第49話 潜入
宴会が続いていたアマリス村の酒場では両開きの扉が開いて一人の女性冒険者が入って来た。緑色のビキニアーマーを着たその冒険者は見事なブロンドのショートミディを右手でかき上げブルーの瞳で二人の新人を認めると近づいて抱きしめた。
「遅くなってしまい申し訳ありません。えっと、あなたがスーザンさんでしょうか、そしてミランダさん。私が2番隊リーダーのカトリーヌです」
カトリーヌを振り解きスーザンが苦笑いして言った。
「よ、よろしく頼む」
「よろしくお願いします。カトリーヌさん」
「女性が少なくて寂しかったのでお二人が加入してくださると聞いてとても嬉しく思います。でもどうして緑縁隊に入ろうと思われたのですか」
「来る者拒まずというモットーが気に入ってな。それにランクアップにも協力してくれるらしいからな」
「はい大歓迎です。お二人には2番隊に入ってもらいます。あちらのお若い御三方も一緒なんですよ。右からシラバイオさん、ターンドロさん、ムイザさんです」
3人は女性二人を見てはにかみながら、宜しくお願いしますと小さな声で言った。
カトリーヌは微笑んで続けた。
「今回はタガートスさんにこのままリーダーをしてもらいますね。6人で頑張ればすぐにランクアップできます。私は4番隊のリーダーをしますね」
「なぜカトリーヌが一緒じゃないんだ。元々2番隊のリーダーなのだろ」
「ご自身のランクの上下1つの依頼しか受けられないからです。皆さんはEランクですから受けられる依頼の上限はDランクですね。私はBランクですのでCランク以上の依頼しか受けられないからです」
「それだとランクアップは普通に努力しないとダメという事だな。それなら緑縁隊じゃなくても一緒だろ」
「スーザンさん、そんな事は無いのですよ。受けた依頼のお手伝いを4番隊がします。たとえば魔物討伐の依頼なら削りを4番隊がやって最後に2番隊が止めを刺せば経験値も依頼報酬も2番隊のものになるんです」
「なるほど、本来は暗黙の了解で先に攻撃したパーティーに権利があるから手出し無用だが、同じグループならそんな事は気にしなくていいという事だな」
「スーザンさん、さすがです。その通りですよ。貴女ならうちの幹部も夢じゃないです。明日はダンジョンに入りますから頑張りましょうね。薬もポーションも沢山用意してありますから安心してください」
宴会はそれから2時間ほど続いてお開きとなった。一行は酒場の隣にある宿屋に行き、それぞれの部屋で眠りについた。
「しょ、スーザンさん、本当にこのグループなんでしょうか」
少佐と言いそうになったリシェルが途中で気付いて言い直した。
「行方不明になった冒険者の何人もが緑色のアイテムを買っていた事がわかっている。緑といえば最近拡大中の緑縁隊だからな」
「でも隊長のエルネスさんは名の知れた剣士です。悪事に手を染めるとも思えませんが」
「そうだな。緑縁隊が隠れ蓑に使われていると考えた方が自然だろう。分からないのは目的だ。行方不明者たちが高価な装備を持っていたという証言は無い。だとすると乱暴目的か人身売買かだ」
「どちらにしろ罪科が強姦や誘拐になりますからすぐに捕まりそうなのもですが」
「それが謎だな、それに拉致した被害者をどうやって運んでいるかだ」
「荷馬車に隠したんでしょうか」
「町を出るときは検問は無いが入る時は全員が管理盤でチェックされる。うめき声でも聞こえれば門番が確認するはずだ」
「では管理盤でチェックされない馬車なら可能ということですね」
「そうだ。将官クラス、貴族、神官だな」
「でも、しょ、スーザンさん、将官クラスがノースフォートを出入りしていた記録はありません」
「リシェル、普通に喋っても大丈夫だぞ。これを張ったからな」
カレン少佐のベッドの下には小さな円錐形をした物が置いてあり、青白く光っていた。
「盗聴防止シールドですね。それなら安心です、少佐」
「ああ、それにこんな話をしていたら名前だけ隠しても意味がないだろ」
「うふ、そうでした。さすが少佐です」
リシェルは拳固を作って自分の頭をコツンとやって笑った。
「貴族にしてもノースフォートに何度も出入りしているという話は聞かない」
「となると神官でしょうか、少佐」
「神殿の馬車は何回も目撃されている」
「神殿と言えばゴータさんが奴隷を買われたそうですよ、少佐」
「奴隷ではないぞ、リシェル。異端なんとかだ。あの少女はずっと晒されていたからな、どうなる事かと思っていたら彼が手を差し伸べてくれた。ホッとしたよ」
「まあ、少佐はゴータさんが異端なんとかを買って変なことをするとは思わないのですか」
リシェルはカレンが彼と言った事にショックを覚えたのか口が尖っている。
「彼はそんな事はしない。リシェルだってそう思っているのだろ」
「もちろんゴータさんはそれが目的で買ったのではないでしょうけど、二人はこれからずっと一緒にいるんですよ。少佐はそれでも男女の仲にならないとお思いですか。二人が恋人になるより性処理の相手だったほうが私は安心です」
「リシェル、お前が怖くなる時があるぞ」
「私は自分に正直なだけです。ゴータさんは若いのですから毎日だってしたいはずです。そこにあんな可愛い子が一緒にいたら何もない方が変ですよ。心と体の両方を取られるより、体だけにしてほしいです」
「毎日したいって、そういうものなのか」
「そうですよ、少佐。この前だってゴータさんたら凄く硬くて元気だったんですから。少佐には負けません」
「な、なにを言うんだリシェル。私の時だってずっと後ろから突かれたんだぞ」
「え、少佐。やっぱりしちゃったんですね」
「リシェルこそいつの間に手を出したんだ」
「私は最後までしてません」
「なんだ、そうなのか。実は私もだ」
「少佐だけでも強敵なのに、若くて可愛い子の出現は大ピンチです。それにしてもゴータさんはよくお金を払えましたよね」
「そ、そうだな。不思議だな」
告白を断った事や金銭を援助した事を今更のように後悔するカレン少佐だったが、気を取り直して言った。
「リシェル、この話はここまでだ。任務に集中するんだ。もう寝るぞ」
「はい少佐。おやすみなさい」