第31話 金策
神殿を出た俺は通行人に場所を聞いて買取屋へ行った。お金の工面をするためだ。所持金は銀貨126枚と銅貨126枚。全く足りない。
収納リストの中から売れる物を紙に書きだして見積もってもらった。
美肌草2株 銀貨 1枚
カムイ草87株 銀貨 6枚、銅貨 9枚
モンラットの魔石3個 銀貨 3枚
ゴブリンの魔石1個 銀貨 2枚
鎖帷子1着 銀貨30枚
アームガード1個 銀貨 8枚
弓1張、矢1本 銀貨 5枚、銅貨30枚
素槍1本 銀貨30枚
手槍2本 銀貨40枚
サーベル3本 銀貨60枚
ショートソード1本 銀貨20枚
ブロードソード1本 銀貨40枚
レイピア2本 銀貨40枚
カットラス3本 銀貨30枚
ナイフ5本 銀貨 2枚、銅貨50枚
タガー3本 銀貨 3枚
革鎧4着 銀貨60枚
胴鎧2着 銀貨60枚
鉄ヘルム1個 銀貨10枚
鉢金1本 銀貨 4枚
全部売れば銀貨454枚、銅貨89枚になる。更に、馬2頭付きの幌馬車は金貨4枚で引き取るという。それに俺の所持金を合計すれば金貨9枚、銀貨82枚、銅貨15枚になる。
まだ足りない。
俺はあの少女を助けたいと思った。
理由は簡単だ。彼女が罪人ではなかったからだ。
連れていかれる時に少女を【鑑定】した。
名前:マサラ 年齢:16 性別:女 種族:人族 職業:冒険者
状態:衰弱
罪科:‐
称号:ゴブリンハンター
そもそも、こんな事が本当に合法なのか確かめなければならない。
俺は憲兵隊に向かった。
今朝ぶりなのだが妙に懐かしく感じる。
受付でドルアス軍曹を呼んでもらうと、すぐに来てくれた。
「おう、ゴータ。早速戻って来たか。入隊志願でもするのか」
「いえ、少し聞きたいことがあって。神殿の異端危険分子について」
「そうか、ここじゃないほうが良さそうだな。天気も良いし庭に行くか」
瞑想修練をした前庭の庭石に座り、先ほど見た事を説明した。
「あれは合法的な事なんですか」
「この国なら合法じゃないが、神殿の法律では合法だな。あんな所で晒しものにしてるから何週間か前に問い合わせを出したんだ。だから事情は知っている。名前は何だったかな。マサラだったかな」
軍曹は思い出しながら少女の事を話してくれた。
神殿は副業で賃貸住宅を沢山持っている。その1軒にマサラと父親が二人で住んでいた。父親は商人の倉庫で荷運びを、娘は冒険者をして報酬を得ていた。
マサラが依頼で長期の冒険に出ている間に父親は腰を悪くして仕事ができくなってしまった。身の回りの世話は近所の奥さんたちが交代でしていたそうだ。娘が留守の間に神殿の係員が何度も家賃の催促に来たが、父親は娘が冒険から戻ったら全額払えるからと約束して追い返した。
娘が冒険から戻る頃には父親の腰は良くなったが別の病気が見つかってしまった。神殿の係員は娘に支払いを要求したが、娘は最初に父親の病気を治そうとした。父親が治ればまた二人で働いて溜まった家賃もすぐに払えると考えたからだ。だが娘が治療を依頼した男が治療費だけ貰って姿を消してしまった。
娘は1年分の家賃と延滞金の金貨4枚余りを払えなくなった。
「娘も悪いんだ。治療費を全額前金で男に渡しちまったんだからな」
「司祭に暴行をしたというのは何故なんですか」
「なんでも、神殿に乗り込んで、こうなったのはお前のせいだと司祭をぶん殴ったんだそうだ。すぐに神殿騎士団に捕まった。あちらさんの法律では、司祭への暴行は死罪だからな。ところが首を刎ねようとしたところで思い直した。この女を殺したら1年分の家賃を損する。なら首輪を嵌めて売っちまおうってな。まあ後半は俺の推測だが、そんなところだろうぜ」
「それでも奴隷にして売るのは許せません」
「神殿でも奴隷や人身売買は禁止しているから、売るのは罪人の使用権だけなんだ。だが首輪のせいで逃げられねえし逆らえねえから実態は奴隷なんだがな。殴ったのが神殿の外だったら助けてやれたんだがな」
「どうして神殿だけ特別なんですか」
「魔法の適性判断の説明は聞いたか。適性を見る神眼は神殿だけが扱えるんだ。スキルでも魔法でもない、まさに神の目だ。7種類もある属性のどれに適性があるのか分からないと魔法を覚える手間は7倍だ。だから神殿と対立すれば、魔法使いへの道がグンと遠のく。更に魔法学院も神殿が押さえてるからな。どの国も事を荒立てたくないのさ」
「あの首輪は生涯外せないというのは本当なんですか」
「ああ、外せない。神殿でも外せないんだ。命令を聞かないと締まり始める。最後には首が千切れるまで締まる」
「そんなの危険じゃないですか。間違って装着したら大変なことになります」
「それは無い。前にうちの技官が実験したが、神殿絡みの罪人にしか反応しないんだ。しかも死罪相当の罪人だけだ。うちの罪人で試したが首輪は装着できなかった。あんな首輪をどうやって作ったのかと技官も首をひねっていたな」
「死罪相当って。彼女を【鑑定】したら罪科は空欄になっていたのに」
「聖職者どうこうは人間が決めた法律だからな。ステータスは人間が作ったものじゃないから、そんな法律は関知しないんだ。家賃未払いも同じ事だ。例えばこれが家主を脅して家賃を払わなかったんなら罪科は強盗になったはずだ。真面目に暮らす人に危害を加えるんだからな」
「彼女の職業も受刑者とか異端分子じゃなくて冒険者のままでした」
「それはその女が自分の事を受刑者だとか異端分子だとかは1ミリも思ってねえからだろう。なかなか芯のしっかりした奴みてえだな」
やはりマサラは大した罪じゃなかった。
「ゴータ、金はあるのか」
「いえ金貨5枚くらい足りません」
「そうか、諦めるしかねえな」
俺は軍曹にお礼を言って別れた。
あの少女は縛られ地面に正座させられ晒され25日間も頑張ったのだ。賊に縛られた俺にはよくわかる。わずか10分だって辛い。それを25日間もだ。もう十分だろう。
5日以内に足りないお金を作らなければならない。あと金貨5枚と銀貨18枚だ。出来ることからやるしかない。まずは薬草探しだ。沢山見つければまとまった金額になる。
俺は馬に乗り西門から都市の外へ出て草を【鑑定】しまくった。街道を外れ草原へ入るが価値のない雑草ばかりだ。諦めずに馬を進めていくと背の高い草が生えていた。
タワシ草: 1‐2mに成長する植物。実を乾燥させるとタワシとなる
名前の通り束子になるのか。価値は低そうだが採取だ。
更に進むと灌木の茂るエリアになった。よく見れば青い実を付けている。見たことのある実だ。【鑑定】するとブルーベリーだった。売れなくても食べればいい。馬から降りて採取した。
枝の先が曲がった不思議な木もある。全ての枝先が曲がっている。
孫の木: 1mほどの低木。先端が曲がり孫の手として利用される
孫の手か。売れるのだろうか。とりあえず採取だ。
灌木エリアの先は丘になっていた。丘にも低木が生えていて馬では登れない。生えている木はどれも価値が無かったので迂回していると赤い実を見つけた。これも見たことがある。【鑑定】すると野イチゴだった。もちろん採取する。
この辺りは野イチゴの群生地だったようで、あちこちに赤い実があった。
ガサガサ
10mほど先の茂みが揺れている。何かいる。
馬を止めてステータスの称号を刺客に設定した。奇襲成功率上昇効果がある。
更にガサガサと音がして、50cmほどの灰色をした細長い胴の動物が出てきた。尻尾で支えて後ろ脚で立ち上がり野イチゴを掴んで食べている。
ベリーラット: 野山に生息する小型の魔物。果実を好む
ラット系の魔物相手なら対ラット系攻撃力上昇効果のある称号ラットハンターもあるが、刺客を外すと逃げられそうな気がする。称号はそのままにして奇襲成功率上昇効果に賭けることにした。
リュックの収納から投げナイフベストを直接着るイメージで出すと服の上にベストが現れた。ベストには投げることに特化した特殊な造りのナイフが左右5本ずつ合計10本差してある。
ベストからナイフを1本抜いて構える。もちろん投げたことなどない。忍者映画の記憶が頼りだ。棒手裏剣のように指を伸ばし包むように握って投げる。
外れた。ベリーラットは逃げてしまった。だがしっかり投げられたし地面に突き刺さった。
もう奇襲効果は期待できないので称号をラットハンターに変更した。地面に刺さった投げナイフは直接収納に入れた。俺のリュックは10m以内なら拾わなくてもそのまま収納できるのだ。だが生えている草や生っている実は直接収納できない。その都度きちんと摘まなければならない。摘んでしまえば、いちいちリュックに入れなくても手から消えて収納される。
少し移動して野イチゴの多い場所で待ち構える。
ガサガサと音がした。しかも何か所かで音がする。
見えた。
こちらに背を向け立ち上がって野イチゴを食べている。
慎重に構えて、投げる。
シュッ
当たった。投げナイフはベリーラットの背中に深々と刺さっていた。ラットハンターの称号が効いたようだ。【鑑定】する。
ベリーラットの死骸: 肉は食用に、毛皮は衣料に利用される。
そのまま収納して解体した。俺のリュックは中で解体までしてくれる優れものだ。
俺は野イチゴがある場所を回りベリーラットを仕留めていった。初めは3回に1回くらいしか命中しなかった投げナイフも次第に上達し、命中率は50%ほどに上がった。気付けば10匹も仕留めていた。高く売れるといいのだが。
帰りは別のルートを行く。脳内に【マップ】を表示しているので迷うことは無い。もっとも、マップが無くとも迷う事はない。この辺りの草原は少し高くなっていてグラリガ市街が見えるからだ。
白い神殿がキラキラ光って見える。綺麗な神殿だが中身を知ってしまった今はむしろ気持ち悪く、おぞましく見える。マサラを救わなければ。
栗毛馬は草原をゆっくりと進む。この馬は頭の良い馬だ。さっきのベリーラット狩りでもおとなしくしてくれた。鼻を鳴らしでもすれば獲物は逃げてしまっただろう。元の持ち主は人間の屑だったが、この馬は賢い。馬の首をポンポンやりながら進むと背の高い草の群生地が現れた。タワシ草だ。念のため更に10本ほど採取しようと馬を降りた足元にホウレン草が生えていた。だが色が全く違う。グリーンではなく茶色だ。
枯れているのかと思ったが葉はしっかりしている。【鑑定】するとホウレン草ではなかった。
ヒール草: ポーションの主原料となる薬草
50株ほど生えていたので30株だけ採取した。採り尽くすのは良くない。
まだあるかと探せば、また違う色のホウレン草が生えていた。青色だ。
こんな色の草など見たことが無い。毒だろうと思いながら【鑑定】する。
マルチ草: 万能薬の原料となる薬草の一種
色違いのホウレン草はどちらも薬草だった。
マルチ草も50株ほど生えていたので30株だけ採取した。
脳内時計は午後4時を過ぎている。グラリガへ帰ろう。
>>>【マップ レベル1】がレベルアップし【マップ レベル2】に
なりました。都市名が表示されるようになりました。
マップにメモの記入が可能になりました。
脳内マップを見れば確かにグラリガと書かれている。アルル村やグルジ村も表示されていた。俺は今までに薬草を採取した場所や賊のアジト、この世界で復活した場所などを思い出してマップに記入しておいた。
西門から入り、宿屋街の広場で馬を預け、宿屋・白馬寮に帰ったのは午後6時だった。
風呂に入り、食事を取り、早めにベッドに入った。
布団の中で収納リストを表示して今日の収穫をチェックした。
タワシ草 20本
孫の木の枝 20本
ベリーラットの肉 1塊
ベリーラットの毛皮 1枚
ベリーラットの魔石 1個
ベリーラットの死骸 9匹
ブルーベリー
野イチゴ
ヒール草 30株
マルチ草 30株
ブリーベリーも野イチゴもカゴにしたら2杯分くらいはあるがリストに量は表示されなかった。