれはほんの一瞬だった。


 「掘削場には魔物が湧かないはずなのに、どうして奥にはゴブリンソルジャーがいるの」


 「ダンジョンから誘い込んだんだ。奥へ誘導して長盾で抑えている隙に逃げ出してボルーが魔法で壁を作って閉じ込めた。あいつら足が遅いからな、簡単だ」


 「へえ、あっちで魔物を飼っているんだね。エサも与えてるの」


 「俺たちの稼業を見ちまった男の冒険者を食わせるだけだ。そんなんじゃ全然足りないが、ゴブリンソルジャーは共食いをしないから数は減らないんだ。これがただのゴブリンなら共食いして最後は1匹だけになっちまうからな」


 食事を終えたムイザが立ち上がって尋ねた。


 「そういえば軍人だった女奴隷どもはどうしたの」


 「ああ、木箱に入れたままだ。その長木箱のどれだったかに入ってる。お前、また出掛けるんだろ。アサブル、ジョニード、ムイザに付き合ってやれ」


 身繕いを終えたカトリーヌが輪に加わって言った。


 「アサブルさん、ジョニードさん、ムイザさん、魔物には気を付けてくださいね」 


 ボルーが覗き穴を空けて外を確認してからロッド振ると壁が崩れて出入口が現れた。3人が出て行くと再びロックウオールの魔法をかけて塞いだ。


 「カトリーヌ、ムイザの奴がまた女を捕まえてきたら長木箱が足りなくなるぜ」


 タガートスが訊くとカトリーヌが答えた。


 「箱はあと幾つあるのですか」


 「あと2つだけだ。この女どもの分しか無いぜ」


 「足りなくなったら商品価値の低い女から始末します」


 カトリーヌが冷酷に言うと冷めたスープを啜っていた女二人が悲鳴を上げた。


 「嫌、お願い、殺さないで」


 「カトリーヌ、このままここに監禁しておいて空箱を運び込ませればいいだろう」


 「このダンジョンでの仕事は今回で終わりにします。軍人が潜入してきたのですからここが判明するのも時間の問題ですよ。さあゴブリンのエサはどの女の子にしようかな」


 カトリーヌが値踏みするような眼で見つめると女性冒険者二人はプルプルと震えだした。


 「嫌、嫌、助けてください。奴隷にでもなんでもなります。エサになんてしないでください」


 「どの子にしようかな。軍人の二人は綺麗だから、あなたたち二人のどちらかね。箱が足りなくなれば二人ともエサかも。今度来る子があなた達より綺麗じゃないといいですね」


 そう言うともう興味は無くなったようで、カトリーヌはパンを千切り口に入れた。二人の女性冒険者は泣きながら懇願しようとしたがカトリーヌが何か呟くと話すことができなくなってしまった。



 ダンジョンに出たムイザたちは通路を歩きながら新たな獲物を探したが男ばかりか、あるいは余裕のある戦いぶりをする高レベルの女性冒険者しか見かけなかった。


 「やっぱり強い女性冒険者は可愛く見えないね。あれじゃあ高く売れないよ」


 強がりを言うムイザを冷めた目で見たアサブルが言った。


 「なあムイザ、お前が裏切らない事はもう証明して見せただろ。どうしてまた獲物を探すんだ」


 「僕が間違っていないことを確認するためだよ。誰だって自分の命は惜しいでしょ。だから僕の行動は正しかったんだ。ああする以外に選択肢なんて無かったんだ。シラバイオだって立場が逆だったら僕を殺していたに決まってる。さっきの女冒険者たちだって自分のリーダーを見殺しにしたでしょ」


 「そうだぜ、ムイザは間違っちゃいねえ。アサブル、おめえだってそうだったんだろ。カトリーヌには逆らえねえんだ。言う通りにしなきゃ生きたままゴブリンに食われるんだ。従うしかねえよ。俺たちゃ何も悪かねえ、運が悪かっただけだ」


 ジョニードがムイザに同調するとアサブルも頷いて言った。


 「たしかにそうだな。俺も初めは苦しんだが、今じゃ金にも女にも不自由しねえ楽しい毎日だ。ムイザ、お前だけじゃねえ」


 「うん、みんなありがとう。あと一組捕まえたらそれで終わりにするよ」


 ムイザがそう言った時に通路のずっと先を曲がる冒険者が見えた。


 「おい、見たか。ありゃ女だけだぜ」


 そう囁くジョニードにアサブルが答えた。


 「ああ、女ばかりでたったの3人だ。しかもやたらと露出の多い服だったな。あんな格好でダンジョンに入るのはカトリーヌ並の腕利きか素人の初心者だけだ」


 「後をつけようよ」


 ムイザはそういうと急ぎ足で追った。


 ムイザたちが女冒険者たちの入った路地を曲がるとすぐ先の部屋から話し声が聞こえて来た。ムイザたちは壁際に身を隠して聞き耳を立てた。


 「ここも違いますね。一体どこなんでしょう」


 「ミーナちゃん、ケイコちゃん、必ずどこかにいるはずよ。頑張って探しましょう」


 「そうね、行きましょう」


 3人の女性冒険者がそう言って足早に立ち去るとムイザたちが小部屋に入って来て中を確認した。


 「あいつらこんな部屋で何をやっていたんだ」


 アサブルが誰ともなしに問うとムイザが答えた。


 「誰かを探していたみたいだよ」


 「華奢な女が3人だけってことは仲間とはぐれたんだろうぜ」


 ジョニードが言うとアサブルがニヤリと笑って応じた。


 「決まりだな。あいつらを誘い込むぜ」


 「でも男がいないんじゃゴブリンに食べさせられないよ。そうしなきゃ僕が正しいことを証明できない」


 「うかうかしてたら他の冒険者に助けられちまうぜ。あんな上玉ばかりなら暗黙のルールなんてお構いなしに助けようって冒険者はいくらでもいるもんだ」


 「そうだぜ、ムイザ。これがうまく行けばお前は5人も捕まえた事になる。カトリーヌに益々気に入られるぜ」


 アサブルとジョニードが宥めるとムイザは納得して言った。


 「そうだね。弱いくせに5層まで来た女どもに後悔させてやる」


 「よし、あいつらが捜している奴を安全地帯で保護している事にしよう。魔物が出たら俺たちが助けて安心させて……」


 アサブル、ジョニード、ムイザの三人はその場で作戦を練った。

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