第52話 ダンジョンのカレンたち
翌日、緑縁隊の2番隊と4番隊の合計12名はノースフォートダンジョン地下5層に達していた。この階層に出現する魔物はゴブリンソルジャーだ。単独で現れることはなく、必ず複数で襲ってくる。魔物ランクはD。1対1ならEランク冒険者でも倒せるが最大で6匹同時に出現するために魔物ランクも格上げされている。対するパーティーも6人揃えるのが安全とされていた。
「そっちに行ったぞ、あとは止めを刺すだけだ」
岩肌が剥きだしたダンジョン5層の通路を走りながらタガートスが叫んだ。
タガートスの前には傷ついたゴブリンソルジャーが2匹敗走している。2匹が不器用な足取りで走っていくと岩陰から躍り出た若い冒険者3人が一斉に襲い掛かった。ゴブリンソルジャー2匹はすでにHPの殆どを削られていたようで、若い冒険者の浅い斬撃で簡単に斃されてしまった。
「やった。レベルがあがりました」
ニキビ顔のシラバイオが喜んで言った。
「僕もです。ありがとうございます。タガートスさん」
丸顔のターンドロも喜び、剣を納めながら言った。
一番若い童顔のムイザだけはレベルが上がらず残念そうにしている。
「ムイザは今のに止めを刺さなかったからレベルアップはお預けだな。次はそのあたりの壁から湧くから気を付けろ。今度はスーザンとミランダの番だ。あんたらには削りは不要だな」
タガートスが言ったように30mほど先の壁からゴブリンソルジャー2匹が湧いて出た。緑色の体に茶色の革鎧を着て手には鉄剣と革の盾を持っている。目を赤く光らせてこちらを認めるとゆっくり歩いてくる。
スーザンとミランダは走り出すとスピードを上げて2匹の左から駆け抜けざまに斬りつけた。スーザンが肩を狙い、ミランダは脛を狙った。同時に攻撃された左手のゴブリンソルジャーは肩への攻撃は革の盾で防いだものの脛への攻撃は躱せずに倒れてしまった。女性二人はUターンすると無傷のゴブリンソルジャーに同様の2重攻撃を加えた。どちらの攻撃を受けるか迷ったのが致命的なミスとなり、ゴブリンソルジャーは足と肩に剣を受けてHPをゴッソリ減らされてしまった。倒れたままの2匹に刺突を繰り返すとHPがゼロになり、ゴブリンソルジャー2匹の目から赤い光が消えた。あっという間の討伐だった。
「さすがだ」
タガートスが誉め言葉を言い終わる前に10mほど先の壁が歪み新たなゴブリンソルジャーが4匹湧いて出た。
「しまった。分断された。4番隊頼む」
サポート役の4番隊が走り寄り、攻撃を開始した。
ジョニードとアサブルが長盾を横にして4匹を抑えると槍を持った別の2人組が刺突と打擲を繰り返して削っていく。ゴブリンソルジャーは成す術もなく壁際に追いやられてしまった。
「もういいでしょう。お若い方々、出番ですよ。止めを刺してあげてね」
それまで後ろで見守っていたカトリーヌが立ち竦んでいた3人の若い冒険者に指示をした。
長盾のジョニードとアサブルが退くのと入れ替わりにターンドロ、ムイザ、シラバイオの若者3人が剣を構えて前に出た。それぞれが魔物の胸に深々と止めの突きを入れたが、1匹だけ残ったゴブリンソルジャーがターンドロの伸びきった右腕の下から突くと革鎧のない脇から鉄剣が胸に刺し込まれた。ターンドロは口から血を流しながらゴブリンソルジャーに抱きつくように倒れ、動きを封じられたゴブリンソルジャーはムイザとシラバイオの剣を受けて目の光が消えた。
ムイザはレベルが上がった事すら気付かぬほどに動揺して血まみれのターンドロに呼び掛けた。
「おい、うそだろ。しっかりしろ」
ターンドロが咳をすると更に血が飛び散った。
「すまん、しくじった」
弱々しい声で言うターンドロの手をシラバイオが握って言った。
「大丈夫だ。すぐに連れ出してやるからな」
ターンドロの横で傷の具合を確かめていたカトリーヌが首を横に振った。
「このまま地上まで運ぶのは無理だわ。安全地帯に行って傷の手当てをしましょう」
「場所は分かるのか」
スーザンが訊くとタガートスが答えた。
「ああ、この通路の先にあるんだ。急ごう」
地面に置いた2本の槍に長盾を渡して即席の担架が作られた。前を槍使いの二人が持ち、シラバイオと
ムイザは後ろを持って運んだ。
「カバストフさんは倒した魔物の回収をしてね。タガートスさんは先導、ジョニードさんとアサブルさんは殿をお願いするわ。スーザンさんとミランダさんは負傷者の側にいてあげてね」
カトリーヌに命じられた長剣の男はゴブリンソルジャーの胸を裂いて魔石を取り出し、両耳を削ぎ落として鞄に放り込んだ。両耳は討伐の証としてギルドに提出するためだ。
2つのパーティー12人は担架を守りながら洞窟のような通路を進んだ。
担架の横を歩くスーザンが他に聞こえないのを確かめてから小声でミランダに話しかけた。
「さっきのあれは削りが足りなかったとは思わないか」
「私もそう思いました。それまでは瀕死になるまで攻撃していたのに今回だけは甘かったです。あれではもっと負傷者が出てもおかしくはなかったです。やはりこのグループでしょうか」
「だが安全地帯に向かうのは定石通りで怪しくは無いな。安全地帯には他の冒険者も来るだろうから無茶はできまい。いずれにしても用心を怠るなよ。いつでも斬り伏せる準備をしておけ」
「はい、この程度の冒険者なら二人で制圧できます」
脇道に入る事も無く蛇行する通路を進むと左側に奥行10mほどの袋小路があった。
先導のタガートスは前後を確かめるとその袋小路に入っていき岩の壁面を鉄靴で蹴った。
ガン、ガンガンガン
しばらくは何も起こらず焦れたタガートスがもう一度同じリズムで蹴ると岩の壁が地面に崩れて入口が現れた。ちょうどドア1枚分ほどの入口から頬のこけた30代の男が現れた。右手に背丈ほどのロッドを持ち平服に緑色のハットを被っている。
「すまん、気付かなかった」
「遅いぞ、ボルー。気を抜くな。担架を入れるから入口を広げろ」
タガートスが命じると、ボルーは何か呟きながらロッドで地面を小突いた。入口の右側が先ほどのように崩れて広くなった。中は40平米ほどの広さがあり数個の樽や木箱が置かれていた。木箱の前には莚が敷かれ、40代ほどの貧弱な男が横になって鼾をかいている。内部の壁も天井もこれまでの通路とは違って削ったような跡があった。
「ここはダンジョン石の採掘場跡です。魔物は湧かないから安心してください。さあ、運び込んでくださいね」
カトリーヌは担架が運び込まれ全員が入った事を確かめると槍使いの冒険者二人に命じた。
「お二人は戻って報告をお願いします。気を付けてね」
「わかりました」
二人が自分の槍を取って出て行くとカトリーヌがボルーに目配せをした。そのボルーがまた何か呟くと、崩れていた岩がみるみる盛り上がって入口が綺麗に塞がれた。
「それは土属性の魔法ですか。見事なものですね。さすがです」
ミランダが愛らしい声で褒めるとがボルーは目じりを下げて言った。
「へへへ、これがロックウオールだぜ。カッコいいだろ。つっても6時間で崩れるんだがな」
「ボルーさん」
カトリーヌの声が鋭く響き、今までのおっとりした雰囲気は影も無く射るような眼光でボルーを睨みつけた。ボルーの顔は蒼白になりプルプルと震えだした。
「おしゃべりな男性は嫌いです。それにボルーさん、寝ていましたね。なんの為に交代要員を雇ったと思っているのですか」
「カトリーヌ、言い過ぎたのは認めるが俺は寝てねえ。ちゃんと起きてたんだ。壁はあっただろ。更新してる証拠だ」
「またおしゃべりですか。お仕置が必要ですね」
カトリーヌが何か呟くとボルーが歩いて近付いて来て、カトリーヌの手前で立ち止まった。
パン
カトリーヌの平手打ちが頬に決まった。
パン、パン、パン
往復で繰り出される平手打ちにボルーの頬は真っ赤になり、やがて鼻血混じりの鼻水を垂らし始めた。それでもボルーは呻くだけで防御する事も避けることもできずに平手打ちを受け続けた。
スーザンもミランダも若い冒険者たちも唖然として声も出ないがベテランたちは感情を表に出さずにただ見ていた。
パン、パン、パン
「さあボルーさん、もう喋っていいですよ」
「ハア、ハア、ハア、許してください。もう二度としません」
パン、パン
最後に一往復してからカトリーヌは頷き、血と鼻水で汚れた手をボルーの服で拭った。
「やりすぎだ」
スーザンが見かねて言った。
「規律は必要ですよ。貴女ならよくお解りと思いますが」
元の穏やかな表情に戻ったカトリーヌが答えた。
「それより、ボルーさんは魔法使いなのでしょ。ターンドロさんにヒールを掛けてあげてください」
そう言うミランダを見ただけでボルーはもう何も喋ろうとしない。
「残念ですが、ボルーさんは回復魔法は使えないんです」
ボルーに代わってカトリーヌがとても残念そうに答えた。
「ではポーションを使ってください。エクスポーションを」
カトリーヌは首を横に振ってとても悲しそうに言った。
「ポーションは無いんです」
「何を言っている。昨晩たくさんあるって言ったのはお前だろう」
スーザンが掴み掛かろうとしたがカトリーヌが何か呟くと途中で動きが止まった。
「残念ですが、ターンドロさんはもう助かりません」
「そんな事はありません。仲間に助けを呼びに行かせたでしょ。ポーションで時間を稼ぐのです」
ミランダは説得しようとカトリーヌに近付いた所で動きが止まった。
「あの二人は助けを呼びに行ったのではありませんよ。報告に行っただけです」
「どういう事だ。ポーションも無い、ヒールも使えない。それなのに何故助けを呼ばないんだよ」
意識を失ったターンドロの手を握っていたシラバイオがヒステリックな声を上げてカトリーヌに詰め寄ろうとして止まった。若いムイザはどうしていいか分からずにおどおどするしかなかった。
「可哀そうなターンドロさんをこれ以上苦しませないであげましょう」
カトリーヌが頷くとボルーが部屋の奥へと行って何か呟きながらロッドを振ると壁に小さな覗き穴が出来た。ボルーはそこに顔を付け、しばらく覗いてから言った。
「近くにはいません」
それを聞いたジョニードとアサブルがターンドロの手と足を掴んで持ち上げてその壁に近付いた。ボルーがロッドを振ると覗き穴が空いていた壁が崩れてドア2枚分ほどの出入口が出来た。出入口の向こうには、こちらと同じく掘削して作られた部屋があった。部屋の地面には防具や剣、衣類などが散乱し、ギルドカードらしきものも落ちている。
「そのままでは見えないですね。首だけ動かせるようにしますからご覧になってください」
カトリーヌが言うとスーザンもミランダもシラバイオも首を回して部屋の中を見た。口は利けないが目には怒りと恐怖が宿っている。
「さようなら、ターンドロさん」
カトリーヌが別れを告げるとジョニードとアサブルが振り子のようにターンドロの体を振って勢いをつけ部屋の奥に投げ捨てた。ターンドロの体が転がり装備がガチャガチャと音を立てると奥からグギギグガと魔物の鳴き声が聞こえてこちらに歩いてくる気配がした。1、2、3……6匹のゴブリンソルジャーが現れ地面で呻くターンドロを取り囲んだ。
獲物が動けないと分かると6匹はそのまま身を屈めてターンドロに噛り付いた。肉を喰いちぎり、骨を噛み砕く音が響き、一人だけ動けるムイザは頭を抱えて蹲り震えながら泣き出してしまった。
ターンドロの最期とムイザの絶望を見たカトリーヌが恍惚の表情で言った。
「可哀そうね」
ボルーが再びロッドを振ると出入口は岩の壁で塞がれた。
「酷い、なんでこんな事をするの」
ムイザが腕の間から顔を上げて絞り出すように言った。
「ムイザさん、次は貴方の番ですよ」
それを聞いたムイザが目を大きく見開き、ブンブンと首を横に振り涙と鼻水を撒き散らして懇願した。
「いやだ、やめて。お願いです。お願いです」
ムイザは四つ這いのままカトリーヌに縋ろうとした所で体だけが動かなくなった。
「体が動かない。なんでなの」
「私の能力です。動かすのも止めるのも自由自在なんですよ。自分の胸を剣で突かせることもできちゃいます。ムイザさんはそのまま待っていてくださいね。後で生きたままゴブリンに食べてもらいますからね」
「いやだ、いやだ、助けて。お願い」
「ちょっとうるさいかな」
カトリーヌがそう言うとムイザは声を出すことが出来なくなった。
「黙らせるのも自由自在なんです。それでは、大切な商品を荷造りしましょうね。スーザンさんからです」
そう言うとスーザンの体が勝手に動き、上下のレザーアーマーとブーツを脱いだ。自分に何が起こっているのか理解できずにマスクの奥の目が驚愕している。黒いブラとグリーンのショーツだけになったスーザンの手が後ろに回されると縄を持ったジョニードが高手小手に縛り上げた。再び体が勝手に動いてその場に横になり足を伸ばすとジョニードに足首と膝上を縛られ動けなくなった。
「さあ、動いていいですよ」
カトリーヌが言うとスーザンは動こうとするが体をよじる事しか出来なかった。
「なんちゃって、もう動けないですよね。次はミランダさんです」
ミランダにも同じ現象が起きて白い下着姿で縛られ転がされた。
「荷造り完了です。もう話していいですけど、煩くすると黙らせますからね」
「これはどういう事だ。説明しろ」
スーザンが訊いた。
「あなたたち二人は奴隷として売ります」
そう言いながらスーザンとミランダのマスクを剥ぎ取った。
「あら、お二人とも美人さんだこと。お名前は何でしょうね」
カトリーヌが【鑑定】をしてから言った。
「カレンさんとリシェルさんですか。やっぱり軍人さんでしたか。それにカレンさんは貴族なんですね」
「やっぱりとはどういう事だ、偽装マスクで隠していたのだぞ」
「仲間がアマリス村に到着したあなたたち二人を見ていました。管理盤に手を載せて青く光るのが見えたそうです」
「それがどうした、普通だろ」
「いえ、その後あなたたちはそのまま村に入ったんです」
「だからどうだというのだ、あっ」
「そうです。冒険者は青くなったら税金を払って入るものです。でもあなたたちは当たり前のように払わなかった。軍人や貴族は払いませんからね。門番さんもあなたたちの身に纏った権威に負けて催促できなかったようです。お仲間がいるはずだと泳がせたのですが誰もいませんでした。女性二人だけで来るとは勇気があるというか無謀というか、呆れちゃいました」
「こんな事をしてただで済むと」
「はい、うるさいです。カレンさんはお黙り下さい」
「女性の貴女が同じ女性を奴隷にして売るのですか」
カレンに代わってリシェルが努めて穏やかに言った。
「リシェルさん、あなたもとても綺麗ね。手も肌もすべすべだし、苦労を知らないお嬢様の肌。家事なんてしたことが無いのでしょうね。それが当たり前だと思っていたのではないかしら。でもこれからは大変ね。掃除も炊事も洗濯も畑仕事も夜のご奉仕も全てしなければね。ご主人様に加虐嗜好が無ければいいわね」
「あなたは最低です」
「逆恨みは止めてね。あなたたちがご自身の任務をきちんと遂行していれば立場は逆になっていたのですよ。あなたたちは失敗した。無能で無力だった、ただそれだけの事。冒険者がゴブリンを殺して報酬を貰うのと同じ、女はお金になるから捕まえて売る。単なるお仕事です。仕事に貴賎など無いって習わなかったのかしら」
「そのためにゴブリンソルジャーの削りを意図的に浅くしてターンドロさんを襲わせたのですね」
「だとしてもそれはターンドロさんの自己責任です。あんなに弱いのにダンジョンの5層に来るなんて、考えが甘いのです。お金にもならない甘い考えの男性がどうなるか見せてあげましょう」
そしてリシェルも話すことができなくなった。
「さあ、ムイザさん、覚悟はできましたか。今からさっきの部屋に行ってもらいます。でもターンドロさんみたいに瀕死ではないからすぐには死ねないかもしれませんね。生きたまま食べられるってとっても痛いですよ」
四つ這いのまま話すことも動くこともできないムイザの目からは涙がポタポタと流れ落ちている。
「あら、しゃべられないままでしたね。さあどうぞ、お話しください」
「そんなの嫌です。お願いです、殺さないでください」
「うーん、どうしようかなあ」
カトリーヌが甘えたような声で言った。
「お願いです。死にたくない。何でもしますから」
ムイザが泣き腫らした目で見上げながら願うと、カトリーヌはムイザの前にしゃがんで人差し指をムイザの鼻に当ててツンツンしながら言った。
「本当に何でもしてくれるのですか」
「本当です、本当に何でもしますから。お願いです、殺さないで」
それじゃあ、と豊かな胸を揺らしながら立ち上がり左手を腰に当て右手を伸ばしてシラバイオを指さし言った。
「シラバイオさんを殺してください」
「え」
「はい、動けるようにしましたよ。さあ剣を抜いてバサッと殺っちゃってください」
「そんな」
「あら、何でもしてくださるのではなかったかしら」
「お願いです。二人とも助けてください。そうしたら本当に何でもしますから」
「そのセリフは聞き飽きたわ。ここにいる男たち全員が言ったんじゃないかしら」
カトリーヌが見回すと男たちが全員頷いた。
「どういうこと」
「私たちの仲間になる証として友達を殺すの。逃げたり裏切ったりしたら友達殺しを言いふらすわ。そうすれば世界中から白い目で見られるのよ。タガートスさんとアサブルさんは親友を殺したの。ジョニードさんは弟を、カバストフさんは従弟を2人殺したわ。ボルーさんは誰だったかしら」
「兄です。双子の兄を殺しました」
ボルーが腫れた顔で言った。
「そうでしたね。でもムイザさん、安心してください。剣で殺さなくてもいいんですよ。ただお友達をあの部屋に入れるだけです。そうすれば貴方の罪科は綺麗なままですからね。
辛いのは最初だけ、私の下に居れば毎日遊んで酒でも女でも望みのままです。お友達の事なんてすぐに忘れられるわ。シラバイオさんの死刑を執行したら私を抱かせてあげる。ムイザさんが断るのでしたら同じお話をシラバイオさんにしますけれど、どうしますか」
「やります」
ムイザが消えるような声で答えるとカトリーヌがうっとりして命じた。
「ではシラバイオさんを壁の前にお連れしてください。ボルーさんが壁を消したら背中を蹴っちゃってくださいね。勢いよく蹴らないと貴方も食べられちゃいますよ。ではどうぞ。シラバイオさんも話せるようにしましたからお別れを言いましょう」
「やめてくれ、ムイザ。友達だろ。あんな女の言う事を聞くな。一緒にあいつを倒そう」
ムイザは何も話さずシラバイオの腕を引いて壁の前に連れて行った。されるがまま、シラバイオは抵抗する事ができない。ボルーは再び壁に覗き穴を空けて中を確認すると頷いた。
「嫌だ、やめろムイザ。友達を殺すのか、この卑怯者。クソ」
ムイザがボルーに頷き返すと壁が崩れた。その先では6匹のゴブリンソルジャーがターンドロだったものを食べている最中だった。
それを目の当たりにしたシラバイオが叫び声を上げるとゴブリンソルジャーの赤い目が一斉に二人を見た。
「嫌だ、嫌だ」
嫌がるシラバイオの背中をムイザが思い切り蹴るとシラバイオはゴブリンソルジャーの群れの中に吸い込まれた。絶叫が上がると同時にボルーがロックウォールを唱えて壁を元に戻した。
カトリーヌは縛られ転がされたまま一部始終を見ていたカレンとリシェルに微笑んでから、悄然とするムイザの手を取りボルーに命じた。
「ボルーさん、いつものように魔法で小部屋を作ってください」
ボルーが魔法をかけるとムイザとカトリーヌの周りに岩の壁ができ始めた。
「さあ、ムイザさん。二人だけのお部屋で思う存分に私を抱いてください」
二人が壁に覆い尽くされてしばらくすると中から嬌声が漏れ聞こえた。