第42話 初報酬
ワイワイやりながら西門を通ったのは午後5時だった。そのままギルドへ行き渡り廊下を通って報酬カウンターにベリーラットを持ち込んだ。15匹獲ったが、提出するのは5匹だけだ。同じ依頼があったらその時に出すために残りは取っておく。俺のリュックは入れたままの状態を保ってくれる。腐ったり傷んだりしないのだ。
ギルドには制服は無いようでカウンターにいる十代の女性はジーンズに白い長袖シャツを着ている。
「報告ですね。パーティーリーダーのギルドカードをお願いします」
俺のギルドカードを受け取ると石でできたカードリーダの上に置いた。門番の持つ管理盤と似ている。本人確認と罪科の有無を見ているのだ。石が青く光った。問題無しということのようだ。
「確認できました。おめでとうございます、依頼達成です。獲物はこちらで買い取りになります」
「自分で解体して買取屋に持ち込んだ方が高く売れるんだけど」
前にそうしたら1匹まるごとで売るより銀貨1枚多かったのだ。
「この場で解体するのでしたらお持ち帰りいただけますが、解体せずに持ち帰るのは禁止されています。何故かというと同じ依頼を受けて、またその獲物を持ってくれば依頼が成功したことになってしまうからです。それに解体して売るのと同等の価格で買い取りしていますよ」
「なるほど、そういう事か。では買取りをお願いします」
「報酬は銀貨1枚、ベリーラットは1匹につき銀貨5枚、5匹ですから全部で銀貨26枚です」
お金を受け取った俺たちが依頼掲示板の方に行くとタルタルムと相棒が揉めていた。
「あれだけ探し回って一つも見つからないなんて、とんだ無駄骨だよ、タルタルム。なんであんな依頼を受けちゃったんだよ」
「仕方ねえだろ、勢いで剥がしちまったんだからよう、やっぱ俺たちに草取りなんて似合わねえんだ」
「じゃ、じゃあ魔物を狩るのか。絶対に無理だよ。武器だって持ってないんだからさ」
「そんなの分かってんだよ。だから悩んでんだろうが」
あらら、やっぱりカムイ草は見つからなかったんだね。仕方がない顔見知りの誼だ、背中を押してやろう。
「ミーナ、ゴミ屋敷の掃除がまだ残ってるぞ」
「え、何、サツキ」
「ほら、これだよ。掃除助手で銀貨3枚も貰える。助手ってただのサポートだろ、割のいい仕事だよな」
「おっと、それは俺たちが先に見つけたんだぜ。残念だったな、他を探しな」
タルタルムが依頼書を素早く剥がして意気揚々と窓口に持って行ってしまった。単純なヤツだ。
「さて、俺たちはマルチ草の依頼書を持っていこう」
ミーナに教えてもらった通りに、既に採取してあるマルチ草の依頼を受けてすぐに報酬カウンターに持って行った。カウンターには先ほどのジーンズ女性職員がいた。ネームプレートにはサリサリーと書いてある。
「あ、先ほどの方ですね。カードもお願いします」
「はい、サリサリーさん、お願いします」
「皆からは、サリーちゃんって呼ばれてますよ」
「可愛いニックネームですね。サリーちゃん、すぐに依頼を持ってきても大丈夫だったんですよね」
「大丈夫ですよ、サツキさん。まだFランクなのに、裏技を知ってるとは、将来が楽しみです」
「ミーナが教えてくれたんですよ」
隣のミーナが胸を張っている。
「素敵なメンバーさんですね。この調子でいけばすぐにEランクに上がれますよ。頑張ってくださいね。では、今回の報酬は銅貨90枚です。マルチ草10株ですので銀貨3枚で買い取ります。合計で銀貨3枚と銅貨90枚です。お受け取り下さい」
「ありがとう。すぐに戻ってきますね」
俺たちはヒール草の依頼を受けてすぐにサリーちゃんのカウンターに戻って来た。
「本当にすぐでしたね。報酬が銅貨30枚、ヒール草10株で銀貨1枚です。これは独り言ですけど、同じ品物の依頼は同じ日に出さない方がいいです。同じ日だとポイントにならないんですよ。あ、独り言なんで聞かないでくださいね」
「サリーちゃんありがとう。可愛いのはニックネームだけじゃないです。また明日きますね」
「はい、また明日」
笑うとえくぼが出来て可愛い女性だった。
「ミーナ、宿屋へ帰ろう。今日の仕事は終わりだ」
「うん、お腹が空いたね。でもさ、こんな格好で帰ったらおかしいよね」
「大丈夫だ。俺に任せとけ」
宿屋街の馬預かり所で馬を入れた俺たちは厩から出てきた時には服装がガラリと変わっていた。ミーナはチューブトップレザービキニアーマーから茶色のブラウスとマキシプリーツスカート、首にはベージュのストールだ。裏皮ベストと腰巻だった俺はオフホワイトの綿シャツとジーンズになっていた。なにも厩の陰でこっそり着替えたわけではない。俺のリュックは自分の物を触れもせずに収納できるし、出すのも10m以内ならどこにでも可能だ。俺は一瞬で着ている服を収納に入れ、リュックから別の服を自分の体に着せるように出したのだった。髪の色は指輪を外せば元の色に戻る。
マサラは歩きながら黒髪に戻ったソバージュを後ろでまとめて翠色の髪留めを付けた。
ゴータとマサラに戻り、白馬寮のフロントでいつもの男性スタッフから鍵を受け取り食堂へ行った。今日は冒険者のパーティーが来ていて賑やかだ。
「ゴータの収納って本当に便利だよね。あんな使い方もできるなんて驚きだよ」
「そうだな、自分でもそう思う。最初は馬に乗ったまま服装チェンジをしようかと思ったんだ。でもスカートしか持ってなかったからな。今度は馬に乗りやすい服を買った方がいいな」
「え、また買ってくれるの。嬉しいな」
「ああ、結界を買っても余裕はあるだろう。まだ売ってないベリーラットが10匹もあるしな」
「よし、明日はギルドで依頼裏技をやってから北西地区の商店街に行こう」
「そうね。あのギルドのお姉さん、良い事を教えてくれたね」
「そういや、マサラがFからEに上がったときには何回くらい依頼を達成したんだ」
「15回くらいだったかな。Eランクの冒険者がいるパーティーだったからゴブリン狩りを後ろで見てる事が多かったよ」
「ゴブリンで15回だと薬草だと相当沢山やる必要がありそうだな」
「でも一日に何回もゴブリンの依頼をやったから、さっきのお姉さんの情報だと無駄が多かったって事になるんだよね」
「そうだな。まあいいか、急ぐことは何も無いからな。さあ満腹になったし風呂にしようか。今日の宿泊客は男の冒険者ばかりらしいから女湯は独り占めできそうだぞ。人目が無ければ首輪の事も気にせずに入れるだろ」
「ゴータ、お願いがあるんだけど、また昨日みたいに外でお風呂に入りたいなと思って」
「なんだそんな事か、お安い御用だ。俺の国では露天風呂っていうんだ」
俺は寝る前に風呂場へ行って収納に二人分のお湯を入れた。今日は入浴せずに俺も明日露天風呂に入るつもりだ。宿代は入浴料込みなのでお湯は自分の物として収納できる。
さあ寝よう、そう思って気付いた。また寝間着を買い忘れている。
「マサラ、すまん。また寝間着買うの忘れてた」
「仕方ないよ。毒矢にやられてそれどころじゃなかったんだから。それにもう慣れちゃった」
眠い、明日は忘れずに買ってやるからな。俺は心地よい眠りに落ちた。
「ブラ邪魔だから脱いじゃった。パンツも窮屈だからね」
スヤスヤ
「ゴータ、いまアタシ裸だよ」
スヤスヤ
「寝ちゃったか」