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異世界レンタル放浪記  作者: 黒野犬千代
第一章 異世界入門
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第6話 ロランゾ老人

 俺は両開きのドアを開けて中に入った。中には四角いテーブルが4卓あり食事もできるようになっている。厨房へ続く入口の横がフロントのようだ。


 「いらっしゃい」


 テーブルを拭いていた女性がそう言って迎えてくれる。たくましい感じのする40歳くらいの小母(おば)さんだ。


 「泊まれるって聞いて来たんですが。空きはありますか」


 「お泊りだね。何泊だい」


 「えっと、一泊いくらですか」


 「素泊まりで銀貨1枚、食事付きなら朝夕付いて銅貨20枚追加だよ。粗末なものしか出せないけど。おかわり自由だからね」


 「では3泊お願いします。食事付きで」


 宿帳に記入する。この世界の文字が書けるのか不安だったが問題なく書けるし読める。名前はゴータにしておいた。インク壺にペンを付けて書くのだが、ペンはペン草を乾燥させたものだった。なるほど、それでペン草というのか。銀貨4枚を渡して銅貨40枚のお釣りをもらった。


 「部屋はそこの通路の一番奥だよ。朝食は7時から、夕食は6時から。時間になったらノックするよ。遅れてもいいけど冷めちまうからね」


 鍵を受け取り部屋に入る。小ぶりだが清潔感のある部屋だ。右の壁際にはシンプルなベッドがあり布団はきちんと整えてある。正面はガラスの嵌った上げ窓、左の壁には木製のチェストと机が並ぶ。机の上には道具屋で見たのと同じようなランタンが置いてあるが灯りは消えていた。


 リュックを机に置いてベッドに倒れこんだ。やっと横になれる。とにかく疲れた。検証しないといけない事が沢山あるが、もう頭が動かない。6時まであと何時間あるか分からないがノックしてくれるし……

 あっという間に眠りについた。


 ドンドンドン ドンドンドン


 「食事だよ」


 「はーい」


 ノックの音で目覚めた。窓の外はもうすっかり暗くなっていた。俺は寝ぼけた声で返事をして、そのまま起きあがり食堂へ向かう。


 食堂ではベンチに座っていた老人が食事をしていた。宿の小母さんがテーブルの上の食器を片付けながら言った。


 「寝てたのかい。6時にノックしたけど来なかったね」


 「すみません。気付きませんでした。遅くなってしまいましたね」


 「いいんだよ。6時過ぎに通り掛かりの伝令兵が食べに来たからね。バタバタしてたから今の方がゆっくり食べられるよ。いま出すから待ってておくれ。本当は火を落としちゃったんだけど。爺ちゃんがさ、アンタが門番に税金を払いに行くのを見てて、律儀な若いのだから暖かい食事を出してやれって言ったんだよ」


 「あの時、見られてたんですね。汚い服で恥ずかしいです」


 「きれいになって飛び上がって喜んでおったなあ」


 ゲホゲホ、老人は咳き込みながらも笑って言った。


 老人と同じテーブルに運んでもらい、話しながら食事をする。テーブルの中央にはランタンがあり明るく光っていた。食事はパンと干し肉とスープだ。暖かいスープには豆や野菜が沢山入っている。


 「ボロボロの服が見違えるようになってビックリです。生活魔法って便利ですね」


 「そうじゃなあ、奴は初級じゃからクリーン、マッチ、カットじゃなあ」


 クリーンは服をきれいにした魔法のことだろう。


 「マッチやカットですか」


 「マッチは火。カットは切るんじゃ。野菜や肉、爪や髪を切るのもカットじゃなあ」


 「初級なのに色々できるんですね」


 「冒険者の嗜みじゃなあ。奴は元冒険者じゃ、野営するにも生活魔法があれば余裕ができる。余裕のない冒険は危険なんじゃ。最近の若いもんは攻撃魔法ばかり覚えようとする。残念じゃなあ」


 「魔法はどうやって覚えるんですか」


 「神殿で授けてもらうんじゃよ。適性があればじゃがなあ」


 適性は分からないが、せっかく魔法のある世界なのだから、是非神殿に行って魔法を授けてもらおう。ランタンの灯りを見つめながらそう決意した。


 「そういえば、このランタンって火じゃないですよね。どうやって点けるんですか」


 「真ん中に窪みがあるじゃろ。そこに魔石を入れるんじゃよ。そうすると中のダンジョン石と反応して光るんじゃなあ」


 「ダンジョン石ですか」


 「その名の通りダンジョンの壁から堀り出した石じゃよ。ダンジョンの中は明るいじゃろ。あれはダンジョン石が魔力に反応しとるんじゃ。魔石は魔力の塊じゃからなあ」


 老人は話し相手ができて嬉しそうにしている。名前はロランゾというそうだ。宿の小母さんは娘でソラーラだと紹介してくれた。そのソラーラさんは終始穏やかな顔で二人の会話を聞いていた。


 復活して初めての食事で俺はパンをおかわりし、スープは2回もおかわりした。干し肉は硬くて塩っぱかったがスープに入れるといいと教えてもらった。ロランゾさんが具の少ないスープしか飲んでいないのが気になった。


 すっかり満腹になった俺は挨拶をして部屋に戻った。


 カンテラを開けてダンジョン石の窪みにリュックから取り出したモンラットの魔石を置くとダンジョン石が明るく灯った。カンテラ内部の上と下には金属の反射板があって明かりを広げてくれる。


 お爺さんの話は為になるものばかりだった。

 この世界で生きていくのに必要な知識が詰まっていた。


 この世界では姓が無いそうだ。名前を聞かれたのでフルネームで名乗ったら貴族と間違えられた。貴族では無いと言うと、それならミヤベ村のゴータだなと言われた。ミヤベ村がどこにあるのか聞かれても困るのでこれからはゴータとだけ名乗るのが良さそうだ。貴族は名前の後が領地名になるらしい。


 ステータスが頭の中に表示されるのは魔力が意識に働き掛けるからだそうだ。一度イメージすれば必要な項目だけを常に表示できるようになるらしい。早速HPだけを常時表示にしておいた。命に係わる重要な数値だからだ。脳内に流れるメッセージは、レベルアップ以外でも設定できるという。どうしてと尋ねると。そういうもんだと言われた。そういうものなのだろう。


 スキルについても教えてもらった。SPが貯まるとスキルを取得できるが、ポイントがあるからといって、どのスキルでも選べるという訳ではないらしい。例えば、農業をやった事が無い者は農業関連のスキルは取得できないという事だ。それだと俺のスキルが何故あるのか不思議だった。それも聞こうとしたが自分のスキルや魔法は人に言うもんじゃないと忠告された。同じように人の事をあれこれ聞くのは無粋の極みらしい。だから明らかに不自然な俺の事も詮索されなかったんだと思う。


 【鑑定】スキルを人に対して使うと、相手も【鑑定】を持っていれば使われたことが分かるそうだ。それが原因で流血沙汰になる事もあると言われて背筋がぞっとした。ガランジさんはどうだったのだろう。装備など物の【鑑定】だけなら相手には気付かれないそうだ。


 この村へ来るまでは、どんな世界だろうと怖くて仕方がなかったが、暮らしているのは普通の人々だった。これならなんとかやっていけそうだ。そう思えたのが今日一番の収穫だ。

 カンテラから魔石を取り外して部屋を暗くする。ベッドに入った俺は心地よい眠りに就いた。

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