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異世界レンタル放浪記  作者: 黒野犬千代
第一章 異世界入門
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第3話 初ゴブリン

 肉は確保した。あとは情報か。いや、水も重要だ。食べなくても1日くらい歩けるが、一滴の水も飲まずに1日を過ごせる自信はない。というか既に喉が渇いている。幸い小さな池がいくつかあるので行ってみよう。アフリカのサバンナでは水場は肉食獣の餌場になっているという。気をつけなければ。


 近くまで来てみると池だと思ったのは水溜りだった。草原の低地に雨水が貯まったようで深さは30cmほどである。これならワニは心配ないだろう。周囲の草は丈が低く猛獣が潜めそうな茂みは無い。足元の良い場所を選んで水溜まりを見下ろすと底の草が透けて見える。透明度は抜群でこれなら飲めそうな気がする。とはいえ変な病原菌でもいれば命に係わる。何かあっても救急車は呼べないのだ。手で掬ってみる。不純物も見えないし大丈夫そうだ。

 歩いている間に考えた方法を試してみる。リュックの口を大きく開き、「飲料水を収納」と呟いて水を掬う。水は収納空間へと消えていった。収納リストで確認すると、飲料水と表示されている。成功したようだ。モンラットの解体ができるバッグなのだから異物を除けて水だけを入れられるのではと考えたのである。

 さて、飲んでみよう。少しの飲料水をイメージしてリュックに出す。ストロー草を抜いてストローを作って飲んでみる。臭みも苦みも無い普通の水だ。飲料水収納とイメージしてリュックで何度も水を収納し、大量の飲料水を確保した。これで脱水症状で死ぬことは無いだろう。ストロー草からストローを作って10本ほどリュックに入れておいた。


 収納リストでチェックする。


  美肌草24株

  カムイ草97株

  ストロー草2本

  ストロー10本

  モンラットの肉1塊

  モンラットの毛皮1枚

  モンラットの魔石1個

  飲料水


 本当に便利なリュックだ。

 水も確保したし肉もある。野宿でもいいかと思ってはみたが、火なんて起こせないしどんな危険があるかもわからない。ここは平和な日本じゃない、魔物がいる世界なのだ。日が暮れるまでに村に到着したい。俺は歩くペースを速めた。


 前方に林が見えてきた。【マップ】では林を抜けたところに道がある。西からの道が林の向こうでカーブをして南に伸びている。その先が村だ。なるべくなら林なんて通りたくはないが、迂回するには数キロ歩いて大回りしなければならない。林の中を通るならここから50mほどで道に出るはずなのだ。

 ここで遠回りをしていたら日が暮れてしまうだろう。

 仕方ない、林に入ろう。


 足元に注意しながら踏み入っていく。折れた枝が落ちていて歩きにくい。怖くて走りたくなるのをぐっと我慢して歩く。中程まで進んだ時だった。視界の端に動くものを捉えた。


 恐る恐る見るとそいつと目が合った。


 くすんだ緑色の肌に吊り上がった目。産毛の生えた頭の横には尖った耳が突き出ている。身長1mほどのそいつは俺を睨むと棍棒を振り上げて向かってくる。

 化け物だ。血の気が引き、全身に鳥肌が立つ。逃げないと。パニックに陥って方角すら分からない。走って追いつかれたら絶対にまずい。

 そう思った俺は枝に手を伸ばし体を引き上げながら別の枝に右足を引っ掛けて登る。左足を引き上げるのと、そいつが棍棒を打ち下すのが同時だった。

 ガーンと重い音をたてて幹が鳴った。少しでも遅れていたら足を潰されていただろう。ビビった俺は更に上へ登る。落ちないように太い枝を選んで座り、そいつを見下ろす。どうやら登っては来られないようで棍棒を振りながらグギギグガと喚いている。落ち着いて観察すれば腰に布を巻いている。着るという知性があるのだろう。

 こんなのがこの世界の人族なのだろうか。そうだとしたらもう無理だ。こんな世界では生きられない。またパニックになりそうな気を静めながら【鑑定】する。


  ゴブリン: 広く分布する人型の魔物。雑食で人を襲うこともある。昼行性。


 ゴブリンだった。魔物だ。人じゃなくて良かった。こいつは昼行性なんだな。夜になれば逃げるチャンスもあるだろう。怖いが気持ちで負けてちゃダメだ。こいつは俺を殺して食おうとしたんだ。ふざけやがって許せない。気合を入れ直してハッタリをかます。


 「このくそゴブリンが。偉そうに人を食おうとしやがって。食いたきゃここまで登ってこい。ボケ」


 何が偉そうなのか分からないが大声で挑発してやった。ゴブリンは悔しいのかギシギシと歯ぎしりしながら棍棒を木に打ち付ける。その棍棒を【鑑定】する。


  棍棒: ありふれた木の棍棒


 「なんだその安物の棍棒は。そんなので俺を倒せるかバーカ」


 ゴブリンは棍棒をブンブン振り回して怒っている。


 「振り回してりゃ当たると思ってるのか、この低能が。俺がぶん殴ってやるから貸してみろ、アホが」


 そう怒鳴った瞬間にゴブリンの手から棍棒が消えて、俺の手に現れた。

 ……

 ゴブリンは何が起こったのか分からず呆然としている。俺だって訳が分からない。だが、こんなチャンスを逃す事はない。俺は両手で棍棒を振り上げ、狙いを定め、飛び降りながらゴブリンの頭に叩きつけた。

 グシャっと音がしてゴブリンは斃れた。


 その時、脳内にメッセージが流れた。


  >>> レベルアップしました。レベルが2になりました。


 ステータスを確認したいがこんな林の中に長居はごめんだ。せっかくの獲物は持ち帰りたい。ゴブリンの足をつまんで収納と念じると消えた。うまく収納できた。棍棒も収納した。急ぎ足で林を抜け、なんとか道に出ることができた。

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