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異世界レンタル放浪記  作者: 黒野犬千代
第三章 奴隷
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第38話 ゴータ変装

 目覚めると正面にマサラの顔があった。目が合うと、おはようと言った。明るくて穏やかな顔だ。初めて会った時の言葉が。「お前は馬鹿か、死ね」だったとは思えない。

 マサラの顔が近付き、優しいキスをされた。布団から出たマサラは背中を向けて服を着始めた。日焼けした背中の白いブラの線が朝の欲情を掻き立てた。


 朝食を終えてから買取屋で昨日の獲物を売って明細書を貰った。


 ヒール草    60株×銅貨10枚=銀貨 6枚

 マルチ草    60株×銅貨30枚=銀貨18枚

 モンラットの肉  7塊×銀貨 1枚=銀貨 7枚   

 モンラットの毛皮 7枚×銀貨 1枚=銀貨 7枚

 鉄剣       2本×銀貨 2枚=銀貨 4枚

 棍棒       1本×銅貨50枚=銀貨 0枚、銅貨50枚

 ゴブリンの肉   3塊×銅貨20枚=銀貨 0枚、銅貨60枚

 ゴブリンの魔石  3個×銀貨 2枚=銀貨 6枚

 サーベルエミュ肉 1塊×銀貨 6枚=銀貨 6枚

 サーベルエミュ皮 1枚×銀貨20枚=銀貨20枚

 サーベルエミュ羽1匹分×銀貨 5枚=銀貨 5枚

 サーベルエミュ牙 2本×銀貨 2枚=銀貨 4枚

 サーベルエミュ魔石1個×銀貨 3枚=銀貨 3枚


合計          銀貨87枚、銅貨10枚


 サーベルエミュは肉、皮、羽、牙、魔石と5つの部位に解体されて特に皮が高値だ。ダチョウの一種だからオーストリッチの皮だと考えれば貴重なのも頷ける。モンラットの毛皮もゴブリンの肉もアルル村よりも高値で売れた。需給のバランスだろう。昨日は所持金が銅貨5枚だったが、これで一気に資金難が解消された。


 服屋と床屋に行く前に道具屋へ行った。昨日の失敗を繰り返さないよう必要な薬を買うためだ。


 「何を買っておけばいいんだ」


 「そうね、毒消しの他では、麻痺攻撃に効く痺れ止め、催眠魔法に効く眠り止めかな。麻痺攻撃を受けると動けないか動けてもノロノロになるの。催眠魔法は寝てしまう。どっちも一緒にいる人が薬をかけてあげる必要があるのよ」


 そんなに必要なものがあったのか、何一つ持たずに狩りに出掛けた俺は大馬鹿者だ。毒消しを1本銀貨1枚で5本、痺れ止めを銅貨50枚で5本、眠り止めを銅貨50枚で5本買った。他にポーション5本、ハイポーション5本、エクスポーション5本を購入した。

 合計で銀貨18枚と銅貨50枚を支払った。残金は銀貨68枚と銅貨65枚だ。


 「まだ資金は余裕だな。よし、床屋に行くか」


 「うん、どんな風にするか楽しみだね」


 床屋は西地区の目抜き通りを渡って3本目の通りにあった。2軒並んでいる。左は魔法髪の店と書かれた看板を出している。もう一方はハサミと櫛をクロスさせた看板だ。魔法を使う店か、人の手でやる店かという違いだろう。

 料金表を見ればどちらも同じだ。カットは銀貨1枚、カラーも銀貨1枚、パーマも銀貨1枚だ。全て同時にするならセット割引で銀貨2枚になる。

 せっかく魔法のある世界に来たのだから、魔法髪の店に入るべきだろう。


 「ようこそ、魔法髪の店へ」


 青いローブを着てとんがり帽を被った店員が声を掛けてきた。

 やはりこっちの店は美容師ではなく魔法使いがカットするのか。


 「どちら様の髪をお切りしましょうか」


 「両方お願いしたいのですが」


 片方だけが変身しても意味がない、やるなら二人とも変えてしまった方が効果的だ。


 「アタシからお願いします、髪型も色も変えてみたくて」


 「かしこまりました。どのようになさいますか」


 「髪型は肩までのネオソバージュで色はレッドブラウンにしようかと思っているんですが」


 「お客様はセンスがいいですね。絶対にお似合いですよ」


 俺はどうやるのか気になって訊いてみた。


 「魔法で全部やるんですか」


 「はい、カットもカラーもパーマも全て魔法ですから早いですよ」


 「色落ちとかはどうですか」


 「染めた髪色は自然に落ちることはありませんが、髪が伸びれば伸びたところは元の髪色になります」


 「という事は美容師さんがやるのと同じという事ですか」


 「時間が早いです。わずか1分で完了しますよ。それに魔法の場合はカルテに記入しますから、次回も全く同じ、寸分違わぬ髪にすることができるのです。それでいて料金は手仕事と同一です」


 「カルテですか」


 「はい、髪の毛を一本いただいて登録するだけですから、面倒はありません」


 「なるほど。次回は同じ髪型で色だけ変えたい、なんてのも可能ですか」


 「もちろんです。伸びたままカットしないで色だけ変えたいという方にはカラーリングもお薦めです」


 そう言って商品を引き出しごと持って来て見せてくれた。中には様々な色の指輪がギッシリと並んでいる。色付けのカラーリングじゃなくて色の指輪という事だったのか。


 「こちらがカラーリングです。この指輪をすれば髪が同じ色になる魔法アイテムです。指輪をした瞬間に色が変わります。外せば元の髪色に戻ります。どうです、便利でしょ」


 「面白いですね。値段はいくらですか」


 「はい、1個で銀貨5枚です」


 「え、魔法アイテムってもっと高いのかと思ってた」


 値段を聞いてマサラが驚いた。


 「こちらは木製の指輪ですから永久に使えるわけではないのです。ぶつけて割ってしまう方も多いですね」


 「それじゃあ、最初に言った髪型でお願いします。毛染めは指輪を買うので無しにしてください」


 本当に1分で完了した。魔法おそるべし。

 日焼けした顔にブラウン系の色はどうかと思ったが、むしろ似合っていた。この子は元が良いから何でも似合うんだな。


 「すごく似合ってるよ。かわいい。指輪も買うといいよ」


 「うふ、ありがとう。指輪はレッドブラウンをください」


 「ありがとうございます。それで、ご主人はどうなさいますか」


 ご主人。夫婦に見えるのか。二人ともまだ16だぞ。マサラは嬉しそうに腕を絡めた。


 「髪型は短めでツンツン立った感じにしてください」


 1分で出来上がった。だがツンツン感がちょっと違う。


 「すみません、ツンツンをもう少しまばらにしてください」


 今度は30秒だった。


 「はい、いいですね。俺はライトブラウンの指輪をください」


 「ありがとうございます。美男美女のカップルに気に入っていただけて嬉しいです。銀貨14枚です」


 なんとも調子のよい店員だが悪い気はしない。チップをはずみたくなったがキッチリ銀貨14枚支払った。ツンツンもパーマ扱いなのか銀貨1枚が掛かった。


 「次は服屋だな。マサラはどこか良い店を知ってるか」


 「好きな店だと結局は同じような服になっちゃうよ。どうせだから初めての店で買ったらどうかな。北西地区の商店街には行った事がないから良いと思うんだけど」


 「おお、いいな。それなら選ぶのも自分じゃなくて相手に決めてもらったらどうだ。俺がマサラの服を選んで、マサラが俺の服を選ぶ」


 「それグッドアイデアだよ。ワクワクする。お互いにNGは無しだからね」


 「拒否権無しか、大丈夫かな」


 「平気平気。面白いよ」


 魔法髪の店から北は住宅街になっていて木造平屋の小ぶりの住宅が建ち並んでいる。日本風の家屋とは違い屋根が平らな陸屋根で壁は青や黄色、緑などカラフルだがペンキを塗ったようなキツさは無く、木に染み込ませたようでよく見れば木目があって木の温もりも感じられる。たまにある二階建ての住宅は敷地も広く門には紋章があるのでどこかの貴族の別邸なのかもしれない。

 そんな住宅街を抜ければ北西地区の商店街だ。目抜き通り沿いの商店街よりも大きな店が多かった。中心から離れているから土地が安いのだろう。

 男物の服を扱う店を見つけたマサラが俺の手を引いて入っていく。まずは俺の服を探すようだ。


 なんというかワイルドな感じの商品ばかりだ。カジュアル系しか着てこなかった俺には縁の無い店だな。マサラは俺の手を離して商品を取り俺の背中に合わせてみたり、裏返して縫製を確かめたりしている。今見ているのは黒い革のジャケットだ。見るからに良い革で値段も高そうだ。マサラもそう思ったようで値札を見ている。銀貨30枚だった。無理だな。俺の所持金は銀貨54枚と銅貨65枚だ。

 マサラはその商品を戻して他の服を探して回った。漸く気に入ったのが見つかったようで買い物カゴに入れている。この店は服はもちろんのこと、靴や帽子、簡単な防具まで置いてあって上から下まで全部揃うようだ。

 マサラはそれぞれの売り場でブツブツ呟きながら真剣に選び、買い物カゴに入れていった。最後に行った靴売り場でだけは俺に履かせてサイズを確かめたが、他は全て俺を見ただけで大きさを決めていた。

 結局買い物カゴの中は見せてもらえず、俺からお金を受け取って会計してしまった。


 「全部揃ったよ。更衣室借りたから着替えてきて」


 袋ごと渡されて更衣室に促された。大丈夫かな。この店の商品はどれも俺に似合わない気がするのだが拒否権は無い。覚悟を決めて全て着替えた。


 トップスは茶色い裏皮のベストだ。ボタンは無くて頭から被るようになっている。肩には尖った鋲が打ってある。丈は腰より上でヘソが丸出しになっている。

 ボトムスは白とグレーと茶の三色が混ざった毛皮の腰巻だ。これも丈が短くてミニの巻スカートのようだ。腰巻の中は黒革のビキニパンツだ。直に履いてしまったがそういうものなのだろうか。

 靴は褐色の毛皮のブーツだ。見たことがある皮だと思えばモンラットだった。短い毛が特徴的だ。これに肘パッドと膝パッドを装着して完成だ。

 恥ずかしい。

 からかわれているのか、何かの嫌がらせだろうか。


 買物の明細書はこうだ。


  裏皮ベスト    銀貨 6枚

  毛皮の腰巻    銀貨 5枚

  黒革ビキニパンツ 銀貨 1枚

  毛皮ブーツ    銀貨 5枚

  肘パッド     銀貨 1枚

  膝パッド     銀貨 1枚


  合計       銀貨19枚


 嫌々更衣室から出た俺の姿を見てマサラは満足そうに頷いた。


 「よく似合ってるよ、ゴータ。凄く格好いい」


 うんうん頷いてうっとりしている。マサラさん、本気なんだね。こういうのが趣味なんだね。これってマッチョなヤツがする格好なんじゃないの。


 「そうか、選んでくれてありがとう。似合うように筋トレするよ」


 一応お礼は言っておいた。俺は気配りの人なのだ。


 「ダメだよ、ゴータ。筋トレは絶対にダメ。ギャップが良いんだよ。ひょろひょろなのにワイルドマッチョな格好をするゴータが素敵なんだから」


 それって一番ダサいやつなんじゃないの。嫌だがマサラがこんなに喜んでいるんだ。耐えるしかない。


 「これさあ、歩くと腰巻の間からパンツが見えちゃうんだよな。腰巻の下は縫い付けたほうがいいよな」


 「ダメだよ、ゴータ。そのチラリと見えるのがいいんだよ。わざわざ光沢のある黒革にしたんだから」


 分からない、俺にはマサラの美的感覚が理解できない。こんなのは知り合いに会ったら死ぬレベルだぞ。カレンさんやリシェルさんに見られたらお終いだ。


 「なあマサラ。せっかく変身するんだから呼び名も変えよう。名前で呼び合ったらバレバレだぞ」


 「そうだね。何て呼んでくれるの」


 「マサラは何月生まれなんだ」


 「六月だよ」


 「俺の国では6月を水無月っていうんだ。だからミーナだな」


 「いいね、ミーナか。ゴータは何月生まれなの」


 「俺は5月だ。サツキだな」


 「サツキ、いい響きだよ。決まりだね」


 ミーナとサツキか、名前も髪も服装も変えたのだから誰にあっても大丈夫だ。

 さて、次はマサラ改めミーナの服を買いに行こう。

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