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異世界レンタル放浪記  作者: 黒野犬千代
第五章 それぞれの仇討
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第60話 ダンジョン

 脳内時計が午前11時を示す頃、街道の先にノースフォートの姿が見えてきた。グラリガの冒険者ギルトで見たジオラマと同じだ。周囲を高さ5mほどの城壁で囲われている。城壁の上には歩哨も見え、砦というより城といった威容だ。

 

 門に向けて馬を走らせている時に再び脳内メッセージが流れた。


  >>>【マップ レベル2】がレベルアップし【マップ レベル3】に

      なりました。ダンジョン地図の表示が可能になりました。

  

 マップを常時表示して走っていたのが良かったようだ。これからダンジョンという時にグッドタイミングでレベルアップしてくれた。ノースフォートに到着したのは午前11時過ぎだった。管理盤に手を当て4人分の税金として銀貨8枚を支払ってから門番に訊いてみた。


 「グラリガのマード司祭はもう入られましたか」


 「ああ、1時間くらい前だったかな」


 「護衛はちゃんと付いていましたか。私が寝坊してしまって」


 「ははは、それは大変だ。護衛は2人いたよ。2人とも冒険者だな」


 「冒険者ですか、雇ったのかな」


 「何度か一緒の所を見たな」


 「ありがとう。怒られないように祈ってください」


 「ははは」


 神殿衛兵の制服が効いたのか全く疑われなかった。


 俺たちは食堂でサンドイッチやハンバーガー、ワインや飲料を買い込み俺のリュックに収納した。俺のリュックは鮮度も温度も入れた時の状態を保ってくれる。ダンジョン内でいつでも出来たての食事ができる。いくら入れても重く感じることは無い。ただし、入れられるのは俺の所有物とレンタル品に限られる。このほかに俺と別行動になった時のメンバー用にとパンと飲料を少量ずつ購入して各自の鞄に入れた。


 「1時間の差か。追いつくかな。ダンジョン5層まではどのくらいの時間がかかるんだ」


 ダンジョン経験者のミーナに訊いた。


 「慣れた冒険者で2時間かな。初心者ならその数倍だね。アタシが初めて入った時は1層1時間は掛ったよ。ダンジョンマップを買うかガイドを雇った方がいいよ。マップは1層につき銀貨5枚だけどダンジョンの中は方向感覚が無くなるから地図を見ながらでも迷ったりする」


 「それならガイドを雇おうよ。イケメン限定で」


 ファンミンは相変わらずだがその明るさが緊張を和らげてくれる。


 「ギルドを通せば信用できるガイドが雇えるよ。でも戦闘はしてくれないからね」


 「イケメンガイドの報酬っていくらなの」


 「ファンちゃん、ガイドは冒険者を引退しようかっていう年齢の人ばっかりだよ」


 ミーナが呆れて言うと興味を無くしたファンミンがガイド案に反対した。


 「ガイドは却下」


 「そうだな、ギルドを通してだと時間も掛かる。さっき【マップ】スキルがレベル3にアップしてダンジョン地図が表示できるようになったんだ。【マップ】スキルなら自分がいる場所も表示されるから迷う事は無いだろ」


 「サツキ君は運も持っているわね。ミーナちゃん、それなら大丈夫よね」


 「ううん、ザキ姐。無いよりマシだけどレベル3の【マップ】だと見える範囲の地図しか表示できないから進むのが遅いよ。通路をいちいち見て歩いて地図を完成させていく感じだからね」


 「それならレベル4なら大丈夫なのか」


 「うん、それなら入った瞬間にその階層の全マップが表示できるから完璧だよ。だけどさっき上がったばかりなら次のレベルに上がるまで時間が掛かりすぎる。そんな時間なんて無いからね」


 「大丈夫だ、さっきレベルアップできる称号が手に入ったんだ。それを使えば即座に【マップ レベル4】になる」


 「なにそれ、少年ってばどんだけ常識破りなのよ」


 俺は女神の祝福を使用して【マップ】スキルのレベルアップをイメージした。じっくり考えれば他に使いようがあったのかも分からないが今できることをするしかない。


  >>>【マップ レベル3】がレベルアップし【マップ レベル4】に

      なりました。足を踏み入れた階層のダンジョン地図が表示

      できるようになりました。


 ステータスを確認すると女神の祝福の称号は消えていた。


  ステータス

  名前:宮辺 豪太 年齢:16 性別:男 種族:人族 職業:なし

  レベル:11

  HP:109/109 MP:644/644 SP:5

  体力:C

  魔力:F

  知力:C

  状態:‐

  罪科:‐

  称号:刺客 第2称号:女神の加護

  スキル:【鑑定 レベル3】【マップ レベル4】【語学】【雷無効】

      【称号追加設定】【投げナイフ レベル1】


  シークレットステータス

  魔法:‐

  固有スキル:【レンタル レベル4 レンタル中:1【変装】2【話術】

         3【鑑定阻止】4【声色】5【魅了】6【視覚操作 レベルMAX】

         7【触覚操作 レベルMAX】8【演技 レベルMAX】

         9 ファンミンの紙 10【馬術 レベル3】】

  固有アイテム:リュック

  称号:女神の加護、復活者、ラットハンター、刺客


 「よし、レベル4に上がった。行こう」


 砦の奥には高さ10mほどの小山があってその中央にダンジョンの入り口がある。ここは地下型のダンジョンで、この小山の地下には何層ものダンジョンが下へ下へと広がっている。その入口は木杭で補強された塀で厳重に囲われ、いわば砦の中に砦があるような作りでダンジョンから魔物が外に出るのを防いでいる。とはいえ、ダンジョン内では冒険者たちが日々魔物を討伐しているので実際に魔物が出てくることは滅多にない。

 

 ダンジョン入り口には警備の兵士が内と外にそれぞれ4人ずついて警備していた。俺たち4人が通っても砦の門のように調べられることは無かった。


 俺は警備の兵士に訊いてみた。


 「グラリガの司祭様はいつ頃入られたか分かりますか」


 ここでも俺の制服が功を奏し、兵士は警戒することも無く答えた。


 「30分くらい前だったな」


 「同行は護衛の冒険者2名だけでしたか。いや私が護衛する予定だったのが寝坊をしてしまって」


 「そうだ。神殿の衛兵は気楽だな」


 兵士は軽蔑するような目で答えた。そりゃそうだ。


 「ありがとう」


 「ちょっと待て」


 俺が行こうとすると兵士に止められた。


 「神殿の衛兵がダンジョンで司祭の護衛なのか。そんな事は今まで無かったぞ」


 そういうものなのか。適当なことを言ったのが裏目に出たようだが心配はいらない。今の俺は詐欺師のスキルが山ほどある。【話術】と【演技】を使って応じる。


 「神殿の事に首を突っ込むな。管轄外だろ。今すぐ司令官を呼べ」


 「し、失礼しました」


 俺を馬鹿にしていた兵士はそう言って直立不動の姿勢を取った。


 「以降気を付けるんだな」


 俺はそう言い捨て門を通過した。


 「たしかに神殿の衛兵がダンジョンにいるのは変だよな。中で変身するか。ところでミーナ、入る時はノーチェックだが出るときもそうなのか」


 「大きな荷物は中を改められるよ。魔物が紛れ込んでるといけないからね」


 「神殿の衛兵が拉致した女性を木箱に詰めて運ぶって言っていたんだが、チェックがあるなら見つかるだろ」


 「神殿はノーチェックだよ」


 「触らぬ神に祟りなしね」


 ザキトワが言った。 


 そうだろうな。奴等は特権を悪用しまくっている。


 山肌にポッカリと空いた洞窟に入ればそこはもうダンジョンだ。地下へと続く急勾配の坂を下ると【マップ レベル4】スキルにより地下に広がるダンジョン1層の地図が脳内に表示された。全ての通路、部屋、2層への降り口が描かれ自分のいる位置は青い点で示されている。これなら迷うことなく進んで行ける。


 ダンジョン1層の壁はゴツゴツした岩肌でところどころに出来た窪みが陰となり不気味さを醸し出している。横も上も仄かに光り白夜のような明るさしかないが行動するのに不便は無い。


 「ダンジョンの中はずっとこんな明るさなのか」


 「1層は出入口から魔力が漏れるから暗めだよ。3層くらいから魔力の濃度が一定になるんだけど壁のダンジョン石に含まれる発光素の密度は場所によって違うから明るさも階層で違うの」


 電気の無いこの世界でカンテラや街灯が光るのはダンジョンから採掘したダンジョン石が魔石に反応するからだ。その両方があるダンジョン内部は当然に明るいわけだ。


 「ゲジゲジとかムカデとかがいるのかと思ったがいないみたいだな」


 「サツキ君、嫌なこと言わないでよ。虫は苦手」

 

 気持ち悪がるザキトワにミーナが半笑いで言った。


 「ザキ姐、そこの壁の窪みをよく見てみなよ」


 近づいて見てみるとムカデとゲジゲジを一緒にしたような虫が潜んでいた。15cmほどの茶色い胴に5cmくらいの足が数十本生えている。周りをよく見れば岩の隙間や光のない窪みに同じ虫が何匹もいる。


 「嫌だ、虫だらけじゃない」


 ザキトワは鳥肌が立った腕を擦って言った。


 「魔物の餌になるんだからいるのは当たり前だよ」


 「ミーナ、1層にはどんな魔物が出るんだ」


 「低ランクだけだよ。シルクスパイダーっていう蜘蛛型の魔物に、ヘッドバットっていって体当たりしてくる蝙蝠型の飛行魔物、カマキリの刃みたいな前足があるカマキリザードだね。毒も無いし居眠りでもしない限り危険はないよ」


 「それなら問題ないな。降り口まで急ぐぞ」


 足を速めて歩き、人気が無くなったところでザキトワとファンミンに尋ねた。


 「衛兵のままでは怪しまれるから女性に変身するつもりなんだが服が無いんだ。予備の服は持ってないか」


 「ごめんねサツキ君、持ってないわ」


 赤いクロスブラのビキニアーマーを着たザキトワが言うと隣のファンミンが青いハーフカップブラに包まれた胸を揺らしながら答えた。


 「私の拘束プレイ用の衣装ならあるよ」


 「それって一昨日着ていた変態コスチュームの事か、ファンミン」


 「変態じゃないわよ。一般的な趣味の一つよ」


 「どこが一般的なんだ。それになんでそんなの持って来たんだよ。かさばって邪魔だろ」


 「エロスは常に必要なのよ。どうするの。着るの、着ないの」


 「仕方がない、それでいいよ」


 「何よそれ、そんな頼み方じゃ大切な服はあげられないわね」


 「そうだよサツキ、お気に入りの服を貰うのにそれは失礼だよ」


 ミーナにまで注意されてしまった。


 「すみません、ファンミンさん。その服を僕にください」


 俺は素直に謝って頼んだ。


 「それじゃダメね。跪いて私の足を舐めながら懇願しなさい」


 「調子に乗るな」


 「ファン、いい加減にしなさい」


 「ファンちゃんやりすぎ」


 三人から一斉に突っ込まれたファンミンが、


 「てへっ」


 と言いながら鞄から取り出して俺に渡した。


 「ありがとうな。帰ったら好きなのを買ってやるからな」


 「ねえサツキ君、形だけ貰ったことにすれば収納できるんじゃないの。それなら後で返せばいいだけだし」


 「俺もそう思って試したことがあるんだがダメだったんだ。本心じゃないと入れられなかった」

 


 脳内地図を見ながら2層への降り口を目指して広い通路を道なりに進んでいく。地下から戻ってきた冒険者たちとすれ違い、地下へと向かう冒険者たちを追い越す。挨拶することもなく常に無言だった。マードを見たか訊きたいがマードたちに気付かれれば証拠隠滅のために捕らえた女性が危なくなる。

 

 道が左右に分かれる分岐点に到着した。脳内地図ではどちらの道も降り口へ繋がっている。右の方が道幅が広いがそのぶん冒険者も多そうだ、左の細い道は小部屋に通じる通路もあってそこなら誰にも見られずに変身できるだろう。


 「左の細い方を行くぞ」


 左へ進み途中で脇道から小部屋に入った。幅、奥行き共に5mほどの広さがある。


 「すまんがちょっと待っていてくれ。顔や体のイメージをするのに集中したいからな」


 俺は意識を集中してどのような女性に変身するかを考えた。

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