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異世界レンタル放浪記  作者: 黒野犬千代
第四章 冒険者入門
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第41話 初仕事

 掲示板の方に行こうとしているとタルタルムと相棒がこちらへ近付いてきた。また何か吠えるのか。ウンザリなんだが。


 「なあ、ビキニの女。俺たちのパーティーに入れよ。そんなひょろひょろ役に立たねえぜ」


 タルタルムがミーナを勧誘した。ミーナは興味がないらしく無視して足元を気にしている。見ればニーハイソックスが下がっていた。下がってしまったニーハイソックスを上げようと屈んで両手を下に伸ばすと二の腕で寄せられた胸が見事な谷間を形成した。タルタルムも相棒も吸い寄せられるように見てゴクンと唾を飲んだ。胸ばかりに目が行き縄の痕は見られなかったようだ。

 ニーハイソックスを引き上げるとミーナは


 「行きましょ」


 と言って俺の腕に手を絡めて歩き出した。漸く我に返ったおバカ男性コンビはミーナを諦めて、女性ペアに声を掛けていた。


 「なあ、俺たちと」


 全てを言わせずに女性コンビが走って俺たちを追いかけてきた。


 「ねえ、ちょっといいかしら」


 また新たな揉め事なのだろうか、ウンザリして振り返った俺をスルーしてミーナの前に立った。


 「あなたのその恰好」


 なんだミーナに因縁でもつけるのかと俺が言うより早くファンミンとザキトワが続けた。


 「とっても素敵ね。どこで買ったの。教えて」


 「触ってみてもいい」


 きゃっきゃ言ってはしゃぎはじめた。ミーナもまんざらではないようで、男の視線が凄いのよ、なんて言って喜んでいる。


 「これはサツキが選んでくれたんだよ」


 「え、そうなの」


 「少年、やるわね」


 「それでね、サツキのはアタシが選んだんだよ」


 「そういえばサツキ君もシュールよね」


 「たまに見えるパンツがセクシーね。少年のくせに」


 ファンミンが俺の股間を凝視して呟くとミーナが嬉しそうに言った。


 「そうでしょ。アタシもそれを狙ったの。見て見て」


 ミーナが腰巻をめくり上げてファンミンとザキトワに俺のパンツを見せて自慢している。恥ずかしいからやめて欲しいが、恥ずかしがる方が恥ずかしいので堂々と見せてやる。


 「いいわね。私も彼氏に服を選んであげよ」


 「ファンたら彼氏もいないのに」


 「もー、いいじゃない妄想くらいさせてよ」


 結局俺たちは報酬カウンターの先にあるギルドの食堂に移動して話を楽しんだ。お姉さんたちが奢ってあげるよと、銅貨30枚のパフェも食べさせてくれた。

 ファンミンとザキトワは大商人の所で事務の仕事をしていたが遣り甲斐を感じられずに、以前からの夢だった冒険者に転身することにしたのだそうだ。

 しっかり準備もしていてファンミンは槍術をザキトワは剣術を町の道場で習っていたという。貯めていたお金で値の張る装備も買ったが、ミーナのを見て失敗だったとしきりに後悔していた。

 俺が買った店を教えると、これから見に行くと言って席を立った。


 「じゃあ少年少女、またね。エッチばかりしてちゃダメだぞー」


 「ファンたら羨ましいのね」


 「そりゃそうよ。最近してないもの」


 女性ペアは賑やかに去っていった。


 「さあ、俺たちは依頼を見てみようぜ」


 「うん、綺麗なお姉さん達だったね」


 「そうだな。でもミーナが一番だよ」


 「うふふ」


 掲示板にはナルガイロス講師の説明通り、ランクごとに別けて依頼が貼りだしてあった。Fランクの俺たちはEとFの依頼を受けることができるが、講師の教えを守りFの依頼にするつもりだ。


 「なあ、この、カムイ草20株 銅貨40枚、っていうのはカムイ草の買取価格も含まれてるのか」


 「ちがうよ買取価格は別に貰えるんだよ。だから買取屋で売るより報酬分得するの」


 「なるほどね。期限は24時間以内か、最初はこれにするか」


 そう言って紙を剥がそうとした時、横から手が伸びてきて取られてしまった。


 「これは俺たちがやるって決めてたんだぜ」


 タルタルムたちだ。そろそろ懲らしめようかと思った俺の手をミーナが引いて止めた。ミーナは余裕の笑顔だ。何か考えがあるらしい。

 俺はバカ男ペアを完全無視して他の紙をチェックしていく。相手をしてもらえないタルタルムたちは手続きをして出て行った。


 「何だったんだ、ミーナ」


 「あの依頼は誰か引き受けるとすぐに補充されるんだよ。ほら、窓口の人が紙を貼りに来たでしょ」


 本当だった。バカが剥がした紙をそのまま貼っている。


 「初心者用の練習みたいな依頼なんだよね。それにこういう希少種じゃない薬草採取の依頼は引き受けないで覚えておくのがコツなの。他の依頼のついでに採取しておいて依頼を終えたら薬草と紙を一緒に出せば引受と同時に成功になるの。依頼は2つ同時に引き受けられないから簡単すぎる依頼は時間を無駄にしちゃうでしょ」


 なるほど、バカ男コンビは都市の外に出てカムイ草を採って戻ってくるだけだが、俺たちは別の依頼をこなしつつカムイ草も他の草も採取しておけば2つでも3つでも同時に出来る。


 「さすがだな、ミーナ。めちゃめちゃ効率が良くなるぞ」


 「へへへ、でもそんなの常識だよ」


 掃除、魔物討伐、薬草採取、手紙配達、依頼にも様々な種類があって面白い。



  Fランク依頼


   邸宅清掃半日 銀貨2枚 随時

 

   ゴミ屋敷の掃除助手6時間 銀貨3枚 随時

 

   ペット捜索 銀貨5枚 無期限

 

   魔物解体6時間 銀貨4枚 随時

 

   ベリーラット討伐5匹 銀貨1枚 24時間以内

 

   モンラット討伐5匹 銀貨1枚 24時間以内


   ヒール草10株 銅貨30枚 24時間以内


   マルチ草10株 銅貨90枚 24時間以内

 

   カムイ草20株 銅貨40枚 24時間以内



  オープンランク依頼


   アルガ町 手紙配達 銀貨4枚 4日以内


   アマリス村 手紙配達 銀貨2枚 2日以内



 「ミーナ、このオープンランク依頼って何だ」


 「それはどのランクの冒険者でも受けられる依頼だよ。アルガ町に4日以内に手紙を届ければ完了。報告は4日以内じゃなくても大丈夫」


 「そうか、手紙は冒険のついでに届けてくれって事だな」


 「そういうこと。このアマリス村はグラリガとノースフォートの中間にある村だからすぐに引き受ける人がいると思うよ。ダンジョンに行くついでだから」


 スタスタと男が歩いてきた。俺と似たようなワイルド系のファッションだが腰巻は無く、パンツを隠さない主義のようだ。赤いパンツの脇に両手を当ててオープンランク依頼を見て言った。


 「そのアマリス村の配達依頼を受けるのかい」


 「いや、俺たちは受けないから、どうぞ」


 「そうか、すまんな。これからノースフォートに行くから丁度いい」


 男は紙を剥がして窓口へ持って行った。


 「ミーナが言った通りだな。ところでさっきナルガイロスさんが言っていた結界って何なんだ」


 「光属性魔法の結界を充填した使い捨ての魔法アイテムだよ。使用すれば半径3m、高さ3mの円筒形の結界が張られて魔物も人も入って来られないの。有効時間の長さによって値段も違って、並が3時間で銀貨1枚、大が6時間で銀貨2枚、特が12時間で銀貨4枚だったと思う」


 「それは便利だな。だが人も通れないなら閉じ込められちゃうだろ」


 「通れないのは外から中にだけね。中から外には出られるよ。出ても結界は解けないのよ」


 「それなら結界に入って攻撃すれば反撃されないから絶対に勝てる」


 「それはダメだよ。中で攻撃したら結界が解けるもん」


 「となると、やはり一時避難とか野営とかが目的なんだな。あれば安心だし多めに買いたいな。なんにしても俺の所持金は銅貨35枚だ。依頼を受けよう」


 「受けよー」


 ミーナが拳を突き上げて気合を入れた。


 結局俺はベリーラット討伐の依頼を選んだ。24時間以内に5匹だ、報酬は銀貨1枚。マサラ、つまり今のミーナを買う資金作りで狩ったことがあり、狩場を【マップ】に記入してあるのだ。

 俺たちは馬を取りに宿屋街の馬預かり所に戻った。昨日は馬を宿屋の前に停めていたのを宿屋の男性が預かり所へ入れてくれていたのだ。朝、男性から貰った札を係員に渡して未払いだった銅貨30枚を支払った。いつもと別の係員だったので服も髪も別人になった俺たちを見ても怪しまれることは無かった。

 これで残金は銅貨5枚になった。稼がないとマジでやばい。

 西門から外へ出て、【マップ】に書き込んであるベリーラットの狩場へと向かった。


 馬は栗毛馬一頭だから当然二人乗りだ。昨日とは違って二人とも露出の多い格好をしていて肌と肌が直接密着している。


 「ミーナ、すまんが前に移ってくれるか。ずっと俺が前だから腰が辛くてな」


 「ごめーん、気が付かなかったよ」


 ミーナは馬から飛び降りると改めて俺の前に乗った。


 「うん、腰が少し楽になった」


 嘘だった。ミーナの身体の前半分は十分に堪能したので今度は後ろ半分を楽しもうという素敵な作戦だ。


 「ミーナは馬には乗れるんだろ」


 「当たり前だよ。馬に乗れない冒険者なんていないよ」


 「本当かなあ、手綱を渡すからやってみろよ」


 「もう疑り深いんだから。いいよ、アタシの腕を見せてあげる」


 俺は手綱を渡して、ミーナの体に腕を回して落ちないようにしがみついた。張りのあるすべすべした美しい肌だ。移動時間も少しの工夫で楽しいものになる。


 「ねえ、サツキ、あそこにいるのって例のおバカコンビじゃない」


 指す方角を見ると二人の男が街道脇の草の上を歩いていた。下ばかり向いて歩いているところを見るとギルドの依頼でカムイ草を探しているのだろう。カムイ草はペン草のある場所に生えるのだが、この辺りはペン草は一本も無い。ここではいくら探しても見つかる訳がない。教えるのは簡単だが本人の為にならない、放っておこう。

 だがアイツ等、剣も持たずに都市の外に出るなんて無謀すぎるんじゃないのか。ひょっとして魔法を使えるのか。まあ顔見知りだし、一応注意しておくか。

 ミーナに指示しておバカコンビに馬を寄せた。


 「おい、タルタルム。剣も持たずに外へ出たら危ないぞ」


 一瞬誰か分からなかったようだがすぐに俺だと気付いて目を怒らせた。


 「うるせー、こんな街道沿いで危険があるかよ、馬鹿が。お前みたいに弱くねえんだよ」


 「あまり遠くまで行くなよ。それに街道から外れるんじゃないぞ。俺たちは昨日ゴブリンに襲われたんだ」


 ゴブリンと聞いて驚いた顔をしたがすぐに表情を戻して喚いた。


 「ゴブリンくらい素手で倒せるんだよ。弱いお前と一緒にするな。それより何だそりゃ、女に乗せてもらって恥ずかしくねえのかよ」


 きちんと注意したしもういいだろう。俺はミーナに言って元のコースに馬を戻した。もちろんミーナの背中にキスをして生意気なバカに見せつけたのは言うまでもない。



 【マップ】スキルにより迷わず狩場に到着した俺たちはベリーラット狩りに勤しんだ。俺の持つ称号ラットハンターは対ラット系攻撃力・防御力上昇効果があり、更に投げナイフの命中率と威力を増加するスキル【投げナイフ】を持っている。

 投げナイフでラットを狙えば驚くほど簡単に仕留めることができた。しかも仕留めた獲物を拾いに行く必要はないし、外れた投げナイフを取りに行く必要もない。俺のリュックは10m以内なら触れもせずに収納できるのだ。ミーナには説明してあるが毎回感心している。

 ベリーラットを狩り過ぎてもよくないので15匹になったところで打ち止めにした。


 帰りも【マップ】にメモしておいたヒール草とマルチ草の群生地へ寄って採取した。

 前の時は50株生えていたのを30株採取したので20株残っているはずだが、今回来てみると30株に増えていた。やはり取り切らないでおけばまた生えてくるのだ。採取はリュックへの直接収納はできない。きちんと手で摘む必要があるのだ。今回もミーナが馬から降りて摘んでくれた。

 俺たちは20株ずつ採取して帰路に就いた。


 「サツキってネズミ倒すの得意だよね。普通こんなに短時間で15匹も獲れないよ」


 「ネズミって言うなよ。褒められてる気がしないだろ」


 「うふふ、ラット博士のおかげで良い稼ぎになったわ」


 「誰がラット博士だ」


 ワイワイやりながら西門を通ったのは午後5時だった。

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