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異世界レンタル放浪記  作者: 黒野犬千代
第五章 それぞれの仇討
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第57話 掃除奴隷モリピン

 ファンミンが帰ってしばらくすると衛兵が夕食を載せたトレーを持って来た。鍵を開けて中へ入り床に置いた。


 「ほらメシだ。食え」


 食べたくもないが取りに行くと足枷の鎖のせいで届かなかった。わざとその位置に置いたのだ。


 「食いたいか、言う事を聞けば食わせてやるぞ」


  そう言って衛兵はパンツごとズボンを下ろした。懲りないやつだ。粗末なものを出すんじゃない。


 「司祭様に言いつけてやる」


  さっきと同じセリフで撃退するつもりが衛兵は引かなかった。


 「残念だったな。司祭様なら既に出発したぞ。我慢できなくなったようでな、捕らえた女どもの抱き具合を確かめに行かれた。ヤった後で荷造りして連れてくるそうだ。それまで邪魔するものは誰もいない。大人しくしていれば優しくしてやるぞ。ククク」


 「荷造りってどういうことなの」


 「縛って木箱に詰めるんだ。生活魔法を使える者がいるから排泄も垂れ流しだ。異国へ着くころには人としての尊厳など無くなって自分が物だと思うようになっているそうだ。お前もすぐにそうなる。俺の言う事を聞けばそれまでは楽をさせて美味いものも食わせてやる」


 衛兵はそう言って俺を壁際に追い込んで胸を揉み、谷間に顔を埋めた。

 ここで待つ意味が無くなった。俺は手を縛るロープを【レンタル】で収納し、自由になった手に収納からリセット済みの首輪を出した。首輪を撫でた後、右左左右と押してから左を押すとボタンが飛び出した。そのボタンを押し、衛兵の顔が胸から下へと移動したそのとき、


 「この首輪をあたなに贈るわ」


 そっとそう言って衛兵の首に嵌めた。カチッという音とともに首輪が閉じた。衛兵は突然の事に一瞬体を強張らせてから首輪を触り、俺の肩をがっちり掴んで喚いた。


 「なんだこれは、何をした」


 「そんなに強く掴むと首輪が締まるぞ」


 主に反抗すれば締まるようにできている。案の定、首輪は徐々に締まり始めた。


 「ひぃ、苦しい」


 「許してやる。奴隷になった気分はどうだ」


 「なぜだ、この首輪はどうしたんだ。なんでお前にこんな事ができるんだ」


 「うるさい。大きな声を出すな。とりあえず服を脱げ」


 「なんだと」


  大声で言ったとたんに首輪が締まり始めた。


 「うう、息が」


 「許す。早く脱げ。馬鹿野郎、下着まで脱ぐな。鍵も寄越せ」


 俺は足枷を外すとその場で衛兵の服を着た。


 「どうする気だ。そんな服を着ても逃げられないぞ」


 「マードは何処へ行った。正直に言え」


 衛兵は少し考えてから言った。


 「詳しくは知らない」


 なるほど、嘘を言えば首輪が締まるからそんな答え方をしたのか。少しは脳味噌があるんだな。


 「知っていることを全て言え。マードの裏稼業の事もだ」


 衛兵は観念して話し始めた。抵抗が無駄な事をよく知っているのだ。


 「奴隷にして売る奴らを入れておく場所がノースフォートダンジョンの中にある。どこかは知らない。本当だ。マードは司祭になるための賄賂に金が必要だった。司祭になった後は司教を狙っているんだ。金はいくらあっても足りないくらいだ。その為に奴隷を売るようになった」


 「神殿で何回もこんな事をすれば目立つだろ」


 「神殿じゃない。ダンジョンで冒険者の女を拉致するんだ。ダンジョン内なら行方不明になっても魔物に食われたと思われるからだ」


 「パーティーメンバーが一緒にいるだろ」


 「男なら殺して魔物に食わせるし女なら一緒に拉致するそうだ。どこかの大きなグループに手下を入れて奴隷候補を捜させていると言っていた」


 「監禁場所を知っているのは誰だ。衛兵隊長は知っているか」


 「わからない。本当だ。俺みたいな下っ端には何も知らされないんだ」


 「隊長はマードと一緒に行ったのか」


 「隊長は2階の自室にいるはずだ。司祭は乗馬が苦手だから馬車で行った」


 「隊長の部屋はどこだ」


 「2階の左側2番目の部屋だ」


  こいつの事はどうするか、ひとまず【鑑定】で見てみた。



   名前:ジミホアン 年齢:31 性別:男 種族:人族 職業:神殿衛兵

   状態:‐

   罪科:‐

   称号:性倒錯者


   性倒錯者: 性的快感上昇効果



 職業は神殿衛兵になっている。それならば憲兵隊に出頭させて自白させればいい。【鑑定】すればこいつの職業が分かるから下着姿でも言っている事が本当だと理解するはずだ。


 「おい、ジミホアン。今から憲兵隊に行ってドルアス軍曹を呼び出せ。そして今お前が言った事を全て話すんだ。質問されたら正直に答えろ。さっきみたいにごまかそうとするな。もちろん逃げることは許さない。いいか、俺は一緒に行かない。それがどういう事か解るか。お前が命令に背いたとしても首輪が締まるのを止められないという事だ」


 「お願いだ、憲兵隊で全部話すから自由にしてくれ。終わったら自由にしろと命令してくれ。奴隷なんて嫌だ。なあ頼むよ。もう悪いことはしないから」


 「今まで何十人も地獄に落としてきたんだろ。もしも自分がと思ったことは無いのか。今度はお前の番だ。もう命令したぞ、さあ行け」


 そう命じてジミホアンから【馬術 レベル3】を【レンタル】した。低レベルだがスキルはあった方がいい。

 

 二人の居場所が分からなくなった今となっては人手は多い方がいい。俺はザキトワの紙に書き込み返却した。3人を呼び出したのだ。【レンタル】していたロープも返却した。これで使用数は10個だ。あと2個【レンタル】が可能だ。首輪も外して解除し、ボタンを押すだけの状態にして収納した。

 俺は【変装】【視覚操作】【声色】を使用してジミホアンに化けた。ヤツの衛兵制服は大きすぎたが【変装】スキルによって自分のサイズに補正されている。神殿の2階に上がり隊長の部屋をノックした。


 「私です」


 「なんだ」


 「はい日ごろお世話になっていますので肩でも揉もうかと思いまして」


 「遠回りな言い方をするな。どうせ金だろ。今度は何処の女に貢ぐんだ」


 隊長はそう言いながら背中を向けて肩を揉みやすくした。俺は収納から首輪を取り出して手順最後のボタンを押して隊長の首に当てて言った。


 「まずはこれを隊長に差し上げます」


 言い終わると同時に首輪を閉じるとカチッと音がして首輪は外れなくなった。

 

 「ん、おい、ふざけるのはよせ。こんな物、どこから持って来た」


 隊長は首輪を取ろうとするがもちろん外れない。冗談ではなく本物だと気付き顔が見る見る青くなっていった。


 「なんてことをしやがったんだ。こんな事をしてただで済むと思っているのか。俺の座を狙っているのか。卑怯な真似をしやがって、今までさんざん面倒を見てやった……」


 「黙れ」


 「偉そうに、俺に命令するな、フガッ」


 隊長の首輪が締まった。


 「許す。マードはどこへ行った」


 「貴様ごときが知る事ではない」


 「マードがどこへ行ったか正直に答えろ」


 「誰が言うか、フガッ」


 「許す。次は無い。死ぬぞ。マードの行き先を言え」


 「俺を殺せば分からなくなるぞ。ははは、馬鹿め。だからお前は万年ヒラ衛兵なんだ」


 その時、1階が急に騒がしくなった。来たか。思ったより早かったな。俺は収納から手枷を隊長の両手に直接出した。

 突然に自由を奪われた隊長ががなり立てた


 「どうやった。お前は魔法が使えないはずだ」


 「ついて来い」


 隊長の手枷を引いて下へ行くと掃除奴隷のモリピンに女性3人組が文句を言っていた。


 「地下の牢にいた少女はどこへ行ったのですか」


 「早く答えなよ」


 「わかりません。私に聞かないでください」


 モリピンは質問攻めにあって困っている。


 階段から降りて来た俺たちを見て3人が走り寄って来た。


 「あの子をどこへやったの」


 「隠しだてすると暴れてやる。お前等なんて怖くない」


 俺は隊長に聞かれないように少し離れて小声で言った。


 「落ち着け、俺だ。早かったな」


 「え、嘘」


 「衛兵に化けたふりをしてる衛兵かもしれないわ」


 「怪しいな。本物だというなら得意プレイを言ってみて」


 「うるさいぞ変態。拘束プレイじゃない事は確かだ。正体は伏せておけよ」


 「あ、本物だわ。そういえば向こうのヤツが首輪を嵌められてるし」


 「隊長がマードの行き先を喋らないんだ。首輪をされて死ぬ覚悟を決めたらしい」


 俺たちは再び隊長に詰め寄った。


 「死ぬ寸前まで何度でも殴って吐かせる」


 ミーナは拳をポキポキやって言った。


 「爪に針を刺してやりましょう。喋るまで順番に」


 ザキトワは更に恐ろしい事を言った。


 「全裸にして馬で引きずり回そうよ」


 ファンミンも恐ろしい。


 隊長は真っ青な顔をしているが喋ろうとはしなかった。


  モリピンは何が起こっているのか分からず唖然としている。ヒラ衛兵が侵入者と親し気に話して上司の衛兵隊長の首には首輪があるのだから理解できないのも当然だ。

 騒ぎになってもいけない、彼には退出してもらおう。


 「モリピン、今日はもう自分の部屋に行って休め」


 モリピンは何か話したそうにして行くのを躊躇っている。


 「おい掃除奴隷、さっさと消えろグズ」


 隊長が言うとモリピンは命令に従うように歩き出した。


 「待て、モリピン。何か知っているのか」


 「馬鹿め、忘れたか。神殿で見聞きした事は決して喋らないよう命令されていただろうが。こいつはただの掃除道具だ。人じゃないんだよ。おい掃除道具、こいつを殺せ」


 もちろんモリピンは動かない。法律違反の命令には従う必要はないのだ。


 「お前はどうして奴隷にされたんだ」


 俺は気になって訊いてみた。


 「ジミホ、お前は本当に馬鹿だな。もう忘れたのか。そいつは酔っぱらって帰って来た俺にナイフを突きつけて金を出せっていったんだぜ。俺は怖がるふりをして神殿の敷地内に入れてから捕まえたんだ。こっち側なら好き放題に料理できるからな」


 「本当なのか、モリピン」


 「はい、本当です。でも、あんな事をしたのは初めてです。掏摸に金を取られて自棄になったんです」


 「そんな事は関係ねえ。俺様にナイフを突きつけた時点で終わりなんだよ。当時の司祭様も神殿に刃を向けたって激怒してただろ」


 隊長には聞いてないのだがベラベラよく喋る。ではもう少し喋ってもらおう。


 「モリピン、どうして司祭以外の命令でも有効なんだ。持ち主は司祭なのだろ」


 「とことんバカだな、お前は。共有してるに決まってるだろ」


 「モリピン、共有ってどうやってされたんだ」


 「どんだけ無能なんだ、お前は。司祭が首輪に左手をかざして宣言しただろ。今後はこの者も主であるなんて偉そうに言ってただろ。俺もお前も首輪に右手をかざしたのを忘れたのか。馬鹿め」


 「そうか、モリピン。前に女奴隷を買った小僧もそうやって共有にしたんだな」


 「馬鹿にも程があるぞ、ジミホ。あれは共有じゃない譲渡だ。この者に譲渡するって偉そうに言ってただろ」


 馬鹿にも程がある隊長だった。女性3人組も笑いを堪えるのに必死だった。


 「そうか、モリピン。お前を自由にしてやる」


 「底抜けの馬鹿だなお前は。それだけは誰にもできないんだよ。クソ、俺に首輪を嵌めやがって。殺すなら殺せ。お前の知りたいことは絶対に喋らないからな」


 隊長は自分の状況を思い出して怒りが再燃したようだ。


 俺は【レンタル】を発動した。モリピンの首から首輪が消えて俺の手に現れた。もう完全に覚えた手順通りに操作し、最後にレバーを引くと首輪が開いた。


 モリピンも隊長も目が飛び出さんばかりに驚いている。


 「おいジミホ、俺のも外してくれ。頼むよ、外してくれたら全て喋る」


 解放される希望が湧いたとたんに隊長が懇願しはじめた。だがもう遅い。


 「お前は喋るな」


 「モリピン、話してくれ」


 「はい、司祭と隊長が話しているのを聞きました。捕らえた奴隷はダンジョン5層の安全地帯に監禁していると」


 「安全地帯」


 ダンジョン未経験の俺には分からない。首をひねっているとダンジョン経験者のミーナが教えてくれた。


 「普通はボス部屋の事だよ。エリアボスや階層ボスは専用の部屋にいて討伐すればその部屋にはもう魔物は湧かないの。だから安全地帯になる。でも、そういう部屋は冒険者が休憩に使うから人が常に出入りするよ。監禁なんて絶対に無理」


 「なるほど、そこじゃないなら何処だろうな」


 「たぶん行き止まりの道か部屋だと思う。そこに結界を張って入口に壁を作っちゃえば誰にも気づかれないし魔物も入れない」


 「それだな。おい場所はどこだ」


 俺は隊長に訊いた。


 「首輪を外したら話してやる。正確な場所を知っているからな」


 「本当だろうな」


 「ああ、本当だ。俺は嘘はつかない」


 【レンタル】を発動して隊長の首輪を俺の手に移した。


 「さあ、早く話すんだ」


 「馬鹿め。本当は知らんのだ。俺はダンジョンになど行ったことも無いしな。司祭様は報告に来た手下の冒険者どもの案内でとっくに出発されたわ。他に場所を知るものは誰もいない。もう決して見つけられないぞ。ハハハ、やはりお前は万年ヒラ衛兵だ。首輪さえ取れればもう何も怖くない。貴様らは神殿が総がかりで……」


 最後まで言う前に隊長の首に首輪が戻った。借りていたのを返しただけだ。


 「な、なぜだ。こんな事ができるわけがない」


 「知らないならお前に用は無い。モリピン、こいつの首輪に右手をかざせ」


 モリピンは言われた通りに手をかざした。俺は左手をかざして言った。


 「この者に譲渡する」


 言い終わると首輪が青白く光った。マサラを買った時と同じだ。


 「さあモリピン、こいつはお前の奴隷だ。好きにしていいぞ。この首輪は交換に貰っておく」


 「どうぞ、そんな首輪見たくもない。おい奴隷。今までよくもこき使ってくれたな。わざわざ床に唾を吐いて掃除させたり、壁の小さな汚れを見付けて殴ったり。全て覚えているぞ。最初の仕事は便所掃除だ。雑巾もブラシも使うな、自分の舌で舐めて綺麗にしろ。さあ行くぞ」


 余程鬱憤が貯まっていたようだ。隊長の鎖を掴んで便所へ連れて行った。


 「嫌だ。そんな事をするくらいなら死んでやる」


 「ああそうしろ。お前が死ぬところを見物してやろう、実に楽しみだ。さあ早く死ぬがいい」


 隊長の自暴自棄な脅しもモリピンには通用しなかった。

 行きかけたモリピンがこちらを向いて言った。


 「あなたにも恨みがあるはずですが不思議とそういう気持ちになりません。解放していただき感謝します」


 モリピンは丁寧にそう言うと、隊長のケツをガンガン蹴って便所に連れて行った。


 「あーあ、隊長の命も風前の灯火ね」


 「嫌な奴だ。死んで当然」


 ファンミンとミーナが妙に楽しそうに話していた。


 「それでサツキ君、どうするの」


 「ああ、急いでノースフォートダンジョンに行く。ミーナ、準備するものは何かあるか」


 「薬もあるし、ザキ姐たちも準備オッケー、このまま行けるよ。食料はあっちで買えばいいから」


 ザキ姐って言ってるのか、仲良くなってよかったな。


 「よし、行こう。道中でダンジョンの事を教えてくれ」


 「うん、お安い御用だい」


 「それにしても軍曹は何をやってるんだ。もう来ても良さそうなのに」


 外に出るとジミホアンがいた。え、コイツは何をやっているんだ。憲兵隊に行けと命じたのに、何故ここにいるんだ。よく見れば微妙に足が動いている。歩幅5cmほどでゆっくり歩いていた。これはいわゆる牛歩というやつなのでは。たしかにこれなら命令違反ではない。知恵が回るというか姑息というか、このスピードでは憲兵隊まで何日かかるか分からない。

 俺はジミホアンの正面に行って改めて命じた。


 「ドルアス軍曹に伝言を追加だ。被害者はダンジョン5層の安全地帯に監禁されている。さあ駆け足でいけ」


 ジミホアンは駆け出した。憲兵隊が出遅れたのは痛いが階層が分かったのは大きい。


 「よし行こう。ミーナは俺の馬に乗れ。俺は神殿の馬をいただく」


 「えー、サツキと一緒がいいのに」


 「スピードが勝負だ。二人乗りでは遅くなる」


 俺たちは南門からグラリガを出た。

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