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異世界レンタル放浪記  作者: 黒野犬千代
第三章 奴隷
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第37話 解放

 マサラは俺に向けて、どうだとばかりに親指を立てようとして、崩れ落ちた。

 倒れたマサラの足には矢が刺さっていた。俺はロランゾさんの言葉を思い出した。ゴブリンには弓を使う個体もいる。林までの距離は30m、矢の射程だ。

 くそ、どこだ。マサラを庇って馬のまま前に出た。格好の的だが構うものか。サイドバッグからリュックを出して体の前に回した。俺のリュックは防御力Sだ。矢が当たっても矢の方が壊れる。


 ビュン、弓弦の音がして矢が飛んでくる。


 「レンタル」


 飛来する矢を直接収納に入れた。

 音がした方を見ると、いた。木と茂みの間に緑の体が見えた。そいつは消えた矢を探してこちら見ていた。距離は約30m、いける。俺の固有スキル【レンタル】の有効距離は50m以内だ。


 「レンタル」


 俺は立て続けに【レンタル】を発動し弓と、入れ物ごと矢を奪った。

 更に脳内で敵のスキルをイメージすると発動ボタンが点灯した。スキル【レンタル】は相手が持っていれば物でもスキルでもレンタルできるのだ。イメージしたものを相手が持っていれば脳内の発動ボタンが点灯してレンタル可能だと知らせてくれる。


 「レンタル」


 ゴブリンの持つスキル【弓術】を拝借した。

 俺は【弓術 レベル2】を使い奪った弓に矢を番え持ち主のゴブリンを狙った。スムーズに引けた弦を離すと、ヒュンという軽快な音と共に矢が飛んだ。矢はそのまま持ち主の緑色の腹に突き立った。

 俺はマサラに駆け寄った。


 「うう」


 マサラは苦痛に顔を歪め脂汗を流している。矢が刺さった太腿はその部分だけ黒いタイツが血で濡れていた。だが出血量は多くない、動脈は傷つけなかったようだ。

 これなら大丈夫だろう。収納からナイフを出してタイツを切って傷を確かめる。痛々しく矢が刺さっている傷口から出ている血の量は少ない。だが明らかに変だ。傷口の周りが嫌な紫色をしている。これは毒なのではないか。


 「マサラ、マサラ、聞こえるか。傷口の周囲が紫になっている。何か分かるか」


 「うう、ゴータ、毒だ」


 「よし、俺が吸い出す。痛いかもしれないが我慢しろ」


 「だ、だめだゴータ、吸えば毒にやられ、うう」


 くそ、そうだ、あのゴブリンが毒消しを持っていないか。ステータスでは弓はまだレンタル中だからあいつは生きているということだ。


  固有スキル:【レンタル レベル4 レンタル中:弓(11d23h57min25s)】


 俺は倒したゴブリンを見てイメージする。毒消しは点灯しなかった。持っていない。毒をイメージすると点灯した。やはり毒を持っている。


 「レンタル」


 俺はゴブリンから毒を取り寄せ。それを【鑑定】した。小さな土器に黒絵具のようなものが入っていた。


  ヘビカエルの毒 魔物ヘビカエルが吐き掛ける毒。接種後10分ほどで全身に回り死に至る。


 「マサラ、ヘビカエルの毒だ。どうすればいい」


 「はあ、はあ、毒消しを10分以内に飲まないと」


 「すまん、マサラ、毒消しが無いんだ。やはり俺が吸い出す」


 「だめ……ゴータが死んじゃ……それにもう体内に入っ……る」


 もう5分は経っている、どうすればいい。俺のせいだ、毒消しも無しに都市の外に出るなんて。


 「ゴータ。お別れ……ね。最後に一緒にいら……楽し……た」


 マサラの声に力が無くなる。もう目も開けられない。なんでだ、せっかく信じてくれたのに、俺は何もできない。俺のマサラが死んじゃう。嫌だ。


 ステータスからレンタル中の表示が消えた。弓のゴブリンは死んだがそんなのはどうでもいい。

 いや、そうだ、敵の所有物は倒した者に権利がある。ブラウンさんがそう言っていた。マサラの毒はゴブリンの物だ。そのゴブリンを倒したのだから毒は俺の所有物だ。

 俺はそう信じ、そう思い込み、完全に疑いもせず、強くイメージした。


 「毒を全てリュックに収納」


 俺は収納リストを表示した。


  チコザクラの花1本

  チコザクラの種一袋 

  ストロー草2本

  ストロー10本

  モンラットの魔石(中古)1個

  飲料水

  ポーション5本

  バックラー1個

  クロスボウ

  クロスボウボルト20本

  神殿紹介状1通

  リシェルハンカチ1枚

  外套

  ベロアの柿色の巾着袋1個

  純白の作務衣

  手枷・鍵1組

  足枷・鍵1組

  ヒール草60株

  マルチ草60株

  モンラットの死骸8匹

  ワイン樽1個

  簀の子1枚

  タオル1枚

  矢1本

  ヘビカエルの毒

  廃棄物


 ヘビカエルの毒が収納されている。

 皮膚の紫色が薄くなり、マサラの呼吸も楽になったようだ。だがまだ終わってない。俺はキャラバンが盗賊に襲われた時の矢傷の治療を思い出した。あの時、矢を抜いてからポーションを掛けていた。リュックからポーションを出して準備する。

 マサラに矢を抜くぞと言おうとして気が付いた。抜く必要はないんだ。俺の矢だ、そのまま収納すればいい。矢を収納すると傷口から血が流れた。素早くポーションを掛けると傷口は塞がり血が止まった。キャラバンの時は、この後で魔法使いがヒールを掛けていたが俺は魔法が使えない。ポーションもあと30分は使えない。

 マサラの顔に赤みが戻ったし脂汗も引いている。体内にもう毒は無い、あとは時間がダメージを回復してくれる。


 マサラが倒したサーベルエミュとゴブリンの死骸、武器、毒の入った容器を収納に入れた。林の中で死んでいるゴブリンの回収は諦めた。あそこまで行って別の魔物に襲われるリスクを負うわけにはいかない。

 グラリガへ帰ろう。

 ワイン樽を足場にしてなんとかマサラを馬に乗せ、二人乗りで帰ることができた。宿屋・白馬寮の前に馬を停めてフロントの男性に手伝ってもらいマサラを部屋に運ぶ。


 「どうしたんですか。この傷は矢ですか」


 「ゴブリンの毒矢にやられたんです。毒は抜けたんですが、ダメージで気を失ってしまって」


 「毒消しをお持ちで良かったです」


 スキルの説明はできない。そういう事にしておいた。


 「夕食ですが、部屋に運んでもいいですか。まだ少し心配なので」


 「では、トレーに二人分用意しておきますので6時に取りに来てください」


 手伝ってくれたお礼にモンラットを1匹進呈した。


 俺はマサラのベッドの横に座り眠っているマサラの手を握った。マサラの顔色に血色が戻っている。熱も引いたし一安心だ。マサラには悪い事をした。この世界では死がすぐそばにある。判断を誤ったり、準備を怠ったりすれば簡単に死んでしまう。

 握る手に力がこもった。マサラが気付いたのだ。


 「ゴータ、アタシ助かったの」


 「マサラ、毒は抜けたよ。もう大丈夫だ」


 「ゴータが助けてくれたの。毒消しも無いのに、どうやって」


 「例のバッグを利用したんだ。あれに毒を収納した」


 俺はかいつまんで説明した。マサラにはリュックの秘密を言ってある。


 「ありがとう。ゴータには何度も助けてもらってるね」


 「違うよ、今回のは完全に俺のミスだ。外に行くのに毒消しも用意していなかった。ポーションだってハイポーションくらいは持っておくべきだった。今日だってマサラは一生懸命仕事をしてくれたっていうのに。ごめんなマサラ、俺は自分が許せない」


 「気にしないで。アタシはゴータの物なんだよ。働くのは当たり前だよ」


 「ん、マサラは俺の物なのか」


 「なに言ってんのさ。ゴータがお金を出してアタシを買ったんでしょ」


 俺はマサラの布団をガバッと剥ぎ取った。

 布団を剥ぎ取られてマサラは自分が下着しか身に着けいてない事に気が付いた。


 「ひっ」


 マサラが手で胸と股間を隠した。俺はマサラの上に跨り両手を伸ばした。


 「いや、ゴータ。お願い、部屋を暗くして」


 俺は構わず手を伸ばしてマサラの首輪を握り、呟いた。


 「首輪をこのまま収納」


 マサラの首から首輪が消え、リュックの収納に入った。

 

 「ゴータ、これってどういうこと」


 「やったよ、マサラ。やった、自由だよ。もうマサラを縛るものは何もないんだ」


 俺は嬉しくて嬉しくてマサラに抱きついた。マサラも俺に抱きついた。ぎゅっと強く。俺たちを邪魔する首輪はもう無い。マサラの素肌を直に感じられる。

 ん、直に。


 「ひゃ、マサラなんで下着だけなんだよ」


 自分の状態を思い出したマサラが急いで布団を巻き付けた。


 「こっちが聞きたいよ。寝いている間に変な事したでしょ」


 「あ、そうだ、汚れてたから脱がしたんだった」


 「もう、ゴータってやっぱり変態だったわ」


 「なんでだよ、布団が汚れるだろ。タイツやらスカートやら脱がすの大変だったんだぞ」


 「最低」


 「すまん」


 「でも、どうやったの」


 「俺はマサラが毒にやられた時に思ったんだ。()()マサラが死んじゃうって。そしてさっきマサラは言ったよね。アタシはゴータの物だって。俺とマサラの2人がそう思ってるならマサラは俺の物なんだよ。そして首輪はマードがマサラにプレゼントした物だから所有権はマサラにある。マサラの物は俺の物だ。首輪は俺の物。俺の物なら収納に入れられる」


 俺はそう言って収納から首輪を取り出した。ただの白くて太い首輪だ。こんな物で人を玩具にしやがって。【鑑定】してみる。


  鑑定阻止


 物が鑑定阻止という事は魔法アイテムなのだろう。神殿は秘密主義のようだ。まあいい。

 俺はマサラに命じた。


 「マサラ、パンツを脱げ」


 「ちょ、なに」


 マサラは真っ赤な顔をしながら布団の中でパンツに手を掛けたところで、俺の意図に気付いた。


 「誰が脱ぐもんですか、この変態」


 その言葉と同時に布団の上に置いた首輪が締まり始めた。少しずつ、ジワジワと。


 「許す」


 そう言うと首輪は元に戻った。俺は首輪を収納に仕舞った。輪を完全に閉じてしまってもよかったが、なんからの方法で神殿と繋がっている可能性もある。首輪はこのままにして永久に収納入りだ。


 「これで安心だ。でもマサラが首輪無しで街を歩いていたら不思議に思われるかもしれない。髪型や服装を変えて一気にイメージチェンジしよう。そうすれば誰もマサラだと気付かないだろう。明日は道具屋で毒消しを買ってから服を買いに行こうな。って、え、何で泣いてるんだ」


 気付けばマサラが静かに泣いていた。


 「ゴータを信じてよかった。ゴータに買われてよかった。ゴータで良かったよ」


 布団から飛び出したマサラが下着姿で俺に抱きついた。マサラはそのまま寝息を立て始めた。病み上がりだからな、疲れたのだろう。俺は手を伸ばして布団を掛けた。

 2夜連続でマサラに抱きつかれた俺の寝不足は益々以って深刻になるばかりなのだが、そんなの構うものか。マサラがこんなに喜んでくれたのだから。それにしてもマサラは何だか良い匂いがする。

 いつの間にか俺は眠りに落ちていた。

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