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異世界レンタル放浪記  作者: 黒野犬千代
第五章 それぞれの仇討
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第54話 容姿操作

 再び物陰で迷彩コートを脱いだ俺とファンミンは何事も無かったように歩きだす。


 「ファンミン、すまなかったな。怖かっただろ」


 「ん、何が」


 「ほら、途中で震えていただろ。兵士に見つかりそうだったのか」


 「そ、そうね。そうだわよ。完全に昇天したわ。でもミーナには内緒だからね」


 「どうしてだ」


 「女の子をそんな目に合わせたんだから、サツキがちょん切られちゃうでしょ」


 「そうだな。内緒にした方がいいな。ファンミンは良く気が回るんだな」


 「そうよ。女子力高いファンちゃんなんだぞ」


 借家に帰るとミーナとザキトワが迎えてくれた。余程心配していたのだろうミーナは俺の顔を見ると

抱きついて来た。


 「おかえり。無事で良かったよ」


 「心配してくれたのか、楽勝だったぞ」


 「だって憲兵隊に忍び込むなんて危ないよ。相手はプロなんだから」


 普通はそう思うよな、だが前にも少佐と俺が拉致されたし、あの憲兵隊は大丈夫なのだろうか。そんな心配をしながら俺は成果報告を兼ねて実験してみた。


 「それじゃ早速やってみるぞ」


 俺は【容姿操作】を使い老人に化けた。イメージはロランゾさんだ。


 「え、ええ、サツキが一気に老け込んだ」


 「少年、ついに呪われたか」


 「サツキ君、驚いたわ。スキルを借りられるっていうのは本当だったのね」


 呪われたってなんだよ。ザキトワだけが冷静だった。俺は【レンタル】スキルの事を大まかに説明しておいたのだ。昨日ギルドで暴れたのも俺の実力ではない。今後魔物との戦いで昨日のような剣技を期待されても困るからだ。それでパーティーに必要ないと言われても構わないと思ったのだが二人とも受け入れてくれた。


 「服装はどうだ。老人の服装をイメージしているんだが、変化ないか」


 「服はさっきから全く変わらないよ。パンツを脱いでみなさい。少年の少年をファンちゃんが確認してあげ……ぐげ」


 ミーナに殴られて全てを言うことはできなかった。

 【容姿操作】で操作できるのは自分の顔や身体だけのようだ。操作と言っても変身しているわけではなくて、見た人の意識に働きかけて俺がイメージした通りに錯覚させているだけだ。実際に自分の手を見てもシワの無い16歳の手だがミーナたちには老人の手に見えているらしい。


 「よし、次いくぞ」


 今度は【容姿操作】と【魅了】を使いイケメンに化けた。イメージするのはサルード中尉だ。

 

 「あっ、サツキが変な顔になっちゃった」


 「しょ少年、私を抱いてくれ」


 「サツキ君、いけないわ。好きになってしまいそう」


 ファンミンはブラを外そうと後ろに手を回してミーナに殴られた。ザキトワは頬を赤くして俯いてしまった。そうか、彼女は好みの男性の前では乙女になるんだな。風呂の時は俺の前で脱いだから、俺は好みではないという事だ。ミーナの好みはこの顔じゃないんだな。それじゃあ、この顔はどうかな。


 「今度はこれだ」


 俺の知るもう一人のイケメン、背の高い銀髪ロン毛・緑縁隊隊長のエルネスをイメージしてみた。


 「あっ、サツキがアイツになった。殴らせて」


 「しょ少年、私を抱いてくれ」


 「ん、サツキ君、その顔はどこかで見たことがあるわ。そうだ、緑一色の人ね。今朝目抜き通りで見かけたわ。緑のとんがり帽子を被った女性と歩いてて女性隊員が戻ってこない、また無断外泊だって怒っていたわね」


 ミーナはこの顔も嫌いか。ファンミンは誰でもいいんだな。

 緑のとんがり帽子は魔法使いのリンスだな。ということは無断外泊の女性隊員はカトリーヌか。見かけによらず遊び人なんだな。よし、そのカトリーヌをイメージだ。


 俺は【容姿操作】と【触覚操作】を使ってカトリーヌになった。ブロンドで豊満ボディの持ち主だ。


 「えー、サツキが嫌な女になったよ」


 「少年が嫌味なビッチになったな」


 「サツキ君、死ねばいいのに」


 何だこの女性受けの悪さは。カトリーヌは遊び人かもしれないが俺を優しく介抱してくれたんだぞ。


 「落ち着け、冷静に評価しろ。胸とか腰とかお尻とか」


 「冷静に評価した結果は死刑ね」


 三人が声を揃えて言った。


 「髪の色はどうだ。ちゃんとブロンドになっているか」


 「ええサツキ君、私のより明るい色ね」


 ザキトワも金髪だが少し落ち着いた色だ。髪の色を気にしたのは嵌めている魔法指輪のカラーリングとどちらが優先されるか知りたかったからだ。俺の髪色は本来黒だが、魔法髪の店で買ったカラーリングという指輪の効果でライトブランウンになっているのだ。【容姿操作 レベルMAX】の方が優先される事が判明した。


 「そうか、大成功ということだな。胸を触ってみてくれ」


 三人が俺のベストを開いて胸を触り始めた。次第に大胆になり揉んだり先を摘まんだりしている。

 すごい、柔らかい、大きい。きゃっきゃ言いながら遊んでいる。弄んでいる。三人が触るのはもちろん俺の胸、男性の普通の胸だ。【触覚操作】の効果は抜群だった。うーん、段々痛くなってきた。


 「えーい、もうやめろ。痛い」


 三人は残念そうに呟いた。


 「むしり取ろうとしたのに」


 怖い、だが触った感じも大成功ということだ。


 「サツキ君、この後はどうするの」


 「俺がエサになってマードの前に現れる」


 「色仕掛けだな、少年」


 「違う。金に困った美少女を演じるんだ。衣装を貸してくれ。要らない衣装だ」


 「金持ちの娘みたいなのかしら」


 「いや、それだと親からだまし取ろうとするから面倒だ。薄幸の美少女だ」


 ファンミンが持ってきた衣装はレトロなドレスだった。裾は大きく広がっていて少女らしいがウエストは絞ってくびれを強調し胸元は大きくあいて色気もある。何より良いのは縫製が歪んだり生地が古かったりするところだ。


 「これは使えそうだな。ファンミンが着ていたのか」


 「これは私が縫ったのよ。古い生地が余っていたからそれを使ったの」


 「いいのか、大切なものなんだろ」


 「むしろ使って欲しいわ。恥ずかしくて着られないし捨てるのも勿体ないしで困ってたんだから」


 「そうか、ありがたく使わせてもらうよ。だが戻ってこないぞ」


 「ええいいわ。それより少年、戻ってこないってどういう事よ」


 「上手くいけばお俺を売ろうとするだろう。だから俺も服も戻れない」


 「サツキ君にあの首輪を嵌めて奴隷として売るってことよね。危険だわ」


 「問題ない。俺は首輪を外せるからな。だがまたファンミンの協力が必要なんだ」


 「脱げばいいのね」


 「違う。迷彩魔法コートを着て、俺が首輪を嵌められるときに違う角度から観察してほしいんだ。できれば奴らの後ろからだ。なぜ神殿の罪人にしか嵌められないのかが知りたい。奴らはそれが神様の審判だっていうんだが、それなら神殿以外の罪人にだって作動するだろ。絶対に何か仕掛けがあるはずなんだ」


 「なんだそんな事か。お安い御用よ」


 「サツキ、心配だよ。何かあったときはどうするの。ただ待つだけなんてアタシは嫌だよ」


 ミーナが心配するのも分かるし、何かあった時の連絡手段はあった方がいい。


 「そうだな、ザキトワ、紙と鉛筆を出してくれ」


 ザキトワが持ってきた鉛筆を受け取り言った。


 「この鉛筆だけ俺にくれないか」


 「もちろんよ」


 俺はその鉛筆で紙に文字を書いて二つに折ってから収納に仕舞った。


 「いざという時はこうする」


 そう言ってザキトワに紙を返却した。ザキトワの手に二つ折りの紙が現れた。

 ザキトワはそれを読むとミーナの頭を撫でた。


 「え、なに」


 ミーナが不思議そうに言うとザキトワは紙を広げてミーナに見せた。紙には


 『ミーナの頭を撫でてやってくれ』


 そう書かれていた。


 「サツキからの手紙ね。アタシも紙を用意する」


 「ダメなんだ。ミーナには送れない」


 「どういう事なの」


 「俺はザキトワから紙を【レンタル】してその紙に字を書いて返却したんだ。ミーナは俺の物だから【レンタル】できない」


  書き込んだら無理かと思ったが成功した。鉛筆なら文字を消せるからかもしれない。或いはペンで書いても大丈夫かもしれない。剣だって槍だって使ったら汚れるし刃こぼれだってする。それでもちゃんと返却できるのだから。


 「きゃ、アタシはサツキの物」 


 ファンミンが手を挙げて言った。


 「ちょい、ちょい、ちょい、私もそれやりたいんですけど」


 「ファンミンはダメだ。【レンタル】には数に限りがあるからな」


 「少年ってば最近私の扱いが雑よね」


 「ああ、最初からな」


 「でもサツキ君、縛られて文字なんて書けるかしら」


 「問題ない。縄抜けできるし、縛られた状態にも戻せるからな」


 「なんか凄いのと仲間になれたわね。ザキちゃん、私たちのパーティー全国レベルになるかもよ」


 「ファンたら小さいわね。世界レベルよ」


 そういう事を言うのはやめておいた方がいいと思うのだが、この世界にはフラグとかジンクスとかは

無いのだろうか。


 「それじゃ行くとするか」


 「待って、それでサレイニーとその神殿の男がグルだったとして、二人をどうするつもりなの」


 「自分たちがしたのと同じ目に合わせてやる」


 俺はそう言ってファンミンのレトロドレスを着た。下着もファンミンの物だ。他人からは女性が下着を着けて服を着ているように見えるが、実際は男が女装しているだけだ。それでも【容姿操作】【触覚操作】【声色】【変装】を使った俺は全くの別人になった。

 イメージしたのはクラスメイトの苺花(いちか)だ。入学してすぐ男子5人に告白された人気者だ。髪はイノセントカラーのエアリーロングで顎のラインの綺麗な色白女子だ。この世界の人をイメージして迷惑を掛けてはいけない。俺はもう会う事のない憧れの女性に化けた。


 「どうしたの、サツキ」


 「綺麗になって嬉し泣きか」


 「大丈夫ですか、サツキ君」


 言われて初めて気が付いた。俺の目から涙が出ていた。郷愁が無いと言えば嘘になる。でも今の俺には仲間がいる。目の前の人の事を考えよう。


 「なんでもない、大丈夫だ」


 俺は借家を出て神殿に向かった。

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