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異世界レンタル放浪記  作者: 黒野犬千代
第三章 奴隷
35/99

第35話 狩り

 結局俺は一睡もできずに朝を迎えたのだった。


 マサラが起きたようだ。俺は目を閉じた。マナーだ。

 彼女が起き上がり服を着る音がする。俺も起きた。よく眠れたという演技をしながら。目の下にクマができている気はするが。


 「おはよう、マサラ」


 「おはよう、ゴータ」


 俺たちは朝食を取りに1階の食堂へ行った。既にキャラバンは出立していてガラガラだった。これならもう一部屋取れそうだが、またマサラが不安に思うといけない。そもそもお金が足りないから部屋は取れないのだけれど。


 「実は手持ちのお金が少なくてな。今日は薬草採りと狩りに行くぞ」


 それを聞いたマサラがまた不安そうな表情を浮かべた。


 「どうした、マサラ」


 「マードが言ってたの。客を取らせて金儲けをする男もいるって」


 「そんな事をさせるつもりなら薬草なんて採りにいかないだろ。大丈夫だ」


 「うん、アタシも頑張って探す」


 「マサラはこの町の人間だろ。薬草や獲物の多い場所は知らないのか」


 「アタシは護衛とかダンジョンが多かったから詳しくないの」


 「そうか、それじゃあ適当に行ってみるか。マサラはカットラスとレイピアではどっちがいいんだ」


 丸腰で都市の外に出るわけにはいかない。武器はこの2種類しか持っていないが俺はどっちでもいい。どうせまともに振れないのだ。カットラスがいいというので剣帯ごと渡した。ロランゾさんに貰った剣だ。俺は戦利品のレイピアを左腰に着けた。

 宿屋で昼食にするパン、チーズ、干し肉を包んでもらった。瓶に入れた蜂蜜オレンジ水も貰い2人分で銅貨50枚を支払った。これで残金は銅貨5枚になってしまった。しっかり稼がないと路頭に迷うことになる。


 預り所から馬を出して二人で乗った。二人ともスリムだし馬の負担は大丈夫だろう。グレーのミニスカート姿のマサラは横乗りして後ろから俺にしがみついている。ドット柄の白いパーカー越しに体温が背中に伝わる。ベージュのスカーフは首輪隠しだ。

 昨日は西門だったから今日は東門から出て探そう。帰りは門で管理盤のチェックがあるがマサラが引っ掛かる事は無い。職業は冒険者で罪科も無いからだ。


  名前:マサラ 年齢:16 性別:女 種族:人族 職業:冒険者

  状態:‐

  罪科:‐

  称号:ゴブリンハンター


 軍人墓地の横を通る。ダリュル大尉の墓標の前には花が供えられていた。カレンさんが病院を抜け出して来たのだろう。入院といっても休暇みたいなものらしい。元気なカレンさんなら退屈していそうだ。今度は何か持ってお見舞いに行こう。


 軍人墓地を過ぎると街道の両側には藪が茂っていて見通しが悪い。そのまましばらく緩やかな上り坂が続き、30分ほど進むとカーブに差し掛かった。この辺りが上り坂のピークだ。カーブを抜けた先にはピンク色の花を付けたレンゲソウの野原が一面に広がっていた。


 「きれい」


 マサラの穏やかな声が聞こえた。


 「ゴータ」


 「なんだ」


 「昨日は本当に何もしなかったね」


 「そう言ったろ」


 「うん、でも少し不安だった」


 「そうか、徐々に不安が無くなるといいな」


 「ゴータは不安じゃないの」


 「何でだ」


 「アタシに剣を渡したでしょ。後ろから首を掻き切るのなんて簡単にできるんだよ。首輪が締まる前に簡単に殺せるよ」


 「マサラがそんな事をしないのは分かってる」


 「どうして、ゴータが死んだらアタシも首輪に殺されるから。でもゴータを道連れにして、この奴隷人生を終わらせるかもしれないよ」


 「昨日の夜、マサラは生きようとした。自分のできる限りのことをして生きようとしたんだ。そんなマサラが自殺みたいなことをするわけがない」


 「ねえゴータ、体目当てじゃないなら何故アタシを買ったの。本当に労働させて更生させようとしているの」


 「マサラが犯罪者じゃないからだ。罪科は何もないし、職業もちゃんとしている。なによりマサラは子供を庇って身を挺しただろ。縛られていて反撃どころか逃げることさえできないのに、小さな女の子を庇ったんだ。罪人であるはずがないだろ、マサラをあんな風に扱って売ろうとする神殿のほうがよっぽど罪深いよ」


 「それだけの理由で。金貨15枚だよ。晒されている時に隠れて食べ物をくれる人はいたよ。でも金貨15枚なんて出してくれる人はいなかった。親戚でも友達でもないのに。さっき言ってたでしょ、お金無いって」


 「たまたま持ってたんだ。足りない分は協力してくれる人がいた。その人が協力してくれたから、俺は自分がしようとしている事が間違いじゃないって確信できる」


 「そっか、ゴータはその人を信頼してるんだね。アタシもゴータを信じることにする。マードの言う事は全部嘘だ。アタシはゴータを信じる」


 そう言うとマサラはしっかりと俺にしがみついた。


 馬から見渡すとレンゲソウの向こうに茂みや丘、池などが見える。花を踏みつけて入って行くのは悪い気もしたが、街道脇の藪の切れ目はこの辺りだけだ。俺は馬に指示して街道からレンゲソウの野原に踏み入った。薬草があるかもしれない。


 「マサラは右側を探してくれ。俺は左側を探す」


 「うん」


 マサラは両手でしっかりと俺に抱きつきながら探している。二つの胸のふくらみと頬が俺の背中に密着しているのが判る。首輪が当たるのだけが不愉快だった。

 レンゲソウの野原には薬草は無かった。


 「ないね」


 「そうだな、この先の池の方に行ってみよう」


 池に近付くと植生が変わった。レンゲソウは疎らにしかなくなり、草丈30cmほどのストロー草が多くなった。この草の芯は空洞になっていてストローとしても使えるがお金にはならない。


 「ゴータ、あった。ヒール草だ」


 形はホウレン草だが色は茶色のヒール草だ。30株ほど生えている。


 「20株だけ採ろう」


 俺がそう言うとマサラは軽快に馬から降りて薬草を摘み取り渡してくれる。


 「近くに他の薬草は無いかな。昨日はヒール草のそばにマルチ草があったんだ」


 「あった、青い。マルチ草だよ。同じくらい生えてる」


 マサラが嬉しそうにそう言って摘み取った。何も言わなくても20株だけ採取した。よく気が利いている。マルチ草を受け取り馬に掛けたサイドバッグに入れた。このバッグは昨日道具屋で買ったカモフラージュ用だ。この中に俺のリュックが入っていて、サイドバッグに入れるようにしてリュックの収納に入れたのだ。

 ヒール草は1株で銅貨10枚、マルチ草は1株で銅貨30枚になる。手を伸ばしてマサラを馬に引き上げ、再び探しながら馬を進める。

 その後もヒール草とマルチ草をセットで見つけた。どうやらこの2つの草には近くに同じだけ生えるという習性があるようだ。

 浅い池を超えると3、40cmほどの雑草に混ざってペン草も見られるようになった。ここならあるかなと思い探してみると、あった。昼草夜虫だ。昼は草に擬態して夜になると活動する虫だ。モンラットの大好物だ。俺はリュックから投げナイフベストを取り出して着た。


 「ゴータは投げナイフ使いなんだね」


 「昨日初めて投げたんだけど2回に1回くらいは当たるようになったんだ」


 「始めてすぐでそれは凄いよ。スキルもすぐにレベルアップするんじゃないかな」


 「スキルは無いよ。いくら投げてもステータスは黙ったままだよ」


 「え、黙ったままってどういうこと」


 「スキルが取れるようになりましたって言われないんだよ」


 「黙るとか言われるとか表現はヘンだけど、なんとなく分かった。レベルアップや取得の時にはそういう風になるけど、スキルの取得をする時は取得可能なスキルリストを表示させないとダメだよ。アタシなんてレベルアップする度にリスト表示してどれが取れるか確認してるもの」


 「そうだったのか、ちょっとやってみる」


 知らなかった。自動的に聞いてくれるのかと思っていた。そういえば称号の設定も自分でしないと未設定のままだった。

 早速スキルリストを表示するように指令する。表示と同時に【鑑定】もした。



  称号追加設定 2pt 称号設定枠を1つ追加するスキル

  ジゴロ    5pt 異性からの好感度を上昇させ、同性からの好感度を

             低下させるスキル

  馬術     5pt 乗馬技術を向上させ馬疲労度を低下させる

  拳闘     5pt 殴打攻撃力、回避技術力、スタミナを上昇させる

  投げナイフ  5pt 投げナイフの命中率、威力を増加するスキル


 称号の後の数字は取得するのに必要なSPスキルポイントだろう。俺のSPは12ポイントだ。

 称号追加設定は取得したい。即死回避効果がある女神の加護を常に設定しておくためにも必須だ。ジゴロなんて誰が取るんだ。そんな称号恥ずかしくて設定できない。そもそも何故リストにあるのか意味不明だ。馬術はあれば便利だとは思うがドレイブルの兄弟と戦った時のような事はそうそうあるもんじゃない。あんなのあってたまるか。二度とごめんだ。拳闘は使う事はないだろう。武器なら出せるし奪える。素手で殴り合う必要性を感じない。パスだ。投げナイフは取るべきだろう。敵と距離を開けて戦えるのはビビリな俺には合っていると思う。


 7pt消化して称号追加設定と投げナイフのスキルを取得した。


  >>>【称号追加設定】を取得しました。第2称号を設定できます。


  >>>【投げナイフ レベル1】を取得しました。威力命中率が増加しました。


  ステータス

  名前:宮辺 豪太 年齢:16 性別:男 種族:人族 職業:なし

  レベル:11

  HP:109/109 MP:644/644 SP:5

  体力:C

  魔力:F

  知力:C

  状態:‐

  罪科:‐

  称号:ラットハンター 第2称号:女神の加護

  スキル:【鑑定 レベル3】【マップ レベル2】【語学】【雷無効】

      【称号追加設定】【投げナイフ レベル1】


  シークレットステータス

  魔法:‐

  固有スキル:【レンタル レベル4】

  固有アイテム:リュック

  称号:女神の加護、復活者、ラットハンター、刺客


 「できた、マサラ。【投げナイフ】スキルを取得したぞ」


 「早速試したいね。獲物を見つけなきゃ」


 馬の上から見下ろせば草が不自然に揺れている箇所がある。風ではないしモンラットだろう。アルル村でやったようにエサで釣れば引き寄せられるが、ここではただ近づくのを待つしかない。なんとも効率が悪い。


 「モンラットの気配はするんだけど、なかなか出て来そうにないな」


 「アタシが周りから追い込むからゴータはモンラットが出てきたらナイフで仕留めなよ」


 言い終わる前に馬から飛び降りて馬の周りの数メートル先の草を踏み固め始めた。あそこに追い込むようだ。あれなら投げナイフでも草が邪魔にならない。馬から8mの所にミステリーサークルのような踏み固めた円が出来上がった。

 マサラはそこから30mほど離れてこちらを見た。俺は草が動いた場所を見つけてマサラに知らせる。声を出すとモンラットに警戒されるので手振りだけだ。獲物のいる場所を指し示すとマサラはそこから俺が直線になるように移動してから追い込みを開始した。

 マサラが近づくと同時に草の揺れが俺に近づく。マサラの狙い通り、もう少しでサークルだ。俺はナイフを構えて集中する。

 獲物が踏み固めた箇所に飛び出してきた。予想通りモンラットだ。

 素早く投げる。

 当たった。背中に深々とナイフが刺さった。俺はマサラに親指を立てて成功を知らせた。マサラも親指を立てた。今までに見たことのない彼女の笑顔だった。こんな笑い方をする娘なんだな。俺の心に温かいものが湧いた。

 マサラは次の獲物に備えるように再び30mの距離を取った。

 また別の場所で草が揺れている。そこを示してマサラに知らせる。彼女が追い込み獲物が飛び出してきた。また命中した。やはりスキルの力は大きい。スキルがあると思うだけで緊張しないで投げられる。

 結局この場所で8匹のモンラットを仕留めることができた。

 マサラはずっと動き回ってくれた、文句も言わずに、いやむしろ嬉しそうに。


 「マサラ、お昼にしよう」


 「そうだね、ちょうど草も踏み固めてあるしね」


 俺たちは草の上に座って宿で買ったパンとチーズと干し肉を食べた。蜂蜜オレンジ水も美味しかった。干し肉は少し硬いが沢山噛むことによって満腹感が得られる。ドリンクも疲れた体を癒してくれた。


 「仕事の後の食事はうまいな。俺はあっちで準備してくるから、マサラはここで休憩していてくれ」


 「何の準備。アタシも手伝うよ」


 「大丈夫だ。すぐに終わるから」


 俺はサイドバッグを持って馬の上から見つけておいた場所に向かった。

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