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異世界レンタル放浪記  作者: 黒野犬千代
第五章 それぞれの仇討
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第58話 ムイザ暴走

 ダンジョンの地面で目覚めたカレンの前に器が二つ並べられた。水と食料だ。同じようにリシェルの前にもムイザが器を二つ並べた。

 それを見下ろしていたカトリーヌが言った。


 「カレンさん、リシェルさん、食事ですよ。今日から一日一食です。食べなくても構いませんが弱って商品価値が無くなったらゴブリンに食べてもらいますからね。食事の時間だけは話すことを許します。でも煩くしたら黙らせます」


 「ムイザ、あれは仕方がなかったんだ、全てはあの女の仕業だ。お前のせいじゃない」


 「そうですよ、ムイザさん。あの状況では誰だってああするしか無かったんですよ」


 カレンとリシェルはムイザの気持ちを慮った。


 「うるさい、奴隷の分際で僕に意見するな。カトリーヌ、こいつらに思い知らせてやっていい」


 「ムイザさん、それはダメですよ。大切な商品なのですから」


 「ちぇっ、じゃあ外で遊んで来てもいい」


 「いいですよ。魔物がいますからジョニードさんとカバストフさんを連れて行ってくださいね。入るときの合図は知ってますか」


 「はい、昨日のですよね」


 「そうです、ボルーさん、お願いします」


 カトリーヌが命じるとボルーが通路への壁に覗き穴を作り、外を確認してから出入口を開いた。

 ムイザたちが出て行くと再び壁を作って言った。


 「行かせて良かったんですか。軍に駆け込むかもしれない」


 ボルーが訊くとカトリーヌが落ち着いて言った。


 「それはありませんわ。あなた達だっていつでも逃げられるのに逃げないでしょ」


 「おい、このままじゃ食べられないだろ。縄を解け」


 カレンが言った。


 「あら、カレンさん、貴女は奴隷なのですよ。そのまま犬のようにお食べなさい。排泄もそのまま垂れ流すのです。クリーンを掛けてくれるボルーさんに感謝しなさい」


 それだけ言うとカトリーヌたちは食事を始めた。




 ダンジョン地下5層の通路に出たムイザはジョニードとカバストフを引き連れ、常に壁が左になるように進んでいる。これなら安全地帯に戻るのに迷わないからだ。


 30分ほど歩いたとき、通路につながる横道の先から金属の打ち合う音が聞こえた。

 ギャーという叫び声が上がった後、ひときわ激しい戦闘の音が響き、そして突然静かになった。


 「戦いが終わったようだな。どっちが勝ったんだろう」


 ジョニードが誰ともなしに訊くとムイザが言った。


 「行ってみようよ」


 ジョニードが見るとカバストフが頷いた。


 音のした横道の先は広めの部屋になっていて3人の冒険者が倒れた男の脇にしゃがみ込んでいた。全員が同じ装いでブロンズ色の胴鎧を着け頭には朱房のついたヘルムを被っている。冒険者たちの周りにはゴブリンソルジャーの死骸が6つ転がっていた。


 ムイザたちが入っていくと3人の冒険者は疲れ果てた表情を向け、リーダーらしき男の冒険者が言った。


 「ここは行き止まりだ」


 「怪我をしたのですか」


 ムイザが訊くとリーダー格の隣にいたそばかす顔の女性冒険者が答えた。


 「怪我をしてここで休んでいる所を襲われたの。入口で寝かせていたダンダクに6匹が一斉に襲いかかって」


 「俺のせいだ、俺がもっと奥まで運んでやっていたらこんな事にはならなかったんだ」


 リーダー格の男が悔しそうに言うと別の女性冒険者が涙を拭って言った。


 「ボルアーロさんの所為じゃないです。私が通路で見張っていれば……」


 「遺体はどうするの、もしよかったら安全地帯まで運ぶのを手伝うけど」


 ムイザが訊くとリーダー格のボルアーロが言った。


 「この層の安全地帯までは1時間以上かかる。可哀そうだが置いていくしかない」


 「僕ら独自の安全地帯なら30分の所にあるよ」


 「そんな場所は君らパーティーだけの秘密だろ」


 「奥の部屋には犠牲になった仲間を葬ってあるんだ。昨日亡くなった僕の友達もそこで眠ってる。だから他人事とは思えなくて。でもその場所は秘密だから利用するのは今回だけだよ、出たら忘れるって約束してくれるなら連れて行ける」


 ジョニードは右手に持っていた長盾をさりげなく左に移し、いつでも剣を抜けるように右手を空けた。カバストフも殺気を消しつつ準備した。ムイザの裏切りや冒険者たちの動向次第では斬りかかるつもりだ。


 ボルアーロが女性二人に目を向けると二人とも頷いて言った。


 「このまま置いていくより彼の言葉に甘えましょう」


 ボルアーロは少し考えた後、ムイザの幼い顔に納得して頷いた。


 「そうだな。すまないがそうさせてくれ。俺はボルアーロ、パーティーリーダーだ。この二人はミラーミとシティカだ」


 「僕はムイザ、盾がジョニードさんで長剣がカバストフさんです。ジョニードさん、盾でダンダクさんを運んでもいい。男4人で持てば30分で行けるよ」


 ジョニードはムイザの行動を測りかね、少し考えた後に了承した。あそこへ行けばカトリーヌも仲間もいる、ムイザたち4人程度ならなんとかなるだろう。


 「いいだろう。お前は左前を持て、俺は右前、カブストフは俺の後ろだ。ボルアーロさんは左後ろを頼む。女性二人はダンダクさんの装備を持ってくれ」


 ダンダクの遺体を乗せて、常に右側を壁にするように30分余り歩くと奥行10mほどの袋小路に行き当たった。


 「行き止まりだぞ」


 ボルアーロが言うと、ムイザは壁面を蹴った。


  ボン、ボンボンボン


 「ムイザ、それじゃ音が小さい。金属の部分で叩け」


 ジョニードが指示するとムイザは空いている左手で剣を抜くと柄頭で叩いた。


  カン、カンカンカン


 同じリズムで叩くと壁に覗き穴があきボルーらしき目がこちらを見て曇った声で言った。


 「ちょっと待ってくれ」


 数分の後、壁が崩れて入口が作られた。

 6人が入っていくとカトリーヌが笑顔で迎えた。床に転がされていたカレンとリシェルの姿は無かった。


 「ムイザさん、ジョニードさん、カバストフさん、おかえりなさい。こちらの方々は」


 「ただいまカトリーヌ。こちらがパーティーリーダーのボルアーロさん。魔物に襲われてダンダクさんが亡くなったというので、ここの墓地に葬ったらと思って来てもらったんだ。ボルアーロさん、この人がリーダーのカトリーヌだよ」


 「ムイザさんの言葉に甘えさせて貰った。ずっと一緒に冒険した大切な仲間なんだ。埋葬させてもらったらすぐに出て行くよ。この場所の事も忘れるから安心してくれ。義理は決して欠かさない」


 「それは大変でしたね。埋葬はお任せください。出て行くのは疲れが取れてからで構いませんよ」


 「カトリーヌさんたちは緑縁隊の方々かな。いや、皆さん緑の物を身に着けていると思ってね」


 「はい、そうです。うちのグループをご存知でしたか」


 「高名な剣士のエルネスさんがグループを立ち上げたと聞いてね。そのチームカラーが緑だったのを

 思い出したんだ」


 「そうでしたか、よろしくお願いしますね。女性の方々にもご挨拶させていただいていいかしら」


 「ああすまない、ミラーミとシティカだ」


 そばかす顔の女性冒険者が挨拶した。


 「ミラーミです。ダンダクさんの事をお願いします」


 もう一人はヘルムを外し頭を振ってオレンジ色の髪を下ろして言った。


 「シティカです。快く受けて下さって感謝します」


 「ミラーミさんは可愛いですね。シティカさんもオレンジの髪が素敵ね。これなら売れます、ムイザさんお手柄です」


 「うん、一目見てこれなら売れるって思ったんだ」


 それを聞いたボルアーロが剣に手を掛けて言った。


 「ミラーミ、シティカ、逃げろ」


 女性二人が逃げようとするとボルーが魔法で出入口を塞いでしまった。逃げ場を失った女性二人は剣を抜いて構えた。

 ボルアーロは剣を抜きざまにカトリーヌに斬り掛かったが、剣は首まであと10cmの所で止まって動かなくなった。女性二人も構えたまま動けない。


 「さすがリーダー。警告も躊躇も無く急所に斬りつけましたね。危ないところでした」


 カトリーヌは言葉とは裏腹に余裕のある口調で言った。


 「何をした。こんな魔法は聞いたことが無い」


 「私のスキルですよ。あなたたちを動かすのも止めるのも思いのままです」


 「馬鹿な事は止めろ。エルネスは知っているのか」


 「彼は名の轟く一大グループを作りたいだけで何も知りません。大きくなれば目も行き届かないのに、剣は使えても頭は使えないのよ。強い貴方にも仲間に入ってほしいけど与える試練がないわね。どうしましょうね」


 「誰がお前らのようなクズの仲間になるものか。全員必ず殺してやる」


 「ですって、ムイザさん、どうしましょう」


 「ゴブリンのエサにしようよ。生きたまま食べさせるの」


 ミラーミが声を怒らせた。


 「アンタを信じて付いてきたのに酷すぎる」


 「僕なんか信じるからいけないんだ。ダンジョンでは誰も信じちゃいけない。信じる方がバカなんだ、だから僕は悪くない」


 ムイザが顔を歪めて絞り出すように言った。


 「何を言っているの。騙す方が悪いに決まっているじゃない。キミは嘘つきで卑怯者よ」


 シティカが詰るとムイザは目を吊り上げて言った。


 「そんな事をずっと言っていられるか試してやる。カトリーヌ、良いでしょ」


 「うーん、何をする気なのか分からないけど、とりあえずいいわ」


 カトリーヌが許可するとムイザはボルーたちを見て言った。


 「死体を向こうに放り込んでよ」


 ボルーはゴブリンソルジャーのいる部屋の壁に覗き穴をあけて確認して頷き壁を崩した。ジョニードとアサブルが遺体の手と足を持って投げ入れると奥から6匹のゴブリンソルジャーがゆっくりと歩いて来て遺体に噛り付いた。緑の顔を血で赤く染めて無心に食らいつく魔物を見て3人の冒険者が息を呑んだ。


 「酷い、なんて事をするの。キミは人間じゃない」


 「ダンダクさん……」


 「あの転がっている装備、お前らずっとこんな事をしているのか、どうかしてる」


 「あいつらの食欲は底なしなんだ。次はボルアーロを食べさせる」


 ムイザが平然と言った。


 「お願いだからそんな事やめて」


 悲壮な表情で懇願するシティカにムイザが言った。


 「女二人は奴隷として売るんだ、だから生きていられるよ。でもボルアーロは売れないし、見ちゃったから逃がすこともできない。死んでもらうしかないんだよ。それもあいつらに生きたまま食わせるしかないんだ。そうしないと僕らの罪科が人殺しになっちゃうでしょ。それでもどうしてもって言うならシティカが代わってあげなよ。抵抗も出来ずに生きたままジワジワ食べられるんだよ。そこまでするならボルアーロは僕が心臓を一突きにして楽に死なせてあげる。どうする、シティカ、生きたまま食べられてみる」


 ムイザが訊くとシティカもミラーミも目を伏せて黙ってしまった。


 「ね、こんなものなんだよ。だから僕は悪くないんだ。僕はシラバイオを殺してない」


 ムイザが自分に言い聞かせるのを見たカトリーヌは嫣然とした後でボルアーロを歩かせてゴブリンソルジャーどもの只中に向かわせた。新鮮な獲物を見つけたゴブリンソルジャーが取り付き引き倒し、悲鳴が上がるとボルーがロックウォールを発動して壁で塞いだ。


 「ムイザさん、よくできました。とても立派な働きですよ」


 「前の二人はどこにやったの」


 「あちらの木箱の中ですよ」


 ムイザが長めの木箱の蓋を開けると下着姿のまま縛られたカレンが入れられていた。同じ木箱がいくつかある。リシェルも別のどれかに入れられているのだろう。


 カトリーヌは何か呟き、二人の女性冒険者を動かして鎧を脱がせ下着だけにすると、アサブルに命じて手は後手に、足は膝と足首を縛って転がせた。


 「ねえ、どうして鎧を脱がせて下着だけにするの」


 「鎧は重いですから運ぶのに邪魔なんです。全裸にしないのは男性たちが欲情するのを防ぐためですよ」


 「え、僕はカトリーヌにしか欲情しないよ。今日もやりたい、いいでしょ」


 「今日はアサブルさんの順番なんですけど、ムイザさんが手柄を上げましたからね。いいですよ」


 カトリーヌはボルーに命じて岩壁の小部屋を作らせるとそこにムイザを招き入れた。

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