第59話 アマリス村
マードを追う俺たちを乗せた4頭の馬は夜の街道を南進した。全力は出せないが月明かりがあれば速度を落として走る事はできるし【マップ レベル2】のスキルを生かして道に迷う事も無い。
日付が替わり空が紫に色付いた頃にアマリス村に到着した。アマリス村はダンジョンのあるノースフォートとグラリガの中間に位置する小さな村だ。村の周囲は木の柵が巡らされ街道に接する門の扉は閉じられ鍵が掛けられていた。
「閉まってるな。門番は居ないのか」
俺の問いにミーナが答えた。
「6時にならないと来ないよ。あと2時間だね」
「2時間か。マードが村にいるかだけでも知りたいな」
「アタシに任せて。ここのシスターは知り合いだから」
そう言うとミーナは柵を乗り越えて行ってしまった。
「シスターなら神殿の味方だろ。俺たちに係わるのはマズイんじゃないのか」
「なに言ってんの、サツキ君。シスターは女神神殿だから神殿には逆らえないけど味方なんかじゃないのよ」
「逆らえないけど味方じゃないってどういう事なんだ、ザキトワ」
「神殿は神様を信奉して、女神神殿は女神様を信奉しているの。神殿の教えでは女神様は神様の僕という事になっているけど、女神神殿の教えでは女神様も神様も対等なのよ」
「対等なのに逆らえないのは何故なんだ」
「一言で言うと資金力の差かな。神殿は魔法の授与に携わっているからお金が集まるのよ。女神神殿の土地も神殿の所有だから頭が上がらないという訳。女神神殿の収入は純粋な寄附だけだからいつもお金が無いの。でも魔法なんかに縁のない庶民は女神様が大好きなのよ。私たちもそう」
女神様と言った時のザキトワの表情はとても穏やかで女神様が人々に愛されているのが窺えた。
「そういえばグラリガの女神神殿は何処にあるんだ」
「グラリガみたいな大きな都市には無いのよ。町や村にしかないわね」
「そうなのか、人々に好かれているなら大都市にこそ必要なんじゃないのか」
「大都市の土地は貴重だから神殿は女神神殿に使わせるより人に貸した方がお金になるのよ」
「そうだよ、神殿ってお金が大好きだからね。私もだけど」
ファンミンがそう言ったところでミーナが男女を連れて戻って来た。
50代と思しき男性は欠伸をして目を擦りながらながら鍵を外すと扉を開けてくれた。
「管理盤に手を置いてくれ。むにゃむにゃ。シスターの頼みだから、むにゃむにゃ」
盤面が青く光り、全員分の税金として銅貨80枚を支払った。門番は全員が中に入ると鍵を閉めて戻っていった。
女性は灰色の修道女服を着て頭にはベールをしており、その下の髪は黒くストレートだった。質素な薄化粧で紅もささず全身がモノトーンで、首から下げたペンダントの石までが半透明でくすんでいる。指には前に魔法髪の店で買ったのと同じカラーリングをしていた。カラーリングでわざわざ黒髪にしているようだが元の髪は何色なのだろう。
20代のその女性は俺の服装を見ると訝しむ表情をしたがミーナが、
「この人よ」
と紹介すると安堵して言った。
「私はアマリス村女神神殿のシスター、ファーニスです。あなたがこの子を救ってくださったのですね。異端危険分子にされたと聞いた時には悲しみで変になってしまいそうでしたが、首輪が壊れていたとしても外れたのですからこの子はやはり無実だったのです。本当にありがとうございます」
一度嵌めた首輪は外せないのだから壊れていたと考えたのだろう。壊れていたわけではないがそう思わせておいた方が好都合だし一応念を押しておこう。
「その通りです、シスター。彼女は異端危険分子なんかじゃありません。ですが神殿が間違いを認めるとも思えませんしこの事は秘密にしておいていただけると助かります」
「もちろんです。この子の無実は証明されました。それにこの子を見た時は私でも誰だか分からなかったくらいです。神殿が気付くことはないでしょう」
「ところでシスター・ファーニス、グラリガの司祭はこの村に入ったかご存知ですか」
「マード様でしたら夜11時頃にお見えになって、宿屋さんで食事だけして立たれました。深夜12時頃だったでしょうか。門番さんは昨日も今日も時間外に開門させられてお気の毒なことです」
「何人だったか分かりますか」
「見ていないんです。ごめんなさいね」
4時間近く離されている。すぐに追いかけたいが休ませないと馬がもたないだろう。途中で馬が壊れたら完全にアウトだし、そうなればミーナやザキトワたちも危険だ。それに明るくなれば馬を走らせられるし距離は縮まるはずだ。
「すみませんが2時間ほど休ませていただけますか。6時の開門と同時に出立します」
「もちろんです、礼拝堂に夜具を運びますからそこでお休みください。馬は宿屋さんの厩をお使いください。明日私から言っておきますから」
2時間の仮眠をとって起きるとパンとスープが用意されていた。暖かい食事に疲れた体が癒された。シスターは昼食用のパンと果物まで持たせてくれた。俺はそれらを収納に入れ、お礼として銀貨10枚を手渡した。
「こんなに沢山ご寄付いただけるなんて」
そう言ってシスター・ファーニスが銀貨を受け取ろうと俺の手に触れた時、首に下げたベンダントが光った。朝日のごとくオレンジ色に輝いたかと思うとすぐに元の半透明の石に戻ってしまった。
俺の脳内にメッセージが流れた。
>>>女神の祝福を受けました。レベルアップするスキルを一つ
選択してください。
「シスター、祝福を受けたようですが、どういう事でしょう」
「何の事ですか」
シスターは訳が分からず澄んだ丸い目を俺に向けて首を捻っている。
「いま光った時に女神の祝福を受けて、スキルをレベルアップできるとアナウンスがあったんです」
「これは恩師であるマザー・タタピマから頂いたもので、確かに女神の祝福という名のペンダントですが、そのような話は聞いたことがありません。光ったのも初めてですし、今度お手紙でお尋ねしてみましょう。それにしてもアナウンスですか、面白い表現ですね」
「ファーニス、この人は外国から来たから言葉が少しへんなの。気にしないでね」
ミーナがフォローしてくれた。成長したな。
シスターにも分からないとは不思議な事もあるものだ。俺は改めてシスターの手を取り掌に銀貨を載せたがペンダントはもう光らなかった。
「もっと寄附したいところなんですが、この先何があるか分からないので」
ミーナによればノースフォートの税金は銀貨2枚、宿屋の相場は1泊銀貨2枚、この他に食事代やダンジョンに持ち込む食料費も必要だ。4人で1日に銀貨20枚くらいは掛かるかもしれない。捜索の間は依頼なんて受けられないからお金は残しておきたい。
ファーニスは両手を胸の前で組んで潤んだ瞳で俺を見つめながら言った。
「ありがとうございます。女神さまの祝福があらんことを」
それを先ほど頂いたのだが……
優しい笑顔で言うシスターは地味な装いだが純朴で綺麗な女性だった。
俺たちは仮眠と食事のお礼を言ってアマリス村を後にした。
先程の事が気になり道中の馬上でステータスを確認した。
ステータス
名前:宮辺 豪太 年齢:16 性別:男 種族:人族 職業:なし
レベル:11
HP:109/109 MP:644/644 SP:5
体力:C
魔力:F
知力:C
状態:‐
罪科:‐
称号:刺客 第2称号:女神の加護
スキル:【鑑定 レベル3】【マップ レベル2】【語学】【雷無効】
【称号追加設定】【投げナイフ レベル1】
シークレットステータス
魔法:‐
固有スキル:【レンタル レベル4 レンタル中:1【変装】2【話術】
3【鑑定阻止】4【声色】5【魅了】6【視覚操作 レベルMAX】
7【触覚操作 レベルMAX】8【演技 レベルMAX】
9 ファンミンの紙 10【馬術 レベル3】】
固有アイテム:リュック
称号:女神の加護、復活者、ラットハンター、刺客、女神の祝福
やはり称号に女神の祝福が増えている。【鑑定】してみる。
女神の祝福: 女神より授けられた幸福。運気上昇効果。女神の加護の
効果により任意スキルのレベルアップが可能。
称号はレベルアップ実施後に消失する。
なにやらありがたい称号がいただけたようだ。どれか好きなスキルを1つレベルアップすることができる。どれにするかはじっくり考えよう。