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異世界レンタル放浪記  作者: 黒野犬千代
第四章 冒険者入門
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第46話 露天風呂

 剣を収めた俺はミーナの所に行って抱き起し、頭を撫でてやった。


 「良かった。無事だった」


 「皆でゴミなんか拾って、何かあったの」


 「さあな、お腹が減ったな。何か食べよう」


 そこへ銀髪ロン毛がドーミーを連れて来た。カトリーヌと緑の魔法使いも一緒だ。


 「サツキ君、僕は緑縁隊の隊長エルネスだ。すまなかったね。ドーミーにはよく言い聞かせるから許してやってくれ」


 「もう酒に飲まれるなよな。それに女ならお前らのパーティーにだって沢山いるだろ」


 「面目ない、酒はほどほどにする。緑縁隊の女性はカトリーヌとリンスだけでな。つい綺麗なお連れさんに目が行っちまった」


 ドーミーは素直に謝罪した。ミーナはまだ物足りなそうだったが綺麗と言われて満更でもないようで機嫌を直した。


 「いやドーミー、今日カトリーヌの2番隊に女性が二人加入するはずだ。アマリス村で合流する事になっている」


 30人もメンバーがいて女性が4人だけとはむさ苦しいグループだな。

 ジュドーさんは大騒ぎの中でも起きなかったようだ。大物だな。スキルは二つとも返却しておいた。


 「サツキさん、顔が痛そうですが大丈夫ですか」


 カトリーヌが心配してくれた。上はビキニアーマーだが下はミニのプリーツスカートだった。寝心地も触り心地も良かった白い腿が名残惜しい。

 そういえば痛いな。顔に触れてみると腫れて熱を持っているようだ。


 「おい、チビすけ、ヒールは掛けられるか」


 「隊長、こいつにファイアーカノンをぶち込んでいいっすか」


 「街中で攻撃魔法は使えないよ、リンス。ヒールを掛けてあげなさい」


 ヒールを掛けてもらうと嘘のように痛みが引いてHPも109に戻った。


 「リンス、ありがとうな。よく見れば可愛い顔をしているな」


 リンスはまん丸の大きな目をしてアヒル口だ。鼻も程よく高く可愛かった。髪型も気になるがとんがり帽に隠れて見ることはできない。


 「よく見なくてもカワイイわ。失礼な。隊長、こいつをフィアーボムで爆破していいっすか」


 「サツキ君、それにしてもいい腕だ。驚いたよ」


 エルネス隊長はリンスを無視して俺に言った。


 「よく言うよ。俺の剣を全て見切っていただろ」


 「それはキミの狙いがドーミーだけだったからだよ」


 「そういう事にしておこう」


 「キミたちがFランクだとは信じられないな。ウチに来ないかい。ランクアップにも協力するよ」


 「俺は女としかパーティーを組まないんでね」


 「若いっていいねえ、僕も昔は同じ事を言っていたよ。気が向いたらでいいさ」


 エルネス一行は去っていき、入れ替わるようにナルガイロスが来た。


 「おい、サツキ。ギルド内で剣を抜くのは厳禁だぞ。と講習で説明するのを忘れていた。今回は御咎め無しだが、またやったら追放だからな」


 「はい、気を付けます。ナルガイロスさん」


 「お前がこれほど強いとはな。大型新人現る、だ」


 そんな事を言って事務所に戻っていった。

 最近怒りっぽいのはカルシウム不足なのかもしれない。俺とミーナは食堂で肉を食べることにした。三角バイソンのステーキを200g注文して代金を払おうとすると


 「お代はエルネスさんからいただいたいます」


 「え、さっきの緑縁隊の隊長ですよね」


 「はい、何でも好きなものを食べさせてやってくれと言わています」


 「じゃあ、ステーキは300gで、パフェとケーキも付けてください。ミーナも同じでいいよな」


 「うん、あと蜂蜜オレンジジュースも」


 「それを2つください」


 「それからサーベルエミュのローストサンドを4人前、持ち帰りで」


 「ついでに蜂蜜オレンジ水を水筒付きで4つお願いします」


 「いやあ、持ち帰りまでは言われてないですけど」


 「持ち帰り用にはするけどここで食べたいような感じかもしれないです」


 「何ですかそれは、まあいいでしょう。かしこまりました」


 俺たちはタダ飯をたらふく食べた。持ち帰り用はそのままリュックの収納に入れておいた。俺のリュックは入れた時の状態を保ってくれる。新鮮なままのローストサンドがいつでも好きな時に食べられるのだ。これで2回分の昼食代が浮いた。終わりよければ全てよしだ。

 満腹になった俺たちは意気揚々と馬に乗って西門から都市の外へ出た。


 「ねえ、サツキ。さっきはどうしてスキルが発動しなかったの」


 「今もミーナに試してみたんだけどダメだった。脳内スイッチが点灯しないんだ」


 俺のスキル【レンタル】は相手の所有物や所有スキルをイメージして発動が可能ならば脳内スイッチが点灯する。先ほどからミーナの【蹴術】や【脚力】をイメージしているのだが脳内スイッチは点灯しないのだ。


 「思い当たることは一つしかない」


 「え、なに」


 「ミーナが俺の物だからだ」


 「きゃっ」


 「神殿の首輪を外せたのはミーナが俺の物だからだ。自分の物ならリュックの収納に自由に出し入れできるからな。だが【レンタル】はそうじゃない。自分の物を借りるっていうこと自体おかしいだろ。だから俺の持ち物であるミーナからは【レンタル】できない。おそらくこの考え方で合っていると思う」


 「そっかあ、それじゃあ連携プレイも考え直さないとだね」


 「そうだな。でも魔物と戦う前に分かって良かったよ。本番でやってダメでしたじゃ死ぬからな」


 「食堂の皆はサツキが強い強いって言うんだけど、アタシはサツキが殴られたのしか見てないんだよね。アタシもサツキの格好良いところを見たいな」


 「そんな機会がないことを祈るよ。俺は人の力を借りてるだけで本当は弱っちい男だ」


 「そんなことないよ。本当に弱いなら人の力を借りたって弱いんだよ。サツキはアタシを助けてくれたし守ってくれた。それが全てだよ。アタシはサツキの物、好きにしていいんだよ」


 やばい、そんな事を言われたら硬くなる。このビキニパンツで硬くなると痛いんだぞ。

 やばい、静まれ俺、鎮まれ。


 俺の鎮圧に成功した俺は颯爽と馬を進める。


 しばらく行って街道から外れて草原へと踏み入れた。この辺りはマサラを買う資金繰りの為に狩りと薬草採取をしに来た場所でマップにも記入してある。

 この先に行けばタワシの元になるタワシ草や加工されて孫の手になる孫の木が生えている。どちらも1本で銅貨5枚になるが多量の持ち込みがあると買い取ってもらえない。とはいえ今日は薬草も狩りも関係ない。今日の目的は露天風呂だ。リュックの収納に入っているワイン樽を設置する場所を探している。人に覗かれず、それでいて魔物の心配も無い場所でなければならない。

 マップに記入してある通りにタワシ草と孫の木の群生地を抜けると小高い丘が現れた。高さはわずか5、6mほどだが低木が生えていて馬では登れないし価値のある植物は何もない。ここなら人は来ないだろうし、魔物はせいぜいベリーラットくらいだ。頂はここから見た感じでは草地になっているようで、風呂の設置には適しているだろう。


 「ミーナ、場所が決まったぞ。この丘の上だ」


 「いいね。ここまでは人も来ないだろうしね。でも馬では上がれないよ。下に置いていくの」


 そうなんだよな。馬に何かあると都市まで戻るのに何時間かかるか分からない。できれば近くに置いておきたいが、かといって丘肌には低木が生えていて馬には無理だ。わずか数十センチとはいえ枝で足に傷が付いたら大変だ。ノコギリでもあれば簡単に切れそうだがそんなものは無いし時間もかかる。

 周りを見れば岩と木ばかりだ。あそこにある岩は平らで風呂の設置に良さそうだ。丘の上は諦めてあの岩で我慢しよう。他のは丸かったり楕円形だったりでワイン樽は置けない。

 ん、待てよ。これは使えるぞ。俺は試しに大きな丸みを帯びた岩をリュックの収納に入れてみた。直径1mもある岩が消えて収納された。更に楕円形の大岩や最初に目にした平らな岩も収納していく。

 目の前から岩が次々に消えていくのを見たミーナが驚いて言った。


 「これってサツキがやってるの。何が起こったのかと焦ったわ」


 「すまん、急に思いついたことがあってな。岩を斜面に落とせば転がって木をなぎ倒してくれるだろ」


 「なあるほど、サツキって色んなことを思いつくよね」


 俺は収納から丘の斜面に大岩を落とすイメージで出そうとしたができなかった。


 「ダメだった。落とせない。それなら置いてみるか」


 上から落とすのではなく斜面に置くのならできた。上に岩を置かれて木がボキボキと折れて潰れた。


 「そしたら頂上のギリギリの場所に置いて、アタシが足で蹴り落とそうか」


 「そうだな、それも一つの手だが」


 誤ってミーナが一緒に落ちたら大変だ。なるべく安全にやりたい。


 「よし、このまま強引にやる」


 俺は置いた岩を収納して再び別の木の上に置いた。更に他の大岩も使って強引に作業を進めた。大きな岩が現れては木を押し潰し、木を押し潰しては消え、それを素早く何度も繰り返した。大変な作業のようだが単にイメージするだけだ。ほんの数分で丘の半ばまで道ができた。


 「俺は歩いて上に移動して作業を続けるからミーナはここで待機な。道の下には来るなよ。岩が転げ落ちるかもしれないからな」


 リュックの収納から出し入れできるのは10m以内だ。丘までの残り半分は頂上まで登ってからやる必要がある。頂上まで登ってみると案の定草地だった。早速作業に取り掛かりすぐに完了した。幅1mほどの道が出来上がった。俺は道を下りながら落ちている枝を収納していく。いちいち手で拾う必要はない。これもイメージすれば収納されるのだ。収納されない枝は幹から根に繋がっているという事なので再び岩を置いて処理していった。リュックの収納には大量の枝葉と岩が入っている。

 下まで来るとミーナも馬で寄って来た。


 「まだ何本か根の張っているのがあるけど大丈夫かな」


 「大丈夫よ。馬はちゃんと下を見ながら歩くから、それくらい避けてくれるの」


 俺はそのまま歩いて登り、ミーナは馬に乗って登った。

 頂上はかなりの広さがあって馬をその辺の木に繋いでも余裕があった。あらためて周囲を見渡せば草原はもちろん赤い実を付けた野イチゴの植生地やブルーベリーを摘んだ灌木エリアまで一望できる。草原のずっと先には林や森が黒々と見えた。


 頂上の草の上に平らな岩を置いてその上にワイン樽を載せた。押したり引いたりしてぐらつきが無いか確かめ、岩の横に簀の子を設置してタオルを置けば出来上がりだ。


 「ミーナ、完成したぞ。もう入るならお湯を入れるし、まだならいつでも言ってくれ。すぐに入れる」


 「もちろんすぐに入るよ。お湯お願いしまーす」


 俺は収納からワイン樽にお湯を移動した。お湯は昨晩収納に入れた時のまま、熱いままだ。


 「入ったよ。(ぬる)くなったらいってくれ。昨日はお湯を余分に収納しておいたからな」


 人によっては一日に何回も入浴する。俺はそう考えて二人分を多めに収納しておいたのだ。俺の物でなければ収納できないのだから、収納できたという事は何も問題が無いということだ。


 ミーナが脱ぎ始めたので俺は急いで違う方を向いた。


 「俺はこっちで寝ているよ。今回はテストも兼ねてここで結界を張ってみようと思ってな。結界・並だから3時間の休憩にしよう。何かあったら起こしてくれ」


 ミーナがワイン樽に入ったのを確認してから中央へ行って結界の素を置いて作動させた。

 微かに青みがかった淡い光の膜が伸びていき、30秒で全てを覆った。直径6m、高さ3mの円筒状の結界が完成したのだ。青みがかった膜は見えるが透明で周囲の景色も良く見える。風が葉を揺らす音も聞こえるが結界の中は無風だった。

 俺は草の上に仰向けに寝て両手を頭の下で組んで枕にした。上空に6mの結界の輪が微かに見えるが気にならない。この世界の空も地球と同じ青だった。青く澄んだ空をわた雲が一つ二つと流れていく。

 こっちの世界に転生して忙しい日々だった。

 死んだ俺は今、生きていると実感する。


 「キレイな空」


 ミーナも空を見ながら入浴していたのか。


 「ああ、癒されるな。お湯を足そうか」


 「もう出るから必要ないよ」


 「分かった。俺はもう少し眠る」


 俺は目を瞑るとすぐに眠りに落ちた。



 そのころ、グラリガとノースフォートの中間にあるアマリス村に入る2騎の冒険者がいた。一人は黒いレザーアーマーを身に着け、長い足はサイハイブーツに隠されていたが深く切れ込んだスカート型レザーアーマーのスリットからは白い素肌とグリーンのショーツが見え隠れしていた。ミディアムボブの髪をかき上げた顔には黒い面が当てられその表情は見えない。腰に帯びたレイピアの朱色をした鞘が馬の背に当たりガチャガチャと音を立てていた。

 後続の冒険者も全く同じ装いだが色は対照的な白だった。白いレザーアーマーよりも白いのではと思える肌が時折スリットからのぞいていた。白い面は風になびく長い髪の黒を引き立たせた。肩当に 結んだグリーンのリボンが黒髪と共にヒラヒラと揺れている。

 管理盤に手を当てると盤面は青く光り、二人はそのまま村に入ると酒場へ向かった。門番の兵士は顔は見えずとも面に穿った穴から覗く茶色い瞳だけでその美貌に心を奪われたようだった。


 酒場の両開きの扉を押して二人が入ると宵の喧騒がしんと静まった。ごくりと唾をのむ者、ポカンと口を開ける者、上から下まで舐めるような視線を送る者、そんな男たちの中から鉄靴を履いた一人が立ち上がり、黒いレザーアーマーの冒険者に近寄って言った。


 「あんたらが加入希望のスーザンとミランダか」


 「ああ、私がスーザン、こっちがミランダだ」


 黒い方が言った。


 「俺はCランクのタガートスだ。あんたらには2番隊に入ってもらう事になっているがリーダーのカトリーヌはまだ来ていない。俺が臨時のリーダーをしている。さあ来てくれ、ちょうど皆で宴会中だ」


 村の狭い酒場にはテーブルが3卓ありそれぞれに3人の冒険者が座っていた。うち2つのテーブルの冒険者たちはどこかしらに緑色をした装備やアイテムを使っており、それが同じグループの目印になっているようだった。残り1つのテーブルの冒険者たちはまだ若く、酒というよりも食事を楽しんでいたが、現れた黒と白の冒険者に躊躇いがちに目をやり、二人がそれに気づいて振り向くと顔を赤らめて下を向いた。


 「なあ、せっかく仲間になるんだからマスクを外して顔を拝ませてくれよ」


 緑色のヘルムを被った色黒のノッポがビールを煽ってから言った。


 「そうだよな、アサブル。お二人さんともスタイルは抜群だってのは分かったが顔も見てえよな」


 足元に緑色の背嚢を置いた男が言った。ハゲ頭まで真っ赤になるほどに酔っているようだ。


 「ああジョニード、あのスタイルなら顔だって美人に決まってらあ。そっちのテーブルの新入り3人も気になって仕方がねえみたいだぜ」


 話を振られて焦った3人が更に顔を赤くした。別のグループかと思っていた3人の若者をよく見れば剣の鍔に緑色のリボンを結んでいた。


 「全員が緑縁隊か。宜しく頼む。私もミランダも顔に大きな傷があってマスクは外せない。それとも緑縁隊では顔で加入の可否を決めるのか」


 黒いレザーアーマーを着たスーザンが言った。無論スーザンとはカレン少佐であり、ミランダはリシェル少尉だ。顔に着けているのはステータスを偽装することができる偽装マスクという魔法アイテムで、【鑑定】されると予め登録した内容が示されるようになっている。


 「そうか、それはすまなかったな。気を悪くしないでくれ。さあ食ってくれ」


 タガートスがサーベルエミュの腿焼きを齧りながら言った。他の者も鼻白んだように酒や肴に手を伸ばしたが若い3人組は話が逸れてほっとしたように食事に専念し始めた。


 「お二人さんのランクはEだそうだが間違いないか」


 「そうだ、二人ともEランクだ」


 「それならそこの3人組と一緒だな。彼らも2番隊に入ってもらった。スーザンとミランダもギルドカードを出して加入申請をしてくれ」


 二人からギルドカードを受け取ったタガートスはパーティー編成を行った。


 「よし、承認した。これであんたらも正式に緑縁隊の隊員だ。さあ乾杯しようぜ」


 皆が盃を持って乾杯した。

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